34話 ライバル出現ですわ
◆
「何でも言う事を聞くのですね?」
私は部屋の奥へと進み、彼の机に並べられた様々な書物に目を落としました。
私にとって必要なものは、ここ一ヶ月における冒険者達の滞在記録です。
その中から召喚師、あるいは召喚スキルの高い冒険者を絞り出せば、自ずと容疑者に近づくことになるでしょう。
しかし、どうやら机の上には無さそうですね。
「も、もちろんです! だから助けて下さいっ!」
私は男爵のマウントを取ったままのミズホを見つめ、首を傾げました。
ミズホはいつでも男爵を殴れる体勢で、がっちりと彼を固めています。
私はソワール男爵が座っていた椅子に座り、大きな机に足を投げ出しました。
ドレスでこれは行儀が悪いと思いますが、今の私達は悪党。だとすれば、これこそが流儀なのです。
「なら、死んで下さらない?」
「ひ、ひいぃっ!」
正直、自分の利権を守りたいだけの腐れ貴族など、ギラン・ミールやアルフレッド・クラインと同じ穴の狢です。
そう思えば、いっそここで殺してしまった方が良いでしょう。
私の言葉を聞いたミズホが、拳を振り上げました。
あれが落とされれば、きっとソワール男爵の魂は醜い肉体から永遠に解き放たれるでしょう。
書類の在処は領主よりも実務者に聞いた方が早そうですし、問題ありません。
しかし彼は、抵抗をやめませんでした。
白髪混じりの口髭を揺らし、大声で叫びます。
「ゲ、ゲイヴォルグ! ゲイヴォルグ! 何をしているっ!? わしを、わしを助けろ!」
ソワール男爵が苦しそうに叫ぶと、私の背後にある窓が開き、そこからひらりと人が入って来ました。
冷たい風が流れ、私の髪を揺らします。
その瞬間、背筋がゾクリと冷えました。しかし、風のせいではありません。
恐らく、鑑定を使われたのでしょう。
それと同時に“ドン”と大きな音がして、ミズホの身体が宙に舞っています。
もちろんミズホは空中で回転し、何事も無かったかのように着地をしました。
しかし同時に私の背後を睨み、腰に差した二対の剣を抜き放っています。
「お姉ちゃん、危ないから離れて」
私は椅子の向きをくるりと変えて、相手を正面から見据えました。
危ないと言われて逃げるほど、私は弱くありませんので。
すると相手は胸元に手を当て、丁寧に頭を下げました。
「こんにちは、ティファニー・クラインさま。私はゲイヴォルグ・ファーレンと申します」
「ゲイヴォルグ、あまり感心しませんわね、いきなり鑑定を使うなんて。それに風刃でミズホまで弾き飛ばして……ケンカを売っていますの?」
不愉快だったので、私も相手に鑑定を仕掛けます。
――――――――
ゲイヴォルグ・ファーレン
年齢 14 職業 没落貴族 Lv18
スキル
剣術A 槍術S 格闘B 大魔導C 軍師―― ―――― ―――― ―――― 鑑定A
ステータス
統率90 武力88↑ 魔力89 知謀106↑ 内政103↑ 魅力94
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うーん……全てを見る事が出来ないのは、私の鑑定力不足もあるのでしょう。
あるいは相手に隠蔽スキルがあることも、考慮しなければいけませんね。
ていうか、このステータスはヤバいです。
幸いなのは、武力がミズホよりも下だったことでしょうか。
もしも戦場で出会ったなら策を仕掛けられて、けちょんけちょんの刑に処されそうです。
「ケンカだなんて……私はただ、男爵閣下の安全を確保したかっただけですよ」
「ふん、古今東西、男爵なんて、ろくなものではありませんのに」
「ま、否定はしませんが……でも、彼は撲殺される程の悪人じゃありませんよ」
「そうでしょうか? 己の保身の為に城を閉ざし、民を飢えさせることが悪ではないと?」
「人が自己保身を悪としたら、誰も生きられませんよ。少なくとも民の大半は、叔父と同じ立場に立ったなら、より酷いことをするでしょうね」
「人の評価は結果で決めます。ありもしない可能性を論じることに、何の意味もありませんわ」
「ふふ……そのことに関しては同感です」
ゲイヴォルグは髪を掻き上げながら、ミズホへと近づいて行きます。
彼は緑色の髪に紫の瞳という毒々しい色彩ですが、容姿は紛れも無いイケメン。
そんな彼に目を奪われたのか、ミズホはポカーンと口を開けています。
これはいけませんね。色仕掛けと言う名の計略に違いありません。
私は席を立ち、懐から目のスースーする軟膏を取り出してミズホへ近づきます。
それからさっと後ろへ回り込み、彼女の目に軟膏を塗り込みました。
ミズホ、許しなさい。これも全てはあなたを守る為なのです。
「目が、目が沁みるよ、お姉ちゃん!」
ミズホは双剣を手放し、両目を手で押さえて呻きます。
「ミズホを籠絡しようなどとは、なんという恥知らずっ! これだから軍師という人種はっ!」
