68話 打ち解けましたわ
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夕食も終わり、それぞれが天幕に入ります。
今日は警戒の必要がない為、全員で一斉に休むことになりました。
三日目にして、やっと落ち着いた時間が取れますね。
なにしろ先を急ぐ旅ですので、街に立ち寄ったりしていません。
だから必然的に、昨日と一昨日は三交代で夜間の見張りをしていたのです。
はっ! そういえば昨日の見張り、私一人でしたよ!
やはりこのままでは、ボッチが確定するのでしょうか!?
そう思いながら暗い天幕の中で横になっていると、誰かが言いました。
「なぁ、みんな。そこの沢で水浴びしいひん? マリアードちゃんも、ええ言うてはったし」
カサカサと繊維の擦れる音が聞こえます。
皆、起き出して声の主の方を向いたのでしょう。まだ眠るには、少し早い時間ですからね。
提案者は、ジュリア・ノートンでした。
彼女はルーヴェ出身の小柄な二年生で、赤毛のショートカットが特徴的です。出身地が同じせいか、口調もヒルデガルドと似ていました。
彼女は現在、ウィリアム・エドとスコット・ライアンという二人を侍らす、オタサーの姫的存在です。ただ如何せん商人なので、戦闘スキルは高くありません。
「いいけど、男に見られない?」
カレンが特徴的な緑色の髪を掻き上げながら、気だるそうな声を出しています。
このエロさで、メルカトルを骨抜きにしたのですね。私だって骨抜きになるのに、くぅ〜!
あ、ちなみにカレンは皆の中で一番弓の扱いに長けています。いわゆる狙撃兵ですね。
「大丈夫やろ? 心配ならドナやんの召喚獣に見張ってもらお」
「えっ? 私行くの確定?」
私の隣で横になっていたドナが起き上がり、首を傾げています。
そういえば二度目にラファエルと沢に行ったあと、何かあったのでしょうか。
彼女にしては珍しく、帰ってきてからラファエルと口をきいていませんでしたね。
「なんや、嫌なんか?」
「別に、嫌じゃないけど……」
「ほな、決まりや!」
「うん……」
やはりドナは、あまり乗り気じゃないようです。
って……あれ……私抜きで決まりました?
そりゃあ、起き上がりませんでしたけど……本当に私抜きで行っちゃうんですか、みんな。
このままでは、私に話しかけてくれる人が先生とランドだけになってしまいます。
ラファエルも誤解したまま、ずっと口をきいてくれませんしね。
彼をヒルデガルド陣営から引き離せるかと思ったのですが、私、何をやっているのでしょう。
ですから私、あ え て、ここで寝返りをうちます。気付いてもらわねばっ!
「う〜ん」
さあ、起こしなさい。誰か! 声が出ていますよ!
「あ、みんな替えの下着、持ってっときや〜!」
おい、ジュリア! 無視ですか!
「待って、ジュリア。ティファニーさまも一緒に……ほら、起きて、ティファニーさま!」
あら、ドナが私の肩を揺すっています。
この子、やっぱりいい子ですね!
「ねえ、ティファニーさま。一緒に水浴び行こ! 起きて!」
「むにゅ……何ですか?」
「ほら、早く! 臭くなったらランドさんに嫌われちゃうよッ!」
バタリ……うつ伏せで眠る私……むしろ嫌われたいのですが……。
ドナが私の肩をガクガクと揺すります。何としても起こそうという気概が感じられました。
「わ、分かりました。ランドに嫌われるのは望むところですが、水浴びには行きましょう」
「やった! ほら! ティファニーさまも行くって!」
ドナが笑顔を向けてくれます。
一方でジュリアとカレンは、少し眉を顰めていますね。
何でしょうね? 私に含むところでもあるのでしょうか?
