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幸運な俺と悪魔憑きの乙女  作者: 双さん
22/36

王城の休憩室における談話

「それにしても、高級回復魔法が使えて変身魔法まで会得してるなんて凄いねレラ。」


訓練場のすぐ近くの休憩所で、長椅子に寝かされたクーとクリスティーナの傷に対して魔法で手当を行った俺は、スミカからの賞賛を受けていた。


なんでも、傷跡が残らないように回復させるのは高難度の魔法らしく、会得出来る人間は多くないという。


つまりクリスティーナはこの高難度の魔法を会得していて、もし俺に驚異的な治癒力が無くとも、全身につけた傷を治すだけの力を持っていたということだ。


ともあれ、2人とも目立つ傷が付くこともなく治すことが出来て良かった。


「そういえば、レラのその肉体には誰かモチーフでもいるのかい?」


スミカがそう訊ねてきたのはもちろん俺が男の姿になっているからで、未だにこっちが変身後の姿だと信じているようだ。


「坂本 神治って奴ですよ。もう死にましたけど。」


もといた世界でだ。


「へえ、結構美形じゃないか。いや、あんまり男の顔とか気にしない方なんだけどね、なんかこう、惹かれるモノがあるような気がするよ。」


嬉しい話だが、俺の幸運を良いように利用しようと近付いてきた女子にそれらしいことを結構言われた過去のせいで、手放しに喜べない自分がいる。


そう、好意的な言葉を受け取ったからといってそれで天狗になってはいけない。

女性の世辞は挨拶の一環なのだ。


返す言葉が分からずに生んでしまった沈黙に耐えきれずクーの頬を撫でると、クーの目がゆっくりと開いた。


「大丈夫か?」


「おはようございますシンジさん……」


挨拶をしながら身を起こしたクーは血色も戻り、まさに寝起きといった様子で目を擦った。


「ん、こっちも気がついたみたいだね。おはよう寝坊助さん(クリスティーナ)。」


見ればクリスティーナが小さく唸りながら身を捩っていた。


「早く起きないと朝ご飯抜きだよ。」


「起きます!起きてますよ!……はっ……」


食いしん坊さんなのだろうか?ガバッと起き上がってやっと周りの状況が分かったらしい。

俺の顔を見つめて急に顔を赤くし、反対を向いてしまった。

確かに今のセリフを男に聞かれるのは恥ずかしいだろうなと同情する。


「朝ご飯って聞いて飛び起きちゃいましたけど、いつも私が作ってるじゃないですか!もう!スミカの馬鹿っ!うー、恥ずかしい……」


大笑いするスミカとじゃれ合うクリスティーナはひとまずおいて、クーにも改めて体調を問う。


「えっと……私も……」


お腹に手を当てて恥ずかしげに笑ったクーの頭を撫でる。


2人が起きた事で安心したのか、俺の腹も中身が欲しいと鳴いて訴えてきた。


「ようし、それじゃご飯にしようか、今回はアタシが作るから、クリスティーナは後で2人を連れていつもの所に来て。」


そう言い残してスミカが部屋を出ていくと、部屋に沈黙が戻ってくる。


……。


クーはそもそも口数が多い方ではないし、俺からクーに話しても言葉の関係でクリスティーナが蚊帳の外になってしまう。


となれば、クーとクリスティーナが喋ろうとして俺が翻訳代わりの行為をするのが一番だが、当のクリスティーナは俺の方をぼんやりと見つめるだけで何を考えているのか分からない。


あの顔は……何も考えていない、もしくは何かを思い出している表情だ……どっちだろうか?


