始まりの予感【後】 戦術的勝利?
いっそ一話の視点を一人だけにしようか悩み中です。
【精霊・仙猫 灼艶玉蘭公主】
やはりと言うべきか、侵入してきたダークソルジャーはこれまでヒョウマが下してきた連中とは格が違うようだ。
あの犬人は決して弱くはない。
ヒョウマや、その級友どもと比べれば劣りはするが、子飼いの闘士にしては上等な霊力を持っている。
このままでは間違いなく神器を奪われるだろう。
それ故にヒョウマからも珍しく焦りを感じる。
ふむ。
ふむふむ?
常日頃の昼行灯なこやつも嫌いではないが、こういう凛とした表情も悪くない。
もう少し眺めていたいところだが、心配事を祓ってやるも守護精霊の務めよな。
『ヒョウマ』
(なに?)
『神器ならば心配はいらんぞ?』
(ほー、その心は?)
『あれに封じられた大精霊、もはや消滅を待つだけの身ぞ。月どもの手に渡ったところで活用なぞ出来んわ』
(……まぁ、信仰心はないだろうなぁ)
我ら守護精霊の力の源は人の祈り。
一度人間たちと関りを持った以上、祈りの力を失えば消滅は避けられん。
そして、あの神器に封じられた水の小娘は既に死にかけているも同然。
ヒョウマが恐れているのは妖気に侵されて正気を失してしまうことだろうが……。
(妖気の浸食に耐えられない、か……)
そう。
精霊が変質するにも最低限の力が残っていなければ妖気に、あるいは霊気に食い殺される。
仮に連中が神器を奪ってもどうにもならん。
精霊の力を失った神器なぞ、ただの儀礼武装と何も変わらんからな。
社会的影響、というヤツがどの程度酷いことになるかワカランがなぁ?
クックック。
と、いうワケで我らにしてみれば茶番も同然だが、相対するあの犬人はそれどころではないだろう。
なまじ優秀なだけに、あの氷女の強さを肌で感じ取ってしまっているな。
「ふ、う……鍛錬をサボったことはないのだが、な……ッ!」
「ええ、確かに、この場においてアナタは相当な実力者、ですね」
む……?
一瞬だが此方を、いや、ヒョウマを見た……な。
今回は妖精どもや犬は留守番だが、わらわとてそれなりの精霊、隠遁の術くらい心得ている。
戦士の本能か?
たまにこういう輩がいるから困るものだ。
能力の程度に関わらず鼻の利く輩が。
「イアァァァァァッ!」
犬人の霊気の圧力が高まった。
能力で劣るのを霊撃でカバーするつもりか。
確かに現状を打破するには他の選択はないが……。
「受けてみよッ! 紅蓮崩撃ッ!!」
強力な炎の一撃!
なるほど、当主含め他のファイターが崩れる中、一人だけ戦闘濃度を維持できるだけあって悪くない一撃だ。
普通のダークソルジャーが相手だったならばコレで決着だったろう。
「ふふ。結構なお点前で」
「バケ…モノ…め……ッ!」
爆炎と共に境内に轟音が鳴り響いたものの、肝心のダークソルジャーは無傷。
妖気のガードにヒビ一つ入っておらん。
「ではわたくしも、ね?」
氷の竜人が距離を取り、拳に妖気を集中させた!
「アイスドール・ダンスッ!」
「ガァッッッ!」
繰り出した拳から細剣を持った氷の妖精が大量に現れ、犬人を切り刻み吹き飛ばしおった。
アレは、危険だな。
精霊の力は感じない、あのダークソルジャーの純粋な妖撃。
「「………。」」
ヒョウマの友人たちも声が出んようだ。
はぐれファイターとしての経験値はわらわも認めるところではるが、アレは格が違う。
もっとも、それを素直に認められるのは評価できるがな。
テツヤなる魔人族なぞ歯ぎしりが聞こえそうなほど悔しがっておるが。
「豹真殿、どうするでありますか?」
「これ、ダメなヤツ~? だってあのオジサマじゃ絶対勝てないでしょ~?」
「あー、まぁ、ご当主さまがダメなのは確定だけど……たぶん、大丈夫。たぶん」
「たぶん、かよ。お前がそう言うなら何か理由はあるんだろうが、な」
ふむ、これも日ごろの行いか。
ヒョウマの大丈夫という言葉を皆信頼しておる。
「え? えッ!? だ、大丈夫なの? ホントに?」
当然、初対面の猫娘は狼狽えておるがな。
「で、それが水の神器、ですか……」
「ヒッ、ヒ? ヒィッ!?」
まぁ、そうなるだろうな。
あの脂達磨からは戦いの気配を微塵も感じないからのぅ。
「ふぅん……なるほど……はい、もう結構です。ではわたくしはこれで失礼しますね?」
「ハッ、ハヒッ!?」
「それでは……いずれ、また。ごきげんよう」
この場にいた大半の予想を裏切り、襲撃者は神器を奪うことなく立ち去る。
何故か。
もちろんアレに宿る精霊が瀕死であり、役に立たないと察したからだろう。
なんとも厄介なことだ。
ヒョウマはあの精霊を感じとることができなかった。
だが、あの女はそれを感じとり撤退した。
これはそのまま霊闘士としての能力の差を表しとるも同然。
我ら精霊を“使う”ことを忌避するヒョウマの優しさが仇になったのう。
この経験値の差、今のままでは致命的じゃな。
……む?
