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68話 打ち解けましたわ

 ◆


 夕食も終わり、それぞれが天幕に入ります。

 今日は警戒の必要がない為、全員で一斉に休むことになりました。

 三日目にして、やっと落ち着いた時間が取れますね。


 なにしろ先を急ぐ旅ですので、街に立ち寄ったりしていません。

 だから必然的に、昨日と一昨日は三交代で夜間の見張りをしていたのです。

 はっ! そういえば昨日の見張り、私一人でしたよ!

 やはりこのままでは、ボッチが確定するのでしょうか!?

 

 そう思いながら暗い天幕の中で横になっていると、誰かが言いました。


「なぁ、みんな。そこの沢で水浴びしいひん? マリアードちゃんも、ええ言うてはったし」


 カサカサと繊維の擦れる音が聞こえます。

 皆、起き出して声の主の方を向いたのでしょう。まだ眠るには、少し早い時間ですからね。

 提案者は、ジュリア・ノートンでした。

 彼女はルーヴェ出身の小柄な二年生で、赤毛のショートカットが特徴的です。出身地が同じせいか、口調もヒルデガルドと似ていました。

 彼女は現在、ウィリアム・エドとスコット・ライアンという二人を侍らす、オタサーの姫的存在です。ただ如何せん商人なので、戦闘スキルは高くありません。


「いいけど、男に見られない?」


 カレンが特徴的な緑色の髪を掻き上げながら、気だるそうな声を出しています。

 このエロさで、メルカトルを骨抜きにしたのですね。私だって骨抜きになるのに、くぅ〜!

 あ、ちなみにカレンは皆の中で一番弓の扱いに長けています。いわゆる狙撃兵ですね。


「大丈夫やろ? 心配ならドナやんの召喚獣に見張ってもらお」

「えっ? 私行くの確定?」


 私の隣で横になっていたドナが起き上がり、首を傾げています。

 そういえば二度目にラファエルと沢に行ったあと、何かあったのでしょうか。

 彼女にしては珍しく、帰ってきてからラファエルと口をきいていませんでしたね。


「なんや、嫌なんか?」

「別に、嫌じゃないけど……」

「ほな、決まりや!」

「うん……」


 やはりドナは、あまり乗り気じゃないようです。

 って……あれ……私抜きで決まりました?

 そりゃあ、起き上がりませんでしたけど……本当に私抜きで行っちゃうんですか、みんな。

 このままでは、私に話しかけてくれる人が先生とランドだけになってしまいます。

 ラファエルも誤解したまま、ずっと口をきいてくれませんしね。

 彼をヒルデガルド陣営から引き離せるかと思ったのですが、私、何をやっているのでしょう。

 ですから私、あ え て、ここで寝返りをうちます。気付いてもらわねばっ!


「う〜ん」


 さあ、起こしなさい。誰か! 声が出ていますよ!


「あ、みんな替えの下着、持ってっときや〜!」


 おい、ジュリア! 無視ですか! 


「待って、ジュリア。ティファニーさまも一緒に……ほら、起きて、ティファニーさま!」


 あら、ドナが私の肩を揺すっています。

 この子、やっぱりいい子ですね!


「ねえ、ティファニーさま。一緒に水浴び行こ! 起きて!」

「むにゅ……何ですか?」

「ほら、早く! 臭くなったらランドさんに嫌われちゃうよッ!」


 バタリ……うつ伏せで眠る私……むしろ嫌われたいのですが……。

 ドナが私の肩をガクガクと揺すります。何としても起こそうという気概が感じられました。


「わ、分かりました。ランドに嫌われるのは望むところですが、水浴びには行きましょう」

「やった! ほら! ティファニーさまも行くって!」


 ドナが笑顔を向けてくれます。

 一方でジュリアとカレンは、少し眉を顰めていますね。

 何でしょうね? 私に含むところでもあるのでしょうか?

