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62話 ヒルデガルド・アイゼル 1

 ◆


 ウチとニアは今、一年の委員長連中と二年の有志連中が集まる蕎麦屋へ、馬車で向かっとる。

 来年の生徒会長をサラステラ・フレ・リンデンにする為や。

 ついでにウチも書記に立候補して、再来年には生徒会長になるで。

 ここまでの計画を知っとるのは、今のところニアだけや。

 上手くいった暁にはラファやんを副会長にして、そりゃもうラブラブやで!

 

 そういえばラファやん、一時期はティファやんばっかり見とったけど、最近は全然やな。

 ……なんかあったんやろか?

 ま、ええか。あの二人の仲がこじれてくれた方が、ウチにとっては有り難いんやから。


 それにしても二年の有志は正直、よう分からんヤツも混ざっとるな。

 なんでリリアード・エレ・ロムルスが来るんや! 呼んどらんで! 単に蕎麦が食いたいだけちゃうんか? だったらホンマ、要らんわ!

 アイツの一票はマイナス十票に繋がるんやさかい、適当なとこで帰ってもらお!

 

「今日はやるで、ニア! サラステラ・フレ・リンデンを担ぐ決起集会にしたるんや!」

「……そう上手く行くべか?」

「大丈夫や! 一年生はラファやん、ゲイヴォルグはんにウチらが鉄板やろ? それにティファやんもおるし、そのティファやんが言えば、イグやんとアイロスはんもバッチリや!」

「それだべ。まずラファエルさんだけど、主君の許可が必要だって言ってたし、ティファニーさまも、あんまり乗り気じゃなかったように思うべ」

「ん……と、ラファやんの主君って……誰やったっけ?」

「パオラ・リモル様だべ。一年二組で副委員長やってるだ。ヒルダちゃん、よくエッチな目で見られてるんさぁ」

「うぇ! ウチがかいなっ!?」

「うん。だどもヒルダちゃんだけじゃなぐ、ティファニーさまもだけどなぁ」

「ほっ……なんや、ウチだけじゃないなら安心したぁ」


 パオラ・リモル、パオラ・リモル……と。

 せや、思い出した。あのヒョロっとした吊り目や。

 一応、今日も呼んではおるな。

 せやけど、あの細い吊り目、どうも気に食わんな。

 大して高く無い能力値のくせに、平民を完全に見下した態度が癪に触るんや。

 いわゆる貴族至上主義で、身分の高い者には媚諂い、下の者は足蹴にするゆーやつやな。

 そう考えると、確かにアレが素直にウチらの言う事を聞くとは思えんわ。


「となると、パオラ・リモルもティファやん次第かもなぁ……」

「だどもティファニーさまは、なんか乗り気じゃなかったと思うべ」

「そか? あの人、色々考えとるように見えて、何も考えとらんで? 乗り気じゃないゆーよりも、おもろないなーとか思っとるんちゃうか?」

「んー……だべかなぁ? サラステラさまの名前を出したとき、嫌そうな顔をしてたような……」

「え、せやった?」

「んだ……だからパオラさまの説得は、ヒルダちゃんがやった方が良いと思うべ」

「なんや、ニア。ウチにセクシービームを放てちゅう訳かいな? うっふん」

「んだなぁ。そういう手なら、あだす達みたいな平民にも、力を貸してくれるがもしんね」


 ニアの眼鏡が陽光を受けて、真っ白に輝いとる。

 しかしなんで眼鏡いうんはブリッジの部分に指を掛けて笑うと、こうも怪しくなるんや。

 直情径行のニアが、策士みたいになっとる!

 

 ……それは置いとくとして、不本意やけどニアの言う事は正しいな。

 どれだけ商業国家と言い張っても、所詮ウチらは平民の集まりや。

 でも、だからこそ生徒会長を獲りにいかなアカン。

 ここでウチが歴代初の平民会長になって見せな、ケーニヒスの平民に未来はないで。

 いくらティファやんが開明的な平民の味方や云うても、大貴族には違い無いんやから。


「それにしてもヒルダちゃん。サラステラさまと何度か話したけど、よぐ分がらねぇ人だなぁ」

「せやなぁ……生徒会選挙に立候補する条件が何で蕎麦屋の会食なんか、ほんま、よー分からんで」

「もしかしたら、あの人、本当にお蕎麦を広めたいだけ――なんじゃないべか?」

「ま、まさか、そんな訳ないやろ? あはは……」


 その「まさか」だとしたら、ウチはとんだ道化者になってまう。

 いや――そうでもないな。

 それならそれで、サラステラを傀儡の生徒会長にしてまえば良いんや。

 ちょうどリリアードもおるし、あの馬鹿を副会長にしてまえば、あとはウチの天下になるやろ。

 くっくっくー、こりゃ棚ボタや! ウチの時代が来るかも知れんでぇ! うわははははっ!