「あら~?」
「おや?」
「ほぅ…?」
「ふぁ?」
去り際、此方を見て片目をぱちりと……。
視線の先は……。
うむ。
あの雌の糞蜥蜴は敵じゃ。
よりにもよって、わらわのヒョウマに色目を使いおって。
いずれ刃を交えたらば遺伝子の欠片まで消炭にしてくれよう。
「よかったですな豹真殿、年上の美人でありますぞ」
「お茶目な実力者とか強キャラ過ぎんよ……。ま、神器が無事だったのは幸いかな? 水神家のメンツは残念なことになっただろうけど」
「ふん……だがあの肉達磨は口だけは達者だからな。巧く誤魔化すだろうがな」
どうやらあの森人、政治力は高いらしい。
この失態をどう誤魔化すか、ちと楽しみでもあるなぁ?
【霊闘士・蒼天寺豹真】
いやー、今回は久々に焦った。
死ぬ思いをした戦いなら数えてられない程度にはくぐり抜けてきたけど、今日の竜人のお姉さんはとびっきりだったね!
もし本気で神器を狙ってたら、猫姫さまとガチ契約必要だったかもしれ……いや、必要だったな。
力を借りる、ではなく。
猫姫さまを嫌ってるワケじゃない。
ただ、精霊との契約に対して、個人的にイメージが悪くて。
転生してすぐにエーテルファイターの後ろ暗いとこ見ちゃったもんだからね。
と、俺の精霊観はおいといて。
「……で、ダークソルジャーは結局立ち去った、と。お前さんがた、運がよかったな」
只今警察の事情聴取中。
割りとユルい感じに。
先に逃げた人が「撮影に夢中になってる記者を庇って逃げ遅れた天輪の学生がいる」と説目してくれていたらしい。
「わざわざ襲撃しておいて神器を奪わず、ね。どんな様子だったとかは覚えてるかい?」
「そうですね…何かに気がついて、それで帰ったって感じですかね」
「ほー?」
「あるいは……期待はずれ? みたいな表情にも感じましたけど」
「期待はずれ、ね。ま、気持ちもわからなくはないねぇ。あの御当主サマじゃねぇ」
クスクス、と笑いが聞こえる。
あるいはニヤニヤとした顔か。
エーテルファイターの大御所の一つに対する態度としては無礼もいいところなのだが、それも仕方ないっちゃ仕方ないのだ。
警察機構と霊験庁は犬猿の仲だからね。
現場レベルではそんなに悪くないけれど、上の方では酷い、らしい。
「あら~? オジサマってばそんなコト言っちゃっていいの~? 特務機関のコワ~い人たち、来てるのでしょう?」
「ん?あぁ、まぁな。さすがに今回ばかりは連中も行動が早かったな。お陰様で俺たちお巡りさんはこうして楽できてるワケだな」
悪びれた様子など全くなくオジサマが笑う。
特務機関。
解決に能力者を必要とする事件を担当する、霊験庁お抱えの選りすぐりのファイター集団だ。
特に月の眷族が関わる事件では一番強い権限を持つことが許されている。
まして今回は場所が場所だ。
そら警察の皆様は出番なかろうよ。
「そういえば、あのジャーナリストの女性は大丈夫なのでありますか? 先ほど、特務機関の方に連れて行かれましたが」
「あー、まぁ、多分大丈夫だろうよ。今回来た特務機関は“当たり”の部隊だからな。俺らにも対応が丁寧だったし、一般人に睨みを効かせるような真似もせんだろ。多分」
「いま、多分って2回言ったよね?」
「ギリギリまで写真、撮ってたんだろ? お前さんがたの話では水神の残念なトコもフィルムに写ってるだろうし、その辺は保証できないねぇ」
形式としては霊験庁の下に七星家があるのだが、実際のところ発言力は七星家のほうが上である。
七星家の始まりが貴族階級で、昔から政治に食い込んでいた名残だろう……と、山猿の爺さんに教えてもらった。
さすがは千年単位で生きてる精霊だけあって、俗世にも詳しいもんだ。
で、だ。
水神家としては自分たちがボコボコに打ちのめされたトコなんて広めるワケにもいかない。
となれば、まぁ検閲されるよねって話。
俺ら?
