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11話 神なんかじゃありませんわ

 ◆


 銀色の鎧に身を包み、紅のマントを羽織るギラン・ミール。

 その容貌は白い髭で頬を覆い、白髪頭をオールバックに纏めています。

 雰囲気だけなら騎士爵というより王を名乗れそうなほどで、とても好色なエロジジイには見えません。

 ですがギランが持っている魔法系のスキルは、魔導C。所詮は騎士爵どまりの男といったところでしょうか。


光矢リスファエル!」


 腕を延ばし、ギランが光矢の呪文を唱えました。

 これは肉体の魔力を物質化して光の矢に変換し、敵へぶつけるという単純なもの。

 殺傷能力は、普通の弓矢と同程度です。

 また速度に関しても魔力に左右されますので、ギラン程度の男ではこちらも弓矢と大差ありません。


 狙いはどうやら、手下達をばったばったとなぎ倒すミズホのようですね。

 矢が光の軌跡を描き、ミズホの背中に迫っています。


「ひゃー! お姉ちゃん! 魔法だ! どうしよ!」


 ミズホが頭を抱えてジタバタしています。

 剣もポロリと落として、その場でクルクルと回り始めました。

 そんな余裕があるのなら、さっさと回避すればいいでしょうに、これだから子供は困ります。


「仕方がありませんね……魔法盾シールド


 私は軽く指を弾き、ミズホの為に結界を張ってやります。

 ついでにスキルの大魔導Bを起動しました。


 ええ、ついミズホの戦いぶりに見蕩れてしまい、魔法を詠唱するのを忘れていたのです。

 ちなみに“大魔導B”の利点は“同時詠唱”が三つまで可能になること。

 ですから私は、それ以下のスキルしか持たない敵に対し、圧倒的に優位となるのです。

 逆にいえば“大魔導A"は四つの魔法を同時に詠唱可能ですので、これを持った敵と相対した場合、かなり不利な戦いを強いられます。 

 

 しかしまあ私の知る限り私と互角のスキルを持つ君主キャラは、魔導王国の女王となるメティル・ラー・スティームのみです。なので魔法戦闘に入ってしまば、今の私はほぼ無敵のはず。良かったですね。


 ちなみにメティルは身長百四十センチで金髪のツインテール。

 いわゆる魔法少女というヤツですが、大人の事情でゲーム開始時の年齢は二十歳。ですがどう見ても十歳前後のロリ顔をキープしている存在でした。もちろん彼女もヒロインの一人です。


「あたしだって大人だもん!」


 というのが口癖で、年下の軍師ラファエル君といちゃラブしていたのをよく覚えています。


 あ……男時代の私は決してロリコンではありません。

 ですから彼女でクリアしたことはありますが、余りお世話になってはいないことを付け加えておきましょう。


 さて、魔法を同時詠唱することで生まれるメリットは、何も複数の魔法を放つだけではありません。

 最大のメリットとしては別属性魔法を同時に詠唱し、融合して超強力な魔法にしてしまえること。

 例えば炎と風を混ぜ合われば、“炎嵐ファイエルストーム”などの範囲魔法が使用可能となります。

 また有名な“隕石召喚ビシュワートメテオリー”は土と炎と風の合成ですから、最低でも大魔導Bのスキルが必要となりますね。

 つまり私が一人で城や村を壊滅させることの出来る理由が、まさにこれなのです。


 では、どうやって三つの呪文を同時に詠唱するのでしょうか?

 答えは簡単、単純に身体の何処かに二つの口を作るだけです。


 私は今、左右の肩にそれぞれ口を作りました。

 ちょうど袖の無いワンピースを着ているので、小さな口がモゴモゴと動いている姿が見えます。

 こうして私は顔の口をメインに、肩に作った二つの口も使って三つの魔法を詠唱します。

 もっとも、今の私には”隕石召還”が使えません。それは単純に、呪文を知らないからですが。

 今の私に扱える魔法は、異端の書に書かれていた魔法だけですからね。

 それでも、“魔導SSS”のスキル持ちが扱う最強魔法までは撃てますし、“大魔導”を持っている時点で連邦王国内では最強クラスの魔導士なんですけれども。


「ば、馬鹿な! いや、こけ脅しだっ!」


 ギランが冷や汗を拭いながら、私の姿を見つめています。

 よほど私が肩に作った二つの口が恐いのでしょう。


 そのとき、ミズホに施した盾がギランの魔法を打ち消しました。

 光の矢が大きくミズホの背中で弾け、青白い光となって飛び散ったのです。

 ミズホは一瞬だけ首を傾げていましたが、すぐに身体を回転させると剣を拾いました。

 右手に剣を持ち、左手をグーパーしているミズホは、何事かを考えているようです。

 

