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幸運な俺と悪魔憑きの乙女  作者: 双さん
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アンナの自己紹介

「……っ!貴様!」


首輪の出現で部屋の時間が止まった後、最初に動いたのはアンナだった。


右手で突如現れた革製の首輪に触れながら左手で赤い魔法陣を展開したアンナは、いつか見た敵意剥き出しの犬のような形相でこちらを睨んでいる。


何かの陰謀か?なんで意味もなく俺は攻撃されそうになってるんだ?


思う所はあるが対処は先程と一緒だ。


「やめろアンナ、少し落ち着け。」


俺の言葉に従って再度魔法陣が消失した所を見るに、首輪の効能はやはり本物のようだ。


というのも、この奴隷の首輪はいくつかの能力を持っているのだ。

それが叛逆の抑止、装着者の能力強化、命令の強制という大きく3つ。

特に能力の強化については基本的に主人となる人物の能力によって差が出るらしい。


他にも幾つか特殊な使用方法があるらしいのだが、スミカの常識教育で聞いた話では先ほどの3つだけ覚えておけばいいということだった。


クーもシャルロットも言い方は悪いが従順だし、俺自身そこまで目立った身体能力を持ち合わせていない上、クーやシャルロットの本来の能力を知らないので首輪の能力について実感は湧いていなかったのだがようやく確信できた。


「……何だ、言う事があるなら言え。」


首輪の力で強制的に行動を止められたアンナが力で訴える事を諦めて口を開いたので、俺の思いを告げる。


「俺達は何もしてない。まずその事を信じてくれ。首輪が現れたタイミングとか主人が俺だって事とか、怪しいのは分かるけど俺も何が何だかわからないんだ。それに俺を殺した所で今のままじゃ君も死ぬ事になるんだぞ?」


言葉に嘘が無いのが分かったのか、それとも別の理由かは分からないがアンナが溜息と共に口を開く。

「貴様がやったかどうかはこの際どうでもいい、だが貴様が原因でこんな事になったことは覚えている。」


唐突なカミングアウトに言葉を失う。

「改めて言おう、我の名前はアンナ。黒き魔龍の血族にして高き山の主だ。貴様等は紅き火龍の所に居た人間だな?」

「何でそれを知ってるんだ?」

「そこで我が貴様を食らったからだ。」


思わず真顔になってしまった。俺だってこの世界に来て日は浅いが、竜人やら獣人やらが普通にいるこの国のおかげで尻尾とか耳とか角という亜人誰しも共通して出てくる特徴があるということは把握している。

「シャルロット、クー、集合。」


妄想女への対応を会議するために集合をかけた俺に対して、アンナが慌てて口を挟む。

「待て待て待て!話は最後まで聞け馬鹿者!我くらいの力ある龍ならば完全な人の姿を取ることなど造作もないのだ。そこらの半端者や混血と一緒にするな。」

「つまり?今はわざわざ人間モードになってるって事か?」

「ふん、物分りはいいようだな。見るか?我の真の姿を。」


見るのは構わないのだが仮にあの時のドラゴンだとしたらこの家が壊れるのは必至だ。

「やるなら外にしてくれ。」


良かろう、と一言残し外に行こうとするアンナを見ながら、一抹の不安が浮かぶのを感じた。

その原因を探りつつ家を出るが、そこも狭いのでスラムの外れまで歩く。


「アンナ、お前服は持ってるのか?」

スラム区画の終わり、農業区画に差し掛かった所でようやく不安の原因が分かった。


「服など用意しなくともこれがあるのなら問題無いだろう?」

アンナが「これ」と表現したのは彼女が現在着用している俺の学ランだ。

いやそれ着たままドラゴンになったら破れるの目に見えてるんだけど?


「貴様、我を馬鹿にしておるな?これは我の鱗が形を変えたもの、故に破れる事を心配する必要は無いのだ。」


「いや、それ俺の服だから。アンナお前元々全裸だったからね?あとそれ俺にとって結構大事な服だから変身する前に脱げよ?」


脱げという言葉に反応してアンナが顔を赤くする。

「100歩譲って仮に貴様の言う通りだとして、乙女に脱げとは何たる蛮族か!いや、初対面で半裸の男には分からぬか……まあ、このように形の整った良質の装束を我が物としたい貴様の気持ちも分かるが、しかしてそれはそれ、嘘を吐くのは人の上に立つものとして恥ずかしき事と心得よ?」