俺の視線に気がついたクリスティーナが顔を背けたのを見て、俺自身が彼女の事を舐め回すように見ていた事に気が付く。


我ながら気持ち悪い事をしていたと思うけど、クリスティーナの綺麗な顔が悪い。うん、悪い。クリスティーナのせい。


責任転嫁……じゃなくて責任の所在の明確化を終えた俺の服の裾をちょいちょいとクーが引っ張った。


「じーっ」


めっちゃ見てる。そりゃもう俺の目に穴が開くんじゃないかってくらい俺を見ている。もしかしてちょっと怒ってますかクーさん。


「えっと……どうされましたか……?」


「私にも構ってください。」


ド直球とか可愛すぎか。


「構うっていうのは……具体的にどのように?」


「ふぇっ!?……あ、えっと……」


考えていなかったようだ。

あせあせと視線を彷徨わせるクーの頭を撫でてやると、目を閉じて喜び始めた、その姿まるで犬。


女性はあまり頭を撫でられるのが好きではないという話を聞くが、クーは例外的に撫でられるのを好む傾向があるようだ。


視線を感じて振り向けば、クリスティーナがこちらをまたぼうっと眺めていた。


これは、アレだ、スキンシップだ、何もやましいことは無い。落ち着け俺、クーは奴隷で、奴隷に求められて撫でているのだ、決して、決して俺にやましい事などこれっぽっちもない。だからクリスティーナの視線に戸惑う必要は断じてない。きっと……おそらく……


わしゃわしゃとクーの髪をかき混ぜて、問う。


「そういえば、どうしてクーはそんなに強いんだ?」


それに対して、クーは何を言っているんですか?と言わんばかりに首を傾げてこちらを見る。


もしかして、あの程度の戦闘能力は持っているのが当たり前で俺が異常に弱いだけなのか?


アルバートは目に見えない速度の突きを放ってきたし、エリスの魔法は圧巻の一言、クリスティーナの身体速度は俺の常識を超えていた。


それと比べればクーの力は3人より少し強いくらいのものなのかもしれない。


冒険者としてやっていけるんだろうかとクリスティーナの方を見ると、答えが出てきた。


「《神剣術の輝眼》の力だと思いますよ。」


神剣術の輝眼?とオウム返ししそうになるのをギリギリで止めて、自分なりに少し考える。


「もしかして、クリスティーナさんの目の色が変わってたのもその……輝眼の力なんですか?」


クーとクリスティーナの戦闘時に一致していた事は、瞳の色の変化だ。


クーは片方だけだが、2人とも瞳が金色に輝いていた。


おそらくそれが《神剣術の輝眼》だろう。


「その通りです。お恥ずかしながら、私が団長をさせて頂けているのも、実は全てこの目の力によるものなんです。」


夜中に使うのは少し危なそうだなという感想はさておき、クーの強さの原因が少し分かった。


「ちなみに黒い瞳になるのは何なんですか?」


「すみません、私が知っているのは舞闘術の赭眼(ちゃいろ)疾槍術の翠眼(みどりいろ)棍暴術の紅眼(あかいろ)轟弓術の縹眼(あおいろ)賢魔術の樗眼(むらさきいろ)盾城術の虚眼(しろいろ)……だけです。」


意外に多いな……


子供みたいな感想はさておき、彼女の言葉からクーの目について考える。


それぞれの目が武器に対する適性を表すようなものであれば、クーがありとあらゆる武器を簡単に扱っていたことにも納得だ。目の色が逐一変わるのも、適性の数が多いからなのだろう。


「もし俺も特訓して目が白くなれば……白か、なんか怖いな……」


漫画のキャラクターにそんなのが居たなと思い出しつつ、ゾンビ映画などを思い返すとやっぱり気持ち悪いの一言だ。


「残念ながら、これらの眼の色は先天的な才能のようなものなので、シンジさんが気付いていないだけという場合を除いては、獲得は絶望的です。」


「絶望的?」


なぜ不可能ではなく絶望的という言い方になったのだろうか?


「……悪魔と取引すれば、手に入るかも知れません。」


なるほど、そういうことか。


一応城の中でも悪魔憑きの概念はあるが、理解ある人は居るようだ。


「不躾で申し訳ないんですけど、クリスティーナさんは悪魔憑きと呼ばれる人についてどう思いますか?」


訊いてみた。

勘繰るのは"相手が思っている事"ではなく"相手ならこう考えるはずだと自分が思ってる事"が具体化されるだけで、実際には意味を成さない。


「私は、特に何も……母が、悪魔と取引をした事があったので、前髪の一部が、そこだけ塗ったみたいに白い房になっていて。でも、母のお陰で今の私があるので感謝してもしきれないくらいです。」


