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10話 奴隷を家畜にジョブチェンジですわ

※残酷な描写があります

 ◆


 領主の城は村の中心から北に向かい、少しばかり行った先の小高い丘の上にあります。

 夕暮れ時の空は紅く、まばらに浮かんだ雲がゆっくりと動いていました。

 私達とすれ違う村人は大体が驚いた表情を浮かべ、次には引き返せと言ってきます。


「ティファ、ミズホ。そっちは領主さまの城だ、引き返しなさい」

「それ以上行くんじゃないよ……暗くなる前に帰りな。そんな服を着ていても、お前達は可愛いんだから、領主に目を付けられちまう」

 

 私も後ろを歩くミズホも、粗末な麻のワンピースを着ています。

 これは別にミコットの家が貧乏だからではなく、この世界のデフォルトなのです。

 服は高く、よほど裕福な家庭でなければ新品を買う事は出来ません。

 ちなみにここの領主であるミール家でも、ドレスの数は知れています。

 クライン公爵家なら、きっとミールの城が建つほど高価なドレスものもあるのでしょうけれど。


 私は村人に冷笑を与え、ミズホの衣服をまじまじと見ながら歩きました。

 ミズホにゴスロリな衣服を与えてみたい――という欲望が湧いてきます。

 巨大な戦斧を振るうゴスロリ少女……ありよりのありですね。今はこの子、剣しか持っていませんが。

 はぁ……おバカなのが問題です。


「ついたよ、お姉ちゃん。鷲の城(アドラーブルク)


 おや、そんなことを考えていたら、目的地に到着しました。

 城を下方から見上げると、その貧相さに笑いが込み上げてきます。


「相変わらず小さな城だこと! 鷲の城(アドラーブルク)だなんて大層な名前を付けていますが、これでは雀の巣(スペアリングブルク)ですわっ! あーはっはっはっは!」

 

 以前、少しの間暮らしたこともある城です。

 四方を石壁で囲み、入り口である門は一つだけ。その入り口も跳ね橋を上げてしまえば、誰の侵入も阻みます。

 領主のギラン・ミール曰く、難攻不落の城。しかし実態は旨味の無いこの領地を、わざわざ狙う者がいなかっただけのこと。私の魔法に掛かれば、こんな小城を一つ落とすくらい朝飯前なのでございます。


 跳ね橋の前には門衛が二人いました。

 彼等は自警団とは違い、領主の一族からなる兵士です。

 ミール家はこれでも、数百年続く貴族の家。ですから分家の数も相当数に上ります。

 中には武功を立てて新たに騎士家を興した者もいれば、犯罪者として処刑された者もいるでしょう。

 ですが大体一族はいつの時代も変わらず、百人程度がこの城で暮らしているのです。


 私が跳ね橋へ向かって歩くと、どういう訳かミズホが姿を消しました。

 まあいいでしょう、ここで怖じ気ずくのなら帰りなさい。


「お前はティファニー……何をしにきた?」


 門衛の一人が問いかけてきます。


「お祖父さまに呼ばれましたの」

「ほう?」


 私は指先に魔力を込めて、目の前の男を睨みます。

 魔法が発動すれば、男は痛みを感じる間も無く絶命するでしょう。

 ミール家の者は根絶やしにするのです。


 しかし次の瞬間、目の前の男の喉笛は掻き切られ、血が噴水のように吹き出しました。

 ミズホが短剣を逆手に握り、「お姉ちゃん、次は〜」と呑気な声を出しています。

 もう一人の門衛が慌てて城内へ逃げ込みました。

 逃がしません――指先に溜めた魔力を放出しました。


 青白い稲光が大蛇のように中空を這い、門衛を背後から貫きます。

「バリバリバリ」という激しい音が鳴ってしまったのは誤算ですが、私の魔力は想像よりも遥かに強力です。

 門衛は落雷にあったかの如く黒く焦げて、絶命しました。

 びっくりしました、これが私の最弱魔法だったのですから。


「お姉ちゃん、凄い!」


 ミズホが私に抱きついてきましたが、短剣はしまって頂きたいと思います。

 それよりも、ついにやってしまいました。

 異世界とはいえ、私は人を殺したのです。これでもう、後戻りはできません。

 善悪という二元論はナンセンスですが、私はもう、私自身を正義だとは決して思えないでしょう。

 その意味ではミズホも同類になってしまったのですが、彼女はこの現実を理解しているのでしょうか?

 そもそもミズホはどうして、躊躇無く人を殺せたのでしょう? 

 考えても仕方がありませんね。


 この世界では人の命が安いのです。

 軽い病気でも簡単に死ぬし、領主に罰せられて死ぬし、剣と剣がぶつかっただけで殺されます。

 農民同士でも喧嘩をして殺し合うし、相手が死んだら死体はその辺に捨てておけば殺人もバレません。

 万が一バレて裁判になっても、喧嘩の理由が正当と見なされれば殺人も罰はありませんしね。

 むしろ日本人の感覚を呼び起こされた私の方が、正常ではないのかもしれません。


「ミズホ、ミール家の者は皆殺しにしますわ」

「ん、わかった!」


 ミズホは笑っています。

 その笑みは死神を連想させる程に凄惨で、けれど、どこまでも純粋なものでした。

 

 城の中に入り階段を上ると、広場に出ました。

 その先には二つの館と二つの塔があり、そこに領主の一族が暮らしています。

 もしも城が攻められたなら、ここが最終防衛ラインになるでしょう。

 そして今がその時なのですが――あははは。

 

