るんっ♪からのズッドォオオン
「おはよ〜」
「あ、おはよう結ちゃん」
「おう、おはよう、結」
台所にいる母さんと新聞を読んでいる父さんに挨拶してから俺の朝は始まる。
しかし昨日は酷い目に会った……。
兎奈が明日からカフェ巡りをするわ!と言って、プランを立て終えるまで中々寝させてくれないもので……。今どの漫画が熱いのか教えろ、ともうるさかった。そうやって結局寝たのは夜中の二時だ。酷い。けど久々の兎奈とのお出かけともあり楽しみでもある。中学の時はよくそうしていたな〜……。
だが、そういえば当の兎奈さんの姿が見当たらない。
「母さん、兎奈は?」
用意されていたエッグトーストにかぶりつきながらそう聞く。
「あ〜兎奈ちゃんなら、三十分くらい前から自分の部屋に篭ってるわ」
「え……何で?」
「『制服どうやって着るか決めてなかったっ!!』って言って走ってったけど……?」
でたなファションリーダー兎奈……!
「どう着るもクソもないと思うけど……」
「あら結ちゃんっ!『クソ』なんて言葉使っちゃダメよ!!」
「……どう着るもう○ぴもないでしょうにっ……!」
「それで良いのよ〜」
「「良いのかよっ!!」」
父さんと被ってしまった。
基本俺は父さん似なのだが、こう言ったタイミングも父さんと似ているのだろうか……それとも母さんの発言がぶっ飛び過ぎてるのか……。
「もう、食事中はやめてくれよ」
父さんはそう言うと、コーヒーを一口飲んだ。
あれ、父さん、今コーヒーしか飲んでなくない?皿もう綺麗になってない?
俺も残りのエッグトーストを食べてしまい、皿をカウンターに持っていく。
「ごちそーさまでした」
「は〜い」
すると、兎奈がようやく、自室からドタドタと降りてきた。
「ママ〜っ!!どうっ!?」
兎奈はその場でくるりとターンをして見せる。
「うん!可愛いわ〜兎奈ちゃん!さっすが私の娘〜!!」
「えっへ〜」
確かに、兎奈は母さん似の正真正銘美少女だ。普通女子は遺伝子の七割は父親だから父親似なはずなのに……てそう言う事ではなくて!!
「結〜いろいろ試したんだけど、この着方で良いかな〜」
「う〜ん…可愛いし良いけど……そんな着方してる人他に見た事無いかな〜……」
「そーお?」
もう季節は夏近く。合服期間も終わり、夏服へと移行しているのだが……まぁ、半袖をちゃんと着てるのは良い。だけどそれに合わせてスカート丈は短めだし、スカート着る位置高めだし、シャツは後ろ半分は出しておくという暴挙に出てるし、リボンは指定の物じゃないし、挙げ句の果てにネックレス!!なんじゃこいつ不良か!!!!
「……アウトだな。校則破りパーティーかよ」
「え〜?」
「お願いだから普通に着て?パンツ見えるから」
「はー?これが丁度良いのに……」
「じゃあせめてもうちょっと下げて!」
「むー……」
渋々といった様子で部屋へ戻っていった。
登校初日から不良少女爆誕!なんて事だけはよしてほしい……。
「じゃあ、ママ行ってきまーす」
「行ってきマッスルー」
「は〜い二人共行ってらっしゃ〜い」
久々に二人揃っての登校だ。自然と込み上げてくるものがある。
結局、現在兎奈は普通に制服を着ている。少々丈が短い気がするが……き、気のせい…だな。あの奇抜なファッションに比べたら百二十分マシだしな。
「結〜私のクラスって何組なの?」
「着いてからのお楽しみ〜って言いたいけど何の面白みも無いので六組です」
「結は?」
「二」
「まぁ、ですよねー」
「ね〜」
当たり前のように俺達のクラスは離れている。これも双子の宿命だ。
「何で双子は組を分けられるのよ」
「見分けがつかないっ!」
「それは一卵性だけでしょ。私ら二卵性」
「知ってるよそんな事ー。あとは名前呼びづらい?」
「そんなもん知ったこっちゃないわよ。神兄と神妹でいいじゃない」
「悪くない……」
「でしょ?」
実際中学の時は神兄妹なんて呼ばれていたなぁ……と中学時代へ想いを馳せる。
小中と兎奈と同じクラスになれなかった腹いせはどこかで受けてもらわねば……双子のアドバンテージと言えば同学年に兄弟がいる事なのに……。一度でいいからクラスでも家みたいに過ごしてみたい……!きっと楽しい!!
