お帰り兎奈回
新作です!
王道にラブコメしてきます。多分。
シリアス要素はあまり無いと思われます。
六月某日。
高校二年生、十六歳の俺、神田瀬結は、帰宅部として恥じぬ、今世紀最大の帰宅スピードで家へ帰っていた。
「ただいまっ!!」
走ってきた勢いのまま、家の扉を開け、同時にそう言う。
靴を脱ぎ捨て、これまた急いでリビングへ向かった。
リビングの戸を開けると、そこには今日、急いで帰ってきた目的の人物がいた。
「あ、結チャオ〜」
「う、兎奈だぁあああ〜」
「やめてよその変な顔……。今までも会ってたじゃない、病室で。てか髪伸びすぎだって前から言ってるじゃない!!」
兎奈とは俺の双子の妹である。久しぶりに立っている兎奈を見る事が出来たと言うのに、兎奈の反応は冷たい。
今俺は、うななが、うななが立った!!って叫びたい気分だと言うのに……。
というのも、兎奈は病気のため、一年ちょっとぐらい入院していたのだ。そしてめでたく今日がその退院日、という事だ。
「というか、何故今日の主役が自分のパーティーの準備をしている……!兎奈は病み上がりリハ上がりなんだからそこで座ってなさい!」
「リハ上がりって何かのミュージシャンみたいで良いわね……」
「わーお話が噛み合わないー」
そしてやはり兎奈は準備の手を止めない。
働き者なのも良いが、さっきも言った通り、リハビリも済み、体力が戻ってきたばかりなのだから、できれば安静にしていてほしい。壁に風船やら画用紙やら張っているが、手が風船に耐えられるかが心配……。
「なぁ、兎奈。やっぱそこで座ってて。もう明日から学校行けるんだろ?」
「ん。休みたければまだ休んでて良いって言われたけど、元気モリモリだし、歩きで行ける距離だしね〜」
「まぁ確かにそれもそうだな〜てかやっぱりやめないのね?それ。でも自分で『UNA』って貼んの嫌じゃない?」
「何言ってんの?楽しいわよ。それより結こそそっち座っててくれる?」
兎奈にしっし、と手であしらわれる。
「え、何で?俺の方が百倍元気なんだけど」
「後でその髪切るから。私がいないからって伸ばし放題にするな!!」
「別に伸ばし放題にはしてないし。前髪ぐらいは自分で切ってる」
「いや、そのせいで今無駄に前髪ぱっつんなのよ……」
元々髪は兎奈に切ってもらっていたのだが、兎奈が入院してしまい、ここ一年ちょっとは伸ばしっぱなしになっていた。前髪以外の部分は、今は後ろで結んでいる。
「もー結も美容院ぐらい行けばいいのに」
「いやいや、あんな所入るだけですっごい勇気いるから」
「じゃあ床屋行きなさいよ」
「あそこは……なんかいらないとこまで刈ってくるから怖い……」
「それはあんたがお任せにするからでしょうが……」
え?逆にお任せ以外に何があるの?と思いつつ、髪は切ってもらいたかったので、渋々椅子に座る。
「そういや結。結って学校じゃどうしてんの?中学の時と同じ感じ?」
「この髪見てそう言える君はすごいね〜。よくぞ聞いてくれました!君のせいで憔悴し切った俺は!友達ができなかったのですっ……!!」
顎に指をブイに当てて、キメ顔キラッ☆
「いや、別に生死彷徨ってたわけでもないし……」
「あのねぇ、双子っていつも一緒って相場は決まってんのよ。その片割れが消えてみろよ。それはもういつもの俺じゃない!!」
「ふーん」
「反応軽っ……」
双子のなんたるかについてこうも熱弁しているというのにこいつ……淡々と自分のパーティーの準備進めやがって……。
それに……。
「それに、もう俺はいじられるのはごめんなんだよ」
「結構そのキャラ確立してたもんね〜。しゃあないよ、チビだったんだし」
「そう!そうなんだよ!!聞いてよ兎奈!!俺中学卒業してから十二センチも身長伸びたんだよ!!!」
「聞いてよじゃないわ何回も聞いたわタコ」
俺の中学時代はというと、もうチビでいじられる事が多々、というか毎日あった。話し相手が大概女子だったのも原因の一つだろう。少女漫画の事とか、メイクに服の流行りや可愛いカフェの話とか、音楽の話をしていた。その時に、「女子と混じっても全然違和感ねぇ〜(笑)」とかよく言われたのだ。その度に、もう漫画貸さねぇぞ!!と脅したのはそう遠くない記憶…のはずなのに……。
「そっかそっかーつまり、それはもうボッチ道突き進んじゃってるわけね〜。中学の友達に言ったら絶対驚くよ」
「なりたくてなったわけじゃないよ?それに別に今の状態も居心地は良いよ?ただ、入学したては誰とも話す気にはなれなかっただけだし、それが続いちゃってただけだし……?それに重なって中学の友達が誰一人学校にいないだけだし……」
どうしよう。言いながらちょっと悲しくなってきた。
「じゃあ私の復活と共に『陽』な結も復活!てこと?」
「いやぁ〜それもちょっと……」
「なんでよ」
「なんでって……」
知ってるかい?妹よ。キャラ変って、結構勇気いるんだぜ?