「ヒルダちゃん。顔がニヤついてるべ。何かやましいことを考えてねぇが?」

「ん? 分かるんか?」

「分かるべ……ヒルダちゃんが変なことを考えてる時って、頭の二本の毛が交差するように揺れるんだべ」

「ふぇっ!? なんや、それ! 犬の尻尾ちゃうで! コントロール出来ひんことで、バレるんかいなっ!?」


 ◆◆


 天ぷらが運ばれ、蕎麦を皆で食べた――と、ここまでは成功やな。

 なんや、ティファやんが妙にサラステラと仲良うなっとるんは、良い傾向やで。

 あないガッチリと握手しはって、心が通じたみたいや。


 さて、食事も皆終ったようやし、ここらでいっちょ、かましたりますかぁ。

 

 ウチは立ち上がると、部屋の正面に行って声を張り上げた。


「皆、注目やで〜!」


 そんでサラステラを手招きし、ウチの横に立ってもらう。


「皆、美味しかったか?」


 ボソボソと言うサラステラは、まだ蕎麦のことを気にしているようや。

 いや、むしろ蕎麦の事しか気にしとらん。

 ウチは彼女に耳打ちし、「これは決起集会やで」と告げた。

 サラステラは頷き、拳を握っている。そしておもむろに肘を伸ばし、正面に掌を翳した。


「世界の主食を……蕎麦に……!」

「は?」


 力強い眼差しで、意味の分からん事を言い始めたサラステラ。こらアカンで。

 ニアがサラステラの口を両手で封じ、その間にウチが必要なことを喋る。

 ニアに目で合図を送り、意図を伝えてウチは喋り始めた。


「今日集まってもろたんは、サラステラさまに次の生徒会長をやって頂く為や!」

「モガモガ……蕎麦……モガ」


 ニアの当て身がサラステラの腹に入り、彼女はグッタリと身体を折った。


「そ……ば……」


 なんや、最後の言葉も蕎麦かいな、サラステラは。 

 それにしても、さすがニアや。武力101は伊達やない。

 この中で彼女と互角に戦えるんは、イグやん位のもんやろ。

 

 皆がこちらに注目し、静まりかえっている。

 なんて事をするんだ――的な視線をチラホラ感じるけど、ニアの眼鏡が全てを黙らせとるわ。

 って、また白く光っとるんかいな! 便利な眼鏡やな!

 そんな訳で、ウチはそのまま声を張り上げ、話を続けさせてもらお。


「もちろん、難しい事やないで? 皆がサラステラさまに票を入れることを誓い、クラスに戻って、その事を伝える。そんだけや! ……何故こんなことを言うか、分かるか?」

「何でだー?」


 仕込みの声が、ここで上がる。完璧や。


「このままやったら、アーリア・アーキテクト・ゴールドタイガーが次期生徒会長になってまうやろ!」

「断固、拒否だー!」


 これも、仕込みや。けれど、この効果は絶大やった。


「そうだ、それは嫌だ」

「ああ、それだったら、サラステラさまの方が絶対にいい」

 

 あちこちからウチに賛同する声が上がっとる、成功や。

 サラステラが拳を突き上げた。やる気を示しとる。

 このサラステラは、ニアが操る二人羽織りや!

 はっきり言ってバレバレやけど、みんな、面白ければいいと思っとるに違いない!

 

「ちょっと、お待ちなさい。ヒルデガルド」


 ニマニマしながら辺りを眺めていたら、凛とした声が場に響きよった。

 目を向けるとティファやんが立って、何故か涙目の駄エルフの肩に手を乗せとる。


「確かにわたくしも、獣先輩が生徒会長になる事は望みません。ですが――だからといって、お蕎麦先輩を生徒会長に押すというのも、些か短絡的ではありませんか?」


 この流れだと、ティファやんは駄エルフを押す、言うんやろか? 

 でも、なんでや? 

 もしかして、ウチの深慮遠謀に気付いて……対抗策を打ってきよったんか?

 

「じゃあ、どうする、言うんや?」

「簡単です、わたくしはこの、リリアード・エレ・ロムルスさまを押しますわ。彼女は高貴なるエルフ族の末裔。そしてエルフ族とは、このケーニヒスにおける最も古い種族――ですから彼女こそが生徒会長に相応しいと、わたくしは思います」

「せやけど、その人はいっつも愚かな人族共! ゆーてウチらを蔑んでるで!」

「……どれほど代を重ねようとも、戦争一つ無くせぬ人族を愚かと言わずして、何を愚かというのでしょうか? わたくし、リリアード・エレ・ロムルスさまの発言に問題があるとは、露ほども思いませんわ――うふふふ、あはははっ! ねぇ、愚かな人族共!? 悔しいとお思いなら、ご自身の賢明さを選挙によって証明してみては如何? それはもちろん、このリリアードさまに投票することですけれどもッ!」


 いかん、いかんで!

 ティファやんの言う事を、皆が聞き始めとる。

 一番いかんのは、肝心のサラステラが目を覚まし、口を丸く開いて、「おおー」言うとることや!

「おおー」やないで、ほんま! 誰の為の決起集会や!


 でも駄目やな。こら、場を持ってかれたわ。

 ウチは、軽く溜め息を吐いた。

 そして頭を左右に振り、意を決して顔を持ち上げる。


「ほならティファやん――勝負やでぇ!」

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