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35話 許しませんわ

 ◆


 私達は早速、怪しいと思われる冒険者達が監禁された部屋へと向かいます。

 ゲイヴォルグの説明では、三人は一人ずつ別々の部屋に監禁している、とのことでした。

 私は資料を見て、最初に一番怪しい人物の下へ向かうことにしました。


「アレン・マシュー、二十八歳。剣術スキルS、レベル33、召喚A、その他いろいろ……怪しいですわね」

「ねえ、ティファ。それだけの情報で怪しいって、どうして分かるの?」

「どうしてもこうしても……いいですか、クロエ。この能力なら、ドラゴンとだって戦えるパーティーに入れます。年齢も二十八歳ですし、立派な中堅ですわ。

 あるいは能力を買われて何処かの国に迎えられ、武将になっていてもおかしくありません。しかし彼は、一人でフラフラしている――これを怪しいと言わず、何というのですか?」

「ふぅん……そんなもの?」

「そんなものですわ」


 アレンが監禁されている扉の前に着くと、ゲイヴォルグが静かに言いました。


「実際、彼は多くの国から誘われていますよ。でも、全部断っているそうです。師匠が師匠ですからね、一人が好きなのでしょう」

「ふん、誘いを断るなんて、ますます怪しいですわ」


 アレンの師匠など、知りませんし。

 私はミズホに扉を開けるよう、指示を出しました。

 ここで逃げられては、元も子もありません。

 こんな時は迅速に、そして徹底的に、です。


 ミズホは頷き、神妙な顔で扉を蹴破りました。


「アレン・マシュー。首無し騎士(デュラハン)について、聞かせてもらいますわ!」


 私の言葉と共にミズホが双剣を抜いて、アレンに突き付けています。

 一方アレンの方は、窓際に寄せた椅子に座ったまま、キョトンとミズホを見ていました。

 首筋に刃を突き付けられても動じないのは、さすが中堅冒険者と言った所でしょうか。


「あれ、ミズホちゃん?」


 アレンは鳶色の瞳を大きく見開き、ミズホのふっくらとした頬を両手で挟みました。


「ほ、ほうらよ?」


 ミズホはどうしていいか分からず、ジタバタしています。

 というか、アレンはどうやってミズホの双剣をくぐり抜けたのでしょう?

 やはりまだ、ミズホは斧の方が強いのでしょうか。

 アレンは私を無視して、ミズホの頭をポンポンと軽く叩いています。

 むう……。


「あー! 覚えてねぇか? 俺だよ、アレンだよ! いっつも俺の後にくっついてたのに、大きくなったなぁ! グレイさんは元気か?」

「へ? お父さん知ってるの? わたしのことも?」

「知ってるもなにも、ミズホちゃんのおむつを代えてたの、俺だぜ?」

「えっ!」


 ミズホが剣を納め、私の下に帰って来てしまいました。

 赤面した顔を押さえたまま、ミズホが私に抱きついてきます。

 ふふ、役得ですわ。可愛らしい頭を撫でてあげましょう。

 

「ミズホ、今日はわたくしが、あなたのパンツを代えて差し上げますわ」

「ねえ、ティファ。前から思ってたけど、あなたって変態?」


 ええい、クロエ。ツッコミなんていりません。


 と、その時です。“ドォォン”と大きな音が聞こえました。

 同時に衝撃が壁を伝わり、建物を揺らしています。

 すぐにフォン・ルドルフが走り廊下を確認すると、隣の部屋の扉から濛々とした煙が漏れている、とのここと。

 

 隣の部屋には、ミリア・ランドルフが居るはずです。

 資料では、まだ十二歳とありました。

 これが事故であれば、彼女の身が危ない。しかし故意であれば、彼女こそが犯人かもしれません。

 能力はアレンと互角ですが、年齢的に見て、迷宮で腕試しをしたいだけだろうと思っていました。


 ゲイヴォルグがさっと鍵を使い、扉を開きます。

 黒竜騎士団の三名が抜剣して室内に入り、状況を確認しました。

 こんな時の騎士団は、流石にプロだと感心します。


 私は後から室内に入り、その状況を見て苦笑してしまいました。

 外へと繋がる壁に大きな穴が空き、下を覗いてみれば大量の首無し騎士(デュラハン)がいる。

 そしてその中央に、ピンク色の髪の少女が、笑顔で収まっているのですから。

 図らずも、犯人だと自ら名乗り出てくれたようなものですね。


「ミリア・ランドルフ……」


 見下ろすと、ミリアの青い瞳に金色の魔術紋が浮かんでいました。

 背筋が凍えますね、鑑定を使われたのでしょう。


「せっかく遊んでたのに酷いじゃない、ティファニー・クライン! わたしの遊び場に勝手に入り込んで、余計なことをしてっ! いつか絶対殺してやるから、待ってなさいよ! あははははッ! それじゃ、ごきげんようっ!」


 私も少し、見てみますか。


 ――――――――

 ミリア・ランドルフ

 年齢 12 職業 冒険者 Lv13

 スキル 

 剣術A 槍術S 格闘A 魔導SSS 召喚S 死霊術S 鑑定A 悪徳C 暴虐B

 ステータス 

 統率72 武力81↑ 魔力92↑ 知謀62 内政31 魅力83

 ――――――――


 あらあら暴虐なんて、私でも持っていない悪徳からの派生スキルを持っていますね。

 なんだかちょっと、許せません。


「世界に遍く水の精霊――氷の女王の息吹に触れて、我が敵を穿つ槍とならん。氷槍アイス・スピア!」


 私は空中に氷の槍を浮かべ、首無し騎士(デュラハン)に抱えられて笑う少女に狙いを定めました。

 槍は高速で落下し、少女の腹部を貫いて、さらに首無し騎士(デュラハン)が跨がる馬の背に突き刺さりました。


「えっ!?」


 口から血を吐きながら、ミリアが驚愕に目を見開いています。


「いつか殺すですって? あなた、おバカなのですか? いえ、おバカなのですね。そういうことでしたら、わたくし、あなたを今殺して差し上げますわ――氷槍アイス・スピア氷槍アイス・スピア氷槍アイス・スピア氷槍アイス・スピアァァァ! あーっはっはっはっはっ!」

