女子力の片鱗
「じゃ、じゃあ戻るぞ……」
「何をそんなに緊張してるのよ」
「何でそんなに普通なの?」
質問責めになる事を覚悟していざ、クラスへと行かん!というのに……。
「いやだって双子だし。そう言うだけじゃない。やましい事ないし」
「はっ…確かに」
俺は何にこんなに焦っていたのだろうか。
兎奈に言われてとたんに焦る気持ちはスーッと消えていった。
双子ですって言うだけではないか。俺は馬鹿か。
「ほら、早く教室戻るわよ」
「ラジャー」
俺達は同時に二人揃ってその場を立ち上がる。
「……ちょっと、真似しないでよ」
「無理あるでしょそんなのー」
こんな所で無駄に双子パワーを発揮してしまった。
「なんで双子はこう……」
と兎奈が何やらブツブツ言いだした。双子じゃない方が良かったのかしら。
それから俺達は一緒に教室へと戻るために歩き出す。
まずはじめの目的地は、兎奈のクラスである六組。兎奈を見送ってから、二組に戻る算段だ。
チラッと横を振り向くと、兎奈がこちらをじーっと見つめていた。
もうブツブツ病治ったのか。早いな。
「結、その髪可愛いわね」
口を開いたかと思うとまさかの褒め言葉!!あざす!!
「お、これ?いい?いい?」
「いい」
「やったねー好感触」
柊さんにも好感触?だったぽいので、明日からもこの髪にしようかな。
そんなこんなで二年のクラスの階まで辿り着くと、一気に俺達に突き刺さる視線が増えた気がする。
だが俺はそれをことごとく無視して、兎奈と話しながら六組まで向かう。
六組のクラスの前には女子がたむろしていた。兎奈の帰り待ちだったのだろう。見送りはここまでで大丈夫そうだ。
「じゃあな。放課後は俺がそっち行くから待ってて。そっから部活見学な」
「オッケー」
兎奈と別れるとすぐ、後ろから兎奈さん!兎奈さんどこ行ってたんですかっ!!あの男は誰ですかっ!!と、女子達の声が耳に入ってきた。早速質問責めパーティーが始まったようだ。
俺も二組に到着。
教室に入ると、一斉にバッ!とクラスメイトがこちらを振り返った。
「おい!えっと……神田瀬!何でお前があの兎奈さんと……!!」
「そうだよ!!何でお前がっ……てあれ?なんかカッコよくなって……?」
「双子です」
「は?」
「だから双子の妹だって」
一番に俺に突っかかって来た男子生徒くんにそう言うと、彼はポカンとした顔でフリーズしてしまった。後ろに待機していた他のクラスメイト達もポカンとしている。質問責めをさせる隙も与えず、いきなり答えが返したからだろう。
「お〜い?大丈夫?」
そう声を掛けるも中々動かない。双子……と薄っすら聞こえてくるぐらいだ。
もーめんどくさいし、いっか。
俺はそいつの脇をすり抜けると、今度は違う女子生徒が前にずいっと出てきた。
「……どうした?」
「え、えと神田瀬くんの双子の妹さん……が六組で噂の……」
「うん。兎奈だけど」
「「「「「兎奈!!!!!」」」」」
「うわっびっくりしたぁ……」
こんな時だけクラス一致団結しやがって……。俺の心臓が飛び出る……。
「呼び捨てだ…てことは…へ、へぇ〜双子の妹……てか双子なんていたの!?」
「それよりいつの間に髪切ったの!?気付かなかった……」
「お、おう。俺も今気づいた……」
「あー、この髪は丁度昨日兎奈に切ってもらった所で〜…どう!?」
「「「「「『どう!?』だって!!??」」」」」
あれ、なんかおかしい事言いましたか……俺。
髪切ってもらって人に意見求めるのは普通ではなかろうか。こいつそんな事尋ねるタイプだったの?的な反応されてもねぇ……。
「え、そりゃあ〜……」
女子生徒一人が何やら答えようとしてくれたが、一本のピンと立った腕に遮られた。
「はい!カッコいいと思います!!」
そう言ったのは意外にも男子生徒だった。それもクラス、というか学年を通して人気の爽やかイケメン、日比野明希くんだ。これは……嬉しいぞ。
「あは〜ありがと〜」
おお、顔がにやけてしまう。変な顔になってないだろうか。
「「「「「(トゥクン)……」」」」」
「え?また固まった……?」
と、思ったら突然各々グループで集まりだし、何やら会議のようなものを始めてしまった。
〜女子側〜
「ま、まぁ私には明希くんがいるし?明希くんよりは、ちょっとお顔は劣るけど……」
「うん。ちょっとランクは下めだけど、十分カッコいいし……?まぁね?私にも明希くんがいるんだけど……!」
「いつも話しかけるなオーラすごくて陰気なやつだな〜とか思っちゃってたけど……でも今のは……」
(((((可愛いっ…………)))))
〜男子側〜
「おい!あれ本当に神田瀬か!!」
「あの端っこで真顔で感情見せない、いっつも外しか見てない……」