 広場では数十人の人々が、忙しなく働いています。

 中には厩や家畜小屋もあるので、その世話をする人々でしょう。

 彼等は私達の姿を見ても、作業をやめません。

 せっかくなので私は皆殺しにして差し上げようと思ったのですが、彼等のステータスを見て、思わず凍り付いてしまいました。

 大半の者が“職業奴隷”だったのです。


 この国は建前上、奴隷制度を廃止しています。

 なぜなら魔族に奴隷にされた人族が興した国だからです。

 これでは理屈が通っていません。

 ミール家は、どうやら想像以上に腐っていたようです。


 しばらく人々のステータスを見てチェックしていると、ようやくミール姓の者を見つけました。

 鞭を手に、奴隷達を怒鳴り散らす若い男です。

 青いチュニックに白いズボンを穿き、剣を帯びていました。


 ――――――――

 ノルド・ミール

 年齢25 職業 魔法騎士見習い Lv7  

 スキル 

 剣術C(無効化可能) 槍術C(無効化可能) 格闘C(無効化可能)

 ステータス 

 統率56 武力66 魔力57 知謀41 内政54 魅力34

 ――――――――

 

 ステータスを確認します。

 雑魚ですね。

 自分より弱い相手に威張ることしか出来ない人なんて、雑魚に決まっています。


 軽く指を動かし、簡単な呪文を唱えました。

 先ほどよりも高位の魔法ですが、全体から見れば十分下位に属する魔法です。

 貴族を相手にどれほど通用するか、確認しましょう。

 これが通用するなら、私が全力で戦えば相当に強いことが証明されます。


雷撃ブリッツ


 黒い雲が瞬く間に集積し、ノルド・ミールの頭上で雷雲となりました。

 鋭い閃光と轟音が鳴り響き、彼の身体を雷光が穿ちます。


「ひぎゃっ!」


 情けない悲鳴と共に、ノルドが天を仰ぎ見ました。

 全身を真っ黒く焦がし、血を吐いて倒れます。


「あーははははっ! いい気味ですわ、いい気味ですっ!」


 良いですね、戦闘不能になりました。

 ですが、流石に貴族です。まだ息がありました。

 ノルドは全身を震わせながらも、身を起こそうとしています。


「ミズホ」


 私が呼ぶと、ミズホは心得たように駆けました。


「敵しゅ……!?」


 ミズホが起き上がろうとする男の首を、無情にも跳ね飛ばします。

 それから唖然とする奴隷達の手枷、足枷を引き千切りました。

 圧倒的な戦力です。


「みんなは、お姉ちゃんの家畜なの。勝手にこんなところで奴隷にならないで」


 ん、ミズホ? あなたは何を言っているのですか?

 ミズホが解放した奴隷の首輪を引っぱり、跪かせています。


「家畜なんだから、ブヒブヒ言うの」


 なんということでしょう。ミズホが奴隷達を家畜にジョブチェンジさせたじゃありませんか。

 しかも全員を私の家畜にしています。

 ああ、なんて恐ろしい子!

 解放された奴隷達の私を見る目が、すっごく恐いです!


 ここでようやく二つの館から、ミール家の人々が姿を現しました。


「わしの奴隷どもを勝手に解放してくれるなよ、小娘ども」


 白髪をオールバックにした、真っ白い髭のダンディな老人が姿を現しました。

 完全武装をしている姿を見ると、騒ぎを知って鎧を装備していたのでしょう。

 中々に抜け目の無い男です。


「あは……ギラン・ミール。分別を弁えない獣に、このわたくしが自ら躾をしに来てやりましたわ」

「ほう、ティファニーか。言うようになったではないか」

「さっさと他の奴隷も寄越しなさい。クロエもですわ……」

「クロエ? ああ、あの兎人の娘か。そんなことはどうでもよい。これは魔法だろう? ふむ、扱えるようになったか。ならば快く迎え入れてやる、貴族としてな」

「あらあらあら、やっぱり獣ですわね、人の言葉がご理解いただけないようで残念ですわ」

「ティファニー、貴様……それが祖父に向かって言う事か?」

「醜い獣を祖父に持った覚えはございませんわ。そしてわたくし、クロエを返せと申しておりますの」

「ふん、返すものか。兎人のように珍しい女を! だいたいなんだ、魔力に目覚めた程度で調子にのりおって……いや、その目つき……父に似たか……言動も振る舞いも、あの男とよく似ておるわ。外道の公爵閣下となっ! 成敗してくれる。者共、出会え!」


 ギランの声で、ミール家の男達が一斉に剣を抜きます。

 私はギランを睨み、ステータスを確認しました。


――――――――

 ギラン・ミール

 年齢52 職業 魔法騎士 Lv39  

 スキル 

 剣術A 槍術B 格闘B 魔導C

 ステータス 

 統率75 武力80↑ 魔力65↑ 知謀70 内政19 魅力11

 ――――――――


 あれほど恐ろしかったギランが、今では凡人に見えます。


「ミズホ、やりますわよ」

「ん! みなごろしっ! 家畜どもはブヒブヒ言いながら門の外へ行ってね!」


 ミズホは頷き、奴隷の一人を蹴飛ばしています。

 あの子、いったいどこへ向かっているのでしょうか。

 間違いなく、立派な悪党になりそうです。

ブクマ、評価、いつもありがとうございます!


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