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80話 これはきっと、憎悪ですわ

 ◆


「では、かねての計画通りに」


 ラファエルの言葉に頷くと、ランドとイーサンは馬腹を蹴って、クロウラーの蔓延る村へ突入します。

 私は首を傾げながら、ラファエルに作戦の詳細を聞きました。


「あら? 二人だけで行きますの?」

「うん、ここはね――」


 クロウラーは群れに危険が迫ると、まずは最強の個体であるブルークロウラーが矢面に立って戦うとのこと。だから最初にミニクロウラーを数体殺し、ブルークロウラーの注意を引きます。

 ブルークロウラーは攻撃性が高い為、その後、こちらが逃げ出せば必ず追って来るでしょう。特にミニクロウラーを殺した敵ならば、絶対だそうです。


 通常のクロウラーは子供であるミニクロウラーを守ろうとする為、群れを離れません。

 ですからこれを、ブルークロウラーが離れた時点で殲滅します。

 この係を、私とラファエルでやる訳ですね。


「良いですわ、ラファエル。クロウラーなど、皆殺しです……今宵の虎鉄は血に飢えておる……」

「ティファ。学院支給の剣は虎鉄なんて名前じゃないし、今は朝だよ。あと、剣を舐めると変な病気になるから、気を付けて。今まで、色んなモノを斬ったよね? それで」

「ヒェッ……病気になるのですかっ? そ、そういうことは、先に言いなさい」


 なんだかラファエルのツッコミが的確です。

 しかも今まであった、私に対する怯みのようなモノが感じられません。

 あるのは絶対の自信と、普遍的な優しさです。なんだこれ? お陰で私の方が、驚いちゃったじゃないですか。


「ははっ」と笑うラファエルが、ドナに指示を出しました。


「ドナ、もういいだろう。ランド達が目を引いているうち、気付かれない様に敵の背後へ。無理をする必要は無いけれど、ミニクロウラーならドナでも十分倒せるよ」

「う、うん。あたし、ラファエルの為に頑張るよ」


 ラファエルがドナの頬に、軽く手を添えました。

 ドナは瞼を閉じて、何かを待っています。彼女の目が、チラリと私を見ました。


「ねぇ、ラファエル……お願い」

「ティファが見てるよ」

「いいじゃない……」


 フワリと流れる親密な空気――そしてドナの妙に勝ち誇った顔……あ、これ、ヤリやがったな、コイツら。

 私の直感は、当たっていたのでしょう。


「ふぅー」


 ラファエルは一つ溜め息を吐いて、ドナとキスをしました。

 ドナは満足したように頷き、騎乗します。そして私に一言――「ティファも少しはランドに優しくしないと、嫌われちゃうぞッ!」

 ドナの後には、イーサン配下の二人の騎士が続きます。


 まったく、知った風な口を。

「嫌われてぇんだよ、こちとらッ!」と叫ぼうとしたところで、私は口を噤みました。だってランドも、友人としては嫌いじゃありませんからね。

 代わりにラファエルの腕を肘で小突き、「この、この、色男」とツッコミます。


「いいご身分ですこと、この様な最中にヤッちゃうなんて! 子供が出来ても知りませんわよ?」

「あ……その……ドナも……将来リモルに来てくれるっていうし……何て言うか……僕も高ぶってたというか……責任は取るつもり……だから」


 あら、あっさりと白状しましたよ、このエロゲ主人公。でも、ドナなんてヒロイン、ゲーム中では居なかったんですけどね。

 でもまあ――いいでしょう。男同士、隠し事は無しです。仮にも親友ですからね!

 私はラファエルと肩を組み、ニヤリと笑いました。


「一応、おめでとう――と言っておきますか」

「はは……」


 あ、でも……私が必至で働いている時に、コイツはエロい事をしていた訳ですね。

 ふうむ……なんかだんだん腹が立ってきました。痛い所を突いてやりましょう。


「――だけど、ヒルダの方はどうするんですの? アイツ、あなたにベタ惚れでしょう。こんなことがバレたら、激怒するにきまってますわよ?」

「それは、帰ったらキチンと言うよ。それにヒルダと僕じゃ、正直釣り合わない。彼女には彼女に相応しい相手がいるさ――大商人の子弟とか、貴族でもいいだろうね」

「ふぅん、身分ですか。そんなことを気にしていたのですね」

「そりゃ、気にするさ――ドナにも言われたしさ。ティファもヒルダも、僕等にとっては雲の上の存在なんだ。もちろん今は、一緒に戦っているけれど――それが終れば……ね」


 砂塵を巻き上げ馬を駆るドナの背中を、ラファエルは見つめています。その顔は、少し寂しそうでした。


「あなた――本当にドナのこと、心から好きですの? もしも本当はヒルダのことが好きなのなら、あの子を傷付けるだけですわよ?」


 私の言葉に、ラファエルがビクンと肩を震わせます。


「ヒルダのことは別に――でも、ドナを好きになるよう、努力はする」

「ヤッといてそれは、酷いですわね。あ! ヒルダにも失礼ですわ! ……はぁ〜〜」

 