譲らないアンナの主張を聞くうちに、ある程度開けた場所まで到着した。

まあ、彼女の高慢な態度から察するに魔法少女のアニメのようにオートで別空間に保存とかされるんだろう。


「それじゃ、見せてもらおうか、アンナが本物のドラゴンだってこと。」


「ふん、驚いて腰を抜かしても知らんぞ?」


「はいはい、そういうのはいいから。」


勿体ぶるように焦らすアンナを急かすと、少しムッと顔を顰めてから目を閉じ、片膝をついて地に手で触れた。

直後に半径10メートル程の橙色の魔法陣が出現し、アンナの姿を光が包む。


「我は龍 我は人 姿変わるも心変わらず 命変わるも力変わらず 偽の器に歪む魂を解放し 今此処に真を写せ 現状復帰(オヴノーヴァ)!」


眩い閃光と謎の風圧に顔を背けて暫く、ぴたりと風が止んだ所でアンナの姿を確認する。


耳の上の後頭部に近い部分から色素の薄い髪を割いて生え前方に向けて湾曲し伸びる黒い角。

エルフのように鋭角に少し伸びた耳。

背中に生えた見覚えのある大きな黒い翼。

下腿と前腕部まで侵食するように白い鱗が出現しその体躯と似合わぬ凶悪な異形と化した足と手。

消失した衣服の内に秘められた暴力的な性の象徴がその他の鋭角な変身とは対称的な曲線美を晒している。


これはあれだ、どちらかと言えば人間に近いタイプの龍人の姿だ。


「ふふん、あまりの恐ろしさに声も出ぬようだな?さもありなん、貴様はこの姿の我に喰われ……」

あ、気付いた。


彼女の衣服は変身中に転移したのか、何かのパーツとして変身したのか、はたまた細裂して風と共に去ったのか……兎にも角にも彼女は今、全裸だ。

一瞬でも見てしまったものは仕方ないので今回の不運は何だろうかと探していたのだが、幸いにも周囲に人が居ないおかげで俺が暴漢に間違われる心配は無さそうだ。


「貴様かっ!」

豆知識、ミートハンマーじみたもので殴れば人は死ぬ。


後頭部に鋭利な凹凸の衝撃を受け視界が揺れた直後、気がつけば俺は地面に頬擦りをしていた。


「はっ!」

顔を上げるとどこからか拾ってきた木の枝で俺を啄くシャルロット、やめなさい。

少し離れて学ラン姿の人型で立っていたアンナは……ぷいっと顔を背けてしまった。


そんな2人と違って心配そうに顔を覗き込んでいたクーが口を開く。

「大丈夫ですか?」


「ああ、なんとも無いみたいだ。ありがとうクー。」

差し伸べられた手を頼りに立ち上がる。

「それはそれとして……おいそこの自称ドラゴン女、そうだ今ビクッとしたお前だアンナ、何か言うことは?」

俺の言葉にぎこちなく振り返ったアンナが何を言うのか、首輪に繋がった鎖の持ち主としては大変興味がある所だ。


「変態。」

「おい違うだろ!なんでそうなるんだそこで!お前が脱いだのはお前の勝手で俺は何もしてないし、強いていえばお前が自信満々で無防備に立っている方が悪いんだろうが!その挙句なんで俺が殴られなくちゃいけないんだよただの逆恨みじゃねえか!お門違いにも程がある!」


息が切れる。我ながらよくここまで一言で言えたものだ。


「そそそそんなことは関係ないだろう!第一、こ、この首輪のせいで我の真の姿が解放できなかったに違いない!どうせ貴様が妙な命令でもして我の姿を中途半端で、は、破廉恥な姿にしたのだろう!」


「してねえよ!何もしてねえって言ったばっかじゃねえか話聞けよ!」


「ではなぜ顔を背けていたのだ!明らかに何かやましい事を隠している仕草だろう!なんだ!?我の姿に欲情したのか!?言ってみろ!人間の低俗な精神は聞き及んでいるぞ!一体どんな凌辱が貴様の頭の中で行われていたのだ!?」


「どうしてそんなピンク思考なんだよ!有り得ねえだろ、普通そこまで考えねえよ!お前の方が変態じゃねえか淫ドラゴン女!」


「あー!貴様!今我を侮辱したな!?貴様の妄想の産物を我と一緒にするな!我は貴様のような節操なしとは違う純潔で高貴な龍だぞ!?何がド淫乱牝ドラゴンだ!貴様のような節操なしは精根枯れ果てて死ね!」


「誰もド淫乱牝ドラゴンなんて言ってねえよどんな耳してんだムッツリ野郎!」


「なっ!我はムッツリでもないし野郎でもない!どこを見ているのだこの……この変態!」


「だから俺ゴファッ!」


言い合いを続けようとする俺の頬に小石が直撃し、あまりの痛みに悶絶する。


「はいはいそこまで、痴話喧嘩は他所でやってよ2人とも。あとアンナ、シンジは女の裸恐怖症だから目を逸らしていたんだ。前もボクの裸を怖がってたし心配しなくていいよ。」


