表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/130

41話 イベントを奪ってしまいましたわ

 ◆


 やれやれ、アーリア・アーキテクト・ゴールドタイガーと揉めるなんて想定外です。

 いや、彼女の大きな胸ならいくらでも揉みたいところですが……。

 と、冗談を考えている場合じゃありません。切迫した状況は、更なる悪化が必至です。


 ミズホが鋭い足払いを放ち、アーリアがグラリと揺れました。

 追い打ちを掛けるように、背後に回ったクロエの回し蹴りが、彼女の側頭部を捉えます。

 けれどアーリアは、両足で大地をしっかり踏みしめて倒れません。

 そこにイグニシアの強烈な拳が、彼女の腹部へめり込みました。

 さすがにアーリアも身体をくの字に折りまげ、苦し気な声を上げます。


「ぐはっ!」


 まあ、優勢です。

 ですが相手は、あのアーリア・アーキテクト・ゴールドタイガー。

 効いているとは思わない方が良いでしょうね。

 実際、アーリアはベレー帽を脱ぎ捨てると、不敵な笑みを浮かべました。


「アタシに一撃入れられるヤツが、こんなにいたか……活きがいいな、一年どもは」


 はい、ノーダメージですね。

 口元に滲んだ血を親指で払うと、何事も無かったかの様に涼しい顔をしています。

 ですが、こちらの攻撃が先に入ったのは事実。

 衆目にも、私達の優勢を印象付けることが出来たでしょう。

 だから私は、ここで高らかに宣言します。


「これは懲罰ですわ、家畜先輩! さ、行きますわよ、お前達ッ!」


 右手を前に出し、さっと力強く水平に流す――そんなポーズを決めて、私は言いました。

 ここは一つ、勝ち逃げと行きましょう。さっさと勝利宣言を出して、撤収です。

 こんな化け物と闘い続けたら、本当に死人が出てしまいますからね。

 けれど、くるりと背を向け去ろうとする私に、無粋な声を掛けてくる者がいました。


「待て、お前等。アーリアさまに手出しをして、無事に帰れると思うなよ」


 あまり見たくはありませんでしたが、青髪で精悍な顔立ちの少年が、五人ほど引き連れて私達の前に立ちふさがりました。頭に犬耳を乗せているところを見ると、彼は犬コロのようですね。

 確かアーリアの配下に、ナントカ・カントカ・ブルーウルフというのが居た気がします。武力、統率ともに90を超えた、中々の武将ですね。

 ソイツだとしたら少々厄介ですが、現在の彼が、どれ程の力を持っているのかは未知数です。


 そういえば、うちのわんわんはどこでしょうか。

 彼もペットとして入学させたのですから、こんな時こそ助けに来るべきです。


「悪いな、優等生。ここは抑えてやるから、お前等、先生でも呼んで来いよ」


 イグニシアが額の汗を拭いながら、振り返って言いました。


「抑えるって、あなた、一人でこの場をどうにかするつもりですか?」

「それが一番いいだろ、相手を見ろ。アーリアだぞ」

「分かっています、が……そもそも、これはわたくし達の問題ですわ。だいたい、ちょっと人数が増えたからって、このわたくしが負けるとでも?」

「負けるとは言わねぇが……怪我人を増やしたくねぇ。敵も味方もな」

「ふん、だったらわたくしも、未来の聖王様が怪我をするところなんて、見たくありませんわ」

「お前、聖王って……おれがなる訳ないだろ……王位を継ぐのは弟のランバルトだ」

「あら? 弟は疫病で亡くなったはずでは?」

「あ? 疫病? 何のことだ?」

「ん? あ、ああ……疫病はまだ……い、いいえ、なんでもありませんわ。わたくしの勘違いです」


 おっと、危ないですね。

 たしか設定では弟が疫病に掛かって死に、泣く泣く彼女が聖王位に就くのですが、時期的にまだ、弟は死んでいませんでした。


「ごちゃごちゃと五月蝿いな、お前等。何の相談か知らないが、アタシがこの場から誰か一人でも、逃がしてやると思っているのか?」


 あら、アーリアが腕を組んでご立腹です。

 

「五月蝿いのは、あなたの方ですわ、家畜先輩。魔法を使えばあなたごとき、余裕で吹き飛ばせるのですけれど……流石に殺したら停学かな――なんて悩んでいるところですのよ」