何?あいつどうしたの?急に明るく振舞って、無理にボッチ抜けようとしてるの?いたたたたプラスキモモモモ……みたいな?
「まぁとにかく、俺はもうずっとこんな感じだし、変える気はありません」
「ほーん?」
「さっきから自分で聞いといて、さてはあんまり興味ないな……?」
話していた間も黙々と作業していた兎奈は、ちょうど最後の一つの風船を付け終えると、こちらに振り返った。
「さぁて今から断髪式を始めるわよ〜……」
そう言って指をわきゃわきゃさせながら近づいてくる。
「だ、断髪って……」
別にそこまでは長くないだろう……?
***
断髪?式が兎奈によって無事終えられたのち、母さんが買い物から帰ってきた。
「ただいま〜ってえぇええっ!?結ちゃんの髪が……サッパリしてるっ!!!!」
「母さんお帰り〜。どうよ、ニュー結は!!」
「むしろカムバックしてきた形なんだけどね」
と、ハサミをしまいながら、兎奈に突っ込まれる。
確かに、なんだか外見だけ中学時代に戻った感じがする。外見だけね。
すると、母さんは兎奈の方にゆらゆらと近づいて行く。
「兎奈ちゃん!ありがとう!!もう結ちゃんたらこのまま堕落した人生を突き進んで行ってしまうんだと思ってた!!」
そう言って母さんは兎奈の肩をガシッと掴んでいた。そして兎奈も満更ではなさそう。
「髪切っただけで大げさな母親だなぁ〜」
「も〜誰のせいだと思ってるの結ちゃん!!」
「いやいや俺がこうなったのは兎奈のせいだからつまり!兎奈のせいだよ母さん!!」
俺はさながら推理小説に出てくる探偵のように、人差し指を兎奈の方にビシッと向ける。
「はっ……まぁ、確かに……」
と、なぜか納得してしまう母さん。結構な暴論だったという自覚はあるのだが……。
「ちょっと…私巻き込まないでよね……病気なんて防ぎようないでしょう……?」
「もっと免疫つけててくれら良かったんじゃん」
「は?何それ?」
兎奈がこちらを睨んでくる。
別に俺が言った事はある意味間違ってないと思うのだが……。
それに兎奈が元気に高校にも通ってくれていたら、俺のボッチも回避できたかもしれないのになぁと、思ったり思わなかったり……。ま、タラレバなんて考えるだけ無駄か!
「それにしても、よく飾り付けたわねぇ〜これ」
壁に貼っつけられて風船や文字を見て、感心したように母さんが言った。
「そうでしょ〜?早くご飯も食べたい!!」
「も〜まだ安静にしててほしいんだけどな〜」
「何よー病院であんだけ安静にしてたのにまだ足りないのー?私つまんな過ぎて死ぬかと思ったらんだから」
兎奈が不満気に頬をぷぅっと膨らませる。
可愛い。写真に収めたい。
そして俺はふと思い立って兎奈に聞いた。
「兎奈〜食い意地を張るのも結構だが、ちゃんと明日の準備しとけよ〜?俺がまとめた授業ノートちゃんと見ただろうな?」
「そりゃーもうバッチリよ。教科書も飽きる程読んだわ。てか何よ。食い意地張る何が悪いの?病院食なんてもうこりごりよ」
「流石優等生〜やるぅ〜」
「残り半分無視しないでよ」
兎奈は中学の時から成績は良かったしな。感心感心!あ、それは俺もか!!テヘッ☆
「なんか今キモい事考えてなかった?」
「いや、別に?」
「さぁ〜お父さんが帰ってくる前にご飯準備するわよ〜!結ちゃん、お手伝いお願いね?」
「へーい」
そして俺は、夕飯の準備へと駆り出されるのであった。
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