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卒業できるといいですね

 吾輩は、童貞である。経験はまだない。

宇垣直紀は某市の繁華街にいた。

「今日こそ風俗に行ってやる。」と思いながら、風俗雑誌を持ち、ネオン街をうろうろしていた。今まで幾度も繁華街に繰り出しては風俗に行こうか行くまいかと悩んでいたが、今日、ついに直紀は決心した。

宇垣直樹は小さな商社に勤めるごく普通のサラリーマンだ。今年35歳になるが、今まで一度も女性と関係を持ったことがない。つまりは童貞である。35年間悪いこともせず、真面目だけが取り柄に生きてきた直紀は、これまで女性と縁がなかった。

「あなたの如意棒、のびてる!?」

直紀が手にしている風俗雑誌のあるページにそう書かれていた。店の名は孫悟空。

「あなたも筋斗雲に乗って、GO TO HEAVEN !」

そのように誘い文句が書かれていた。直紀は直感でここにしようと決めた。場所は裏通りのコンビニを曲がってすぐのところにあるらしい。地図を頼りに店へと向かった。直紀はこんな姿誰にも見られまいと、顔がばれないようにしていたマスクで、鼻息がこもり、メガネが曇っていた。メガネをハンカチで拭きながら、コンビニを曲がると、孫悟空というキラキラした看板が目に入った。直紀は意を決して店へ足を踏み入れると、ボーイが立っていて、

「いらっしゃいませー」

と言った。

「当店のご利用は初めてでございますか」

「は、はい」

直紀は吃りながらそう答えると、ボーイから恥ずかしそうに目をそらした。

「では、当店のシステムを説明させていただきますね。60分、15,000円で女の子と遊べます。今日ですと、こちらの三名がすぐにお客様につけるのですが、どちらの女の子にしますか」

三枚のパネルにはこう書かれていた。


三蔵法師 25歳

沙悟浄 32歳

猪八戒 45歳


三枚のパネルの顔にはぼかしがかかっているが、猪八戒だけは体型がまさしく猪八戒だった。 鏡餅のような腹と豚足のような足。これは実際に見たら豚と事を済ませることになるなと、直紀は顎に手をやりながら思った。

沙悟浄はガリガリだし、一番無難な三蔵法師にするか。直紀は初めての割には冷静に判断できているようだ。

「じゃあ、三蔵法師さんでお願いいたします」

「かしこまりました。三蔵法師さんで、準備いたします。10分ほどお時間いただきますが、何かお飲み物いりますか」

ボーイはドリンクのメニュー表を差し出した。 「じゃあ、ウーロン茶で」

直紀はボーイの持ってきたウーロン茶を飲みながらドキドキしていた。

「ついに童貞を卒業するぞ!俺は生まれ変わるんだ」

そう思いながら待合室の時計に目をやった。時計の針の音が待合室の静寂をさらに感じさせる。

女の子とどんな話をすればいいんだ。盛り上がらなかったらどうしよう。でも、盛り上げる必要はないか。だって、セックスさえすればいいんだから。などと思いを巡らせていた時、ボーイがやってきた。

「お待たせいたしました。こちらへどうぞ」

直紀はボーイに連れられ、扉の前に立った。

「緊張してきた」

直紀は胸の高まりを抑えるために、落ち着け落ち着けと何度も心の中でつぶやいた。

「では、60分楽しんでください。筋斗雲に乗ってゴーゴゴー!」

ボーイが扉を開けたらそこには三蔵法師の格好をした

女が立っていた。





続く


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