表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/130

52話 ハーピーですわ

 ◆


 迷宮へ入ることは、難しくありませんでした。

 シエラ迷宮はキーマと違って商用ではありませんが、遺跡という扱いです。

 なので夕方の五時までに入れば、地下一階までは自由に行けるのです。

 

 ただしシエラ迷宮はケーニヒス連邦の直轄地。

 いくら聖王国の王族と云えども、五時以降の出入りには許可が必要でした。

 とはいえ重罪人が逃げ込んだと大勢にバレれば、聖王国の威信に関わります。

 なので極秘裏にイグニシアだけが午後五時以降、迷宮内で活動する許可を得ていた、とのこと。

 この事実を知る者は連邦王国内でも、ごく一部の人間に限られていました。

 

 連邦としても犯罪者の隠れ蓑に迷宮を使われたとあっては、無様な話です。

 しかし残念ながら連邦王国には、固有の戦力がありません。

 だから事件を穏便に解決する為にも、イグニシアという戦力は不可欠でした。

 もちろん戦力と云う意味において連邦学院の生徒である私達は、うってつけの存在です。

 イグニシアが一人でシュテッペンの討伐に時間が掛かるのなら、この程度の増援はやむを得ないと連邦側も判断するでしょう。

 ま、全ては事後承諾になりますけれど……。



 私達は今、薄暗い迷宮の中を、魔法の光を頼りに進んでいます。

 ここも四大迷宮の一つに数えられているそうで、一時は大勢の冒険者が訪れていました。

 しかし今の迷宮は休眠期に入っているそうで、魔物が減っているとのこと。それに伴って、宝箱の数も減少しているそうです。

 ただ、そうは言っても下層へ行けば強力な魔物も出るそうで、油断は出来ません。

 何より最下層には、Lv70を超えた魔物もゴロゴロいるとか。危ないですね。


「シュテッペンは、Lv70を超える魔物とも戦えるのですか?」

「あの男は賢者だからな。Lvは50そこそこだったけど、姿も足音も消せる。その気になりゃ、白竜セレナイトの下まで魔物を避けて行けるだろ」

「それは、すごいですわね」


 私の疑問に答えるイグニシアは、どこか釈然としていません。眉を顰めています。


「でもよ……そんなことをする理由が分かんねぇし、そもそも変なんだよな」


 アイロスが重い口を開きました。


「そうだな……如何なる賢者と云えども、色竜の守護する秘宝のことなど知らんはずだ」

「そうなのか? だったらやっぱり……」


 下唇を噛むイグニシアの言葉を最後にして、パーティーに沈黙が訪れました。


 何はともあれ、前回キーマの迷宮に一歩も足を踏み入れなかった私としては、今回が人生初迷宮です。

 そして現在沈黙している今回のパーティーは……。

 アタッカーにミズホ、盾にわんわんとイグニシア、召喚師としてクロエ、そして魔術師のアイロスと回復役ヒーラーの私ですね。

 ツッコミどころの多いパーティーだとは思いますが、全体的なバランスは悪くありません。

 いいですね、頑張りましょう。えいえいおー!


「お前、やる気はあるのか?」


 ニンマリと笑う私の口元を見て、アイロスが言いました。

 失礼ですね、やる気の塊であるこの私に向かって。


「当然です! たくさんの魔物を倒して経験値をゲットし、レベルアップしてやりますわ! それに宝箱を開けまくって、新たな装備を手に入れるのです!」

「迷宮は休眠期だ、魔物は多くない。何より目的はシュテッペンを見つけ、倒し、破竜の剣を奪回することだ。忘れるな」

「忘れてませんわ! 何日も籠る訳じゃないのですから、サクっとやりましょう!」


 頷く私の隣で、クロエが拳を握りしめていました。


「ねえ、みんな。もしも強い魔物に出会ったら、トドメを刺さないで頂戴。上手く手懐けることが出来れば、貴重な戦力になるから」

「ええ、もちろん皆でタコ殴りにしたあと、クロエに渡しますわ」


 クロエは私やミズホのように高い能力は望めません。

 そのことを自分が一番理解していたらしく、彼女は召喚師のスキルを手に入れると、それを伸ばす事に命を掛けました。今ではサイクロプスや大蛇、ハーピーや巨大亀などを呼べます。

