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【閑話②】不動産屋へ復讐①

 リード商会はロールス王国に拠点を構える商会の中では比較的大きい規模である。不動産業を初め、建設業や土木事業を中心に展開している。その中でもいち早く賃貸という概念を取り入れた最先端の商会であり、不動産関係ではリード商会の右に出る商会はないというのは王国全体の商会の評価だ。


 商会の規模としては大きいリード商会だが、その反対でところどころでは眉を吊り上げたくなるような不穏な噂もあった。商会全体のというより、支店として展開している店の方の噂だ。


 リード商会は中央都市などの人の行き交いが激しく情報が多く飛び交う場所では平均的な値段で土地契約や賃貸を貸し出しする良心的な商会として、王国中の信頼も厚い商会である。


 しかし、重役や監査役の目の届きにくい地域の地方の雇われ従業員たちは賃貸というシステムがまだ根付いていないのをいいことに不当に家賃や売買用の土地代、建物の費用の値段を吊り上げ吊り上げた分の金額を懐に入れているという噂だ。


 ロールス王国はその昔、複数の敗戦国が集まってできた国とされており、移民などに対してもオープンに受け入れる傾向にある。元々この国に住居を持たない移民たちは自分たちが暮らせる土地を探して住みたい領土を探して、みつけたらその領土の役所に行き移民届けを提出するという仕組みになる。届け出自体は一人銀貨1枚で済むが、その後の土地や建物の購入費用は平民が30年くらい働かないと購入できないほどの額であることが多い。


 お金がないと何事も物事を進められないのだ。そういった移民が利用できるのがリード商会が展開する賃貸住宅だ。土地を購入する必要もなく、毎月少ない金額の家賃代を支払うだけで住まいを手に入れることができる。


 店舗を貸し出しにすればわざわざ建物を購入する必要もなく、潰れてもまた違う人間に貸し出せばいい。リード商会の賃貸住宅の需要は王国全土に広まることになり、辺境の地でも支店が作られるほどに成長を遂げる。


 しかし急激に成長を遂げた商会であれば次に問題になるのが人材の育成や採用だ。業務をするうえでも人手というのは必要だ。さらに言えば貴族の識字率が高いロールス王国だが、平民の識字率は低い。王国全土で約40%ほどだった。


 字が読めて計算ができる人間を雇えるだけでも御の字なこの状況で、さらに仕事に真面目でしっかりと業務を行える人間を選ぶなんて現状では不可能な話だった。



 「お嬢様、以上がリード商会ガルデ村店についての内部調査書です」

 「ありがとうエラ。おまえは本当に優秀ね。命令してすぐに情報を集めてくれるもの」

 「もったいないお言葉、ありがとうございます」


 ガルデ村にある唯一の酒場。昼間から営業しているが客層が男ばかりなために昼は店主の老婆一人と物寂しい雰囲気を出している。


 エミリアはテーブル席の奥に座り、ある人物が来るのを待っていた。そしてしばらくして一人のメイドが店の扉をあけ、まっすぐにこちらにやってきた。


 しずしずと頭を下げるのはエミリア付きの侍女の一人、エラだった。向上心が高く、いつかメイド長として人を命令できる立場に憧れるエラは、ゲームの世界ではローズマリー家でエミリアを虐めるメイドの一人だった。彼女にとって身分の高い人間の世話をすることは出世をするうえでのステータスであったからだ。


 いくら同じ平民で聖女適正があるといっても、平民の血が混じっている以上、血筋の上で貴族という格に傷がついてしまうし、ローズマリー家で疎まれ、虐められている彼女の世話をしたところで決まった給金がもらえる以上のメリットがなかったからだ。


 エミリアがゲーム通りのシナリオのまま成長するのであればエラ自身、彼女を主として仰ぐに足る人物じゃない。それどころか気の強い彼女はメイドの中でも疎まれる存在で、仕事を押し付けられたり、陰口を言われるなどのいじめにあっていた。そのいじめのはけ口にくらいにしか思わなかっただろう。ゲームの筋書き通りならそうなっていた……はずだった。


 しかし、彼女の向上心があり、野心ある性格を知っていたエミリアは知識を駆使して、「自分の味方をしていた方がメリットが大きいこと」と「ローズマリー家の中での発言権を上げてきた」を示したことから、エラは心の底から利害を吟味して誠心誠意でエミリアに尽くそうと決める。


 実際、気は強く難点ばかりだがエラは優秀だった。目的の為ならフットワークも軽く、言われた仕事はそつなくこなす。直情的な一面もあるので、自分に従うことの有用性を表立って見せれば喜んで仕事に励む。


 「優秀ね」と褒めること。そして魔法の言葉「おまえは優秀だってことをお父様にご報告しなくてはね」この二言があれば満足に頷いてくれる。エミリアにとっては御しやすい人間だった。


 エミリアは調査報告が書かれた紙束を一度机の上に置いて店内を見回す。店員を何気なく一瞥した後にエラに問うた。

 「そういえばマオがいないわね。あの子はどうしたの?」

 「マオなら次の調査に必要な【小道具】を少し離れた町で購入してもらっています。道に迷わなければもう少しで戻るかと」

 「そうなのね。わかったわ。お疲れ様。あなたの事前調査の役目は終わったわ。報告書もこの短時間でわかりやすくまとめられていて、要点だけ知ることができ感動しました。リード商会の調査が終わった暁には「お父様におまえが優秀だってことをご報告しなくては」」


 妖艶な笑みでにこりとエラに向けてほほ笑んだエミリア。幼い顔立ちなのに、娼婦にも負けず劣らない色香が混じっていることに同性なのにエラはドキリと胸を高鳴らせた。


 まだ10歳そこらの子供なのに。自分より年下のはずなのに。怖い。けれど尊敬したくなるような胸の熱さに鼓動は早くなるばかりだった。そして着実に自分が「地位の高み」の階段を上っていることを感じれば深い吐息をこぼさずにはいられなかった。


 締まりのない顔になっていたがエミリアが「エラ?」と呼びかけることで現実に引き戻され、はっと我に返る。エラは「お嬢様の為なら身を粉にして働かせていただくのは当然のことです」と言葉を返した。


 情報を精査したエミリアはもう一人の侍女、マオの帰りを待って急いで問題のリード商会の支店へ向かう準備を始める。


 母親にバレるわけにはいかないエミリアは賄賂のお金を酒場の店主に渡して店の裏にある店主の家で簡単な作戦会議をした。

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