可愛くなりたい♪
その一。
今日という日程、登校したくない日はないであろう。
朝、起きて憂鬱。
朝食を食べながら憂鬱。
兎奈に突っ込まれて憂鬱。
早起きは三文の徳などありもしない。むしろ三文の憂鬱。
きっと、柊さんは今日俺の事を煽り倒してくるだろう。あの記事を見られていれば……。
「はぁ……」
「どうしたの〜?結ちゃん」
「何でもないよ〜」
「いやいや〜朝起きてからもう溜息六回目よ?」
「そんな事数えてるの母さん……」
暇な人だなぁ〜。そして今日も平和そうだ〜。
兎奈の準備待ちの最中のひと時。まぁそれも本当にひと時ぐらいにしかならないもので、すぐに兎奈が戻ってきた。
「んじゃ、行きますか〜」
「いつになく元気がないわね」
「いってらっしゃ〜い。兎奈ちゃん結ちゃんのフォローよろしくね〜」
「フォローって言ってもねぇ〜自業自得じゃない」
「ぐはぁっ……!」
兎奈の言葉が俺の体のど真ん中を貫いた。
もう、なるようになれだな。それか柊さんが記事の事を忘れてくれている事を願おう。
***
教室に入り、いつものように一直線で自分の席に向かう。
隣なんて見てやるもんか。
「あ、結くんおはよ〜」
「おはよ〜神田瀬くんー」
「……はよす」
柊さんとそのお友達さんに軽く、もう羽程度の挨拶を返す。
「結くん!」
「へい」
「ちゃんと検索かけました!」
「……へい」
まぁ、忘れてるなんて都合よく柊さんの頭がなるわけないわな。
「でもどこが秘密にしたかったのか分かりません!!」
「……へ?」
「私は君達がなんの話ししてるのかが分かりませんよ〜」
あの記事を見て、一体どうやったらそんな感想を抱ける……。あんなの恥ずかしくて仕方がない記事ではないか!!
「ん〜なんかよく分かんないし私はもう席戻ってるね〜」
「オッケ〜」
お友達さんが席を外すと、もうここは俺達だけの空間になった。
「結くんはさ〜私にあんな輝かしい成績を自慢したかったわけ?
「いやいや見出し、見たでしょ!?」
「うんもちろん」
「じゃあ……分かるよね?」
「分からん」
「なんでやねん!」
どうしてくれるんだ!つい突っ込んじゃったじゃないの!!
まぁ分からないなら分からないでそっちの方が俺にとっては都合がいい……
「とにかくし〜っだからね?」
「分かってるよ〜」
本当に分かっているかが心配だが、どっちみちどこかからは漏れるだろう。それに兎奈の言葉が正しければ剣道の授業が来てしまうのだ。その時はもう秘密もク……う○ぴもないわ。
「美少年ね〜」
「二度とその単語使わないでくれる?」
「じゃあもう一生恋バナできないじゃん。それは嫌!!」
「恋バナは美少年が存在しなくてもできます」
「嫌よ!!美少年がいるから盛り上がるんじゃない!!ドロドロの愛憎劇が!!!」
「性格ねじ曲がってないかそれは……」
世間の恋バナに愛憎劇を期待するのはお門違いだろう。そんなんがそこら辺にあったら美少年は間違いなく絶滅するぞ。
「まぁでも安心してよ〜あれは私だけが知っている結くんの隠し能力なのだから……!」
「それは…うん。よかったね」
いつのまに剣道が俺の隠し能力になったのだろうか。別に俺は突然現れた俺TUEEEEEEEな主人公でも隠れハイスペックな陰キャでもな……いはずだ。
普通だ普通。
「それはそうと結くん」
「はい?」
「結くんって少女漫画読むんだよね?」
「え?うん。少年漫画も読むけどね」
「じゃあ!私の超イチオシ漫画紹介したら読んでくれるの??」
柊さんがズイッと前のめりになってそう聞いてきた。
「うん。だからそんなに前のめらなくていいよ」
目と鼻の先に柊さんの顔があるこの状況は少しばかりまずい。誤解が生まれてしまう。
柊さんはぱぁ〜っと顔を綻ばせると、大人しく自席に戻った。
「『サワー」ていうやつだけど、読んだことある?」
「ないね〜」
「じゃあ、明日持ってきます!」
柊さんがそう言って敬礼する。
「俺もおススメのやつ何冊か持ってきます」
そして俺も柊さんに倣って敬礼をする。
その時丁度先生が戸を引いて現れた。
朝のSHRが始まると、俺達は会話を止めて、前を向いた。
次の授業は体育だな。
お昼前の四限目。お腹が空いたこのタイミングに体育は最悪だ。
内容はまだ剣道ではないが、正直やる気は起きない。兎奈が復帰する前まで体育の授業はずっとぼけ〜っとして過ごしていたので、何かと熱心な体育教師が俺に構ってくるのだ。
ちょっとやめて欲しい。
「結〜 」
更衣室まで移動しようと立ち上がったその時、誰かに俺の名前を呼ばれた。しかも男子。
後ろを振り返るとそこには、あの爽やかイケメンの明希くんがこちらに向かってきているではないかっ……!!