警察の人たちがチェックしてくれました。
天輪生だから取り締まりもユルいのだ。
学生だから手加減された、と言えばそう。
何せ天輪学園は七星家と霊験庁がガッツリ食い込んでるからね。
学生四人程度なんて何とでもどうとでもなる、って考えてるんだろうな。
ま、わざわざ言いふらそうなんて思ってもないから別に問題ないね。
「見ろ、豹真。どうやら解放されたようだぞ」
鉄也に呼ばれてテント製の仮設拠点を見れば、ちょうど猫耳が中から出てくるところだった。
「カメラは没収されてないみたいだけど~、大丈夫だったのかしら~?」
双葉、わかってて言ってるな?
ニヤニヤしてやるなよ。
「お姉さんお疲れ様。それで、どうだったんですか?」
「……されたわ」
「なに?」
「消されたわ! データ全部!」
あー、やっぱり?
「メモリー系も犯人特定のための資料として活用させて頂きます、捜査の機密性保持のために記憶媒体含め全て我々が責任を持って~ってね! 没収されたわ! ようは水神家に不都合なネタが漏れないようにってコトでしょうに!」
案の定というかなんというか。
「まぁまぁ。カメラやらタブレットやらが無事ならマシなほうでありますよ?」
「そりゃ…まぁ…まるごと没収されるよりはいいケド……代わりのメモリーも貰ったし……」
どうやら新しいモデルのメモリーを貰ったようだ。
ただ、ジャーナリストとしては最新型のメモリーよりもネタが欲しかったのだろう、かなり不満そうだ。
気持ちはわからなくもない。
ただ、問答無用で全部取り上げるパターンもあることを思えば、やはりラッキーなんじゃないかな?
「ま……後は特務機関が適当に処理するでしょ。どんなカバーストーリーを用意するのかオジサンにはわからんけどね」
とりあえず事情聴取は終わり、俺たちもジャーナリストの猫のお姉さんも解放された。
別れ際、何か面白そうなネタ見つけたらヨロシクぅッ! と、名刺を貰った。
「天野瞳、週刊誌“メビウス”のファイター記事担当の人、か」
日本でいうところのオカルト特集の雑誌だ。
日本と違うのはそれらが現実に起きていることかな。
『やれやれ、賑やかな小娘だったのう。さてヒョウマ、これで一先ず一件落着…と、今は思うておけ。思うところはあるだろうが、流石にわらわにも敵の狙いはわからんでな』
月の眷族にとって、たとえ力をほとんど失っていても神器は邪魔な存在のはず。
俺なら奪うなり壊すなりする。
だってそれが一番手っ取り早いし。
だが、あのダークソルジャーはそれをしなかった。
ただの気まぐれ?
ゼッタイないな。
元の世界じゃ平凡なリーマンのオッサンだった俺だが、これでもこの世界で命がけで生きてきたんだ。
だからなんとなく、だけど、ヤバい臭いってヤツがわかる。
まぁわかるのはそこまでで、それ以上が思いつかないのが凡人の悲しいところだな。
しかしまぁ、完全に大掛かりなイベントの幕開け確定、かぁ。
おおよそ主人公らしさ皆無の俺としては、寿命まで遠慮したかったなぁ……。
~ちょっと補足~
・灼艶玉蘭公主
・炎属性の猫人族の姫様の精霊。着物は紅に金の縁取りがお気に入り。
・白狗・破軍やフェアリーズ同様、豹真との付き合いは古い。
・もちろん守護精霊は“自称”
・呼び方は“ヒョーマ”ではなく甘ったるく“ヒョウマ”
・週刊メビウス
・魔力、霊力、妖力が絡む出来事ならなんでもござれの週刊誌。
・中立的な立場を重んじるため、政府からはあまりいい顔をされてない。
・凡人の悲しいところ
・普通の会社員は知識チートも内政チートもできるほど博識では……。
・本人的には日本と同レベルの生活水準なので不満はない。