クーが興味深げにこちらを見ている。


クーは先日の段階では悪魔憑きの意味を理解していなかった様子だが、俺の発言を聞いてクー自身が悪魔憑きと呼ばれていることを汲み取ってしまったかもしれない。


「俺は、クーが悪魔憑きだなんだと言われて、腹がたちました。見た目はいいし、性格もいいし、無意識にスリをしたり人殺したりなんて物騒な障害を抱えているわけでもないのに、ただ髪が白いからって理由で嫌な顔されるのは納得いかなくて。」


クーが息を呑む音が聞こえた。


「この国に来て、道も行く宛も分かんなかった俺がクーと出会って、クーの未来が俺に一任された時は旅の道連れみたいな感じでまだふわっとしてたんですけど、この国を回って出会う人の反応を見て、変えてやるぞって思ったんです。見た目だけで人を判断して、その個性を捉える前に遠ざける。そんなのは、勿体ないと思うんですよ。」


先程まで眠たげだった団長はどこへやら、長椅子に座り直して耳を傾けてくれるクリスティーナがこちらを見つめて口を拓いた。


「私も、同じ考えです。母が……苦労していました……」


クリスティーナの母は、王城で働く騎士になるために努力を重ね、この国で2人目の王城内勤務騎士としての資格を手に入れたという。


そんなある日、王城を1匹のドラゴンが襲った。


城の内外を問わずに集められた騎士と、支援の冒険者たちと共に、撃退作戦へと参加した彼女の母は、戦闘の最中に1人の少女に出会ったという。


フリフリの服を着た少女はその場にはあまりにもそぐわず、眼帯を付けていたという。


冒険者特有の奇抜な格好をした少女から、ドラゴンを撃退するための力が欲しいかと尋ねられた彼女は強化魔術の事だと思い力を受け取った。


その後、なんとかドラゴンの撃退に成功したが、被害は甚大。国の総出での復旧作業により、王城は3ヵ月でもとの姿を取り戻した、


気がつけばクリスティーナの母は剣が握れない体になっていた。刃物が怖い。その感情が彼女の中に生起していたのだ。


ドラゴン討伐から髪の毛が一部白くなっていることは話題になっていたが、討伐の立役者ということであまり咎められなかったクリスティーナの母も、それまで使っていた武器が使えなくなってしまったことが分かると、たちまちのうちに王城を追い出された。


その後、王城勤務中に懇意にしていた男性と結婚し、この国では晩婚であったがクリスティーナを無事に出産した。


家事をする上で必要な事だからとナイフ程度の刃物は持てる程度に克服したものの、包丁サイズとなると恐怖が勝るために実家にある刃物は、薪割りのための斧を除いて手のひらより大きなサイズのものは無いという。


クリスティーナの特異な所は、そのように刃物から離された環境であるにも関わらず《神剣術の輝眼》を発現させたことだという。


もちろん才能はどこにでも現れる可能性があるものだが、ある程度の遺伝基質を持つらしく、名のある騎士の家系であったり、2・4親等の家族に別のものでもいいが"才能"のある人間がいたりする場合が多いという。


父も母も、"才能"は持っていなかった。

もちろん、どちらの家も名のある騎士の家系でなければ、親族に"才能"持ちもいない。


国が徐々に発展し、王妃や王女の身の回りの世話のみならず、警護のために女性が必要となってきた時代に合っていたこともあり、クリスティーナの才能が見込まれ、団長に上り詰めたという。


「この瞳は母がくれたものなのだと、私は確信しています。なので、有名になって母の汚名を払拭しようと思っていました。ですが、持ち上げられるのは私の才能ばかり、才能の発現が2・4親等の家族という通例も相まって、母への評価は、私を剣の道から遠ざける悪いものだという批難ばかりでした。」


