表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/130

27話 わんわんを見つけましたわ

 ◆


 私が聖女などと呼ばれる原因が、一体どこにあるのか。

 自室へ戻りミズホに入れてもらった紅茶を飲みながら、考えることにしました。


 まず最初に思い当たるのは、ミール村のことでしょう。

 あの地は基本的にグレイを相談役として、評議員達に自治を任せています。

 けれどだからといって、完全に放任という訳でもありません。数ヶ月に一度は必ず村へ行き、不正が行われていないことを確認しています。

 何しろ税という財源は、私の貴重なお小遣いですからね。


 ――――


 あれは私がクライン家に入って、二年が過ぎた頃でしょうか。

 いつもの通り一週間を掛けてミール村へ赴き、税金おこづかいの徴収に目を光らせようと考えていた日のことです。


「領主さまだ!」

「道を開けろ!」


 馬車の窓から外を覗くと、領民達が道の端に避け、顔を伏せて土下座をしています。

 私は窓から顔を離し、中々に行き届いた教育に満足して頷きました。そして、隣に座るミズホに声を掛けます。


「ミズホ、ごらんなさい。人がゴミの様ですわ」

「バルス」

「目が、目がぁ〜」

「お姉ちゃん、ラ○ュタごっこ、もう飽きたよ?」

「し、仕方ないですわね」


 馬車は暫く道なりに進み、村の目抜き通りに入りました。

 いいえ、もう村とは呼べませんね。

 整備も行き届き、一年で城市と呼べるほどに発展を遂げているのですから。


 かつての領主の居城だって、もちろん再建を果たしました。

 完膚なきまでに破壊した跡地に、私は贅を極めた館を建てたのです。

 それは白い壁面に金の装飾をあしらった壮麗なもので、一番のウリはジャグジー付きのお風呂です。

 建築費の方は幸いなことにミール家が溜め込んだ不当な財産があったので、余裕でした。

 名前も“鷲の城(アドラーブルク)”から“天空の城(シラス・イム・ヒム)”へと改めています。

 だけどもちろん、変な呪文で崩壊するようなことはありません。


 もっとも、予想外のことも当然起きました。

 だって火を焚くのもジャグジーも人力なので、人件費が掛かるのです。


 いやあ、これはまいった……ですが私はお風呂が目当て。これを諦めるつもりなどありません。

 だから――税率を変えてやりましたよ、ふふふ。

 今までの税率がいくらだったのかなど知りませんが、とにかく一律で四十パーセントにしてやったのです。

 老いも若きも富める者も貧しき者も、一律で四十パーセントです。

 どうです、悪いでしょう……あっはっは! 民は生かさず殺さずが基本なのですよ。

 これでアイロスに対する面目も立ちますし、ジャグジー付きのお風呂にも入れるのです。

 まさに一石二鳥! 私、なんと冴えてるのでしょう!


 しかし不思議なことがありました。

 重税にも関わらずミール村の人口は増え続け、今年に入ってついに一万人の大台に乗ってしまったのです。

 まあ、いいんですけどね。人が増えれば税金おこづかいも増えますし、それだけ怨嗟が集まり易くなって、アイロスも喜ぶでしょうから。


 しばらく進んでいると、馬車が突如ガタリと揺れて止まりました。

 たしか街路は全て整備し、目抜き通りは片道二車線で馬車の運行を妨げぬように、と命じたはず。

 しかも両端には歩道をつくり、一定間隔で石を置き、横断歩道も造れと命じています。

 つまりミールに入って以降、私の馬車が目的地に到着するまで止まるなど、あり得ないこと。

 私は状況を確認する為に馬車から降りて、御者台にいるクロエに問いました。


「なんですの?」

「前で女の子が倒れてるの。男の子が介抱しているようだけど……」

「わたくしの行く手を邪魔するとは……身の程知らずなゴミ共ですわ」


 私は横断歩道の上に横たわる少女に近づきました。

 すると少女を抱えた少年が私を見上げ、顔をくしゃっとしています。

 今にも泣きそうな顔は鼻水が出ていて、とても汚いですね。


「ティファニーさま! お願いです! どうか、どうか妹を助けて下さい!」


 私の名を知っているようですが、見たことのない顔、そして犬耳です。

 だとすると、この一、二年で移住してきた新参者ということでしょう。

 なんだか妙に獣人が増えている気がしますが……。


「わん、と言ってごらんなさい」

「え……?」

「わたくしに助けて欲しいのでしょう? だったら犬らしく、わん、と言ってごらんなさいな。あは、あははっ!」

「そ、そんなことっ! ティファニーさま! 妹は病気なんです! 病院へ連れていったんだけど、金がなくて、それで……!」


 少女を強く抱きしめ、わんわんが吠えています。

 どうやら妹も犬耳らしく、結構かわいいですね。

 でも随分と痩せてしまって、可哀想にこのままでは長くなさそうです。


「だから、わたくしの馬車を止めてもよいと?」

「そ、そんなことは……!」

「はぁ……わんとも言わないなんて、興ざめですわ」

「ティファニーさま?」

「病院もわたくしも、慈善事業ではありませんの。何もせず、ただ助けて欲しいなどと、厚顔無恥も大概になさいっ!」


 少年が鼻白んでいます。

 その表情は恐怖に引き攣り、それでも少女を守ろうと抱き抱えている様は、中々に見物ですね。


 とはいえ――放置も出来ません。

 もしも感染症だとしたら、私の大切なミール(さいふ)が壊れてしまいますからね。

 私は歩道をゆっくりと歩き、少女の額に手を翳しました。

 病状を確認……ふむ……ただの風邪ではないようですね。

 

