30話 ペットですわ
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本当に本当に気が進まないのですが、首無し騎士退治の為、迷宮都市キーマへ行く事になってしまいました。
参加する人員は、私、ミズホ、クロエとグレイ、それから護衛の黒竜騎士が三人です。
あ、そういえば、道案内としてわんわんが同行しますね。忘れていました。なので総勢八人のパーティーとなります。
編成は魔法戦士、魔法戦士、魔法戦士、わんわん、騎士、騎士、騎士、私、と……バランスが悪いですね。
わんわんの能力は未知数ですが、大して期待はしていません。邪魔にならなければ良いと思います。
となると私は魔力タンクでしょうか。おかしいですね……。
こういう時セフィロニアがいたらなぁと思いますが、彼は今年から連邦学院に入学してしまいました。
再来年には私も入学するので、「待ってるよ」なんて言っていましたが――。
その前にセフィロニアこそ、学院で平和に過ごせるのでしょうか?
現在の学院にはイリスラがいますので、なんやかんやと面倒だと思うのです。
イリスラは私の兄で、父であるアルフレッド・クラインが跡継ぎと定めた、由緒正しきクソ野郎です。
なので一応、次期公爵ということになっていますが、ぶち殺し決定なので、彼が公爵になることは無いでしょう。私の予定では、最終的にセフィロニアがクライン公爵家を継ぐことになっていますので。
もっとも、セフィロニアには別の思惑があるらしく、詳しくは教えてくれません。
最悪の場合、彼とも敵対するかも知れませんね。
ま、その時はその時です。
イケメンがのたうち回って苦しみもがき、死んで逝く様を眺めながらお茶するのも良いでしょう。
むしろイケメンなど、全て滅べば良いのです。
――――
キーマへと向かう当日のこと、たっぷり睡眠をとって朝食を食べ、もう一度寝ようとしたらクロエに怒られました。
「ティファ! 今日キーマに行くって決めてあったでしょ!」
「行ってらっしゃい」
「寝ようとしないで! もう馬車の準備も出来ているのよっ!」
「ぽんぺですわ」
「ぽんぺってなによ!」
「生理ですわ。言わせないで下さい」
「あなたそれ、魔法でどうとでもなるって言ってたでしょ!」
「いえ、その……それはそうなのですけれど……結構しんどいのですわ……」
「だから魔法で何とかなさいよっ!」
「兎さんは年に一回で羨ましいですわ……」
「それ動物の発情期! しかももっとある! 私、獣人! あなた達と同じっ!」
「なんでカタコトですの?」
こうして私はミズホとクロエに引き摺られ、黒塗りの馬車に押し込まれてしまいました。
仕方なく走り出した馬車の窓から外を眺めていると、銀色の毛並みのわんわんが走っています。
馬車の速度に付いてくる為には、小走りになる必要があるのですね。
その横顔を見ると、ブルーサファイヤのような瞳が美しく、まるでシベリアンハスキーを思わせる容姿でした。
「うふふ……」
「お姉ちゃん、どうしたの」
思わずニンマリしてしまう私を見て、隣に座るミズホが訝しんでいます。
「わんわんが綺麗だなと思いまして」
「わんわん?」
「ほら、そこの犬ですわ」
「ああ、ルイードのこと」
どうやらミズホは、わんわんの名前を覚えていたようですね。
「あら、ミズホはわんわんと仲が良いのですか?」
「うん、一応ルイードも黒竜騎士団に見習いとして入ったから、このまえ訓練を一緒にしたよ」
言われてみれば、彼もミズホやクロエとお揃いの黒い服を着ています。
「ミズホの相手が勤まるのはグレイか、ギリギリでクロエくらいでしょう?」
「うーん、ルイードも結構強いと思うよ」
「そうなのですか?」
「うん。動きが直線的だから読み易いけど、攻撃力が凄いんだよ。だって素手で鎧を割ったり出来るからね!」
「ふうん――だったらなんで首無し騎士に負けたのですか?」
「首無し騎士は普通の鎧じゃないし、魔物だからだと思う」
そこまで聞いて、少しわんわんに興味が出てきました。
銀色の髪をモフってみたいという欲望もありますが、ミズホに強いと言われながら、どうして首無し騎士に負けたのか。
複数の首無し騎士に囲まれたと言いますが、相手が魔物なら単純に各個撃破すれば良い。それが出来ない状況があったのか、それとも単にわんわんがおバカだったのか――
私は手招きをして、わんわんを馬車に呼びました。
「な、なんでしょうか?」
わんわんは狼狽え、頬を赤く染めています。
「乗りなさい」
クロエに馬車を止めるよう命じ、わんわんを馬車に乗せました。
「そ、その……失礼します」
