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12話 影の支配者を目指しますわ

 ◆


 ミール家を滅ぼして村へ戻ると、武装した村人達が歓声を上げていました。

 ミコットまで鋤で武装し、頭に鍋を被るありさまです。彼女は勇ましいことを言いますが、足が生まれたての子鹿みたいに震えていました。


「あんた達だけあんな所に行かせて、あたしら大人が指を加えて見てるだけなんざ……できるわけがないんだよ!」


 大半の村人達は救村の英雄、自警団に群がっています。


「「パットさん、ありがとう! 自警団のみんな、ありがとう! これで村は救われた!」」


 自警団を率いて帰還したパットは広場に到着すると、用意された舞台に上って拳を突き上げました。


「行った、見た、勝った!」

「「おおーっ!」」


 自警団の皆様も威勢よく拳を突き上げています。

 今や彼等は村の英雄で、私達は救出された哀れな子羊といった体。

 全身に返り血を浴びたミズホはミコットに抱えられ、「恐かっただろ、もう大丈夫だよ、安心おし」と言われています。

 私自身も水を貰い、村人達に優しく声を掛けてもらいました。


「もう大丈夫だからね、何も心配はいらないよ。この村には自警団がいるんだから」


 私は口から魂の抜ける思いでしたが、だからといって騒ぐ気にもなれません。

 ですから、とりあえず壇上から降りて頭を掻くパットのスネを蹴り、「あなたでは無いでしょう?」とツッコミを入れました。


「あ、ああ、もちろんその件は、これから説明するさ」


 私は暫く考えて、頭を左右に振ります。

 そうです、目的を忘れてはいけません。

 私はエロゲのヒロインにならず、生きることが出来れば良いのです。

 その前提をクリアしつつ人々に絶望と悲哀を齎し、アイロスのご機嫌を取らねばならない。

 つまり人助けはダメってことですね。

 

 とはいえ今更この村を破壊するなんてこと、私には出来ません。

 だとすれば、彼等が英雄に祭り上げられることはむしろ好都合です。

 私がギラン・ミールを倒したのだとバレれば、一気に目立ってしまうでしょう。

 ヘタをすれば領主に祭り上げられてしまうかも知れません。

 そうなったら軍師ラファエル・リットと出会う可能性が、格段に上がってしまいます。


 一方、この村を自警団が支配するならば、自由で平和な未来が約束されるでしょう。

 ただしパットは私の力を知っているので、彼が私に逆らうことは無いはずです。

 そうすると、私は影の支配者という立場になりますね。

 影で支配している分にはラファエルに会う可能性もありませんし、私の安全は担保されたも同然です。

 また、魔法を利用してたまに人々を絶望させてやれば、きっとアイロスも納得するでしょう。

 幸い私の魔法は災害級。地震でも雷でも火事でも洪水でも、天変地異と言えば私が疑われることは無いのです。

 これならば私も平和、村も平和。素晴らしいウィンウィンな世界の誕生です。良かったですね。


 こんな事を考えながらニマニマしていると、私の背中をつつく者が現れました。


「ティファ、さっきはありがとう。逃げちゃってゴメンね」


 おや、兎人のクロエではありませんか。

 長い耳をへにゃりとさせて、申し訳無さそうに頭を下げています。

 

「獣は本能に忠実ですから、人を見て逃げ出すのは仕方の無いことですわ。それより貴女、足を引きずっていたのに走れるなんて、ふざけていますの?」

「あ、あはは……ティファ、少し変わったね。走ったのは……私たち獣人は命の危機を感じると痛みを忘れて、身体能力が一時的に上がるのよ。その能力は元になった動物によるけれど」

「ふうん、面白い能力ですわね。だとすると、貴女の場合は兎ですから……ああ、だから逃げたと……道理ですわ」

「そう……でも、逃げる意味なんて無かった……」


 クロエが赤い瞳に涙を溜めて、指で拭っています。

 どうしたのでしょう? 

 私の言葉で傷ついたのなら、謝ることも吝かではありませんが……。


「そうですわね、貴女はしょせん兎人バニー。かつて悪魔が愛玩用に開発した人の亜種ですもの、檻の中にいた方が幸せでしょうね」


 はい、やっぱり謝れません。むしろ毒が溢れ過ぎて、クロエの表情がみるみる曇ります。


「そうね……こんなことなら、檻に入れられたまま死んだ方がマシだったかも……」


 何でしょう、クロエが影のある女風になりました。

 

「じゃあ、死ぬ? 死んじゃう?」


 ミズホが双剣を抜き、周囲の大人を困らせています。

 ですが幸いミコットがいたので、彼女の小脇に抱えられてミズホは退場しました。

 お陰でクロエの頭は胴体の上に乗ったまま、平穏無事に過ごしています。


「どうしたのですか?」


 クロエに問うと、彼女は涙ながらに語りました。


「お父さんもお母さんも殺されたって……もう……私に家族はいないんだって……さっき知ったの」


 ああ、そうですか。

 走って逃げて、そのあと家に帰ったのですね。

 そうして見たら家はもぬけの空で、近所の人に事情を聞いた、と。


「……たし、強くなりたい……貴族が嫌い……絶対に許せない。……しゅう、復讐、したい……ティファ……だから私に魔法を教えて……」


 今度はギラギラとした瞳で私を見るクロエ。

 なるほど、彼女の気持ちはよく分かります。

 ですが、魔法は本来素養が無ければ手に入れられないもの。

 私のやり方はイレギュラーなのです。


 それでも魔法を教えるとすれば、それは魔族との契約方法からということ。

 確かにクロエが魔導士となり、私の味方をしてくれるなら有り難いことです。

 しかしゲームの中でクロエというキャラクターは、見た事がありません。

 ということは、彼女の能力はモブ以下ですから、あまり期待できませんね。


 しかしゲームと同じ道を辿れば、それは即ち私が攻略対象。

 ここは少しでも、ゲームとは違うことをした方が良いでしょう。

 私はクロエのステータスを確認しました。


 ――――――――

 クロエ・バーニー

 年齢 14 職業 村人 Lv5

 スキル 

 高速移動S 立体機動B 肉体強化C 愛玩SS 獣化C

 ステータス 

 統率64 武力60↑ 魔力23 知謀42 内政63 魅力106↑

 ――――――――


 うーん、平均的ですね。

 って、魅力! なんですか、これは!

 ああ、愛玩の効果もあるのですね。それにしても、凄い魅力です。

 ミズホの更に上を行く魅力とは……これは檻に入れて飼いたくなっても仕方がありませんね。


 魔力に関しては23程ありますから、まったく素養がないという訳でもなさそうです。

 あとは契約と努力次第でしょうか。

 成長すれば、モブ武将程度なら互角に戦ってくれそうです。

 私はクロエに頷き、魔法を教える事にしました。

 というか、悪魔との契約を教えるだけですけれども。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 12/130 その一まで読みました ・主人公の状況やスキルが独特で、新鮮味があります。 ・個人的には読みやすいと思う。 [気になる点] 女将の料理が不味くなったのは衝撃的
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