35話 許しませんわ
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私達は早速、怪しいと思われる冒険者達が監禁された部屋へと向かいます。
ゲイヴォルグの説明では、三人は一人ずつ別々の部屋に監禁している、とのことでした。
私は資料を見て、最初に一番怪しい人物の下へ向かうことにしました。
「アレン・マシュー、二十八歳。剣術スキルS、レベル33、召喚A、その他いろいろ……怪しいですわね」
「ねえ、ティファ。それだけの情報で怪しいって、どうして分かるの?」
「どうしてもこうしても……いいですか、クロエ。この能力なら、ドラゴンとだって戦えるパーティーに入れます。年齢も二十八歳ですし、立派な中堅ですわ。
あるいは能力を買われて何処かの国に迎えられ、武将になっていてもおかしくありません。しかし彼は、一人でフラフラしている――これを怪しいと言わず、何というのですか?」
「ふぅん……そんなもの?」
「そんなものですわ」
アレンが監禁されている扉の前に着くと、ゲイヴォルグが静かに言いました。
「実際、彼は多くの国から誘われていますよ。でも、全部断っているそうです。師匠が師匠ですからね、一人が好きなのでしょう」
「ふん、誘いを断るなんて、ますます怪しいですわ」
アレンの師匠など、知りませんし。
私はミズホに扉を開けるよう、指示を出しました。
ここで逃げられては、元も子もありません。
こんな時は迅速に、そして徹底的に、です。
ミズホは頷き、神妙な顔で扉を蹴破りました。
「アレン・マシュー。首無し騎士について、聞かせてもらいますわ!」
私の言葉と共にミズホが双剣を抜いて、アレンに突き付けています。
一方アレンの方は、窓際に寄せた椅子に座ったまま、キョトンとミズホを見ていました。
首筋に刃を突き付けられても動じないのは、さすが中堅冒険者と言った所でしょうか。
「あれ、ミズホちゃん?」
アレンは鳶色の瞳を大きく見開き、ミズホのふっくらとした頬を両手で挟みました。
「ほ、ほうらよ?」
ミズホはどうしていいか分からず、ジタバタしています。
というか、アレンはどうやってミズホの双剣をくぐり抜けたのでしょう?
やはりまだ、ミズホは斧の方が強いのでしょうか。
アレンは私を無視して、ミズホの頭をポンポンと軽く叩いています。
むう……。
「あー! 覚えてねぇか? 俺だよ、アレンだよ! いっつも俺の後にくっついてたのに、大きくなったなぁ! グレイさんは元気か?」
「へ? お父さん知ってるの? わたしのことも?」
「知ってるもなにも、ミズホちゃんのおむつを代えてたの、俺だぜ?」
「えっ!」
ミズホが剣を納め、私の下に帰って来てしまいました。
赤面した顔を押さえたまま、ミズホが私に抱きついてきます。
ふふ、役得ですわ。可愛らしい頭を撫でてあげましょう。
「ミズホ、今日はわたくしが、あなたのパンツを代えて差し上げますわ」
「ねえ、ティファ。前から思ってたけど、あなたって変態?」
ええい、クロエ。ツッコミなんていりません。
と、その時です。“ドォォン”と大きな音が聞こえました。
同時に衝撃が壁を伝わり、建物を揺らしています。
すぐにフォン・ルドルフが走り廊下を確認すると、隣の部屋の扉から濛々とした煙が漏れている、とのここと。
隣の部屋には、ミリア・ランドルフが居るはずです。
資料では、まだ十二歳とありました。
これが事故であれば、彼女の身が危ない。しかし故意であれば、彼女こそが犯人かもしれません。
能力はアレンと互角ですが、年齢的に見て、迷宮で腕試しをしたいだけだろうと思っていました。
ゲイヴォルグがさっと鍵を使い、扉を開きます。
黒竜騎士団の三名が抜剣して室内に入り、状況を確認しました。
こんな時の騎士団は、流石にプロだと感心します。
私は後から室内に入り、その状況を見て苦笑してしまいました。
外へと繋がる壁に大きな穴が空き、下を覗いてみれば大量の首無し騎士がいる。
そしてその中央に、ピンク色の髪の少女が、笑顔で収まっているのですから。
図らずも、犯人だと自ら名乗り出てくれたようなものですね。
「ミリア・ランドルフ……」
見下ろすと、ミリアの青い瞳に金色の魔術紋が浮かんでいました。
背筋が凍えますね、鑑定を使われたのでしょう。
「せっかく遊んでたのに酷いじゃない、ティファニー・クライン! わたしの遊び場に勝手に入り込んで、余計なことをしてっ! いつか絶対殺してやるから、待ってなさいよ! あははははッ! それじゃ、ごきげんようっ!」
私も少し、見てみますか。
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ミリア・ランドルフ
年齢 12 職業 冒険者 Lv13
スキル
剣術A 槍術S 格闘A 魔導SSS 召喚S 死霊術S 鑑定A 悪徳C 暴虐B
ステータス
統率72 武力81↑ 魔力92↑ 知謀62 内政31 魅力83
