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46話 密談ですわ

 ◆


 ヒルデガルドは呼び鈴を使わず、手を挙げて給仕を呼びました。


「ウチ、チーズケーキな! あと紅茶、砂糖も持って来てや!」

「え、えど、わだすは……アップルパイと紅茶で……んど、砂糖も欲しいべ」


 注文を終えたヒルデガルドが私とラファエルの顔を交互に見て、先ほどの疑問を再び口にします。


「で、どうして二人はこんな関係になったんや?」


 いや、待て。その言い方はおかしいです。


「なんですか、その言い方は。まるでわたくしとラファエルが、不倫関係のようではありませんか」

「せや、ウチとラファエルの間に割って入った泥棒猫や! あははッ!」

「ちょ、やめるべ、ヒルダちゃん。ティファニーさまは平民の味方と呼ばれるお方だし、不倫なんてしねぇべ。聖女さまだべ。あれ……せい……じょ?」


 ニアが赤らめた頬に両手を当てて、顔を左右に振っています。

 このズーズー女、一体何を考えているのでしょうか。

 何となく分かるだけに、腹立たしいです。

 

「だから僕とティファニーさまは、そんな関係じゃないよ。出会ったのは先日で――」


 ラファエルがようやく、私達二人の出会った経緯の説明を始めました。

 説明を聞くと、どうも私から声を掛けたようですが……事実なので何とも言えません。


「ティファやんが、いきなり声掛けたんやろ? なのに貴族どもに絡まれるって、なんや可哀想やなぁ」

「いや、あのときは何と言うか、僕の口の利き方が気に入らなかったみたいだよ。対等に話していたからね」

「そないなこと言うたかて、しゃあないやん。学院は全員が平等なんやろ?」

「そうでもないさ。本当にそうであれば、帽子の色で身分を区別――いや差別かな――する必要なんてないからね」


 ラファエルが肩を竦め、私を見ています。


「それで豆柴――お前は分別を弁えた喋り方になったのですね?」

「そうですね……無用の敵を作りたくはありませんから」

「面倒なものですわね、わたくし、そんなこと気にしませんのに」

「はは……ティファニーさまみたいに考える方が増えれば、世界はもっと明るいものになるでしょうね」


 苦笑するラファエルは、少し寂しそうでした。

 そこに両手をポンと合わせたニアが、何かを納得したように語り始めます。


「わかったべ! つまり、ティファニーさまがラファエルさんをナンパしたってことだべ! 都会はやっぱり進んでるべ!」

「せやなぁ。知らん人間が本読んどるとこ声掛けるなんて、ウチでもやらへんわ。顔ええからなぁ、ラファやんは〜」

「ぐぬぬ……どうしてそうなるのですか……」


 私はラファエルを睨みつけ、説明の不備を指摘します。

 

「別に豆柴の顔が気になった訳ではありませんわ! この愚か者どもめ!」

「ではティファニーさまは、どうしてあのとき、僕に声を掛けてくれたのですか? たまたま君主論が気になっただけというのも、なんだか腑に落ちませんが……」

 

 ぐぬぬ……まさか殺しに来たとは言えません。

 

「ふん! それは……最優秀の能力値を示した新入生の代表がどんな顔をしているのか、見てみたかっただけですわ! それで読んでいた本が君主論なんて、気になるじゃありませんかっ!」

「それで、声を掛けたわけやな?」

「そうですわ!」

「ふんふん……せやなぁ」


 ヒルデガルドがジト目で私を見つめています。


「それをナンパー、言うんやで? よう覚えとき、ティファニーさま」

「うがぁぁぁぁっ!」

「怒ってもダメやでぇ? そこのニア、ごっつ強いさかいなー。ま・け・る・で!」


 そうでした。

 確かニア・ローランドは槍術の天才。

 しかもハイランド迷宮の守護者と云われる青竜ラピスラズリを駆り、後に竜騎兵ドラグーンを指揮するガチガチの武闘派です。

 武力こそ僅かにイグニシアに劣りますが、統率力においては八君主中最強の存在でした。

 というか全武将の中でも、三番目くらいじゃないですか。

 一方ヒルデガルドの方は全ての数値が90を超える、超器用貧乏タイプ。とはいえ、私より近接戦闘に強いことは間違い無いでしょう。


「強くなんか無いべ。あだすなんが、あのアーリアさまと比べだらゴミ以下だべ」


 ニアが両手を前に出し、思いっきり振っています。

 でも、それは謙遜というものでしょう。


「そんなことは無いでしょう? 鑑定――」

「あっ、恥ずかしいべっ!」


 ――――――――

 ニア・ローランド

 年齢 15 職業 学生 Lv26

 スキル 

 剣術A 槍術SS 格闘A 弓術A 盾術S 魔導A 騎乗SSS 勇気S 高地戦闘S 湿地戦闘S 夜戦S 眼鏡S

 ステータス 

 統率106↑ 武力101↑ 魔力77↑ 知謀59 内政81 魅力85↓

 ――――――――


 ガチガチの戦闘スキル満載ですが、一個だけ眼鏡とか、ふざけたスキルがありますね。

 ステータスは、知謀が低いのが難点でしょうか。

 もしも彼女と戦うことになったら、搦め手で攻めた方が良さそうです。


「大丈夫、あなたならアーリアと戦っても、むざむざ敗れはしないでしょう」


 私の言葉に頷き、ヒルデガルドがテーブルに身を乗り出しました。


「せや、うちらが組めば、あのおっかない先輩にも勝てるで!」

「まあ、別に勝つ必要なんてありませんけれど……」


 紅茶を飲み、私は笑いました。

 しかしヒルデガルドは首を横に振って、腕組みをします。


「いや、そうでもない。二学期の終わりには、次期生徒会長を選ぶ選挙があるやろ? そんとき、あないなモンが会長になってみい、終わりやぞ」

 

