服屋の店主とティータイム
「マジかよ……」
マリアさんの淹れてくれた紅茶を飲みながら、俺は質問を繰り返しある程度の現状把握を行った。
「ふふ、本当に遠いところからいらっしゃったみたいですわね。ニホン語?フランス語?エイ語?どれも聞いたことのない言葉で、興味深いですわ。」
その結果、信じられないと言うか、信じたくないというか。
異世界に来てしまったらしい。
馬車を引いていた巨大イグアナは小型のドラゴンで、俺の左手に巻かれているはずの鎖は魔法だそうだ。
完全にファンタジーの世界じゃないか。
ちなみにこれなんて映画?などとふざけている場合ではない。
それにしても何故俺が……?
俺は一般人で、特に悪いこともしてないしすごい能力も持ってない。
こういう特別な感じの役はもっと特別な奴がやるもんだろ、なんか妙なイベント起こしたりするような。
今日だって何も……
「あっ……」
あった。変な占い師と占いの内容……。
落下物によって命に関わる事故が起きるとか、幸運のペンダントだとか。
「お兄さん、どうかしたの?」
「ああ、いや詐欺られたとばっかり思ってた出来事が俺をここに呼び寄せたのかなーって。」
「成程そのペンダントが……少し見せて頂いても?」
手に持っていたら流石に分かるよな、っていうか俺って分かり易すぎか?
などと考えながら、顔を寄せてきた店主に首にかけたままのペンダントを見せる。
「ふふ、お兄さんはわかり易くて逆に疑ってしまいますわ。」
また読まれた……これは皮肉だろうか?
「単純で悪かったな。」
「いえいえ、正直な事はいい事ですわ。仕事柄、買い取る商品に過剰な値段を吹っ掛けられることも少なくないので、私としてはお兄さんには是非懇意にして頂きたいですわ。」
さしずめ俺は良いカモということだろう。
「ちなみにクーの服でどれ位の利益出したんで?」
「企業秘密ですわ。」
「成程ね。」
腹立つわー、丸め込まれる自分に腹が立つ。
「因みにお兄さん、これはどこで?」
ペンダントを眺めていた店主、マリアさんと言う名前だそうだが、彼女の顔が真剣なものに変わった。
「変な占い師から買ったけど。」
「占い師?」
「ああ、男だか女だか分からないけど、適当に占いっぽく俺が死ぬとか、恋人がどうとか言って、幸運のペンダントだってこれを売ってきたんだ。」
「幸運のペンダント……ちなみにお兄さん、これ外せます?」
何を仰るんですかマリアさん、赤ん坊じゃないんだから外せるに決まってるじゃないですか。
と、ペンダントを外そうとして違和感に襲われた。
手をかけた瞬間に悪寒が背中を駆け上がり、喉仏の辺りまで上げた所で吐き気が込み上げる。
おかしい、明らかに変だ。このペンダントを外させまいとするような意思を感じる。
しかし外せないわけはないと、それを無視して顎の辺りまで持ち上げると酷い頭痛に襲われた。
そろそろヤバい気がするが、なんとか鼻の辺りまで上げ……
「……お兄さん、お兄さん。」
気が付くと机に突っ伏していた。
頭の痛みも吐き気も無くなり、すっきりとした目覚めだ。
「あれ、なんで寝てんだ俺……?」
見ればクーもマリアさんもじっとこちらを見ている。
「あー、なんかペンダント取るのキツいんで、勘弁して貰えます?」
「ええ、取れないなら取れないで良いのよ。でも、そうね、早計だったわ。ごめんなさいね。」
「えっと、ちなみに俺に何が起きたんすかね?」
「……お兄さんがペンダントを取ろうとしてる途中で突然白目を剥いて倒れたのよ。」
へえそんな事が、珍しいですねなんて暢気に言える状況じゃねえよな。
「呪われてて外れません、って感じですかね……?」
「そんなところでしょうけど、実態はもっと酷いわ。」
「確かに気持ち悪くなったり頭痛くなったり、しんどかったですけど、そんなに?」
「申し訳ないけど、そのペンダントは私の手には負えないわね。これ程まで複雑で強力な加護と呪いの組み方はもはや芸術的だわ。神業とでも言うのかしら……まあそんなことはいいの、話題を変えましょう。お兄さんはクーちゃんを、実は押し付けられたんじゃなくて?」
実はかくかくしかじか……。
「やっぱり……でもお兄さんなら大丈夫ね。そのペンダントは絶対に外さないってことを守ればとても良いものよ。大切にするといいわ。」
話題戻ってるんだけど、ペンダントとクーに何か関係があるんだろうか?
というかもしかして外すと死ぬようなペンダントなんか買わされたのか?500円で?
「マジでツイてねえ……」
「あら、お兄さんは幸運だと思いますわ。」
「よく言われます。」
「あらあら、ふふふ、そうですわね、これからどこかに行く予定がありまして?」
「あー、宿探しと職探し……あっ。」
長々と話していた流れでつい喋ってしまったが、そういえばマリアさんは信用ならない部類の人間だった。
会話の中でもどことなく探りを入れられているような気がするのだ。
「ふふふ、人を疑うこと。それは良くない事ですが賢い事ですわ。ですが私の事を信用して下さっているのは嬉しいですわね。」
何がふふふだ、信用してねーよ。
あと俺の気持ちを勝手に読むな。
「ですが私の予想では、そのどちらも叶わないと思いますわ。」
マリアさんが根拠なしに何かを口にするタイプではないというのはこれまでの会話で把握出来ているため、理由を聞いてみる。
「さあ?どうしてでしょうか?」
何ではぐらかすんだよ意味分かんねえだろ。
「腹立つなーマリアさん。」
「いやんお許しになって♡」
なんだ?ドキッとした。心臓を鷲掴みにされたような、冷や汗が出る類のヤバいやつだ。
「無駄に様になりますねソレ……」
「あら嬉しいですわ。ふふふ。もし私の予想通りになってしまったらですけど、またここにいらっしゃいな。悪いようにはしませんわ。」
そして、こういう時には裏がある。それも分かっている。
「それで、そん時は何すれば良いですかね、金あんま持ってないんで。」
「んー……その時はウチの服を着て客寄せでもしてもらおうかしら。」
「クーが……?」
「お兄さんもですわ♡」
なんで女性物の服を着て客寄せなんかしなくちゃいけないんだよ。
「まあ、マリアさんの予想通りに行かない事を期待しておきます。お茶ありがとうございました。」
「いいえ、また来て頂戴ね。」
テーブルに座ったまま手を振るマリアさんに一応の感謝を伝え、絶対に来るもんか。という固い決意と共に俺はクーの手を引いて店を出た。
異世界ですって奥さん!