 

 ミリアは腹部に手を当て、回復魔法を唱えています。

 彼女は目を瞬き、血の滲む腹部と私の顔を交互に見ました。


「……回復ヒール……えっ? えっ? 何なの? 何なの、これ? 待ちなさいよ、アンタっ! ごきげようって言ってるじゃないっ! あたしは帰るのっ! 帰るって言ってんのよッ!」

「ですからわたくし、お見送りをしているのですわ! 黄泉路への旅は寂しかろうと思いまして! あーっはっはっはっは! 氷槍アイス・スピア氷槍アイス・スピア氷槍アイス・スピア氷槍アイス・スピア!」


 多くの首無し騎士(デュラハン)がミリアを救出しようと群がりますが、それらを全て氷槍アイス・スピアで貫いてゆきます。

 なんでも首無し騎士(デュラハン)の鎧は、魔法に対して大層な防御力を誇るとか。

 だったら魔法を使った物理攻撃で、壊してやるしかないでしょう。


「あはははははっ! 弱いですわ、弱いですわ! 少しは頭を使って対抗なさい、首無し騎士(デュラハン)共っ! それとも、小脇に抱えた頭は飾りですか? あーははははっ!」

「お、お前、お前ぇぇえ! この子達を馬鹿にしてぇぇっ! 何が可笑しいんだよぉぉっ!」


 ミリアの瞳が、憤怒で歪んでいます。 

 おや、おかしいですね、私の欲するのは、憎悪ではなく絶望ですのに。

 まだ、恐怖が足りないのでしょうか。


「魔導励起、並列展開」


 私はドレスの袖を引き千切り、両肩を空気に晒しました。

 肩には口が浮かび上がり、私の意思の下、魔法の詠唱を開始します。


「猛き炎の精霊よ、その武威をもって――」

「天空より来たりし風の精霊よ――」


「え……その魔法はっ!? あああ、お、おまえ、おまえぇぇぇ! 本当にわたしを殺す気なのぉぉっ!? 調査とか、調査とかしなくていいの!? 何でこんな事になったのかって――」

「別に……あなたを殺せば、首無し騎士(デュラハン)はいなくなるのでしょう?」


 良いですね、下方で目に涙を溜めて、ミリアが叫んでいます。


「そんな、そんな、悪魔、この悪魔ぁああああっ! 召喚――スライム、スライム、スライム!」


 ふぅ。何かと思えば、この期に及んでスライムなんかを呼んでいますね。

 私はニンマリと笑って、その無様を嘲ります。「あら、可愛い。緑色がいっぱいですわ」


飛翔フルーク


 呪文を唱え、私は空を飛び――ミリアの頭上で止まりました。

 ミリアの必至で抵抗する様が可笑しくて、もうちょっと近くで見たくなったのです。


「魔法で飛ぶの? ううん、飛べるの!? なんなの、なんなのお前はっ!」

「あらあら、ミリアさん。せっかくの美人が、そんなに鼻水を垂らしていたら台無しですわよ?」

「うるさい、うるさいっ! お前なんかあっちに行けっ!」

「ええ、行きますとも。もうすぐ呪文の詠唱も終りますからね」

「え……待ってよ、やっぱり行かないで……」


 私はミリアに背を向け、穴の空いた部屋へと戻りました。


雷撃ブリッツ

炎球フレイムボール


 詠唱を終えた両肩の口が、一本の筋となって消えてゆきます。

 同時に雷雲から轟音と共に雷が落ち、巨大な炎の球が地上を焼き尽くしました。


 濛々とした煙が消えると、そこには無数の首無し騎士(デュラハン)が転がっていました。

 しかし薄い緑の膜に覆われた一体の首無し騎士(デュラハン)が、ヨロヨロと動き出します。

 その腕に抱えているのは、無様に涎を零して気絶するミリア・ランドルフでした。

 首無し騎士(デュラハン)は馬を叱咤し、迷宮へと向かって行きます。

 あれは、名有り(ネームド)でしょう。それなりに禍々しいオーラを纏っていました。


 しかし駆け去る首無し騎士(デュラハン)の姿に、私は笑いが止まりません。


「あーっはっはっはっは! いつでも掛かってらっしゃいな! 死ぬ覚悟が出来ましたならっ!」


 私が踵を返すと、誰もが唖然としていました。

 その中でクロエがただ一人、ボソリと言います。


「いや、逃がしちゃ駄目でしょう……あれは……」

ティファニー「ふぁっ! 暴虐のスキルを得てしまいましたわ」

――――――――

 ティファニー・クライン

 年齢 14 職業 君主 Lv15→16

 スキル 

 悪徳B 強権B 毒舌S 嘘つきS 尊大A 大魔導B 肉体強化C 鑑定B 冷笑B 暴虐D(new)

 ステータス 

 統率91 武力66↑ 魔力114↑ 知謀91 内政70 魅力90↓

 ――――――――

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