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幸運な俺と悪魔憑きの乙女  作者: 双さん
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ようこそマリア服店へ

「それじゃあ、何をするにしてもまずは格好を整えないといけないよな! 」

数分の間考えに考えて、俺が出した結果はそれだった。


少女を見る。

ボサボサの髪にボロボロのワンピース、その上裸足だ、このままでは歩くのも辛いだろう。


「そういえば……なんでさっきから目を瞑ってるんだ?」

「……。」


困ったような表情で何かを言いたそうにしているが声は出てこない。

こちらの言葉は理解しているが、先ほどの口調から考えるに、喋ろうとする言葉が分からないのだろう。

田舎の娘が転々と売り払われて遠くまで来てしまったという感じか。


「よく分かんないけど、開けられるなら開けてみてよ。」

「……!」


言葉を聞くなり慌てたような表情に変わり、ジェスチャーも激しくなる。


「いや、何か理由があって開けられないとかなら気にしないんだけどさ。」


目にコンプレックスでもあるなら尚更無理な話だ。

少女は覚悟を決めたような表情をしている。

あまり見せたくない所を無理して開こうとしているなら申し訳ない話だ。

俺がやっぱり開けなくてもいいと伝えようと言葉を考えているうちに、彼女の瞼が徐々に開かれていった。


白い髪に白い肌ということでアルビノ体質なのかと思っていたが、右目は青で左目は黄色だ。

まさかのオッドアイ。


正直に言おう。めちゃくちゃ可愛い。

この世に神は居た。仮にこの撮影のあとに一週間風邪ひいたりとかしてもいいと思える。


ぱちくりぱちくりと瞬きする度に色が変化する瞳がまた……

「あ?」

思わず声が出てしまった。


その声に怯えたように少女が目を瞑ってしまい、なんとも言えぬ罪悪感が湧き上がってくる。


「ああ、ごめん、ちょっとびっくりしただけだから。もっかい見せて。」

「……。」


びくびくと恐れながら片目ずつ開けていく少女。

やはり色が違う。

今度は右目が黒、左目が紫になっていた。


「すごいじゃん」


可愛いは正義という言葉があるが、普通であれば嫌悪を覚えるのであろうこの瞳も、色のない彼女の可愛さの中ではアクセントとして輝いているように見える。

瞬きをする度に瞳の色がコロコロと変わるのはちょっと面白い。


ぱちくり、ぱちくり。


気がつけば少女は不思議なものを見るような表情をしてこちらを見ていた。


「ん?どうした?顔に何か付いてる?」


のかと思ったが、ふるふると首を振って目を逸らした所を見ると、どうも違うようだ。


少女は俺の顔から外した視線を彷徨わせているが、やはり時折こちらを見ている。

ああ、手持ち無沙汰なのか。


「あー、じゃあとりあえず服を買いに行こう。歩ける?」

「……。」


こくこくと頷く姿は小動物のよう。


「さってと、服屋さんはどっちかなーと。」


周りを見てみれば、目の前にある店の看板にドレスのような柄が掘られていた。


「まさかの正面?」


やはり撮影だろうか。

ご都合主義的にも見える配置に思うところはあるがそれはそれ。

靴が買えるかは分からないが、服は買えそうな店だし中に入ってみよう。


「ようこそ、いらっしゃいませ。」


入る店を間違えたな。

と思ったが既に店の中。


「あらあら、これは大変ですわ。お兄さん、ちょっとこの娘さんをお借りしますわね。」


そして後から少女が店に入った瞬間、店主と思しき女性に攫われてしまった。

止めるまもなく店の奥に連れていかれた少女が帰ってくるのを待ちながら、誰も居なくなった店内を眺めて回る。


豪奢なドレスやランジェリーのような透けたもの、チャイナドレスじみた民族衣装のようなものまで様々な種類の服が置いてある。

やはりここから服を選べという話だろうか?