「そうボッチの!!」
「パッツンマンの!!」
「……いや、でも今のはさ……」
「う、うん。今のは……」
(((((可愛い…………)))))
とにかく、終始何かよく分からなかったが結論は出たらしい。皆頷いて、何やら満足げだ。
「ねぇ!!結くん!!!!」
「あら、柊さん」
クラスメイトの間を縫って現れた柊さんが、鼻息荒く俺の前で仁王立ちをする。
「結くん!!」
「はい?」
「スゥーッ……今のはアカン!!!!!!」
「……はい?」
なんだこの人は……。突然アカン言われても困りますやん。
「……あっ!」
と、そこで俺は一人、椅子に座り漫画を読んでいる女子を発見。一人何だか浮いてしまっているが……問題はそこではない。
その女子の机の前まで行くと、しゃがんでその本のタイトルを確認する。
「え、えとっ……な、何か用かな……?」
その女子が本の上から恐る恐る伺うようにそう聞いてきた。
クラスメイト達も今度は何だっ!?とこちらに注目する。
「これ……」
「え?」
「やっぱ『何回だって君とキス!』じゃん」
「えっ!?わ、分かるの!?」
「あ、それ私も好き〜!」
はい!と手を挙げて一人の女子が割り込んで来た。
他にもうずうずしている女子が複数見られる。
「はっはーんさては他にも混ざりたい奴いるな?」
そう声を掛けるともう三人の女子が出て来た。
「これさ〜ヒーローの田中くんがさ〜……エロいよね……」
「え、普通男子って女子側見るんじゃ……」
「いやいや、これ少女漫画じゃん?ヒーロー見ないでどうする。マジイケメンだよ?大損するよ」
それからこのシーンがどうとか、ここがむずがゆいとか、このキャラが好きとかで盛り上がった。
その間、他のクラスメイト達は置いてけぼりである。
「……この本で皆とお話し出来る日が来るなんて……」
この席の主である女子がそうボソッと言った。
「ははっ。意外と同じ趣味の子っているよ?見つけに行かなくちゃ、友情も!恋も!始まらない!!あと本当は漫画持ってきちゃダメだからねー?」
「う、うん……」
「やばい。意外と神田瀬くん面白い」
「ね。初めて男子で少女漫画読んでる人に会ったかも〜」
「世の中案外狭いよ?いくらでもいるでしょ」
しかし、そこでチャイムが鳴ってしまった。
仕方ない。自分の席に戻るか。
「じゃあ、また話そ〜」
「う、うん!ありがと!!」
俺はその女子の席を離れ、自分の席に座った。
だが何故だ。何やら横から不満げな空気をひしひしと感じる……。
「……どうした?」
「なんか結くんが今日だけで私だけの特別じゃなくなった気分」
「え〜何?それ」
「だって!せっかく今日初めて結くんと話して?結くんの事面白いな〜って思って?仲良くしたいな〜と思って観察してたのに……全部パァだよ」
「えっと、つまり要約すると俺にずっとボッチでいて欲しかったと?」
「そうだよ!!」
もしや……独占欲?いや、これは意地悪したかっただけかぁ〜。
でもなぁ〜。
「俺も友達は欲しいんすけど?」
「……ケっ!」
そう毒づいてそっぽを向いてしまった。
何故か突然ガラが悪くなったぞこの人。
「なんか分かんないけど、機嫌直してよ」
「じゃあさ、私の事柊って呼んでよ!何!?柊さんって!中途半端!!」
「だって言いやすいんだもん」
「くっ……じゃあ何か秘密教えてよ。好きな人は?」
「いない」
「彼女いた事は?」
「ない」
「え、嘘。じゃあ告られた事は?」
「小学校の時はあったかも。でもそれからない」
「あ〜成る程……察した」
「いや何を?」
勝手に一人で納得しないでいただきたい。
俺に彼女がいなかった事や全然告られなかった事で何を察しているのだ。非モテの俺に同情しているのか?
ていうか先生遅くない?どうした?先生?
「はっ!話ズレちゃったけど秘密!教えて?」
「んー秘密……」
何だ?俺の秘密って。
そうして脳裏をよぎるのは今朝、兎奈のスマホで見た俺のあの記事……。秘密というか、黒歴史。
「ある顔だね。それは」
如何したものか。これを柊さんに言ってもいいものか……。
「ほら早く〜」
ぐ……これは言うまで粘られるやつだな……それはちょっとめんどくさい。
「全国中学校剣道大会 三位 記事 検索」
「え?剣道?剣道やってたの?」
「検索」
「?検索すれば良いの?」
すると、実に丁度いいタイミングで先生が入ってきた。
スマホを取り出そうとしていた柊さんは即座にスマホをしまい直した。流石に先生の前でスマホを使用する勇気は無いらしい。
あー早く放課後になれぇ〜検索するなぁ〜自分で言ったけど〜。
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