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16話 クロエの耳は役立ちますわ

 ◆


 クロエの耳を引っ張っていて、気がついたことがあります。

 これだけ大きな耳なのですから、もしかしたら兎人の耳というのは普通の人よりも良いのではないでしょうか?

 ちょっと聞いてみましょう。


「クロエ、あなたの耳で敵の動きを察知することが出来るのではないかしら?」

「え、出来ないと思うけど。基本的には私、汗をかかないから耳で体温を調節してるだけだし……」

「クソの役にも立たない耳ですわね……」

「や、役に立ってるじゃない! 体温の調節って大事なんだからね!」


 私はクロエをジットリとした目で見ながら、新しく運ばれてきたピザを頬張ります。


「あ、でも待って、もしかしたら……」


 クロエが耳をピンと伸ばしました。

 それから顔を顰めてくるくると耳を動かし、「うーん」と唸っています。


「川の流れる音……雨音……鎧の擦れる音……何かな……声? ……セフィロニアって人に指揮を執れって、偉そうに言ってる人がいる」


 目を瞑って意識を集中しているらしいクロエが、ピクンと身体を揺らしました。


「あっ、まずいよ、ティファ」

「何がまずいんですの?」

「明日の朝まで待ってギラン・ミールを討った者を差し出さなければ、攻撃を開始しろって」

「それは、困りましたわ」


 私は腕組みをして考えました。

 水を貯める為には三日間、必要です。

 けれど明日から攻撃が始まっては、現状の戦力で持つか不安ですね。

 ていうかクロエ、あなたの耳、ちゃんと役に立つじゃないですか。


「クロエちゃん凄い! その耳、飾りじゃなかったんだね!」


 ミズホがクロエに抱きつき、頬にキスをしています。

 クロエも照れたように耳を下げて、「はは」と笑っていました。

 なんですか、この百合百合しい展開は!

 そういうことなら私にも、チャンスがあるのではないでしょうか。

 さっそく私もミズホの前に頬を出してみましょう。もしかしたら、キスをしてくれるかも知れませんからね。


「なに、お姉ちゃん?」


 ミズホが首を傾げています。

 つぶらな瞳にふっくらした頬、そして満面に笑みを浮かべたミズホは、なんて愛らしい子なのでしょう。

 今も彼女はオレンジの乗っていた皿を下げ、新たに葡萄を運んでいます。

 黒いメイド服に白いエプロンを付けてクルクルと動くミズホは、まさにロリの化身。やがて彼女はロリ神様になるのではないでしょうか。

 

「わたくしにキスをしてもよくてよ、ミズホ」

「お姉ちゃん、今は凄く無いからイヤ」


 なんということでしょう……ミズホがプイと顔を背けてしまいました。

 もう、世界なんか終ればいいと思います。

 せっかくエロゲの世界に転生したのに、エロが無いなんて辛過ぎるでしょう。

 いやまて、ここにはもう一人、美少女がいました。

 何しろエロゲの世界、ここは美少女に事欠かないのです。


 そう、クロエです。


 彼女は獣人といえども愛らしいバニーガール。背中や肩に白い体毛があるものの、容姿は美少女そのものです。

 何より丸い尻尾に至っては、モフモフの神が宿っているといっても過言では無い程のモフっぷり。

 ならばここは一つ、兎の愛らしさと少女の美貌を持ったハイブリットロリを、我が手に入れようではありませんか。


「クロエ、よくやりました。これは褒美です。キスをしてあげましょう」

「ちょ……ティファ。口の周りにチーズがついてる、やめて」


 クロエは私の顔を両手で掴み、全力で引き離してきます。

 なんということでしょう。彼女まで私を拒絶するなんて……もう立ち直れません。

 私はフラフラと立ち上がり、二階へ向かいました。


「もう寝ます、皆さんお休みなさい。わたくしが永遠に目覚めなかったとして、それはミズホとクロエのせいですからね。二人とも呪われれば良いのです」

「おい、ティファ。どうするんだ、明日から攻撃が始まるって話は?」


 グレイが私を見て、眉間に皺を寄せています。


 あ、そうでした。

 そんな話がありましたね。

 

