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22話 魔法少女じゃありませんわ

 ◆


 翌朝、キラキラとした光で私は目を覚ましました。

 昨日までの雨とはガラリと代わり、雲一つない晴天です。

 まあ、雨を降らせていたのは私なので、そうなるのは当然なのですけれど。


「お姉ちゃん、着替え」


 ミズホがテーブルの上に、黒いドレスを置いてくれました。

 私はそれを眺めつつ……くーっ……。


「お姉ちゃん、起きて! 二度寝はダメ! クロエちゃん、お姉ちゃんをチョークスリーパー!」

「ミズホ! それではむしろ起きれませんわ! 落ちてしまいますもの!」


 ガバリと起きた私は、思わずミズホにツッコミを入れてしまった不覚を呪います。これで完全に目が覚めてしまいました。

 

 ちなみに私は雨を降らせ始めて以来、水車小屋には帰っていません。だって当然じゃないですか、もう水浸しで住めたものではありませんもの。

 だから私とクロエはずっとミズホの宿に泊めてもらい、食事のお世話もしてもらっている、という訳です。


 窓から差し込む明かりに目を細め、ベッドに手をつき起き上がろうとしたら、ムニュムニュと柔らかなモノを掴んでしまいました。


「あ……ん」


 甘い吐息が下の方から聞こえてきます。

 なんでしょう、おまんじゅうがえっちな声を出しているのでしょうか?

 もう一度、ムニュムニュとしてみます。


「んっ……あっ」


 これは、やみつきになりそうですね。

 というか、これは明らかにクロエのおっぱいです。

 けしからんことに、今のところ私のおっぱいよりも大きなおっぱいです。

 そんなおっぱいは摘んでプルンの刑に処しましょう。


「ああんっ!」


 ふふふ……参りましたか、クロエ。

 ミズホの讒言の下、私にチョークスリーパーなどやろうとした罰です。

 え、していませんか? いいえ、私には分かっています。寝たフリなんて、しても無駄ですよ。


「ねえ、お姉ちゃん、何してるの? クロエちゃん、苦しそうだよ?」

「ふふふ、ミズホ……これは罰ですわ。たとえ本当に寝ているのだとしても、わたくしに目覚める程の恐怖を与えた罪は、身をもって償ってもらわなくてはなりません」

「ふうん……じゃあ、あたしにもやって! 罰うけなきゃ!」


 こ、これは! たしかに主犯はミズホです。

 しかしミズホの身体は、まだのっぺりとした幼児体型。やがては成熟した美乳美女になるとはいえ、今、手を出しては犯罪のような気もします。

 ですが――このようなロリが自らの身を差し出すと言っている今、受け入れないことこそ罪悪!


 私はミズホを手招きし、ベッドの中へと呼び込みました。

 ああ、背徳の時! けれど至福の瞬間です。

 エロゲの世界に転生を果たし、私は絶望の淵にいました。しかし今、全てが報われようとしているのです。

 

 が――その時。


「何してんの、ティファ?」


 半分しか目を開いていない、ボサボサ頭の兎人が目を覚ましてしまいました。

 

