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エーテルファイター!(未完)  作者: 鎮静の女神
3/10

精霊と魔獣と

精霊の声はオープンクローズ自由自在です。

聞かせたい相手にだけ届けることもできる便利仕様。



【精霊・白狗 破軍】



『また何処かで、精霊が消えたか』



 我が主ヒョーマの住む邸宅の裏山、庵の屋根の上での一幕。


 ようやく空が明るくなり始めるかといった時間。


 天輪国の何処かで精霊が最後を迎えたらしい。


 オレ以外の、周囲の精霊たちもそれは感じ取ったようだ。




 否。




 おそらくこの国の全ての精霊が察しただろう。


 精霊とはそういう存在なのだ。



『この気配。信仰の力に溺れたか、あるいは人間たちの羨望の眼が心地よかったか。いずれにせよ自ら呼び込んだ終末よ。哀れではあるがな。フェッフェッフェ』



 山猿の爺様が意味ありげに笑っている。


 精霊は魔力を糧とし、高い魔力を持つ者ほど強力で長寿となる。


 この爺様もかれこれ二千年以上は生きているらしく、相応の強力な魔力を宿している。




 魔力を高める方法はいくつかある。


 一つ、地道な鍛錬で自然界の魔力を集める。


 二つ、魔獣の核など濃度の高い魔力を取り込むこと。


 三つ、人間たちの信仰を集めること。


 


 この中で最も簡単で最も危険なのが信仰の力だ。


 なぜならば、信仰を失うと同時に魔力も失い、やがて自身の存在を保てなくなるからだ。


 それでも信仰の力を求めて人間たちと関わろうとする精霊は多い。


 何せオレもそうだからな。



『別に儂らぁボンズの守護精霊じゃないじゃろーて。気にしても無意味じゃて』


『爺様、人の思考を勝手に覗かんでくれ』


『別にそんなんじゃなかて。オンシはわかりやすいで。ふぇありーずもだが、キサマらぁボンズに入れ込み過ぎと違うかね?』


『ふん。ならば爺様はどうなのだ? さっさと加賀の山奥にでも戻って昼寝でもして過ごせばよかろう』


『イヤじゃ。せっかく面白い人間を見つけたのにそうそう戻れるものかて。それに、ボンズの放つ霊気は昔を思い出せて心地よいからの~! フェッフェッフェ!』



 爺様とこのやり取りをするのも何度目かわからんな。


 そうこうしている間にヒョーマが庵までやってきた。


 肩にはふぇありーどもが菓子をほおばりながら座っている。



「おはようさん。君ら今日も早いねー。精霊って早起きなの?」


『うむ。朝の静かな気配はオレ好みだからな』



 もちろん日中の喧騒もそれはそれでいいものだ。


 まぁ、人間たちの営みの音を好まぬ精霊もいるのだが。



『で、ふぇありーずは相変わらずボンズにべったりか?』


『ヒョーマのそばはきもちいいからね!』


『いやしのれいきだよね!』


『おかしもおいしいからね!』



 ふぇありーどもは余程のことがない限りヒョーマの側を離れない。


 ……と、いうか見たことないな。連中が離れてるところ。 



「霊気ごまかすのにいっつも苦労かけてるからねぇ。お菓子で喜んでくれるなら安いもんでしょ。……でも布団に入り込んでくるのは遠慮してほしいな。なんか潰しそうで。まぁそんなこと起こらないんだけどさ」



 ケラケラと笑いながらヒョーマが庵の中央で結跏趺坐の姿勢をとる。


 これからヤツが始めるのは魔力を集める訓練だ。


 ファイターであれば誰もが最初に行う基本中の基本だ。


 だが他のファイターたちはヒョーマほど熱心に行わない。


 なぜか。


 そんな面倒なことをしなくても強くなる方法があるからだ。


 だがヒョーマはこの基礎訓練を欠かさない。

 

