冒険者エリスの来店
「少々お待ちください。」
馴染みの客と思われる黒髪の女性の要請に応え、マリアさんを呼ぼうと店の奥を覗く。
ぽよん
「あらあら。ふふふ。聞こえているから大丈夫よ。」
「ふがふが……」
「やん、くすぐったいわ……もう、めっ。」
「めっじゃないですよ、窒息死するかと思った……」
奥を覗き込んだ瞬間に出てきたマリアさんから解放され、状況を説明しようとするも聞こえているなら必要ないと気付く。
「久しぶりねえエリスちゃん、今日も持ってきてくれたのかしら?」
「ああ、今回のは自信があるんだ。きっと凄いのがあるんじゃないか?」
エリスと呼ばれた女性が背負っていた袋をカウンターに下ろしながらぺちぺちと叩く。
細身な体に張り付くようなぴっちりしたインナーとボトムスにポケットの沢山ついたベストを羽織り、両足の腿の所には2つのホルダーに入れたナイフを下げている。
そしてなんと言っても目立つのは長くて赤いマフラーだ。
「ん?どした、気になる?」
俺の視線に気が付いたエリスがこちらに声をかけてきた。
「じゃあエリス、見てくるから少し待っててね。」
そう言ってエリスから受け取った袋を提げたマリアさんが再び店の奥に吸い込まれていった。
はいよーと返事をしたエリスがこちらを見て口を開く。
「こんなお店で働くなんて、君たち面白いね。」
まあ、確かに変な店主のようだが、お店も変なのだろうか?
「あー、実は昨日の夜に泊めて頂いたので、お礼にお仕事のお手伝いが出来ないかなーと……」
「ふんふん、そうなんだ。ちなみにここってどんなお店か知ってる?」
「いえ、知らないです。」
「なるほどねえ、いやあ珍しいと思ったよ。実はこの店【マリアの呪い装束店】なんて言われてる曰く付きのお店なんだよ?」
「凄い名前ですね……」
「名前だけじゃないさ。君も今体験してるでしょ。」
まさか、この人。
「ははは、君わかりやすいね!そうそう、その髪飾り。それ付けてるって事は君、男の子でしょ?災難だね!」
ツイてねえ……この髪飾りの事知ってるのかよ。
「めっちゃ恥ずかしいんですけど。」
「あはははは!何を今更、面白いね君。名前何ていうの?」
くっそお、すげえ恥ずかしいけど汚物を見るような目をされるよりは笑われるだけマシか……。
「シンジです、坂本神治。」
「シンジ君か。私はエリス、冒険者ギルドで働いてるよ。」
「冒険者ギルド?」
「あれ、知らない?魔獣狩りから迷宮攻略までいろんな仕事を請け負うギルドなんだけど。」
そんなものまであるんだ……
「命が軽い職業だから酔狂な奴らしかいないけど、ここよりはいい職場かな。」
そう言いながら彼女はちらりとクーを見た。
「クーが気になります?」
「ん?ああ、まあね、この子って君の奴隷でしょ?珍しい趣味してるなーと思ってさ。」
「どういう意味ですかそれ?」
やっとこの話が聞ける、なんでクーが差別されているのかずっと気になっていたんだ。
「白い髪の毛は悪魔の悪戯って話は知ってるよね?」
知らん。
「人は悪魔に近づくと髪の毛から色が奪われる。だったら彼女みたいに全部白い人は何者か。そう、悪魔憑き。そういう話だよ。まあ、この子には私の言葉わかんないみたいだから良かったけど、この子はその話知ってるの?」
単なる迷信、だろうか?
悪魔とか本当にいるのかもしれないし……。
「知らないと思います。」
「ま、知らないなら知らないでそっちのが幸せかもね。」
「ちなみにクーも冒険者にはなれるんですかね?」
「なれると思うよー?万年人手不足な職場だからね。補充要員はいつでも歓迎さ。」
冒険者なんてのはゲームよろしくたくさんいるもんだと思っていたが、意外に少ないらしい。
「まあ気になったら、ちょっと遠いけど二段目の街に拠点あるから来てね。髭のおじさんが対応してくれるよ。」
この国の中央と思われる低い山の上のお城、その城壁周りに二段目と呼ばれる市街地が取り囲み、その周りをぐるりと壁が囲む。
俺らが居て、昨日宿と職を探して歩き回ったのはその壁の周りに出来た山の麓の一段目の市街地だ。
詳細な場所については歩いて探せという話だろうな。
マリアさんやエリスがクーに対してあまり抵抗感なく接しているように見えるのは何か理由があるのかと訊こうとした時、奥からマリアさんが帰ってきた。
「いい所でごめんなさいね?お待たせエリス。今回は残念だけど当たりは少なかったわ。」
「えー!?うそー!絶対すごいヤツ入ってると思ったのにー!」
「ふふふ。残念ね、また来て頂戴。今回は3つ買い取りでお代はこれくらいね。」
そう言いながらマリアさんが渡したのは銀貨が数枚。
「むー、これっぽっちかあ。もう少しなんとかならない?」
「エリスは売りに来るだけで買い手を連れてきてくれないから、ちょっと苦しいわ。私の服に興味を持ってくれる好事家を連れてきてくれればもっと弾むつもりなのよ?でもねえ、うちも経営厳しいから……」
「はいはい分かった、分かったよ。これで我慢するよ。ありがとさん。」
「ふふっ。私、利口な子は好きよ。」
「ふーんだ、んじゃ、またね。」
エリスはそう言い残すとマリアさんに返された袋を持って店から出て行った。
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