「あ、いや……ミズホの胸、成長したかなーと……」

「ふうん、それで胸をペタペタ触ってるの?」

「そ、そうですわ。わたくしよりも先に大きくなったら大変ですもの」

「ふうん……そういえばティファ、少しは大きくなった? ええと……」

「えっ? ……ちょっと、や、やめなさいっ……あんっ」

「あ、ティファ、気持ちいい? 大人の階段昇っちゃう?」


 何と言うことでしょう、クロエは私の敏感な所を知っているのでしょうか。

 揉まれるだけでは気持ち良く無いのですが、絡める指が絶妙で……。


「ふぁっ……や、やめ……な……さい」


 何とかクロエの魔の手を逃れ、ミズホが持ってきた服に手を掛けます。


「今日は会談ですから、こんな事をしている場合ではなくてよ……ハァ、ハァ」


 いえ、本当はこんな事をずっとしていたいのですけれど、このままではクロエに最後までヤラれてしまいそうだったので……。

 それは何となく、元男のプライドが許さなかったのですよ。


 ミズホの持ってきてくれた服は、ミール家の邸に残っていたドレスでした。

 それは黒を基調としたもので背中に大きな赤いリボンがあり、やはり赤いフリルのついたスカートのドレス……ってこれ、ゴスロリじゃねぇですか、馬鹿やろう。


「お姉ちゃん、服を床に投げちゃダメだよ! これしか無いのに汚れちゃうよ!」


 そう言って、ゴスロリメイドのミズホが怒っています。

 あのですね、これで私までゴスロリになってどうするんですか。キャラがかぶるでしょうが。

 とはいえ残っていたドレスはこれだけ――とのこと。

 今日は公爵との会談なのだから、相応の衣服は必要だとグレイが言ったので、これが準備されたらしいです。


「ティファなら似合うと思うよ、うん――私はそういうの、好きだよ」


 クロエがにっこりと微笑み、ドレスを拾い上げました。


「仕方ありませんわね。これしか無いのですから、今日だけは着てやりますわ」

「ミズホ、覚えておきなさい。これをツンデレっていうのよ」

「ふうん、クロエちゃん物知りだね! お姉ちゃん、ツンデレ、ツンデレ!」


 この二人はいつかヒィヒィ言わせてやろうと思います、こんちくしょう……。

 

 こうして私はミズホとクロエに手伝ってもらい、何とかドレスを着たのです。

 それから今度はミコットが、私の髪を丁寧に整えてくれました。

 

「まあ、きれい……」


 宿に唯一ある姿見の前で私の髪を整えてくれたミコットが、頬に手を当てて私に見蕩れています。

 確かに、鏡に映る少女は美しい。

 金色の髪を赤いリボンで縛ってサイドテールに纏め、その先端は緩いパーマが掛かっています。

 翡翠色の瞳は勝ち気そうに少し吊り上がっていて、薄い唇が冷淡に笑みを浮かべていました。

 これはもう、ザ、貴族のご令嬢――という雰囲気です。しかも性格が悪い系の。


 こんなのがゴスロリ衣装を着て出て来たら、間違いなくヤバいヤツですよ。

 いや実際、私はヤバいヤツなんですけども。


「豚にしては良い仕事をしました。では、わたくし行って参りますわ。随行の者、さっさと来なさい」


 立ち上がり宿の外に出ると、グレイとパットが駆け寄ってきました。

 

「ほら、ティファ。盾代わりだ」


 グレイがそう言って私に差し出したのは、ピンク色の日傘です。


「おいっ、ふざけてやがるのですかっ!」


 どこまでもゴスロリをピンポイントで攻めるとは、ひでぇ話です。


「そいつの中に入ってる限り、どんな物理攻撃も寄せ付けねぇ。俺の持ってる中じゃ、最高の魔道具マジックアイテムだ」

「最低の魔道具マジックアイテムの間違いではなくて?」

「ま、まあ、見た目はな。とにかく俺じゃそいつは持てねぇから、ティファにやるよ」

「持てばいいじゃないですか……あなたの持つ最高の魔道具マジックアイテムなんでしょう?」

「お、おい。流石に俺が女の子の道具アイテムを持つってのは……」

「持てばなれますよ、魔法少女に……さぞやお似合いでしょうね」

「それじゃ変態だろう」

「だって、変態じゃないですか」


 あ……グレイが泣きました。

 ミコットだけでなく、ついにグレイも私の毒舌に屈してしまったようですね。


 私は仕方なく日傘を差して、会談予定の場所へ向かいます。

 暫く歩くと原っぱのただ中に、テーブルと椅子が置かれていました。

 テーブルを前に、三人の男が立っています。

 一人は金色の嫌味ったらしい鎧を来た、髭もじゃの男。

 もう一人は青いチュニックを着て、白く短いマントを肩に掛けた少年。これは、宮廷における武官の正装ですね。

 最後の一人は黒い全身鎧を身に纏った、屈強そうな青年です。


「ティファニー……我が娘よ」


 目的地に到着した途端、私はクルリと背を向けたくなりました。

 だって金色の鎧を身に着けた髭もじゃの男――アルフレッド・クラインがいきなり、こんなことを言うのですから。

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