 嫌われるなら、むしろドナかと思っていたのですけれど。


 ――――


 向かった先は、「ザァーッ」と清涼感のある音を振りまいている滝です。

 その先が小さな沢になっていて、水もここで汲んだとドナは言っていました。


 私達四人は岩場の影で服を脱ぎ、裸になってゆっくりと水の中へ入ります。

 空を見上げれば、満天の星――と言いたいところですが、光り輝くそれらは、星々ではありません。

 エルフが言うには、光の精霊の子供達だそうです。

 

 夜の闇の中、小さな光が中空を舞い、輝いていました。

 それはまるで、星々がダンスをしているよう。

 ときどき私達の側に舞い降りて、彼等は笑顔を振りまいています。


「きゃあ、可愛い! この子、お辞儀したよっ!」


 ドナが精霊を捕まえ、掌の上に乗せました。

 光が彼女に降りていた闇を払い、水に濡れた白い肌を浮かび上がらせます。


 いいですね――私も精霊を捕まえてみましょう。えいっ。

 

「ぐへへ、ええ乳やのう」


 私が捕まえた光の精霊は、何やらちょっと違います。


「どこが子供ですかっ! これは羽付きの小さなエロいオッサンですわっ!」


 私は慌ててオッサンを沢の中に投げつけると、衝撃の事実を皆に伝えます。

 

「わぁ、水の中で光ってる! 綺麗〜!」


 しかしドナは気を失ったまま流れる、光り輝く小さなオッサンに夢中。私の言い分を信じてくれません。

 実際、カレンが捕まえた光の精霊もドナが捕まえた精霊も、可愛らしい少女でしたしね。

 なぜ私が捕まえた精霊だけオッサンなのか……という悲しみに耐えつつ、私は水浴びを続けます。


「ねえ、ドナ。ラファエルくんと、どうなの? 上手く行きそう?」

「え? 私達は……別に……カレンさんこそメルカトル先輩と、どうなんです?」

「私達は、まあ――遠征から帰ったら、ちゃんと付き合おっか〜って。もう、付き合ってるようなものだけどね」

「わぁ! 上手く行ってるんですね! おめでとうございますっ!」


 チラリと横に目を向けると、ドナとカレンがガールズトークを初めていました。

 混ざりたいなぁ、ていうか二人の発育具合はどうかなぁ〜と思って近づいて行きます。

 なんならドナの背後から忍び寄り、そこそこに大きい、そこそこのおっぱいを揉んでやりましょう。


 そろーり、そろーり……“バチャーン”