嫌われるなら、むしろドナかと思っていたのですけれど。
――――
向かった先は、「ザァーッ」と清涼感のある音を振りまいている滝です。
その先が小さな沢になっていて、水もここで汲んだとドナは言っていました。
私達四人は岩場の影で服を脱ぎ、裸になってゆっくりと水の中へ入ります。
空を見上げれば、満天の星――と言いたいところですが、光り輝くそれらは、星々ではありません。
エルフが言うには、光の精霊の子供達だそうです。
夜の闇の中、小さな光が中空を舞い、輝いていました。
それはまるで、星々がダンスをしているよう。
ときどき私達の側に舞い降りて、彼等は笑顔を振りまいています。
「きゃあ、可愛い! この子、お辞儀したよっ!」
ドナが精霊を捕まえ、掌の上に乗せました。
光が彼女に降りていた闇を払い、水に濡れた白い肌を浮かび上がらせます。
いいですね――私も精霊を捕まえてみましょう。えいっ。
「ぐへへ、ええ乳やのう」
私が捕まえた光の精霊は、何やらちょっと違います。
「どこが子供ですかっ! これは羽付きの小さなエロいオッサンですわっ!」
私は慌ててオッサンを沢の中に投げつけると、衝撃の事実を皆に伝えます。
「わぁ、水の中で光ってる! 綺麗〜!」
しかしドナは気を失ったまま流れる、光り輝く小さなオッサンに夢中。私の言い分を信じてくれません。
実際、カレンが捕まえた光の精霊もドナが捕まえた精霊も、可愛らしい少女でしたしね。
なぜ私が捕まえた精霊だけオッサンなのか……という悲しみに耐えつつ、私は水浴びを続けます。
「ねえ、ドナ。ラファエルくんと、どうなの? 上手く行きそう?」
「え? 私達は……別に……カレンさんこそメルカトル先輩と、どうなんです?」
「私達は、まあ――遠征から帰ったら、ちゃんと付き合おっか〜って。もう、付き合ってるようなものだけどね」
「わぁ! 上手く行ってるんですね! おめでとうございますっ!」
チラリと横に目を向けると、ドナとカレンがガールズトークを初めていました。
混ざりたいなぁ、ていうか二人の発育具合はどうかなぁ〜と思って近づいて行きます。
なんならドナの背後から忍び寄り、そこそこに大きい、そこそこのおっぱいを揉んでやりましょう。
そろーり、そろーり……“バチャーン”
「な、何ですか!? 敵襲ですかっ!?」
そーっと歩いていたら、いつの間にか何者かに足を掴まれ、思いっきり転んでしまいました。
「あははははっ! ティファニー! 油断し過ぎやでっ!」
水の中から真っ赤なワカメが現れて、笑っています。
ああ、ジュリア、あなたの仕業ですか。
お腹を抱えて笑うジュリアのスタイルは、実に均整が取れていて美しいです。
そんなお前には、昭和な技で迎撃しましょう。
「おのれ! よろチクビ〜〜!」
これは本来、男子同士が出会い頭、服の上から相手の乳首を抓る技。
ですから裸の女子にやるのは躊躇われますが、私が与えられた屈辱を晴らすには、これしかありません。
「や、やめやぁ! あはははっ! ティファやん、いじめっ子かいなっ!」
しかしジュリアは身を捩ってかわしながら、ニコニコと笑っています。解せません。彼女は私を嫌っていたような気がするのですが。
私が訝し気なジト目を向けると、ジュリアがパチパチと目を瞬かせました。
「あ、やっぱヒルダちゃんじゃないと嫌なん? ティファやんって言われんの」
「いいえ、別に。名前なんて記号ですもの、好きにお呼びなさい」
「そか。ほなら良かった」
「それより……あなた、わたくしのことを嫌っていたのではありませんの?」
「ん? 何でそう思ったんや?」
「何となく、態度で」
ジュリアは顎に指を当て、考える様に首を傾げました。
「……そら、そやろ。男共が、み〜んなティファやん見てるんやで。やんなるわぁ」
「へ? ウィリアムとスコットを侍らせてるじゃありませんか、あなた」