 霊力の、霊気の扱いが上達して調子に乗っていた時でさえ続けていたからな。



『うむ。昔のファイターは皆こうして地道に魔力の器を磨いていたものよ。ま、それでもボンズの発想に至った者はおらなんだがな。フェッフェッフェ!』


『器を広げるのではなく、魔力を圧縮するとはな。面白いことを思いつくものだ』



 魔力の器を広げれば多くの魔力を蓄えられる。


 だが器を広げすぎると誤魔化す手間も増える。


 多くのはぐれは日常生活で儀礼道具を利用して力を隠しているのだ。


 その手間を惜しんだヒョーマがたどり着いた答えがこれだ。




 高密度の魔力を溜め込んだ次に行うのは霊力への変換だ。


 丁寧に、高純度に精製された霊力から漂う霊気はなんとも心地よい。


 山猿の爺様もご満悦といったところか。


 もちろんオレも、ふぇありーも、その他集まった様々な精霊たちがヒョーマの側で寛いでいる。


 霊気もそうだがヒョーマの中にある精霊の在り様もまた良い。


 奴にとって我ら精霊は“そこにあって当然の存在”でしかない。


 強すぎる崇拝は束縛と変わらないのだ。


 この適当さがなんとも心地よい。




 そしてしばらく。


 