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あらあら暴虐なんて、私でも持っていない悪徳からの派生スキルを持っていますね。
なんだかちょっと、許せません。
「世界に遍く水の精霊――氷の女王の息吹に触れて、我が敵を穿つ槍とならん。氷槍!」
私は空中に氷の槍を浮かべ、首無し騎士に抱えられて笑う少女に狙いを定めました。
槍は高速で落下し、少女の腹部を貫いて、さらに首無し騎士が跨がる馬の背に突き刺さりました。
「えっ!?」
口から血を吐きながら、ミリアが驚愕に目を見開いています。
「いつか殺すですって? あなた、おバカなのですか? いえ、おバカなのですね。そういうことでしたら、わたくし、あなたを今殺して差し上げますわ――氷槍!氷槍!氷槍!氷槍ァァァ! あーっはっはっはっはっ!」
ミリアは腹部に手を当て、回復魔法を唱えています。
彼女は目を瞬き、血の滲む腹部と私の顔を交互に見ました。
「……回復……えっ? えっ? 何なの? 何なの、これ? 待ちなさいよ、アンタっ! ごきげようって言ってるじゃないっ! あたしは帰るのっ! 帰るって言ってんのよッ!」
「ですからわたくし、お見送りをしているのですわ! 黄泉路への旅は寂しかろうと思いまして! あーっはっはっはっは! 氷槍!氷槍!氷槍!氷槍!」
多くの首無し騎士がミリアを救出しようと群がりますが、それらを全て氷槍で貫いてゆきます。
なんでも首無し騎士の鎧は、魔法に対して大層な防御力を誇るとか。
だったら魔法を使った物理攻撃で、壊してやるしかないでしょう。
「あはははははっ! 弱いですわ、弱いですわ! 少しは頭を使って対抗なさい、首無し騎士共っ! それとも、小脇に抱えた頭は飾りですか? あーははははっ!」
「お、お前、お前ぇぇえ! この子達を馬鹿にしてぇぇっ! 何が可笑しいんだよぉぉっ!」
ミリアの瞳が、憤怒で歪んでいます。
おや、おかしいですね、私の欲するのは、憎悪ではなく絶望ですのに。
まだ、恐怖が足りないのでしょうか。
「魔導励起、並列展開」
私はドレスの袖を引き千切り、両肩を空気に晒しました。
肩には口が浮かび上がり、私の意思の下、魔法の詠唱を開始します。
「猛き炎の精霊よ、その武威をもって――」
「天空より来たりし風の精霊よ――」
「え……その魔法はっ!? あああ、お、おまえ、おまえぇぇぇ! 本当にわたしを殺す気なのぉぉっ!? 調査とか、調査とかしなくていいの!? 何でこんな事になったのかって――」
「別に……あなたを殺せば、首無し騎士はいなくなるのでしょう?」
良いですね、下方で目に涙を溜めて、ミリアが叫んでいます。
「そんな、そんな、悪魔、この悪魔ぁああああっ! 召喚――スライム、スライム、スライム!」
ふぅ。何かと思えば、この期に及んでスライムなんかを呼んでいますね。
私はニンマリと笑って、その無様を嘲ります。「あら、可愛い。緑色がいっぱいですわ」
「飛翔」
呪文を唱え、私は空を飛び――ミリアの頭上で止まりました。
ミリアの必至で抵抗する様が可笑しくて、もうちょっと近くで見たくなったのです。
「魔法で飛ぶの? ううん、飛べるの!? なんなの、なんなのお前はっ!」
「あらあら、ミリアさん。せっかくの美人が、そんなに鼻水を垂らしていたら台無しですわよ?」
「うるさい、うるさいっ! お前なんかあっちに行けっ!」
「ええ、行きますとも。もうすぐ呪文の詠唱も終りますからね」
「え……待ってよ、やっぱり行かないで……」
私はミリアに背を向け、穴の空いた部屋へと戻りました。
「雷撃」
「炎球」
詠唱を終えた両肩の口が、一本の筋となって消えてゆきます。
同時に雷雲から轟音と共に雷が落ち、巨大な炎の球が地上を焼き尽くしました。
濛々とした煙が消えると、そこには無数の首無し騎士が転がっていました。
しかし薄い緑の膜に覆われた一体の首無し騎士が、ヨロヨロと動き出します。
その腕に抱えているのは、無様に涎を零して気絶するミリア・ランドルフでした。
首無し騎士は馬を叱咤し、迷宮へと向かって行きます。
あれは、名有りでしょう。それなりに禍々しいオーラを纏っていました。
しかし駆け去る首無し騎士の姿に、私は笑いが止まりません。
「あーっはっはっはっは! いつでも掛かってらっしゃいな! 死ぬ覚悟が出来ましたならっ!」
私が踵を返すと、誰もが唖然としていました。
その中でクロエがただ一人、ボソリと言います。
「いや、逃がしちゃ駄目でしょう……あれは……」
ティファニー「ふぁっ! 暴虐のスキルを得てしまいましたわ」
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ティファニー・クライン
年齢 14 職業 君主 Lv15→16
スキル
悪徳B 強権B 毒舌S 嘘つきS 尊大A 大魔導B 肉体強化C 鑑定B 冷笑B 暴虐D(new)
ステータス
統率91 武力66↑ 魔力114↑ 知謀91 内政70 魅力90↓
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