「あっ!!」
「何っ!?」
突然、兎奈がそう言って立ち止まった。
「部活っ!!!!」
「……いやだから何?」
兎奈は思い立ったが吉日タイプだ。
突然何かを思っては即行動……という突拍子もないやつなのである。
つまり何が言いたいかと言うと、
嫌な予感がするなぁ〜
という事だ!
「決めてなかった!!結はどこ入ってるんだっけ?今日はカフェ巡りは置いといて部活見学ね……!!」
「はーい早く行こうね兎奈ちゃ〜ん」
俺は兎奈の背中を押して進む。
「え、ちょっ何よ。なんか地雷踏んだ??部活??」
「さっきの答えだけど、もち俺は帰宅部だよ」
「ふぅ〜んきたく……帰宅部ぅっ!?」
「ほら、とにかく足を動かしなさい」
ぐぐぐっと更に兎奈の背中を押しながら俺は進む。
逆に兎奈はぐぐぐっと足を踏ん張っていて中々進まない。まぁ、俺の方が優勢だが。負けないぞっ!!
「ねぇ!分かったから!ちょっとやめて!!これタイミング合わせなきゃ私がすっ転ぶやつだから!!」
「あ、そか。じゃあせーのでいくぞ?」
「えっ?待って心の準備がっ!!」
「せーのっ!!」
「っふぎゃっ!?」
「いでっ」
上から兎奈が乗る形で、俺は尻もちをついた。
犬を散歩させていたおじいちゃんにクスッとされた。ついでに犬にもクスッとされた気がする。
「……言わんこっちゃないじゃない」
「兎奈さん、そろそろ退いてよ。人通りが少ないからってこれはダメですよー」
「知らないわよ。自業自得でしょ」
「俺尻に敷いて楽しい?なんかのプレイか何かですか?これ」
何故だ。何故道の途中で俺の上に乗っている上にスマホを弄りだしている。
俺に出来る事と言えば兎奈が倒れないように支える事だけ……。兎奈のお腹の方に左手を回し、俺は兎奈の肩越しにスマホを覗き込んだ。
別にこれが本当の目的とかそんな事は無い。
だが、そこに映っているものを見た瞬間、兎奈のスマホを取り上げざるを得なかった。
「やめろぉおおおおおおお!!!!」
「何でよっ!てかスマホ返して!!」
「何でわざわざこれ調べんのぉ?えぇ??」
「だって!何で剣道やってないのよ!!あれだけは長続きしてたじゃない!!」
「さぁね!!兎奈とか言うやつが入院したからね!!て言うか!その!記事だけは!やめてっ!!」
取り上げたスマホに映っていたのは、もちろん俺なのだが…内容が問題大アリだ。
とあるネットニュースの記事で、俺が中学の全国大会で三位を取ったものなのだがぁ……その見出しにデカデカと『期待の新星!!流星のように現れた美少年に観客熱狂!!』と書かれているのだぁ……。
「もうっほんっとーにこれは黒歴史……」
「まぁ、確かにちょっと誇張しすぎだけど……微美少年には入ると思うよ?中の上から上の下ぐらいには……」
「嬉しいけど嬉しくないよそれは!!誰にもこれは見られたくない……」
頰に手をやりわざとらしくため息をつく。
「過去の記事だし大丈夫っしょ!!」
「いや知られてるだけでダメなんだけどね……?」
これもえらくいじられるネタにされたものだ。男子共め……俺も男子だけど許さねぇ……。
「また剣道すれば良いのに〜」
「いやよ〜いや別に嫌いになったわけじゃないけどさ〜兎奈が言うなら考えなくもないけどさ〜とりあえず退いて?」
「へいへい」
兎奈が立ち上がって俺の前から退くと、俺も立ち上がり制服をパンパン叩く。
「ほら、早く行くぞー。道に座り込んで道草食うとか馬鹿みたいだぞー」
「分かってるわよ。さぁ学校へレッツゴー!!」
「元気ねぇあなた」
ずんずん進んで行く兎奈の後を、俺はとぼとぼと追いかけた。
面白い!続きが気になってハゲが進行する!と言う方は是非ブクマと評価の程、よろしくお願いします!!