「兄さん、朝ごはんの時間ですよ」




 家族で朝食を済ませてすぐ。


 ヒョーマは今、バイクである神社を目指している。


 かつては守護精霊を祀り多くの信仰を集めていたが、今ではすっかり寂れた神社だ。


 ヒョーマはそこに定期的に訪れて鍛錬を行っている。



「で、君はなぜ俺の後ろに乗ってるんだね? 葵クン?」


「同じ場所に向かうのに二台出したのでは燃料が勿体ないでしょう!」



 背中にべったりとくっ付いたアオイは今日も上機嫌だ。


 ここまで仲睦まじい兄妹も珍しい。


 ま、この二人の場合はヒョーマがアオイの世話を昔からよく見ていたからな。


 今日の遠出も実質アオイのためのようなものだ。



「さて、案の定というかなんというか。魔力溜まり、あるねー」



 神社の奥では歪に魔力が集まって空間が歪んでいた。


 魔力溜まり。


 そして迷宮の入口だ。


 あれは言わば魔獣の結界。


 中では魔獣が次々と生まれているだろう。


 そしていずれは溢れ出す。


 当然そうなれば近隣に被害が及ぶ。


 この規模ならば深刻なことにはならんだろうが……魔獣が現れた、というストレスは大きい。


 なのでこうして祓ってやる必要があるわけだ。



「兄さん、ここは私が」


「んー? いいけど、油断すんなよ」


「もちろんです!」



 どうやらこの場はアオイが鎮めるようだ。


 ふむ。


 今日もオレの出番は無しか。



『ヒョーマ、何かあれば遠慮せず呼べよ。オレはオマエの守護精霊なのだからな』


「あいあい。そん時は遠慮なく頼るよ」


『まぁわたしたちがいるけどね!』


『いぬのでばんはないね!』


『でもヒョーマがよんだらすぐこいよ、いぬ』



 ちび妖精どもの言葉を聞き流しながら社の屋根に陣取る。


 ここからだと戦ってるアオイを観察しながらのんびりできる。



『ふん……また来たのかあの人間は。物好きなことだ』



 社の主のご登場だ。



『あれはそういう男だ。あるいは貴様の存在に感付いたのかもな』


『只の人間が? 姿を眩ました我に? フッ……ありえんな』



 甲冑熊が鼻で笑う。


 かつては守護精霊としてエーテルファイターと共に戦場にあった。


 今ではずいぶんと力が衰えている。


 オレの噛みつき一撃で消滅しかねんレベルだ。


 もしヒョーマが祓いに来なければとうの昔に歪んだ魔力に飲まれ理性を失していただろう。



『仮にそうだとしても我の消滅は時間の問題よ。依り代たる神器も錆びて朽ちようとしている有様だからな』



 神器。


 人間から信仰の力を得るために、精霊と人間を繋ぐ物。


 それ自体が精霊の力を宿す強力な武器となるが、精霊の力が衰えれば、やはり神器も朽ち果てる。



『勝手なものだ。あれほど我の力を利用しておきながら用が済めばこれよ。人間なぞ所詮精霊を便利な道具程度にしか考えておらん』


『そして貴様は人間の願いを餌としか思っていなかったわけだ。正しくお互い様だな?』


『ぐ……ッ!?』



 熊が言葉に詰まる。


 同情するつもりはない。


 信仰の力に溺れて他者を見下していたのだ、自業自得だろう。




 さて、そんなことよりアオイだ。


 能力だけなら心配する要素は皆無。


 うん。


 能力だけなら。


 ただ立ち回りが甘いのがなぁ……




【転生者・蒼天寺 豹真】


 魔獣とは。


 早い話がモンスターだ。


 いわゆるゴブリンとか、スライムとかそういう。


 今、葵が戦ってるのはゴブリンに該当するのかな?


 小型二足種。


 人間と同じ程度までの大きさで、文字通り二足歩行。


 たまに身体の一部が武器のようになっていたり、本当に武器を持っていたりする。 


 

「ふッ! せぁッ!!」


 

 霊気を纏った葵の打撃で次々と倒される。


 魔力が霧散した後には魔導水晶だけが残っている。


 換金したり自分で使ったりと便利な代物だ。



「はッ! ……この程度、どうということはありませんね!」



 鮮やかに舞う葵。


 倒れる魔獣。


 点数を付けるなら…30点くらい?


 理由はいくつかある。




 一つ。


 オーバーキルが酷すぎる。


 3の霊力で足りる相手に60も70も消費している。


 経験値が足りなくて加減が上手くできないのだ。


 霊気が攻撃も防御も兼ねている都合、消費が増えるのは致し方ないんだけど……


 さすがに堅め過ぎじゃないですかね?


 慢心してケガするよりはいいかもしれんけど。




 二つ。


 目の前の一匹に集中しすぎ。


 なので他の魔獣に対する反応が悪い。


 それでも戦えているのは圧倒的な身体能力の差によるものだ。


 後出しで、たとえ敵の攻撃が数センチまで迫ってから行動しても間に合う程度には差がある。


 これがもう少し強い魔獣が相手なら?


 たぶん、ある程度倒したところで息切れを起こすだろう。


 その後は……まぁ、葵なら不利と判断した時点で逃げを選ぶだろう。


 そうするようしっかりと“教えた”からね。


 

「……くッ、この……ッ!」



 ………。


 ちょっと旗色悪くなってきたか?


 霊気のガードを地味に削られてきてるな。


 どうも回避がイマイチだ。


 別に防御を選ぶのが悪いワケじゃないんだけど。



「風雅ッ!!」


「―――、―――ッ!」



 風の刃で魔獣が次々と倒される。


 が、どうやらここまでかな。



「ハイ、ここまで」


「兄さ―――後ろ!? いつの間に……」



 後頭部に当たる直前、鉈のように変化している魔獣の腕を掴む。


 当たったところで大したダメージにはならなかっただろうが。


 が。


 死角からの攻撃に当たる直前まで気が付かなかった、それが問題。



「倒すことに夢中になりすぎたな。相手が弱いからって油断してると、後で後悔するぞ?」



 俺がそうだったからね!


 慢心、イクナイ!


 と、いうわで選手交代。


 慢心せず、でも全力は出さない。


 相手の強さに合わせて必要な霊力はどの程度か。


 過剰な攻撃力は息切れの原因だ。


 もちろん状況に合わせて急ぐべき時だってある。


 要は視野を広く保て、ってことだ。


 


 ……合ってるのかな? コレ。




 で。



「へいマスター、いつものを」


「あいよ。きつねうどん一つね!」


「あ、私も兄さんと同じものを」


「きつねうどん二つねー!」



 魔獣の掃除を終えてふもとの食堂で優雅な昼食タイム。


 ちなみに定番の魔石的なアイテムの買取もしてます。


 最初は違和感すごかったよ?


