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33話 白ですわ 

 ◆


 門衛の話によると、迷宮都市キーマの現状はざっとこんな感じです。

 

 首無し騎士(デュラハン)の大軍が迷宮から姿を現し、ものの数日で市街の大半を制圧してしまった。

 ソワール男爵自ら軍を率いて反撃を試みたが、首無し騎士(デュラハン)を率いる名有り(ネームド)が強く、あっさりと敗退、長城へと引き蘢る。

 軍は頼りにならないということで冒険者の有志連合が迷宮に攻め入るも、やっぱり敗退。

 こうなっては市民達も街を捨てるしかなく、長城に下がって皆で篭城しました。


 このような状況ですから、ソワール男爵には近隣への援軍を依頼するよう、何度も部下達が進言したそうです。

 しかし彼は、

 

「近隣の領主に援軍を求めても騎士爵程度では歯が立たないだろうし、だからといってクライン公爵に援軍を求めれば、そのまま属国にされるだろう」


 と言って首を縦に振らない。

 それだけではなく、現状を他国に知られぬよう、固く門を閉ざして耐えている、という次第です。

 ですが、流石は難攻不落の長城。

 首無し騎士(デュラハン)達もこれには攻め倦ね、迷宮都市の中で左右往生しています。


 キーマの長城としては、その役目を果たしていると言えるでしょう。

 だって、長城は魔物に対する最終防衛線なのですから。


 というわけで、本当の問題はここからでした。

 いくら難攻不落の城と云えども、そこに人がいれば絶対に必要なモノがあります。


 そう、それは食料です。


 現在においてキーマの長城は、どちらかといえば他国領主への備え。

 よって城内に食料は少なく、その大半は都市内にある倉庫に保管されていたそうです。

 また折り悪く、ちょうど収穫期が終わった直後の為、周辺地域にも食料は無いとのこと。

 したがって城内にある備蓄の大半は兵士達や冒険者達に分配され、住民は日々、少量のスープを配給されるだけだそうです。

 お陰で民のすすり泣く声が漏れ聞こえ、ミズホとクロエの耳に届いた――ということですね。


 こんな話を、私は城壁を見上げながらシチューを啜り、聞いていました。

 流石に、このような話を聞けばソワール男爵へ対する怒りが込み上げてきます。

 しかしシチューの仄かな甘さが口の中に広がると頬が緩み、嚥下すると共に怒りも胃袋へと流れてしまいました。


「はむ、はむ……」

「聞いてるの、ティファ! 民は今、シチューを食べることも出来ないのよっ!」


 クロエが私のお皿をとり上げ、眉を吊り上げています。


「ええ、ですからせめて城内に、この香りだけでも届けてあげようと思いまして」

「余計お腹、減るから! そんなの嫌がらせだからっ!」

「……では、わたくしにどうしろと言うのですか」

「そんなの決まってる、助けるのよ」

「では、クライン公爵に一言伝えれば良いですわ。迷宮都市キールにて魔物が増殖している――と。そうすれば、きっと嬉々として大軍を率いて来ますわよ」

「何言ってるの! そんなことをしたら、民衆がどうなるか……」

「別に今と変わらないでしょう。支配する貴族が、ソワールからクラインへと変わるだけですわ」

「ティファ! 可哀想だと思わないのっ!」


 やれやれ……クロエの安っぽいヒューマニズムは今に始まった訳ではありませんが、ときどき閉口してしまいます。

 そもそもなぜ、首無し騎士(デュラハン)が大挙して押し寄せたのか――私としては、そちらの方が大きな問題だと思いました。


 首無し騎士(デュラハン)とは、首を斬られて死んだ騎士の亡霊が、何者かの魔力によって肉体と鎧を得たもの。

 もちろん地場の魔力等で自然発生することはありますが、しかし一〇〇を遥かに超える数ならば、そんな事は考えにくい。

 だとすれば、背後にはより強大な者が存在する道理です。

 つまり、逃げた方が無難でしょう。


「ではわたくしに、彼等に食料を渡せと言っているのですか? 流石にそんなには持っていませんけれど。人参だってあと百本くらいしか……」

「そうじゃないけどティファなら、どうにか出来るでしょ! って、なんでそんなに人参ばっかり持ってるのよっ!」


 クロエが奥歯をギリリと鳴らして、長城を睨んでいます。

 そんなに睨むと長城に穴があいて、魔物が溢れてくるのでは? と思いました。

 そんな想像に、私は思わず「ププッ」と笑ってしまいます。


「ちょっとティファ、真面目に考えてよ」


 あら、クロエに怒られてしまいました。

 仕方ないので、何か手を考えますか……そう思っていたら黒竜騎士の一人が、後ろで鎧の胸をドンと叩いています。

 