「お姉ちゃんの剣もちょうだい!」


 眉を顰め、とても困ったようにミズホが言いました。


 ああ、そうですね。

 ミズホのメインスキルは“双剣”です。

 いくら今がFでも、あれは彼女の固有スキルでした。本能から二本の剣を使いたくなるのでしょう。

 見れば、左手に持っていた短剣が折れています。


 私はミズホに頷き、腰にくくり付けていた剣を投げました。

 ミズホは満面に笑みを浮かべて剣を受け取り、交差させるように構えます。


「らん、らんっ!」


 十一歳の女の子らしく、ミズホは鼻歌を歌っています。

 けれど一歩進むごとに血の花を咲かせ、ミール家を滅亡の渕へ追いつめていました。

 双剣、恐いですね。Fでこれでは、Sに届くとどうなるのでしょう。


 いいえ、私は知っています。

 私の最大の宿敵ライバル、聖王イグニシア・シーラ・クレイトスがミズホを配下にしていた場合、私は双剣Sを超えたスキルを持つミズホに戦場で討ち取られるのです。

 そしてこれに激怒した魔王アイロスが出陣し、いよいよ聖王と魔王の最終決戦の火ぶたが切られるのでした。

 ちなみに聖王イグニシアは、銀髪紫目の正統派美女です。

 決め台詞は確か「正義の刃、受けてみよ!」で、イメージカラーは青でした。


 と……こんな未来の回想をしていても、仕方ありませんね。

 前衛としてミズホが働いてくれるお陰で、敵が私に到達することもありませんし。

 三つの呪文をゆっくり唱えても、お釣りがくるような状況です。

 ですが、そろそろやりましょう。


「怒れる土の精霊よ、心のままに動くことを許す――避けよ大地! 今こそ世界へと示せ、その力を!」


 右肩の口で唱えたのは、地震の魔法です。

 そもそも私は、ミール家が豊かに暮らしていることが許せません。

 ということは、彼等の家であるこの城を破壊すべきなのです。


 地響きとともに、城が揺れました。

 ミズホはどういう足腰をしているのか、気にせず敵をバッタバッタと倒しています。

 そんな中、大きな塔が中程から折れ、館は崩れ落ち、礼拝堂もペシャンコに潰れました。

 敵も突然のことにへたり込んで、抵抗も散発的になりました。


「猛き炎の精霊よ、その武威をもって我が敵を焼き払え」


 左肩の口では炎の魔法を唱えました。

 巨大な火球を三つ作り出して、塔と館と礼拝堂にぶち込むのです。

 逃げ遅れた人が炎に巻かれていますが、これを狙いました。 

 全員がミールの姓を持つ者ですから、ざまぁです。

 おっと、逃げ遅れた奴隷を一人見つけました。


「ミズホ! わたくしの家畜が足を引きずっていますわ!」


 言うが早いか、炎の中からミズホが一人の女性を助け出します。

 女性は粉雪のような白髪で、白く長い耳を持っていました。獣人です、それもウサギの……。

 

「お姉ちゃん! クロエちゃんだよっ!」


 私は頷き、微笑みました。

 左右の口角を上げて、とても優しく……クロエが安心できるように。


「ひ、ひぃぃぃぃ! 化け物っ!」


 クロエが脱兎の如く走り去りました。何故でしょうか……。


「ニシシシシ!」

 

 そうですね、兎ですから脱兎の如く逃げて当然です。

 でもミズホは後で殴ってやりましょう、笑った罰を与えなければ。


「吠えよ、風の精霊! 世界を貫く雷となりて、我が敵を穿てっ!」


 最後は、きちんと顔にある口で呪文を唱ました。

 先ほどよりも遥かに巨大な雷雲が城の上空を覆い、バチバチと稲光を発しています。

 そこから無数の雷が落ちて、ミールの名を持つ全員を撃ち抜きました。

 当然ギラン・ミールにも直撃し、彼もあっさりと絶命したのです。


「あ……もっと苦しませようと思っていたのですけれど……わたくし、やってしまいましたわ」

 

 ミズホも不満顔で、焦げたギランを足で小突いています。


「お姉ちゃん、獣、死んだよ? 躾は?」

「やってしまったものは仕方ありませんわ。もう……ち○こを斬って口に突っ込んでやろうと思っていましたのに。死んでからやっても、まったく面白くありませんわ……」


 頭を掻きながらミズホに言い訳をしていると、入り口から多数の人々が現れました。

 おや、まだ手勢が残っていたのでしょうか?


「ギラン・ミール! 今こそ千載一遇の好機! 村の民に対する数々の悪行、たとえ国や神が許しても、断じて自警団が許さんぞっ!」


 振り向くとパットが先頭に立ち、剣を構えた自警団の面々が次々と城に突入してくる姿が見えます。

 皆、中に入ると崩れ落ちた塔や燃え盛る館を見て、歓声を上げていました。


「「や、やった! 奇跡だ!」」

「「神は我らを見捨てなかった!」」


 奇跡じゃねえし神の仕業でもありません。

 てめぇらの目は節穴ですか、私とミズホがやったのですよ。


「テ、ティファニー! ミズホ! 我々が来たからには、もう安心だ! この地震こそ天啓! 今こそ悪徳領主を討ち取ってやる! お前達は安全な所に下がっていろ! もう誰も、誰も村人を傷つけさせはしないっ!」


 パットが雄々しく叫び、続く味方を鼓舞しています。


「はへ?」


 全身に返り血を浴びたミズホが、何のこっちゃ? という顔をしていました。

 もちろん私は状況を理解しました。

 彼等はつまり、叛乱を起こしたのです。まさに今日、そして今。

 けれど、全ては遅過ぎます。


雷撃ブリッツ……」


 あまりにイラっとした私は、自警団全員を黒こげにしました。

 ああ……やっぱりやってしまいました。

 村ごと壊滅させるっていう大きな流れ(設定)には、逆らえないのかも知れません。


「か、神よ、どうして俺達まで……」


 だから神じゃねぇんですよ、まだ分かりませんか。

 ですが私、手加減できたのでしょうか? 

 自警団の面々はピクピクしながらも、パットを含め、全員が生きているようです。

 ま、生きていても死んでいても役に立たない連中ですから、どうでもいいのですけれど。

パット「ギラン・ミール! 覚悟っ!」

ギラン「……」

パット「お前の悪行もこれまでだ!」

ギラン「……」

パット「ギラン・ミール、討ち取ったぁぁ!」

ティファニー「最初から死んでますわ」

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