「ちゃうって。あれは、ウチが強引に捕まえとるだけや。カレンに行っとるメルカトルもやで。せやけど――もう、ええわ」
「あら、カレンとメルカトルは、随分と仲が良さそうに見えていたのですけれど?」
「せやな……そりゃカレンの方がずっとメルカトルが好きやったさかい、頑張っとるんやろ。でもなぁ、複雑やったと思うでぇ」
「どうして皆が、わたくしなどを……」
「あんたなぁ〜水に顔、映してみい!」
「ええ、まあ……美人ですわね。性格は悪そうですけれど」
「うぅわ! 自分で言いよった! でもな、せやねん! あんた、絶世の美女やで。対抗できるんは、ウチの国じゃヒルダちゃん位のもんやし、こん中じゃ一番なのは間違いあらへん。そら、悔しゅうなるわぁっ! おりゃっ!」
そう言うと、ジュリアは私の後頭部を押さえ、水の中へ押し付けようとします。
私も負けじと彼女の足を払い、大きく投げ飛ばしました。
ジュリアは受け身も取れず、背中から落ちるしかありません。
大きな音と水飛沫が上がり、光の妖精が一斉に天高く舞い上がります。
その後、私達はお互いにずぶ濡れの顔を見合わせ、笑い声を辺りに響かせると、背中を合わせて座りました。
「裸で何やってんのやろな、ウチら」
「そうですわね」
「……と見せかけて〜よろチクビやぁ!」
「やっ、やりましたわねっ!」
ちょっとだけ摘まれたものの、すぐに身を翻してジュリアの頭を押さえ付けます。
その後、私達は岩を背もたれにして落ち着きました。
再び周囲に戻った妖精達の明かりに照らされ、辺りが青く輝いています。
「ティファやんって、モテモテでええなぁ」
「望んでいませんわ、まったくもって」
「嫌味かいな」
「まさか。本心ですわ」
それからジュリアが、溜め息混じりに言いました。
「ウチな……ランドが好きやねん」
「そうですか。なら、応援しますわ」
「……でも、もうムリや」
「どうしてです? この旅の中で、上手くやればいいでしょう。そうでなくとも、学院に戻ってから……時間は沢山ありますわ」
「ウチら、一度付き合ってんねん。そんでな、二年になるとき別れたんや。アイツは貴族として生きたいらしいし、ウチは商人やし……噛み合わへんねん」
「そうだったのですか……ランドのヤツ、そんな事は一言も言いませんでしたわ」
「そら言わんやろ。口説こうとしとる女に、前の彼女の話なんてするかいな」
その瞬間、茂みからガサゴソと音が聞こえてきました。
ジュリアが水の中から石を掴み、茂みに投げます。
「そこかッ!」
“ガン”という金属音がして、遠ざかる足音が聞こえました。
「こりゃランドの盾やでッ! 待ちや、ランド・ジェイクッ!」
「ぼ、僕はラファエル! 見つかってしまった! 決してそんなつもりではっ……!」
鼻を摘んでくぐもったような、ランドの声が響きます。誤摩化しているつもりでしょうか。
ラファエルはラッキースケベ派なので、こんなことはしないでしょう。
「ちょっ……! ランド! 僕の名前をっ……!」
あ……いました。案外ラファエルも馬鹿だったんですね。
というか、もしかして男子全員が覗きにきていたとか?
ていうか、ドナの召喚獣は何をやっていたのでしょう? 役立たずですね。
まあ良いでしょう、折檻です。
「雷撃ッ!」
「「ぎゃあああああ」」
はい、四つの悲鳴が上がりました、撃退成功です。
ジュリアも拳を突き上げていました。
「さっすがティファやん! 一撃やな!」
こうして私達は水浴びを終え、笑顔で天幕に戻りました。
今日の事で、ようやく女子達とも打ち解けることが出来たようです。
ホッとしました……本当に。
それにしても皆、スタイル良かったですねぇ……ふふ、役得です。
本当の覗きは、私だったのかもしれませんね。ジュリアのおっぱいも触りましたし。あはっ。
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