「試しに、わたくしが行ってみましょうか?」

「何をバカなことを……」

「わたくし、もう立ち直れそうにありませんし……それに攻撃が始まったとして、五倍の敵を相手に三日間耐えられますか?」

「そいつぁセフィロニアってヤツ次第だが、やると決めた以上はやるさ」

「では、大丈夫ですのね?」

「ああ、ティファ、どうせお前が行ったところで状況は変わらんさ。それなら何もしねぇ方が、手の内もさらさずに済むってもんだ」

「そういう意味ではなく……わたくしを引き渡せば皆の命が助かるかもしれないと――愚民の皆さんであれば、そのように考えても致し方ないと思うのですけれど」

「それこそ、無用の心配だな。ここで引けば、俺達はまた貴族に搾取されるだけ……そんなものを望むヤツは、ここにゃいねぇよ」

「そうですか」


 随分とグレイは強気ですが、実際のところ彼はどの位の強さなのでしょう。

 ステータスを確認してみます。


 ――――――――

 グレイ・バーグマン

 年齢 40 職業 将軍 Lv36

 スキル 

 剣術A 槍術A 格闘S 魔導A 鑑定C

 ステータス 

 統率96↑ 武力93↑ 魔力81↑ 知謀94↑ 内政92↑ 魅力85↑

 ――――――――


 ……優秀です、というか優秀過ぎます。

 ゲーム中のティファニーは、これ程の人材をあっさり殺したのですね。本当に狂ってます。

 それにしても、将軍とはいったい?


 そのとき、グレイと目が合いました。

 

「そいつぁいただけないな、ティファ。人に鑑定を仕掛けるなんざ、ケンカ売ってんのと同じだぜ?」


 悪寒がします。

 私の頭上に、なにやら文字が現れました。

 これは……他の人には見えないのでしょうか?

 私のステータスがだだ漏れですが。


 ――――――――

 ティファニー・ミール

 年齢 12 職業 君主 Lv6

 スキル 

 悪徳C 強権C 毒舌S 嘘つきS 尊大B 大魔導B 肉体強化C 鑑定B 冷笑D

 ステータス 

 統率90 武力57↑ 魔力112↑ 知謀90 内政69 魅力90↓

 ――――――――


「こ、こいつぁ……! いや、しかし……!」

「な、なんですの、これはっ!」


 グレイも驚いていますが、私はもっと驚いています。

 レベルが上がったことや悪徳、尊大のスキルが上がってしまったことなど、もはや些細なことですよ。

 だって名字がミールに変わっていますし、職業が君主になっていますから。

 あれほど表舞台に立ちたく無いと思っていたのに、ああ、これは何と言うことでしょう。


「ティファ……お前が、八人の内の一人なんだな?」


 グレイが立ち上がり、私の両肩に手を乗せました。

 真剣な眼差しは突き刺さるようで、思わず私は目を逸らしてしまいます。


 八人といえば、エロゲの攻略対象である八人のことしか思い浮かびません。

 しかしグレイは作中で、さっさと私に殺される存在。そんな設定を知っている訳がないのです。

 それなのに彼は私を見つめ、何かを悟った様な顔をしていました。


「何を、言っていますの?」

「ここはもう、お前の指揮範囲内なんだな?」

「はっ……!」


 私は思い出しました。

 君主キャラは自身の指揮範囲内において、味方の武将の能力を上げることができます。

 中でも特に効果が高いのが皇帝ですが、それに引けを取らない職業がもう一つあります。

 それが「君主」。

「君主」とは爵位を持たない状態にある攻略対象キャラだけに許される、チートな職業なのです。


 つまり職業が「君主」になってしまう可能性があるのは、世界で八人。

 そのことをグレイは知っていた――ということですね。


 私はゆっくりと頷き、周囲の人々のステータスも確認しました。

 ああ、ミズホもクロエも「職業」が「将軍」になっていて、各ステータスが10ずつ上昇しています。

 ていうかミズホ、強過ぎです。


「これなら五倍の敵が相手でも、互角以上に戦えると思うぜ」


 私は頷き、初めてエロゲの攻略対象で良かった――と思うのでした。

兎の耳は本当に体温調節の機能があるそうです

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