「な、何ですか!? 敵襲ですかっ!?」


 そーっと歩いていたら、いつの間にか何者かに足を掴まれ、思いっきり転んでしまいました。


「あははははっ! ティファニー! 油断し過ぎやでっ!」


 水の中から真っ赤なワカメが現れて、笑っています。

 ああ、ジュリア、あなたの仕業ですか。

 お腹を抱えて笑うジュリアのスタイルは、実に均整が取れていて美しいです。

 そんなお前には、昭和な技で迎撃しましょう。


「おのれ! よろチクビ〜〜!」


 これは本来、男子同士が出会い頭、服の上から相手の乳首を抓る技。

 ですから裸の女子にやるのは躊躇われますが、私が与えられた屈辱を晴らすには、これしかありません。


「や、やめやぁ! あはははっ! ティファやん、いじめっ子かいなっ!」


 しかしジュリアは身を捩ってかわしながら、ニコニコと笑っています。解せません。彼女は私を嫌っていたような気がするのですが。

 私が訝し気なジト目を向けると、ジュリアがパチパチと目を瞬かせました。


「あ、やっぱヒルダちゃんじゃないと嫌なん? ティファやんって言われんの」

「いいえ、別に。名前なんて記号ですもの、好きにお呼びなさい」

「そか。ほなら良かった」

「それより……あなた、わたくしのことを嫌っていたのではありませんの?」

「ん? 何でそう思ったんや?」

「何となく、態度で」


 ジュリアは顎に指を当て、考える様に首を傾げました。


「……そら、そやろ。男共が、み〜んなティファやん見てるんやで。やんなるわぁ」

「へ? ウィリアムとスコットを侍らせてるじゃありませんか、あなた」

「ちゃうって。あれは、ウチが強引に捕まえとるだけや。カレンに行っとるメルカトルもやで。せやけど――もう、ええわ」

「あら、カレンとメルカトルは、随分と仲が良さそうに見えていたのですけれど?」

「せやな……そりゃカレンの方がずっとメルカトルが好きやったさかい、頑張っとるんやろ。でもなぁ、複雑やったと思うでぇ」

「どうして皆が、わたくしなどを……」

「あんたなぁ〜水に顔、映してみい!」

「ええ、まあ……美人ですわね。性格は悪そうですけれど」

「うぅわ! 自分で言いよった! でもな、せやねん! あんた、絶世の美女やで。対抗できるんは、ウチの国じゃヒルダちゃん位のもんやし、こん中じゃ一番なのは間違いあらへん。そら、悔しゅうなるわぁっ! おりゃっ!」


 そう言うと、ジュリアは私の後頭部を押さえ、水の中へ押し付けようとします。

 私も負けじと彼女の足を払い、大きく投げ飛ばしました。

 ジュリアは受け身も取れず、背中から落ちるしかありません。

 大きな音と水飛沫が上がり、光の妖精が一斉に天高く舞い上がります。

 その後、私達はお互いにずぶ濡れの顔を見合わせ、笑い声を辺りに響かせると、背中を合わせて座りました。

 

「裸で何やってんのやろな、ウチら」

「そうですわね」

「……と見せかけて〜よろチクビやぁ!」

「やっ、やりましたわねっ!」


 ちょっとだけ摘まれたものの、すぐに身を翻してジュリアの頭を押さえ付けます。

 その後、私達は岩を背もたれにして落ち着きました。

 再び周囲に戻った妖精達の明かりに照らされ、辺りが青く輝いています。


「ティファやんって、モテモテでええなぁ」

「望んでいませんわ、まったくもって」

「嫌味かいな」

「まさか。本心ですわ」


 それからジュリアが、溜め息混じりに言いました。


「ウチな……ランドが好きやねん」

「そうですか。なら、応援しますわ」

「……でも、もうムリや」

「どうしてです? この旅の中で、上手くやればいいでしょう。そうでなくとも、学院に戻ってから……時間は沢山ありますわ」

「ウチら、一度付き合ってんねん。そんでな、二年になるとき別れたんや。アイツは貴族として生きたいらしいし、ウチは商人やし……噛み合わへんねん」

「そうだったのですか……ランドのヤツ、そんな事は一言も言いませんでしたわ」

「そら言わんやろ。口説こうとしとる女に、前の彼女おんなの話なんてするかいな」


 その瞬間、茂みからガサゴソと音が聞こえてきました。

 ジュリアが水の中から石を掴み、茂みに投げます。


「そこかッ!」


 “ガン”という金属音がして、遠ざかる足音が聞こえました。


「こりゃランドの盾やでッ! 待ちや、ランド・ジェイクッ!」

「ぼ、僕はラファエル! 見つかってしまった! 決してそんなつもりではっ……!」


 鼻を摘んでくぐもったような、ランドの声が響きます。誤摩化しているつもりでしょうか。

 ラファエルはラッキースケベ派なので、こんなことはしないでしょう。


「ちょっ……! ランド! 僕の名前をっ……!」


 あ……いました。案外ラファエルも馬鹿だったんですね。

 というか、もしかして男子全員が覗きにきていたとか?

 ていうか、ドナの召喚獣は何をやっていたのでしょう? 役立たずですね。

 まあ良いでしょう、折檻です。


雷撃ブリッツッ!」

「「ぎゃあああああ」」


 はい、四つの悲鳴が上がりました、撃退成功です。

 ジュリアも拳を突き上げていました。


「さっすがティファやん! 一撃やな!」


 こうして私達は水浴びを終え、笑顔で天幕に戻りました。

 今日の事で、ようやく女子達とも打ち解けることが出来たようです。

 ホッとしました……本当に。

 それにしても皆、スタイル良かったですねぇ……ふふ、役得です。

 本当の覗きは、私だったのかもしれませんね。ジュリアのおっぱいも触りましたし。あはっ。

ブクマ、評価ありがとうございます!

励みになっています!

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