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ストール侯爵嫡男と顔合わせ【後編】

 ……やった!やったね!

 攻略キャラのトールとの初対面イベント兼、学園生活の出会いフラグにつながるイベントを折ってやった!


 籠の鳥の聖女ではエミリア・ローズマリーとトール・ストールは幼馴染の関係性にあった。

 その出会いは今回のお茶会。


 本来であればあの場で平民出である私の粗相……、主にお茶会マナーや社交マナー違反を繰り返し、令嬢に目をつけられて、お茶会中に陰口や陰湿ないじめを受け始める。

 そうして耐えかねたエミリアは体調理由を理由に席を立って、人目を避けた場所で泣こうとしてストール家の植物園に迷い込む。


 そこで追いかけてきたトールと出会い、「あの場でよく泣かずに耐え抜いたね。味方もいない中で……君は強いよ」なんて言われて涙を拭くために、トール家の家紋が入ったハンカチを渡される。


 ハンカチを返すために再度トールと接触を図ろうとするが、学園に入るまでの私生活で忙しいこともあって会えず仕舞い。


 結局ずっと返せずにいた中で、学園に入学。

 そこで再会した時にトールにそのハンカチを返して親交が始まる……。といった流れだ。


 トールも攻略キャラなら十中八九乙女ゲームのトラブルイベントに巻き込まれる。

 七面倒くさい日々が始まるのだ。それだけはなんとしても避けたい。


 というかトールは私のタイプじゃないのだ。

 今は儚げな美少年だが、学園に入学する頃にはがたいもよくなっているし、女たらし……フェミニストで女性関係に軽薄。自分でトラブルの種をまいておいて尻拭いを結局他人に任せるなどいい迷惑だ。


 当事者からしたら堪ったものじゃない。


 ゲーム通りにシナリオが進んでしまうとどうしても筋書き通りになってしまうのでフラグを折ってみたのだが。

 ……これが後にどのような結果を招くのか正確にはわからない。

 けれどトールとの出会いには少なからず影響は出るだろう。


 それに、トールとの接触時間は少ない。

 成果としては上々ではないだろうか。

 騒ぎの中心となったのは痛手だったが、これから何十、何百の人に出会い事柄を体験していくと考えれば些末なこと。


 私は足取り軽く馬車の方へと向かう。

 あ、お姉さまと同じ馬車に乗ってきたんだっけ。


 あの人たちどう帰るのだろう。

 ……ま、いっか☆


 そう思って伯爵家に帰ろうと馬車の段差に足を掛けた時、アルトの耳障りのよい声が聞こえてきた。

 「あの、エミリア様……」


 なんか聞いちゃいけない、幼気な少年の声が聞こえた気がした。

 幻聴であって欲しいと思って後ろを振り向くと......そこには今一番会いたくないトール・ストールがいた。


 トールは走ってきたのだろうか息を切らし、途切れ途切れの声をかけて来た。

 なんでトールがここにいるのよ。


 つい表情がこわばってしまい、眉間に皺がよってしまうが、上位の家柄の子息の手前感情に素直になることができなくて呼吸を整える。


 自分なりの営業スマイルを浮かべて「何の御用でしょうか」と尋ねた。


 「僕のせいでエミリア様に嫌な思いをさせてしまって申し訳ございませんでした。周りのドレスと違って落ち着いた色味で素敵だったからつい訊ねてしまったのです。どうか、許してください」


 トールは自分の言葉が騒動の発端になったのだと罪悪感を感じたのだろうか。

 はたまた元々馴染めなかった令嬢の輪にさらに入りづらくなった令嬢に憐れみを感じたのだろうか。

 

 彼の心情まではわからないが、私の身を案じてのものだと理解ができた。

 それ自体は別に悪い気がしないのだが、これがシナリオの思惑なのかと思うと素直に慣れない自分がいた。


 というか別にトールが心配することはなにもないし、自分が望んた結果こうなっただっけなのに。


 さて、私は彼にどう伝えてこの場を穏便に去ってもらうかに思考力を費やす。

 普通に返答しても変に好感度を上げるしなぁ……。


 主人公補正ってあるのだろうか。仮にあったとしてその補正でも修正が効かないほどの高圧的で好感度を下がる物言いと自分の言いたいことを相手に告げるしか今の私には選択肢がなかった。


 失礼に当たるかもしれないが、この時のトールは変に親に告げ口をしないという自信があったので本音混じりに言葉を並べる。


 「トール様が責任を感じることはなにひとつございません。まぁ、しいていうのであれば……知識が低い中で女性の身なりに口を出すべきではなかったと言いますか。ですがその無知さを逆に感謝せざるをえませんわ。だってこのつまらないお茶会を抜け出す口実ができたのですもの」


 「つまらない、ですか?」


 「だってそうでしょう?価値観の合わない令嬢に囲まれて、夫人やあなたのご機嫌を損ねないようにうまく社交しなければいけませんもの。【平民】上がりの私にとっては芝生に寝っ転がって青空を見上げることよりも退屈ですわ」


 貴族にとっては卑しい身分の血が入っているという部分にも触れつつ、このお茶会に、トールに如何に会いたくなかったか表現する。

 トールは目を見開くばかりで相槌はおろか返事すら返さない。


 それはそうだろう。

 エミリアの容姿自体物静かそうな顔立ちをしており、今日来ている衣装や容姿だけでいえば自己主張などしなさそうなのに。


 トールが思っていたエミリア像が崩されたのであれば、今回のフラグ折りは完璧に成功といっても過言ではない。


 得意げに鼻息を鳴らしたいほどだ。ドヤッ!


 

 トールが言葉を忘れて呆然としている間に退散しよう。

 私は「では御者を待たせるわけにはいきませんので失礼しますわ」と裾を翻して馬車に乗車した。


 その後のトールの顔、そしてその後どうしたのかはわからない。

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