 あ……やっぱりこれは感染症です。

 うん、うん……ああ、これは大変、ペストでしょうか。

 頭にきます、こんなところで感染症が広がったら、被害は甚大ですよ。

 私は軽く呪文を唱え、微弱な滅殺魔法を発動させました。


「う、うあああああああああっ!」


 瞬間、少女は激しく胸を上下に揺らし、のたうち回ります。

 すぐにミズホがその身体と口を押さえつけ、身動きを封じました。

 ミズホは大体の場合、私の二歩後ろに控えていますので、すぐに動けるのです。


「クロエちゃん、布っ! この子、舌を噛むかもしれないっ!」


 クロエが素早く御者台から降りて、懐から取り出した布を少女の口に詰め込みます。


「な、何してんだ! 何してんだよっ! メルを殺す気かよっ!」

「ええ、この子の病気は、拡大すれば多くの人を殺しますから……ここで処分しないといけませんわ」

「それでも、それでもティファニー・クラインかよっ!」


 少年が怒りに震え、飛び掛かってきました。

 しかしすぐさまミズホが反応し、投げ飛ばします。

 それでもまた向かって来る少年は、中々のものです。


「あれ? あれれ? 強いね! キミ、強いね!」


 ミズホも驚き、腰の剣に手を掛けています。

 そのとき、ようやく少女の発作が納まり、クロエが立ち上がりました。


「そういえばティファ。この子達、犬じゃなくて狼よ」

「え……?」


 言うなりクロエは跳躍し、家の壁を蹴って少年の背後に回り、彼の背中に掌を付けました。


「動かないでね、私、魔法使いなの。もしも動いたら、容赦なく火を付けるから」

「ふ、ふざけるな、兎人バニー! 俺達はティファニーさまを信じて、ここに来たんだ! それなのに……それなのに、なんだよ、この仕打ちはっ!」

「ふうん……」

「妹を、妹を返せっ!」

「返せってキミ……静かに寝てるだけじゃないの」

「殺すって言ってたぞ!」

「処分するって言っただけでしょ、ティファは」

「し、死んでないのか?」

「当たり前でしょ……分からないの? あれはティファニー・クラインよ」

「そ、そうか……そうだよな。あの方に限って……そんなことはしないよな……はは……良かった」

「ねえ、それよりキミ、狼人ウルフだよね? 氏族と名前は?」

「ああ、俺はシルバーウルフ。ルイード・アーキテクト・シルバーウルフだ」

「アーキテクト……族長なの?」

「族長は父上だけど……前の戦いで死んだ」

「戦い? もしかしてブルーウルフの一族と?」

「相手がブルーウルフだけなら、父上は負けなかった! アイツが……虎人タイガーも出てきて」

「なるほどね……それで、全滅したの?」

「わからない……生き残りは他にもいると思うけど、連絡を取る方法が無いから」

「そう……ねえ、キミ、復讐したい?」

「そりゃあ、したいに決まってる! だけど……」

「それなら……あっ、きたきた!」

 

 黒竜騎士団の兵が二人やって来て、少年の両脇を抱え込みます。


「な、なんだ? どうなってるんだ!?」

「衛兵、暴れる前に抑えなさい! この子、これでも獣人なのよっ! ティファニーさまに何かあってからじゃ、遅いんだからねっ!」

「ちょ……! あんた、助けてくれ! 妹があそこに! やめろっ、お前等っ! 俺を何処に連れて行くつもりだっ!?」

「何言ってるの! あなたは領主に飛び掛かろうとした危険分子でしょ! 何も無しって訳にはいかないじゃない! という訳で、ばいばーい! また今度ね!」

 

 遅れてやってきた兵士達に少年を引き渡すと、クロエが戻ってきました。

 クロエも、なかなの非道に育っていますね。

 会話の途中で衛兵に少年を引き渡すなんて、情の厚い私にはちょっと無理です。

 

「この子は?」


 クロエが少女を見つめ、腕を組んでいます。


「一応、処置は終えましたけれど……これは感染症ですわ。事情を話して病院に入れ、一先ず隔離させましょう。頼めますか、ミズホ?」

「分かった、病院に連れて行くね」


 ミズホが少女を背負い、病院へ駆けて行きました。


 クロエが首を傾げながら、疑問を口にします。


「だけどこの子達、お金が無いんでしょう? 病院に連れて行って、支払いはどうするの?」

「だったら働いて貰いましょう。わんわんカフェなんてどうかしら? この街も大きくなってきましたし、お洒落なカフェは必要だと思いますの」

「ティファ……それは無理よ。もう一度言うけど、あの子達、わんわんじゃないの、狼人ウルフなの」

「えっ……どうしましょう。狼なんて、使い道がありませんわ。やっぱり殺そうかしら」


 私の言葉を待っていたとばかりに、クロエが笑みを浮かべました。

 それはそれは、とても邪悪な微笑みだったと思います。


「だったらさ、ティファ。あの子達、私にくれない? いつかきっと、役に立つわ」

「えー……良いですわよ。わんわんじゃなければ、興味ありませんから」


 ――――


 やっぱり、私に聖女と呼ばれる要素なんて何処にもありませんね……。

ランキング参加してます。

よろしければ↓のほうにあるタグをポチッとお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