 中でも一番強いのはサイクロプスですが――流石に迷宮の中では呼べないでしょう。大き過ぎますので。

 だからこそクロエはきっと、人間サイズで強い魔物を手に入れたいのでしょうね。


「それにしても、シュテッペンはどうやって迷宮に潜り込んだのでしょう?」

「簡単だ。警備兵を殺し、夜陰に乗じた」


 イグニシアは芋虫、じゃなくて苦虫を三匹くらい纏めて噛み潰したような表情で、私に答えました。


「でもどうして、それがシュテッペンの仕業だと分かったのですか?」

「あいつがおれに、手紙を寄越したんだ。自分が破竜の剣を奪った――シエラ迷宮に居るから殺して欲しい――ってよ。正直、意味が分からねぇ。けどよ、剣が無くなったのは事実だから、行くしかねぇだろ。そしたらアイツ、訳の分からねぇ連中と一緒にいやがって、おれを襲ってきやがったんだ。目付きも尋常じゃなかったぜ……」


 イグニシアは頬を指でなぞり「油断してな、ほら、お前に治してもらった傷」と言いました。


「それは、大事に至らなくて良かったですわ。でも、何ですの、訳の分からない連中というのは?」

「やたらと強ぇ首無し騎士(デュラハン)を連れてやがる、ピンク色の髪の女だ。あと、アイロス、てめぇくらい顔の整った男もいたな」


 ピンク色の髪の女なら、私にも心当たりがありますね。

 以前、キーマで会ったあの女です。首無し騎士(デュラハン)も連れていました。


「その女、ついでに炎竜フレイムドラゴンも連れていませんでしたか?」

「あ? そりゃ見てねぇな」


 ふむ……別人という可能性もありますか。

 などと考えていたら、アイロスが静かに言いました。


「ミリア・ランドルフとニック・マーティンだ。どういうつもりか知らんが、この二人は今、迷宮から下位の竜を奪って回っている。キーマの炎竜フレイムドラゴンも然りだ。

 もっとも――それだけなら我も動きはしなかった。三月ほど前のことだ。ヤマシロの迷宮において闇竜ダークドラゴンが奪われた際、黒竜モリオンが手傷を負わされている。由々しき問題だ……奴等の力が、色竜に迫りつつあるのだからな」

「……アイロス、あなたには竜のお友達でもいるのかしら? 別に竜が奪われようが殺されようが、わたくし達に関係なんて無いと思うのですけれど」


 私に追従するように、ミズホも頷いています。


「そうだよ。だいたい竜なんて、村や街を平気で襲って、人やエルフを食べるもの。むしろ沢山殺した方が良いと思う」


 瞳に力を込めて言うミズホは、きっと父親が大好きなのでしょう。

 グレイ・バーグマンはドラゴンスレイヤーですからね。


「モノを知らんというのは、幸せなことだ……」

「だったら、教えてくれてもいいでしょう? 理由を知れば、わたくしの義侠心に火が付いて、やる気が何倍にも跳ね上がるかもしれませんのよ」

「……賢し気なことを言うな、ティファニー。駒の分際で」


 私を駒だなんて、イラっとしますね。


「ふんっ、あなたこそ、わたくしの力を借りなければ、この世界に顕現することも出来ないのでしょう?」

「そうだな」

「だったら、あまり偉そうにしないで頂けます?」

「ふむ……それ以上つまらん事を言うなら、反逆と看做すぞ」

「げっ……ごめんなさい」

「分かればいい」


 私を黙らせた筈のアイロスですが、その横顔は何故か寂しそうに見えました。

 それにしても、この大悪魔が、こうも竜や秘宝を守ろうとするのです。

 本当に、この世界を根底から覆すような秘密があるのかもしれません。

 非常に気になります。

 しかし、この分では教えてくれないのでしょうね。

 

 それなりに長い道のりを歩き階段を下りると、ようやく地下三階層に到達しました。

 ここまで来ると、流石に疲れてきます。

 迷宮といっても、かなり広いドンキ〇ーテくらいだと思っていました。

 舐めていて、すみません。

 まさかこれ、徹夜になるんじゃないでしょうね。心配になってきました。


「ちょっと、イグニシア。いつまで探すのですか? 手掛かりくらいはあるのでしょうね?」

「ああ、今はルイードがヤツの匂いを追ってくれている。見つからなければ、日の出には帰るさ。いつものことだ」


 私は軽く絶望し、休憩を提案しようとしました。


「だったら、この辺で少し……」


 その時――先頭にいたわんわんが、右手を横に伸ばしてパーティーを止めました。

 そして地面に膝を付き、鼻をクンクンと動かして左右を見回します。


「この先に何かある」

「何かって何ですの、わんわん!」

「ええと……食べ物の匂い……それから……燃料かな。つまり……人が居た形跡ですね」


 イグニシアとミズホが剣を抜き、周囲を警戒します。

 クロエはハーピーを召喚して、前方を確認するよう命令を下しました。

 ハーピーは笑顔で頷き、狭い迷宮内を凄まじい早さで前進して行きます。

 その姿を見て、わんわんは鼻血を出していました。


「胸が、胸が……先端にイチゴ……見ちゃった……」

ランキング参加してます。

よろしければ↓のほうにあるタグをポチッとお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