 私は肩を竦め、溜め息を吐きました。


「そうだとしても、キミに言われることじゃない……!」

「あら? わたくし達は、親友なのでしょう? だったら、お互いに言いにくい事だって、言わねばなりませんわ」


 ラファエルがムスっとして、私を睨みました。


「だったら聞くけど、ティファだって、ランドをどう思ってるんだよ? 昨夜だってずっと一緒にいて、何も無いとは言わせないぞ」

「何も……ありませんわ」

「バカ言うなよ! 結婚の約束までして、それで何もないなんて有り得ない!」

「結婚には条件がありますし、その条件だって普通に考えれば、まず無理ですわ――ふふん」


 ラファエルがじーっと私を見て、頬を赤らめています。


「本当に、何もなかったの?」

「くどいですわね! わたくしは男の中の男! それがどうして一晩一緒にいただけで、ランドとどうにかなるのですかッ! 

 しかもわたくし、あなたの指示でずっと働いていましたのよッ! あなたの方こそ、ドナといちゃついて――なんだかそれ、許せませんわッ! 羨まけしからんッ! わたくしだってドナとエッチなことをしたいと、常々思っていましたものをッ!」

「えっ、そっち!? ティファって本当に男なの!?」

「だから、そうだと言っているでしょう! あなた、分かった上でわたくしの親友になったのでは、ありませんのッ!?」

「いや、その……ごめん。今、本当に信じた……」

「「あっ、合図だ(ですわ)」」


 ラファエルをポカポカ叩いていると、村の背後から火の手が上がりました。

 あれはドナと二人の騎士が、ミニクロウラーの背後に回った合図です。

 ミニクロウラーは敵から逃げる習性があるそうなので、後ろから追えば必ず落とし穴に落ちるとのこと。

 だからドナ達は迂回して背後に回り、奴等を追い立てる作戦だったのです。


 ただし問題は、当初と比べてクロウラーの数が倍だったこと。ミニクロウラーと云えども、二十匹近くいる訳で――ドナも苦労するでしょう。


 一方でブルークロウラーが二匹というのも、非常に恐ろしいです。一匹でも熟練の冒険者パーティーを、全滅させる程ですからね。

 そんな危険なブルークロウラーを引き付ける役目を、ランドは二つ返事で受けています。

 その上で私を見守り――いえ、ぐーすか眠っていましたけれど……。

 

 いえ――本当は彼、やっぱり私とエッチな関係になりにきたのでは?

 考えてみれば、今回の作戦で一番危険な役回りは彼です。だったら、その前に私と……そう考える方が、むしろ自然ですね。

 だけど余りにも私があんまりだから――寝たフリをした……。

 アイツ、本当にバカですね。大バカです。

 でもそう考えると、ランド(バカ)の背中がとても逞しく見えました。


 ランドとイーサンもドナの合図を見て、ミニクロウラーの中に突入します。

 これでもう、後戻りは出来ません。

 槍を振り上げ、ランドは雄叫びを上げています。

 何でしょう――彼の背中を見ていたら、お腹がきゅっと熱くなりました。

 いつの間にか私は、胸元に両手を寄せています。


 ミニクロウラーが身体を持ち上げ、ランドに液体を吐きかけました。


「あっ!」


 思わず私は、叫んでいました。でも彼は盾を巧みに操り、攻撃を回避します。


 ドキドキ、ドキドキ――。


 私の心臓が、まるで早鐘のように鳴っていました。

 そんなに私は、ランドに死んで欲しいのでしょうか。

 

 まさか――これはッ!? 私ってば、「頑張れ、クロウラー」って思ってるッ!?

 だとすれば、そうです。これは憎悪に違いありません。

 アイツは私と結婚したい男。そんな男は私、大嫌いですからね。

 これからは、よりいっそうアイツに近づいたらダメですよ! 

 うっかり殺してしまったら、殺人罪で捕まってしまいますからね!

ブクマ、評価ありがとうございます!

励みになっています!

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