「い、いや……私は……その」
ゲイヴォルグは私を見て、首を傾げていました。
一方ミズホは、床を転がり悲鳴を上げています。
「痛いよ、お姉ちゃん! 目が、目がー!」
「ほら、こんなに苦しんでいますわっ! あなたの責任ですわよっ!」
ゲイヴォルグが額に手を当て、首を左右に振ります。
「いや、それは、ティファニーさまが……だいたい私は、あなたが望むモノを持って来たのですよ……それで叔父の命と引き換えて頂こうと……」
そう言って彼が私に差し出したのは、一つの冊子でした。
中をパラパラと捲ると、多くの人名が書かれています。
中でも、いくつかの名前が赤い丸で囲まれ、印が付けられていました。
「ほむ……これは、冒険者達の名簿ですわね」
「ほむ? ほむって言いました?」
「五月蝿いですわ、ちょっと噛んだだけです。そんなことより、何故これを?」
「状況を考えれば、魔物の大量出現が自然現象であるはずは無い。だとすれば、ここ最近、街へ入った人物こそ怪しいでしょう。それを調べていました」
「そうですか。ですが、どうしてそれを、わたくしが探していると分かったのです?」
「どうと言われましても、状況から考えれば、それ以外に無いでしょう」
さすがは軍師のスキル持ち――といったところでしょうか。
そういえば、彼の名前はどこかで――というか、彼も主要キャラの一人じゃないですか!
ゲイヴォルグ・ファーレンと言えば、主人公のライバル軍師です。
時に主人公の恋路を阻み、時に協力して大敵を討つ。
三国志で言えば、諸葛亮に対する周瑜のようなもの。
必ず主人公に負ける残念な存在ですが、エロゲでありながら女子人気が高い不気味なヤツでした。
しかしそうなると、私の考えることくらい、お見通しでも当然です。
しかし、なぜ彼がここにいるのか――それが不思議ですね。
私は冊子を受け取りながら、率直な疑問を口にしました。
「――そうですか。ところで、どうしてあなたが、ここにいるのですか?」
「ソワール家とは親戚筋ですので、一月ほど前から滞在させて貰っています。迷宮で魔物のことを色々と調べたかったので……そうしたら、この有様ですよ」
肩を竦めて苦笑するゲイヴォルクは、本当に困った顔を浮かべています。
「私としては、どうしてティファニーさまがここに居るのか、そちらの方が疑問ですが」
「シモベ共が首無し騎士の鎧が欲しいと言い出しましたので、仕方なく来たのですわ」
「なるほど……名ありの鎧なら、生半可な魔法は寄せ付けない。見れば獣人の配下を三人も抱えておられる。彼等がそれを装備したなら、さぞや強力な実戦部隊になるでしょうね」
獣人が三人? ちょっと意味がわかりませんが……。
言いながらソワール男爵を助け起こすゲイヴォルグは、どうやら紳士のようです。
ただ、彼も気をつけなければならない人物には代わりありません。
何故なら彼はラファエル・リットが選ばなかった君主と、だいたいの場合くっつくからです。
それはもう、ある時は触手の中を助けに来たり、スライムの中を泳いで来たりと……。
かく言う私にも、この男に貰われるパターンが存在するのです。
「どうなさいました、顔色が優れないようですが?」
「それは、あなたの顔を見ているからですわ……」
そんな私の葛藤を歯牙にも掛けず、彼は冊子の中の数人を指し示して言います。
「それより、ごらん下さい。特に怪しいのは、この三人です」
「分かっているのなら、どうして手を打たなかったのですか?」
「打っていますよ。だから刺激しないよう、他の冒険者達と共に監禁しています」
「それだけではなく、あなたならどうとでも出来たでしょうに!」
「あなたなら? 私は没落貴族に過ぎない身の上です。男爵閣下の許可が無ければ、この地では何も出来ませんよ。あまり過大な評価をなさらないで下さい」
う……マズいですね。
ゲームの事を知っているからこそ、彼を高く評価していました。
ですが今の彼は、この世界においてまだ無名の存在です。
「か、鑑定で見ましたもの。SSS級の軍師なら、この程度の処理はお手の物でしょう!?」
「私がSSS級の軍師? ……なるほど……ふふ……ティファニーさまは、面白い方ですね」
そう言って私の肩に手を乗せるゲイヴォルグは、嬉しそうな笑みを浮かべています。
私は何故かその笑みを見て、ぎこちなく笑ってしまいました。
しかし思えば、彼は今、とても無礼な振る舞いをしています。
ハッとして彼の手を振り払うと、私は踵を返しました。
「無駄話は終わりです! この者等を捕らえている部屋へ案内なさい! あなたが処理をしないというのなら、わたくしが全員の首を刎ねて差し上げますわ!」
「首を刎ねるかどうかはともかく、早速ご案内致しましょう」
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