You know My Name?
冬休みが続けばいいのによ。キラリーン✨✨✨
冷たい冬の風が気持ちいいぜ。
汚れが取れていく感じさ。
お年玉から1万円だけを財布に入れて残りの9万円は俺の部屋の押し入れにある小さな金庫に入れてきた。
1万円もあれば無敵だ。欲望は最小限に留められている。バイクの本と美味しいチョコレートシェイクだけを買うぜ。愛車の茜の調子は快調だ。
「やめてくださいよ!」という声が先にある広場から聞こえてきた。
通称「エデンの東広場」。ここのベンチに座って寛ぐのが最高なんだわ。バイクの本を読みながらチョコレートシェイクを飲もうと密かに思っていたのによ。
「いいからよ、早く答えろよ! お年玉をいくら貰ったのか聞いてんだよ!」と男の大きな声が聞こえた。
俺は茜から降りて、茜に鍵とチェーンでロックをしてスタンドを静かに掛けてから「エデンの東広場」を覗いた。
「うん? なんだなんだ?」俺は声の主を確認した。
身長180センチもある大きな男2人組みが中学生の男の子にカツアゲをしているようだ。チッ、正月から馬鹿野郎がいるぜ。
「ややや、やめてくださいよ。教えませんよ」涙で眼鏡が曇った男の子は半泣きで言った。
「良いから、教えろって言ってんだよ! 何もしないからよ!」と大男2人組はニヤケながら面白そうに言った。
「言いたくない、グスン、グスン」
「5000円くらいあれば貸してくれないか? 必ず使い果たすからさ。2人合わせて1万円あれば何とか助かるわ。なっ、頼むよ」と大男の2人組が中学生の胸ぐらを掴んで言った。
中学生は爪先立ちになって完全に怯えきっていた。
「やめてください! グスン、グスン」中坊の真面目な男の子は泣き出した。
「泣いたって、どうにもならんよ。お前のお年玉は俺たちが預かるのが1番良いんだからよ。5000円がないなら、貰ったお年玉の全額で良いからよ、俺によこせよ」とボンタンを履いている大男は言った。チッ、真冬にボンタンかよ。明らかに馬鹿野郎だな。
もう1人の大男は頭にピンクのタオルでハチマキをしていた。チッ、真冬にピンクなハチマキかよ。めでたい装いをカモフラージュした明らかにバカ丸出しだな。
「早く言えよ! いくら貰ったんだよ!! 俺のお年玉より多かったらよう、お前の金は直ちに没収だからな!」ボンタン野郎はポケットからビスケットを取り出して食べ始めた。
「早く、お年玉を見せろってよ! お前のお年玉を見せてくれたらさ~ぁ、そのお年玉をさ~ぁ、こちらの沢里只指呼さんの財布に移籍すれば済むだけの話なんだわよ」とピンクハチマキの大男は大きなゼスチャーを見せて言った。
「うわぁ~ん」中坊のメガネくんは胸ぐらを掴まれたまま泣き出した。
「泣けば済むと思ってんのか? このクソガキ!」と沢里只指呼は怒鳴ってメガネくんのコートのポケットをまさぐり始めた。
俺は落ちていた中身の入ったペットボトルを拾って沢里只指呼の頭に掛けた。
「どわ~いっ!! 冷ちゃ~い!!」沢里只指呼はメガネくんから手を離して自分の頭を擦った。
「なんだこの野郎わよ、テメェわよ!!」ピンクハチマキは俺の胸ぐらを掴んできた。
「うわぁん、こわいよ、こわいよ。馬鹿野郎にカツアゲされちまったよ~う」俺はピンクハチマキの大男に笑いながら言った。
「テメェわよ、わたしをナメてんのん?」ピンクハチマキは俺を激しく揺さぶった。
「俺を揺らすなっちゅーにぃ!」俺はピンクハチマキの大男のおでこを殴ってみた。大体、3割くらいの力でね。ピンクハチマキはあっさりと後ろに倒れた。
「おでこがねぇ、すげえねぇ、痛いわよ……。ねぇ、何だかわかんないけどもね、凄く眠気が襲うのよね。このままでいいのよ。わたし、寝てもいいかしら?」とピンクハチマキは言って沢里只指呼を見つめていた。
「侏悟~!!寝ると死ぬから寝るな! 大丈夫かよ?」沢里只指呼は叫んだ。ピンクハチマキは侏悟という名前のようだ。
「この野郎!!」沢里只指呼は俺を睨んだ。
「おい、沢里只指呼よ」俺は威圧的な強めの口調で言った。
「なんで名前を知ってんだよ?」
「さっきさ、ピンクハチマキがお前の名前を言っていたのを後ろで聞いていたよ。『さわりただしこ』だなんてよ、プッ、卑猥な響きがするよな。プッ、あはははは」俺は腹を押さえて笑った。
「て、て、てめぇ~、許さんぞ!」沢里只指呼は体を震わせて揺れていた。
「俺だってよ、お前の卑猥な名前だけは許さんぞ。親に感謝しなさい。あはははは」俺は涙が出ていた。
かつての馬鹿野郎、中沢なんたらかんたらと似たような、ふざけた野郎の登場に笑けてきた。
「お前の名前を知りたい」沢里只指呼はカッコつけた声を出して俺に言った。
「カツアゲ野郎には、おしえないよ~だ。あはははは。ダメだぁ、こんなことで笑いたくないのに」笑ってしまう。たぶん、沢里只指呼は望まれた子供じゃないから親が適当に名前を付けたんだな。親はギャルソンかもしれないな。『育てる上で絶対に手を掛けたくないから、ただ、指を鳴らして呼べば来てくれる安易な子供、誰に対しても他人行儀な子供に育って欲しい』が只指呼という名前の由来かもしれないな。
「お前はよ、お年玉を貰ったのか?」と沢里只指呼はさりげなく俺に聞いてきた。
「たくさん頂いたよ」
「いくらだ?」
「ありがたいことにだ、10万円だよ」
「よこせよ」
「嫌だね」
「よこせって!」
「今、財布には1万円ある。おい、中坊、もう大丈夫だから気を付けて家に帰りな」と俺は言った。中坊は頷くと走り去った。
「あっ! 待て!」と沢里只指呼は中坊を追いかけようとしたので俺は足を掛けた。
「わっ! あたぁっ! 痛てぇーっ!!」前のめりを倒れた沢里只指呼は鼻血を出した。
「じゃあな」俺はめんどくさくなってきたので「エデンの東広場」から出ようとした。
俺の背中に空のペットボトルが当たった。
「ああん!? 只指呼、テメェやんのか?」俺はメンチをきりまくった。
「待てよ、電話する」沢里只指呼はスマホを耳に当てて俺を薄ら笑いしていた。
「お母さんに掛けているのか? 只指呼とは初対面だけどもさ、とりあえず、お母さんにヨロシクだけは伝えといてよ。じゃあな。バイバイ、ララバイ」と俺は言って愛車で名車の茜の所まで歩こうとした。
「テメェ、待てよ!!」卑猥な名前を生涯持ち続ける男、沢里只指呼が俺の肩を強く掴んだ。
つづく
またな!