 私とニアがヒルデガルドに注目する中、ラファエルだけが両目を瞑っていました。


「ヒルダ、その話はよそう。アーリアさまだって、そんなに悪い人じゃないよ」


 ラファエルはため息交じりに言って、紅茶に口を付けます。


「いいや、あかん! そもそも、あの国があかん! なんや、軍事国家て! 全員戦うことしか考えとらん脳筋の集まりやで! そんなとこの姫さんが生徒会長になってみい、毎日が武闘会や!」

「それ、べづにいいんでねぇが? わだす、わぐわぐすっぺ」

「だ・め・や! ウチのように花よ蝶よと育てられたひ弱な人間はな、そないなったら登校拒否やで! な、せやろ、ティファやん!」

「なぜ、そこにわたくしを巻き込むんですの?」

「だってアンタ、ひ弱やろ? ステータス魔力に激振りやん!」

「そんなことは関係ありません。わたくし、どうあれ登校は拒否したい派ですの」

 

「最低やなッ!」と言って、ヒルデガルドは大きく仰け反りました。


「でも、確かに戦闘系のイベントが増えるのは、ちょっと嫌ですわね」 

「せやろ! そこでや! そもそもこの選挙は三年生以外の全生徒の投票で決まるわけやから――ウチ等が結束して一年生を纏め上げれば、あないなヤツを会長にせんで済むっちゅう話や!」


 ヒルデガルドの話を聞いていたら、ふと疑問が湧いてきました。

 

「そもそもアーリアが次期生徒会長になる可能性は、そんなに高いのですか?」

「高いで。なんせアイツ、今も生徒会の書記やからな。そんで二年で書記になるゆーヤツは、だいたいが翌年の生徒会長になんねん!」

「では、そんな者に対抗出来る人なんて、いますの?」

「ああ、おるで! 神国のサラステラ・フレ・リンデンさまや! 去年は俗世の権力に興味無い――言うて立候補しなかったらしいんやけど、出たらきっと強いでー!」


 サラステラ……確かに聖人君子といった雰囲気のある君主ですね。

 黒髪緑眼の彼女は、基本的に誰とも交流を持ちたがらない。

 けれどだからと言って世捨て人ではなく、世界の闇にいち早く気付き、起つ人物です。

 ってことは、私との相性最悪じゃないですか!


 私はお茶を一息で飲み、冷や汗を隠して言いました。


「そうですわね……考えておきましょう」


 私は他の二年生を頭の中で考え、エルフの王女リリアード・エレ・ロムルスを思い出す事に成功しました。

 でもアレは口癖が「この愚かな人族め」だったはず。しかも相当なドジッ子属性でした。

 弓と召喚術に関しては最強クラスなのですが、これもまあ、ダメですね……。


 ちょうどケーキを食べ終わると、ミズホとクロエとわんわんが恐ろしい形相で店内に入ってきました。


「ちょっと、ティファ! 出かけるなら一声掛けてから行きなさいっ! 全然帰ってこないから、もの凄く心配したのよッ!」


 クロエが目に涙を溜めて、怒っています。


「あら、それは……でも、どうしてここが分かりましたの?」

「探したのよ! あっちもこっちも! この辺りのカフェ、だいたい見て回ったものっ!」

「それは大変。では、帰りましょう。あ、そうだ。お前達もせっかくですから、ケーキ、食べますか?」

「要らないわよっ! もう夕飯の時間なんだからっ!」


 こうして私は右腕をミズホに、左腕をクロエに掴まれ退店することになりました。

 ただ、ミズホの涎が止まりません。


「ねえ、クロエちゃん。ケーキ……」

「ダメ、ミズホ! 帰ったらご飯があるでしょっ!」

「うぅ……」


 ヒルデガルドとニアがクロエの、あまりの形相に怯え震えています。


兎人バニーヤバいやん、知らんかったでー」

「んだ……ティファニーさま、怒られでる」

「主君を心から心配していたんだ。二人共、いつか、あんな部下を持てるといいね」

「ラファやん、ちゃうで。ティファやんは多分、あの子等を部下とは思っとらんで」

「はは……だからさ。見習った方がいいってこと」

「ならさ、ラファやん! 卒業したらウチ来てやー! 奨学金、全部払ったるさかい! なっ! 提督の椅子、用意したるっ!」

「あ、ずるいべ! だったらウチにくるべ! こっちは最初から将軍だべっ!」


 私はラファエル達に挨拶をして店を後にすると、こってりクロエに叱られました。

 

「――分かったの、ティファ!」

「ええ、分かりましたわ。あ、そうそう……クロエ。もう一度戻って良いかしら?」

「ダメよ!」

「でも、お金を……」

「でもじゃないの! 行くわよ、ティファ!」

ヒルデガルド「じゃ、ラファやん、ごちそうさまー」

ラファエル「えっ、君の分も?」

ニア「ラファエルさん、やっぱり優しいべ」

ラファエル「えっ? ニアさんも?」

給仕の女「お会計は〇〇〇〇〇です」

ラファエル「ええっ!?」

給仕の女「お皿、洗ってく?」

ラファエル「……はい」

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