「結〜一緒に行こうぜ〜」
「な、何故明希くんが俺を……!?」
「え?ほら、昨日で結は話しかけても大丈夫な奴って分かっただろ?」
「どゆこと?昨日まで俺は話しかけちゃいけない危険人物だったの?」
「いやいやそうじゃなくて〜……まぁ間違ってはないんだけど……」
何ということだ。あのコミュ力おばけ明希をしても俺は話しかけちゃいけない系のヤバイ奴だったのか……。
「はぁ〜……」
「え、ちょっ、落ち込むなって!そう言う意味じゃないから!今にも壊れてしまいそうな雰囲気でつついちゃいけないと思ってたんだよ。それに話しかけて迷惑だったりしたらダメだろ?」
「あ〜なんだそう言う事?」
良かったー。マジ死にたいと思ったー。
「そうだよ。ほら結、行こうぜ」
「オッケー」
「俺、結の事前から気になってたんだよね〜一年の時から」
「そうなの?まぁ一年の時は話しかけられたら間違いなく無視ってた時期だから危なかったね〜」
「しれっと怖い事言うなよ……」
こうして俺は新たな友達、明希くんを手に入れ、更衣室へと向かうのだった。
更衣室ではいつもの定位置であった端っこのロッカーを卒業し、今俺は明希くんの隣に位置している。そして前々から明希くんと仲の良かった真野奏多くんもいる。
一気に俺に友達が二人もできてしまったわけだ……。
「へへへっ……」
「ど、どうした結?頭おかしくなったのか?」
「いや、まさかあの明希くんと友達になっちゃうとはね〜俺ってもしかして凄い!?って思ってただけ」
「くっ……ちょい奏多いいか?」
「おう……」
「?」
何やら奏多くんと内緒話を始めてしまった。いきなりほってかれたんですけど。何か地雷だったかな?
「あの〜お二人さん?そろそろ俺泣きますよ〜」
「何っ!?誰が結を泣かせるんだ!!」
「そうだそうだ!!」
「……何これ?」
俺の思っていた明希という人物と奏多という人物はちょっと違うようだ。なんかやけに……過保護?
「まぁいっか」
「何がだ?」
「とにかく早く着替えようよ」
「そ、そうだな」
「おう」
ようやく明希くんと奏多くんが服を脱ぎ出した。
奏多くんはスポーツマンとあって腕も足も筋肉でがっちりしている。羨ましい……。
明希くんも中々いい筋肉の持ち主だ。
「結ってさー……」
「うん?」
突然奏多くんが俺を下から上まで舐め回すように見てきている。何かちょっと怖いのだが……。
「結って……」
「だから何?」
「細マッチョ……」
「……だから何?俺はむしろ二人が羨ましいんだけど」
身長百七十センチの俺に対して二人は百八十センチ近くある。その分筋肉もしっかり付いていて羨ましい。
「明希……」
「あぁ……」
「これが女子でいう『萌え』って奴だな……」
「あぁ……!」
「だから何の話してんのさ〜」
「俺のシャツとか着てほしい……」
「マジそれな?」
「なんか段々変態に見えてきたよ二人とも……」
爽やかイケメンとスポーツマンの実態ここに現れり!!
面白いな〜続き気になるな〜結くんの明希シャツ奏多シャツみたいな〜という方はブクマと〜?評価を〜?お願いします!!