少し店内を歩くと、服だけかと思いきやピアスやカチューシャ、ブーツやサンダルまで扱っている事が分かった。


「全部女性物か……でもまあ、全身コーディネートして貰えそうだな。」


問題は金貨3枚で足りるかという所だ。


仮にこの金貨が1枚で1万円くらいの価値があるとして、店内の物はどれも丁寧な手作りのように見えるので、全身を揃えようとすると良いものは買えないだろう。


「出せて2枚……かな?」


金貨の価値なんて分からないが、女性ものの服を揃えるには足りない可能性の方が高い……


「お待たせいたしました、あら?お兄さん?」

「あ、はい。」


店の奥から出てきた店主の女性の声に応え、近づいてみる。


「この娘、素材は良いのですから、もう少しお手入れに力を入れた方が良いと存じますわ。お兄さん?あらあらふふふ。」


女性の隣にいる少女は手入れしていないボサボサだった髪がしっとりと濡れ、前髪が少し切りそろえられていた。

またその身に纏う服はボロボロの汚れた布から胸元に青いリボンが付いた白いワンピースに変わり、リボンと同じ青色の靴も履かせてもらっている。


「ふふふ、どうでしょう?見違えるほど可愛らしくなったと思いませんか?」


はい、それはもう……とても。

元々顔が良かったと言うのもあるが少しの手入れとは言え可愛さ五割増しといった感じだ。


「おお……」


何か感想を言わなきければと思って口を開いたのだが、言葉に詰まってうめき声をあげてしまった。


「あらあら、ふふふ、随分と気に入って頂けたようで。私まで嬉しくなりますわ。」


室内なのにつばの広い帽子を被り豪華なドレスを着た店主の女性は不敵な微笑みを向けてきている。

その笑顔が何を意味するのかを、止まりかけた頭が弾き出した。


「あ、そうだ、金……」

「うふふ、こちらのワンピースと靴、下着を含めて右金貨1枚と左銀貨6枚になりますわ。」


財布から取り出した金貨を見ると、象られた人物が右を見ている。

これが右金貨だとして……とりあえず2枚出せばいいのだろうか?


「お兄さん、随分といい所の息子さんなのねえ。」


俺が差し出した金貨を受け取りながら店主がそんな事を言ってきた。


「どうしてそんな事を……?」

「ふふっ、奴隷の子に私の店が扱うような服を用意するのもそうですし、初めて入った店の提示した金額に何も言わずに金貨だけで支払いをすること、それに、お兄さんの手は農耕だとかの力仕事をさせられているものではありませんわ。他にもお兄さんの珍しい服ですとか少ない荷物ですとか、挙げればキリがありませんわね。」


説明をしながら返された貨幣は銀貨が4枚。いずれも象られた人物が左を見ている。

十進法が採用されているようだ。

というか俺は貴族という設定なのか?

それにしては随分と初期状態が貧相だが…….


「今後ともご贔屓にお願いしますわ。」


整った顔に獲物を狙う蛇のような雰囲気を乗せて、店主が見事な笑顔を向けてくる。

とりあえずさっさとここから逃げた方が良さそうだ。


「行くぞ、えっと……」


呼ぼうとして少女の名前を知らない事を思い出した。

シロだと犬みたいだし、ましろ、は顔に合わない……


「このお嬢さんの名前を決めていらっしゃらないご様子ですわね。」


バレたか。そりゃバレるか。受け取ったばっかりの奴隷ですって格好で入店したもんな。


「何かいい名前無いかなーって思ってるんですけどね。」

「ふふっ、随分と奴隷思いのご主人様ですこと。ええ、私からの案を言わせて頂けば、クーちゃんというのは如何でしょうか。」

「クー、ちゃん……って何か意味が?」

「ええ、この子の喋る言葉で月という意味ですわ。」


へえ、月か……月なら白いし、この国の人が言うなら語感は悪くないんだろうし。


「ん?喋った?」

「ええ、28言語目でようやく当たりましたわ。今はもう使われない言語の筈なのですが、お兄さんも随分と珍しい娘を手に入れましたわね。」


はっはーん。なるほどな、どうりでさっきから母親を見つけた迷子みたいに店主から離れない訳だ。


「いやいや、28言語ってアンタ何者なんですか。」

「ただの服屋ですわ。」

「絶対嘘でしょ。」

「あらあらふふふ。」


なにがふふふだ。

なんか裏稼業で人とか殺してそうだなこの人……

まあいいや、どうせそんな長くはこの場所に居ない予定だし。


「そうだ、ここはなんて名前なんですかね?」

「シェルテ王国ですわ。それがどうかされまして?」

「いや、特に理由は……でも聞いたことないな。」


ただの撮影にしてはえらく手が込んでいるように感じる。

そもそも、あのでかいイグアナだとか、コスプレ獣人達が出てくる必要もない。撮影の舞台も無駄に大きいし金がかかりすぎている感が否めない。


「お兄さんも随分と遠くからいらっしゃった様子ですわね。どうかしら、あまりお客様も来ないお店ですし、お茶でも飲みながら世間話などしませんこと?」


この店主と話すのは気乗りしないが、貰える情報は集めておきたい。

ここは世間知らずのお兄さんということにして色々と聞いてみるか……。

拠点……ですかね?

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