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幸運な俺と悪魔憑きの乙女  作者: 双さん
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入店、和風酒場

「今日はお店開けないつもりだから、存分に羽を伸ばしきて頂戴ね。」


エリスと出会った翌日、マリアさんはそう告げて俺達を追い出し何処かに行ってしまった。


「まだ日も出てない朝っぱらからどこ行くんだろうねあの人は……」


「マリアさんは早起きですね……私はまだ……ふああ……」


小さな口で大欠伸をしたクーが目尻を擦る。


日時計くらいしか無いこの世界では時間の把握が難しいが、体感での1日は元々居た世界と同じ感じがする。


紅月と白月の二つが空に浮かんでいるこの世界は、1年の周期もおよそ360日程で、1ヵ月にあたる単位も例外を除き30日と同じだった。


追い立てられるようにして外に出た俺達2人の格好は、学ランとリボンのワンピースという2人ともが一張羅の状態だ。


「クー、どうする?ご飯か、それともどっかで寝るか……」


どこで寝るのと言われると答えが見つからないが、察しの良いクーは「ご飯がいいです。」と口にした。


こんなに朝早くからやっている食事処があれば良いが。


昼に二段目の街に行くことも考えて、ひとまずは国の中央に向けて歩き出す。


「それにしても、この鎖の呪いを消すのに大型以上のサイズのドラゴンの爪が必要って言われてもよく分からないな。」


「私も荷車を引かせる四足歩行の中型と個人で乗る小型しか見たことがありません。」


「でもあの程度で中型って言うんだから大型も大したこと無いかもしれないな。」


両手を上げてがおーとふざけてみたが、クーは真剣な顔でこれをスルー。


「お家くらいの大きさがあったりしたら私……」


「大丈夫さ、そんなに大きかったら見つかる前に逃げれば良い。」


「なるほど!その手がありました!」


クーは賢くていい子なのだが、偶に抜けているというか、これが演技だったら俺はクーを信じられなくなるというか。

逃げたらドラゴン倒せないじゃん?


「……でも逃げた後はどうやってドラゴンさんから爪を貰えば良いんでしょうか……?」


あ、気付いた。


「んー、そうだな……ドラゴンが巣に帰るまで追跡して、寝込んだところを一気に叩く。」


「なるほど……」


「ま、倒せるかどうかは別としてな。」


「ドラゴンさんって私達二人で倒せるものなんでしょうか?」


「無理だろうな。ドラゴンは強い、このイメージはこっちでも一緒だろうし。」


「そう、ですか。」


「クーは腕に自身があるの?」


「いえ、たぶん武器を握ったことすら無いと思います。」


たぶんと言うのは幼少期の記憶の話が混じっているからだろう。


エリスは大丈夫だと言っていたが、本当にこんな二人で冒険者になれるのだろうか?


実力はともかく命を投げ出して動く事ができるかどうかという方が大事だとかそういう意味なのかもしれない。


「シンジさん、灯りがついているお店がありますよ!」


本当だ、少し先にぼんやりと灯りが点いている店がある。


「入ってみようか。」


「はい。」


周りが塗り壁を使って出来た町並みには木造りの古びたこの店が浮いて見える。

どことなく和風な趣を感じる建物のドアを開けて中に入る。


「らっしゃい。」


入ってびっくり、外見だけかと思いきや内装も古民家だ。

ついでに言うと店主も日本人っぽいのだが、使っているのは恐らくこの国の言葉だ。


ともあれ、深夜営業の酒場の1つだとすればどう足掻いてもまもなく閉店と言った頃合。

せめて賄い飯のようなものでも貰えると嬉しいのだが、店主の男性の他に従業員は見えない。


「すみません、もう閉店ですかね?」


俺が言葉を発すると同時に、店主の目が見開かれた。


「お前……いや、お前さん、日本人か……?」


そして出てきたのは流暢な日本語だ。


「嘘だろ?」


「それはこっちの台詞だ坊主、いや、とりあえず座ってくれ。」


店主のおじさんの誘いに任せてクーと共にカウンターの前の席に座る。


「あの、シンジさん、お知り合いの方ですか?」


「いや、初対面だけど、出身が同じみたいなんだ。」


「嬢ちゃんも日本の……って訳じゃねえな。嬢ちゃん日本語分かるなんてすげえな。どこで覚えたんだい?」


お冷をカウンターに置きながらおじさんがクーに声を掛ける。


が、クーは困り顔でこちらを見る。


「すみません、おじ様は一体何と仰ったのでしょうか?」


どうやら通じていないらしい……あれ?


「俺と同じ言語の筈なんだけど、分からない?」


「えと、あの……すみません。」


「どういう事だ?」


理解出来ずに店主を見るが。店主もこちらのやり取りを理解できては居ないようだ。

俺の言葉だけがクーやマリアさんたちにも理解できるだけで、日本語がこの世界の共通語という訳じゃないということか……


「お嬢ちゃんは、日本語分かってねえのか?」


「どうやらそうみたいですね。」


「お前さんの言葉は通じてるのに?」


「ええ、なんでか分かんないですけど。」


「まあいい、妙に目が冴えてここまで起きてたが、とんだ奇跡が起きたもんだ。坊主、いつからこっちに来てたんだ?」


多少がっかりとした様だが、すぐに気を取り直したおじさんが質問を投げかけてくる。


「一昨日の午前中……ですかね。」


「そいつぁすげえ!よく来たな、もう日本人には会えねえんじゃねえかと思ってたんだ。おっと、そうだ、俺は嵯峨宮 大五郎(さがみやだいごろう)、ここらじゃサガミヤで通ってる。お前さんは?」


「俺は坂本神治、こっちの可愛いのがクー。」


「っ……クーです。」


「おう、顔だけじゃなく行儀も良いじゃねえか。」


互いに言葉は通じていないがぺこりと一礼をする。


そんな中、雰囲気をぶち壊す音が俺の腹から出た。


「ははは!いい音出すな神治!今なんか作るから待ってな。」




とりあえずこの世界に持ち込ませた電子辞書とかの使い道に迷っていたりします。

閲覧ありがとうございました。

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