「はっは、そのような事情ならば、致し方ない。姫! 直ちにご命令をっ!」


 ああ、フォン・ルドルフですか。


「命令とは、どのような?」

「むろん、我が輩に一言、迷宮都市を制圧せよ、と仰って頂ければ!」

「一人で首無し騎士(デュラハン)と戦いますの?」

「ハッハ! 我が輩、姫の為ならば、たとえ火の中水の中! おまもりとして姫のパンツを頂けますれば、必勝にござる!」


 私は手に持っていた長いパンで、フォン・ルドルフの頭を殴りました。

 ぽふっという間抜けな音がして、パンが中程から折れます。


「それはパンでござる! 我が輩の欲しいのは、パンツにござる!」


 頭にパン屑を付けて「ハッハッハ」と笑う巨躯の騎士に、私は頭痛を覚えました。

 たいして強くも無いくせに、何を言っているのでしょうか。


「わたしもフォン・ルドルフに賛成! 首無し騎士(デュラハン)の鎧を取りに来たんだから、いっぱいいるなら好都合だよ!」


 あらら、ミズホは乗り気ですか。

 こうなれば、仕方がありませんね。

 とはいえ、領主の軍や冒険者の有志連合を簡単に撃退する首無し騎士(デュラハン)に、たったこれだけで挑むのは危険です。

 何より気になるのは、その背後にいるであろう存在ですね。


 先ほども考えていたように、これほど大量に首無し騎士(デュラハン)がいるのは、おかしいのです。

 また、話では名有り(ネームド)が複数いるとのこと。これもまた、特異な点でしょう。

 何故なら、この「Herzog」においては、内政パートで迷宮探索というミニゲームがあり、魔物とはここに登場する敵だからです。

 ミニゲームの目的は魔物と戦い武将や君主のレベルをあげることなので、彼等が戦争の形態をとって襲って来ることは、まずありません。

 そしてミニゲームに登場する名有り(ネームド)は、必ず一体。


 しかし複数の名有り(ネームド)を登場させる方法は、あります。

 それは召喚スキルを持った主君が彼等を使役し、武将として使っている場合。

 この場合の名有り(ネームド)は、兵として自分の同族を配下に従えます。


 ですが、それは最悪のシナリオでしょう。

 だってその場合、これが戦争という結論に至るからです。


 こうなるとソワール男爵が、誰も長城の外へ出していないことが有り難い。

 なぜなら犯人は、必ず中に居るのですから。

 そして、これにわんわんの証言を合わせるならば、彼がキーマを訪れた時期と前後する時期に、犯人もやって来たことになります。

 あとは誰が何時、街へ入ったのかを照らし合わせれば、自ずと容疑者は絞れるでしょう。


「ねえ、ティファ! こんなの放っとけないよ!」


 ふう……クロエも熱くなっていますし、おおよその予測も出来ました。


「良いでしょう、半人前。わたくしをソワール男爵の下へ案内なさい。いくつか確認したいことがありますので」


 半人前の門衛は顔一杯に気色を浮かべ、門を開きました。

 中に入ると、前方にも分厚い門があります。あの先に迷宮都市キーマがあるのでしょう。 

 しかし今は、そちらへ入ることは出来ません。

 馬車を門と門の間にある広場に停めると、私達は長い階段を上り、長城の中へと入りました。


「こちらです、ティファニーさま」


 私達は半人前に案内されるまま、長い廊下を歩きました。

 それを阻もうと、ソワールの兵士達が私達の前に立ち塞がります。

 しかし、その兵士達をキーマの住民であろう老人や子供が囲み、ブーイングを浴びせました。


「ティファニーさまが、俺達を助けに来てくれたんだ! お前等、どけよ!」

「おどきなさい」

「ティファニーさまが怒ったら、水でどっかんだぞ!」

「まあ、そうですわね」

「ティファニーさまのパンツは、何色でござる?」

「白ですわ」

「ティファニーさまが、これから助けて下さるんだ! どいてくれ!」

「どけと言っていますの」

「ティファニーさま……ティファニーさま……」

「拝まれても、ご利益なんかありませんわよ」


 だいたい条件反射で答えていたのですけれど、なにか明らかに妙な言葉がありました。

 これは間違いなくフォン・ルドルフだと思ったので、取り合えず彼を前方に蹴りとばすと、その先に大きく道が開けました。

 兵士達も、いい加減に篭城をやめたかったのでしょう。


「「どうぞ、こちらへ」」


 その後は、彼等も私達を先導してくれました。

 途中、冒険者達の処遇を聞きいてみると、兵士の一人が苦虫をかみつぶす様な表情で答えました。


「あいつらは一度、城の食料を盗んで逃げようとしました。だからいくつかの部屋に分けて、閉じ込めています」


 なるほど、納得です。

 武装した冒険者が城内を闊歩していては、ソワール男爵も安心できないでしょう。

 ですから、恐らくこれは嘘。

 彼等を泥棒にでっち上げて、拘束したというところですね。

 まあ、証拠なんてありませんが。


 しばらく歩き、重厚な赤色の扉の前に辿り着くと、中からヒステリックな喚き声が聞こえてきました。


「なぜティファニー・クラインを連れて来た! あの者は祖父殺しの悪魔だ! 会いたくないっ!」


 私は一言、呪文を唱えます。


光矢リスファエル


 私の背後に光り輝く矢が無数に現れ、それらが一斉に扉へと吸い込まれます。

 赤色の扉は砕け、辺りに焦げ臭い匂いが広がりました。

 

「制圧なさい」


 私の言葉で、ミズホ、クロエ、わんわん、その他騎士三名が瀟酒な部屋を一瞬で蹂躙します。

 ものの十秒でしょうか――ミズホにマウントを取られたソワール男爵が、頭を抱えて懇願しました。


「た、た、助けて下さい! 何でも言うことを聞きますので!」

フォン・ルドルフは強いです、とっても。

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