 そう言って鼻で笑った瞬間、アーリアが突風の様に迫ってきました。


 あ、殺られる。


 そう思ったのは本日、二度目ですね。

 けれど、アーリアの拳が私に届くことはありませんでした。

 今度はミズホが両手で受け止め、私を庇ってくれています。


「お姉ちゃんっ!」


 でも背の低いミズホですから、ちょっと無理が生じて吹き飛んでしまいました。


「へえ、あの小さいの、アタシの拳を受け止めたよ。はは、ふはははっ!」


 大きく口を開けて笑うアーリアを睨み、私は印を結びます。


「あなた、やってくれましたわね……わたくしの可愛い下僕しもべに傷をつけたのですから、本当に殺しますわよ――飛翔フルーク


 もう、こうなったら許しません。

 空に浮かび、地上を見下ろしながら雷でも落としてやりましょうか。どうせアーリアに、空を飛ぶスキルなんてありませんからね。

 そう思っていたら、わんわんの声が聞こえました。


「ティファニーさま、いけませんっ! パンツが丸見えですっ!」

「えええええいっ! 今更やって来て、そんなことをっ! 目を塞ぎなさい、この駄犬がっ!」


 慌ててスカートを押さえ、隅に移動しました。

 でも、上空を見上げる生徒は増える一方で、これ以上飛んでいるのは確かに危険です。

 私は涙を堪え、再び地上に降りました。 

 くぅぅ……これだからエロゲの世界は嫌なのです。

 まさかこれもエロイベントだったとは……。


 ですが、イベントはまだ終らないようです。

 起き上がったミズホがアーリアの子分達をなぎ倒すと、クロエも負けじと敵を投げ飛ばしていました。

 新たに加わったわんわんは、いつの間にか仲間を増やしたようで、大勢でアーリアの一味を囲んでいます。


 もちろん、アーリア側も負けてはいません。

 赤いベレーの貴族達が、「アーリアさまを守れ」を合い言葉に、続々と参戦しています。

 そのうち乱闘は、平民対貴族の様相を呈してきました。

 幸いだったのは、イグニシアがアーリアを一人で抑え込んでくれたことでしょう。

 ただ、お陰で乱闘はまったくの互角です。


 こうなれば、私も肉弾戦に参加するしかないでしょう。

 私だって武力は上がっています。

 相手がアーリアでなければ、そうそう遅れはとりません。

 制服の袖を捲り上げ、「おりゃー!」と言ってみます。

 と、そこに知った声が響きました。


「そこまでだ、君達。それ以上やると言うのなら、処分の対象になるぞ」


 太陽の光を受けて、炎の様に見える赤毛――そして深い知性を宿した紺碧の瞳。

 長身の彼はアーリアよりも更に背が高く、皆を見下ろす様に言いました。


 私は、そんな彼を見上げ、眉を吊り上げます。


「セフィロニア兄さま! 気付くのが遅いですわっ!」

「そう言わないで。これでも急いで来たんだよ、ティファ。それに、私が気付いた訳じゃない……彼がね……」


 私の頬に手を触れ微笑するセフィロニアの姿は、きっと絵画のように美しいのでしょう。

 しかし私は心の中で思います――このクサレ策士、遅いんじゃボケカスがッ! と。

 そのクサレ策士の後ろで、バツが悪そうに黒髪を掻く少年がいました。


「その……ケンカしているようだったから、生徒会室へ相談に行ったんだ。迷惑だったかな?」

「あ……いや……その……助かりましたわ」

「それなら良かった。前に僕を助けてくれたお礼もしたかったし、これで貸し借りなし……かな」


 少年は、ラファエル・リットでした。

 彼は頷き、笑っています。


 一方アーリアは、生徒会副会長であるセフィロニアの登場に目を丸くしていました。

 その後、暫く文句を言いまくり、次にシュンとして、最終段階である今は頬を赤くしています。

 

「副会長の従兄弟なら、そう言えば手出しなんてしなかったさ。すまなかった……」

「いいよ、アーリア。今回の件は、ティファにも良い薬さ」

「そ、そうか? それなら……なあ、副会長。お詫びと言っちゃなんだが、今度、ランチでも一緒にどうだ?」

「いいね、ごちそうするよ」

「ほ、本当か! 約束だぞ!」

「ああ、約束だ」

「た、楽しみにしているからなっ!」


 去り際、そう言ったアーリアの顔は、完全に恋する乙女でしたね。

 ふうむ……やはりセフィロニアはダークホース。

 八君主の一人であるアーリアに好かれているとは、侮れません。

 ですがまあ、ヤバい男が別の女とくっつけば、私の身は安全。

 ここはアーリアに、むしろ感謝しないといけないでしょう。


 いや、違いますね。

 考えてみればセフィロニアはアーリアとメティルのルートで、ラファエルのライバルになる男だったはず。

 だとすると、この関係は当然と言えば当然ですね。

 ならばセフィロニアは私にとって、元から安全だったということ。

 ふふふ、良い風が吹いてきましたよ。ならば気兼ねなく利用してやるとしますか。


 そう思っていた私に、冷や水のような声が掛けられました。

 

「ところで……ティファニーさま、お怪我はありませんか?」


 ラファエル・リットが心配そうに、私を見つめています。

 なんだかこのセリフ、聞いた事がありますね。

 

 そうです。この時点で、ようやく私は気付きました。

 これ、ラファエルがイグニシアを助けるイベントだよ! と。

 本来ならここで言うラファエルの台詞は、


「ところで……イグニシアさま、お怪我はありませんか?」


 だったのです。

 何という事でしょう!

 

 しかも悪い事に、本来ここでラファエルと恋に落ちるべきイグニシアはといえば、この有様。

 

「なあ、優等生。メロンパン三個な、三個! そんくらいの働きはしたと思うぜ! あとさ、ミルクもいいか? 付けて食べると最高なんだよ! ああ、早く逢いたいぜ、メロンパンッ!」


 美しい顔を傷だらけにして、彼女はメロンパンと恋に落ちてしまった様なのです。

ランキング参加してます。

よろしければ↓のほうにあるタグをポチッとお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 哦哦,圣女大人阻止了瘟疫,所以原女主角的弟弟就没有病死吗? 线路改变!(☆_☆)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