 でもこの世界じゃホームセンターとかでも普通に買い取りしてくれるのだ。


 でもコンビニでは買取してない。


 謎。



「で、今日はどうした?」


「何がです?」


「頑なに付いて来ようとしたからな。何か思うところでもあったんだろ?」


「明日から、一年生のランキング戦と迷宮探索が解禁されるので。そのための調整です」



 ランキング戦。


 天輪学園の闘士学科、俺たちの場合は中等部の学生同士で戦って序列を競うシステムだ。


 自分より上位の学生に挑み、勝利すれば相手の一つ上のナンバーが割り振られる。


 ちなみに我が妹は三学年300人中序列7位。


 俺は168位。


 目立つと面倒だからね。


 迷宮探索は……まぁ、言葉通りだ。


 強いて特徴を上げるなら、学園の敷地内に迷宮が存在することくらいかな?



「手加減が難しいんですよ。面白半分で挑んでくる相手の」


「あー、そういう事。たしかに今年もいるだろうな、基礎上がりでいきなり挑んでくるヤツ」


「それを悪いとは言いません。それもまた経験でしょう。が、相手をする側としては気を使わないといけないので大変なんです」




「今年もそんな時期になったんだねぇ。はい、きつねうどんお待ちどお!」



 ランキング戦は一般公開もされる。


 なので食堂のオバちゃんも季節の風物詩感覚だ。



「あたしらの立場としちゃあさ? どうせなら発生した魔獣の駆除で点数付けてくれたほうがありがたいんだけどねぇ」


「俺らみたいに小遣い稼ぎに狩ってるの、いると思うけど」


「でもそういう子たちって、最後まで面倒見てくれないだろ? ちゃんと魔獣の巣を潰してくれないとまた沸いてくるし」


「霊験庁のプロファイターに頼めば駆除してくれるのでは?」


「それが最近忙しいらしくてねぇ。なかなか来てくれないのよ。っと、愚痴っちゃってゴメンね? ごゆっくりどうぞ」



 割り箸をパキリ。


 異世界転生での問題の一つ、食生活。


 天輪国は俺がいたころの日本と同程度の文化なおかげで何も問題なし。


 醤油ベースでやさしい出汁の普通のきつねうどんだ。



「忙しい、ですか。そういえばもうすぐ水神家の奉納祭の時期ですね」


「だな。たぶんそれに人手をとられてるんだろうな」



 水神家はこの辺のエーテルファイターでは一番大きな勢力だ。


 その水神家が催す祭典ということもあってか、手頃なファイターはそっちの準備に掛かりきりなのだろう。



「……最近、月の眷族が元気だからな」


「先日もニュースが出ていましたね。訓練施設が襲われた、けれど死者は出ず、と。何が目的なんでしょうね」


「さて、ね……」


「大事にならなければいいのですが」



 やれやれ、といった様子でうどんをすする葵。


 妹よ、いいことを教えてやろう。


 俺が住んでいた日本という国ではな?


 こういう会話の流れを“フラグ”というのだよ………。


~ちょっと補足~


・精霊

 ・魔力が知性と理性を持ち固定化された姿。

 ・物理的な干渉も可能。

 ・人間に対する考え方にはかなり個体差がある。

 ・寿命は特にない。消滅する理由は千差万別。

 ・暴走して魔獣化することもある。


・魔獣

 ・魔力が生存本能を持ち固定化された姿。

 ・倒すと魔導水晶(経験値&お金&燃料)を落とす。

 ・今回の世界では素材は取れない。

 ・知性と理性を得て精霊に昇華することもある。


・守護精霊なのだから~

 ・白狗くんは“自称”守護精霊。

 ・本来は結びの儀式でリンクした精霊のことを指す。

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