わんわんは私とミズホの向かいに座り、オドオドとしています。
そんなわんわんを、私はよーく観察しました。
ボサボサとした髪や少し太い眉が特徴的ですが、全体的には整った顔立ちをしています。
これはきっと、イケメンになるでしょう。
ミズホが隣でニコニコとしているので、とりあえず彼女の目にスースーする軟膏を塗りました。
もしもミズホがイケメンに籠絡されたら、どうするのですか。
イケメンは敵、危機は事前に回避する必要があるのです。
君子危うきに近寄らず――とも言いますからね。
「ぎゃああああ! お姉ちゃん、目が、目が痛いよっ!」
「ミズホは見てはいけませんわ! 教育上良くありませんもの!」
両目を抑えてのたうち回るミズホを魔法で“バインド”し、私はわんわんを見据えました。
「お手」
「は?」
「お手」
「はい? 何でしょう……その……意味が分かりません」
私が右手の平を見せて差し出すも、わんわんは犬らしく振る舞いません。
せっかく芸を仕込んでやろうというのに、聞き分けの無い駄犬です。
「いいですか、わたくしが“お手”と言って手を出したら、わんわんはその手の上に前足を重ねなければいけません」
「え、と……わんわん? 前足? ですか?」
首を傾げ、わんわんは頭上に巨大なクエスチョンマークを出しています。
「い・い・で・す・か!」
業を煮やした私は、立ち上がってわんわんの手を取り、自分の手を平の上に乗せました。
「お手と言われたなら、こうするのですっ!」
「は、はい」
わんわんが私を見上げ、震えています。その目には、じんわりと涙が光っていました。
「では、もう一度」
私は手を下げ、もう一度出しました。
「お手っ!」
「はいっ!」
今度は素直にわんわんが私の手に手を重ねました。
「よろしい」
私はわんわんの頭を撫で、褒めます。
犬は芸が成功したら、褒めてやらねばなりません。
決して銀髪をモフモフしたい訳では……あはっ、あははっ。
「ううぅ〜〜!」
あら?
わんわんが、ついに泣いてしまいました。
やり過ぎたのでしょうか。
獣人と云えども、ここまでペット扱いをされると、流石に屈辱なのかもしれませんね。
ですが――これもまたアイロスへの捧げもの。精神的な苦痛も人類の悲哀に繋がるのです。
「あの……俺、ルイード・アーキテクト……」
「そのような名に、意味はありませんわ。わたくし、今後はお前を“わんわん”と呼びますので」
「俺の名に意味は……無い? 俺は誇り高きシルバーウルフのアーキテクトで……」
「関係ありませんわっ!」
また目に涙を溜めていますね。しかもフルフルと震えて……女々しいわんわんです。
ですが観念したのか、わんわんがお手をしたまま跪きました。
「そうか……そうですね。俺はあなたの――剣、そして盾になります」
「ん?」
よく分かりませんが、わんわんは納得してくれたようです。
そうしていると、ようやくミズホが目を開きました。
「酷いよぅ、お姉ちゃん! あ……こっそり騎士の誓いをしてたんだね!」
「は?」
「そか! 良かったね、ルイード!」
いやミズホ、騎士ってそんなバカな。
わんわんはわんわんで、騎士なんかになってませんよ。
でも気になるので、ちょっと見てみましょうか。
というか本来の目的が、これでした。
ミズホが強いというから、どれほどのものかと確認をしようと思っていたのです。
――――――――
ルイード・アーキテクト・シルバーウルフ
年齢 14 職業 公爵令嬢の忠犬 Lv8 主君 ティファニー・クライン
スキル
剣術D 総術C 格闘S 高速移動A 立体起動A 建築C
ステータス
統率64 武力73↑ 魔力5 知謀61 内政68 魅力86↑
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強さは――まあまあですね。
成長すれば、ちょっと優秀な武将になる、といった所ですか。
職業は少し残念ですね。というか、かなり残念な感じに仕上がっています。
あれ……でも主君?
ああ、主君の項目が見えるようになったということは、私の鑑定レベルが上がったと……。
違いますね、問題はそこじゃありません。
だけど、建築スキルは珍しいですね。
建築の出来るわんわんなんて、面白そうです。
いや、だから問題はそこじゃなく、なんで私が主君になっているのか、という所でしょうが。
そこは飼い主の間違いです!
いえ――迷宮都市に着いてしまった後に思えば、そんなことは瑣末ごとだったのです。
だってまさか、あんなに苦労するとは思わなかったのですから。
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