じくじくと痛む頬のせいでまともに喋れないのをいいことに石を投げたシャルロットがアンナに変な事を吹き込んでいる。


「シャルと申したな……お主、女なのか?」


シャツにズボンという少年らしい格好のシャルロットに対して、アンナが当然の反応をする。

大丈夫だ俺もその感想は抱いた。


そして案の定というかなんというか、貞操観念の薄いシャルロットが当然のようにズボンを下ろす。


「なっ!お主、何故下着を履いていないのだ!女なのは分かったから早く戻せ!」


あたふたとした声色でアンナが喋る中、シャルロットが続ける。


「ほらね?」


ほらねと言うのは恐らく俺の事だろう。

もちろん見ていない、間一髪だった。


「なるほど、彼奴の趣味はよーく分かった……からひとまず履き直せ。良いか?女たるもの他者が見る前でそのように軽々しく肌を見せてはならぬ。出来れば我のように手と顔だけ出すのが良い。」


「えー、やだよ、暑いし動きにくいじゃん。」


「くっ、このような小娘にそんな教育をしているとは……」

シャルロットの発言にアンナがキッと俺を睨むが随分と酷い勘違いである。

「俺は服を着ろって言ってる!シャルロットのその発想は生まれつきだ!」


「誰が助平の言うことなど信じるか!」


埒が明かない……アンナの中ではどう足掻いても俺は変態になるんだ。俺は大人だから我慢するぞ、うん。

あと親しくない人間から誤解を解くのも難しい、暫く放っておいて後々変えていくとしよう。


「はあ……話を変えるが、さっき変身した時のアンナの手足はなんで白かったんだ?」


「む、その話か……それについては我も気になっていた。まあ、原因は恐らく我が瀕死の時に悪魔と契約を交わしてしまった事だろうな。」


なんでこう……俺の周りにはこう……


「俺の記憶が正しければ、悪魔が何かを与える時、同時に何かを奪っていくって話だが、色の他に何か奪われたものってあるか?」


「阿呆、我が奪われたものを覚えている筈が無いだろう。」

そうだった……奪われたものは記憶ごと欠落する。それが悪魔の法則だ。


「まあ、我の場合は、その……住処が分からぬ。」


「はい?高い山の主とか大仰なこと言ってたよな?」


「そ、そうだ、そこまでは覚えている。高い山の連なる縄張の激戦区その上を飛んでいた記憶はあるのだ。まあ、我ほどの力を持つ者ならばきっと1番高い山だな!」


特に理由のない自信がアンナを満たしている様子だが、果たして本当だろうか?


「じゃあ、引換にアンナが手に入れたものはなんなんだ?」


「命だ。」


「なんでそんなもんを。」


「元はといえば貴様のせいであろう!?我の腹を蛆虫のように食い荒らしおってからに!」


ああ、あの時の盾の魔法ってそんな効果だったのか。


「ってそんなことも知ってるってお前もしかして本当にあの時の黒いドラゴンなんじゃ?」


「最初からそうだと言っているだろう!?ぬああ!このたわけ!」


「痛え!殴ること無いだろ!ドラゴンになれるとか言ってたのに変身出来なかったのはお前じゃないか。」


「うぐ……それとこれとは話が別だ!我は嘘など吐かん!」


何が嘘は吐かないだよむっつりドラゴンめ。


「まあいいか……とりあえずアンナがあの時のドラゴンらしいってことは分かった。次はアンナの目標とか、夢とかが聞きたい。帰りながら聞いてもいいか?」


「なんだ貴様突然……まさか、我の夢を聞き出し決して叶えられぬような体にするつもりではないだろうな!?」

チョップ

「あいた!何をする馬鹿者!女子に手を上げるとは男の風上にも置けぬぞ!」


「俺だって好きでやってねえよ!なんで毎回そういう発想になるんだよ!?意味わかんねえだろ!ほら、とっとと帰るぞ!歩け。」


歩けと言われて歩かされる姿は可哀想という他ないが、ここで口論していたら日が暮れる。

ただでさえここ数日の食が少ない状態だ、一周回って薄れていた空腹感が再び主張を始めてきた。


少し早いが、食事処竜の爪とやらに出向けばタダ飯が食えるだろう。


「貴様、何をニヤニヤしている?まさか!」


アンナを黙らせ目指すは晩飯、きっとこのイライラも腹が満ちれば変わるはずだ。


「もご、我の夢はんぎぎ、言いたく、強き雄の妾、嫌だ!やめろ!んーむむむ!として、安寧を……ぐぬぬ、言ったぞ!だから止めろ!貴様聞いておるのか!我の夢は……!」

お久しぶりです。

今回は下ネタが混ざってたので書きやすい部分がありましたが、それはそれで歯止めが効かないので難しいですね。

今後も精進していきます。

閲覧ありがとうございました。

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