何が幸いかといえば、クーにそういった恐怖症が無いことだろうか。


それにしても、取引を持ちかけてくる悪魔にも種類があるらしいというのは驚きだ。

外見はともかく、与えるものに対して奪っていくものが異なるという発見だろうか。


これは、何かに引換えて魂を奪っていくタイプの悪魔がいてもおかしくないな……


そう思った矢先、左手に巻いてあるシャルロットの方の鎖が黒いもやを纏った。


「何だ何だ!?」


「それは……まさか……」


知っているのかクリスティーナ。


「レラさんが使っていたその鎖、捕縛用のものですよね?」


「たしか、ギルドで借りた時はそう言われた筈だけど。え、捕獲用だと何かまずいの?」


切羽詰まった様子に慌てるが、クリスティーナは淡々としている。


「今、おそらくその鎖は奴隷契約用の首輪に変わりました。」


「へ?奴隷契約用?」


「はい、その首輪の繋がった先で、儀式が行われたのだと思います。おめでとうございます。」


え、いや、ちょっとまて、何が起きてる?どこで、どうして、誰が、どうやって、なんの目的があって……


「奴隷契約用と捕縛用の違いは……?」


「ご存知無いのですか?」


知らん。そもそも名前を変える必要が無い。どっちも逃げられないような感じの印象だし。


「端的に言えば、奴隷契約用では、主人の死と共に奴隷が死にます。」


へえ、そいつは物騒だ……

「って、死ぬ!?」


クリスティーナはきょとんとした顔をしている。どうやら常識のようだ。


「なん、え!?知らないの俺だけ?嘘だろ、いやいやいや、なんで死ななきゃいけないんだよ。」


「"奴隷はその命に替えても主人を守る"というのがルールですから。」


「え、じゃあつまり、主人を殺して逃げてやろうってのを防止するための機構ってことですか?」


「その契約は捕縛用にもかかっていますよ。問題は事故死した場合です。あとは、命令への服従強度ですね。どうしても嫌だと強く思えば、捕縛用なら辛うじて抵抗出来るらしいです。」


ほーん……そういうもんか。

ではない、なんでそんな物騒な呪いが追加されそうになってるんだ?いや追加されたのか……


見れば鎖の纏っていた靄はすでに晴れている。


「ともあれ、捕縛用よりは奴隷契約用のほうが扱いやすいので、良かったですね。それと、そろそろスミカの方も準備できる頃なので、出発しましょう。」


胸の奥に蟠る不穏な気配は、おそらく原因が分かるまで、どうしようもない事だろう。


面接前の緊張感に似た、幸運の後の不運を待つ気持ちで、クーと共にクリスティーナの後を追う。


◇◆◇◆◇◆◇


スミカの作ってくれた朝食は、肉野菜炒めのサンドイッチだった。


夕飯抜きだった俺とクーはそれをぺろりと平らげ、スミカとクリスティーナの案内で城の入口まで出てきた。


「なんとかって言う男も、試験の後あたりから俺達は既に抜け出したと思ってたのか捜索してる兵士すら見なかったな。」


「そうだ、ボルザットの事忘れてた。大丈夫、思い出したからには懲らしめておくよ。」


グッと親指を突き出して笑顔を見せるスミカの頼もしさといったら、ボルザット……ご愁傷さま。


「そうそう、これを……レラさんクーさんの両名は正式に我々薔薇の騎士団(ロズガーダ)の特殊勤務騎士として採用されます。もし冒険者稼業が暇な時は訓練に来てくださいね。それと、我々騎士団の掟として、異性交友は貞淑にお願いします。不倫、浮気をすればすぐにでも首を切りますので、くれぐれも不貞なきように。」


冗談……ではないだろうな、この顔は。


クリスティーナから、青色に金色の線で花弁の輪郭が描かれた小さなエンブレムを受け取る。

よく見れば、クリスティーナの制服の襟章が同じエンブレムの赤いバージョンのようだ。


「我々は男子禁制の騎士団として、女王陛下と王女様の護衛を主な任務としています。なので、レラさんには、そのバッジを使用する際は元の姿にお戻りになって頂くことになります。もちろん、中に入ってしまえば任務の時以外は女性の姿のままでも、今のようなお姿でも構いませんので、ご自由にお過ごしください。」


クリスティーナから小さなエンブレムを受け取りつつ、貴族・冒険者・王城騎士団からの3つのエンブレムを集めたことに少しの達成感を覚える。


子供から一部の大人まで幅広く人気があるモンスターバトルゲームの主人公のような感じがある。


「そういえばこの小さい方のエンブレムって他人に見せて本当に効果あるんですか?」


「少なくとも平時にはある筈です。もちろん、持っているとは思えない人が使おうとすると怪しまれますね……大きいエンブレムの方は作るのに少し時間がかかるので、出来上がり次第冒険者ギルドの方に送らせて頂きますね。」


それでドラゴンが暴れてた時は二段目の街に入れなかったのか……


「そういえば、アルバートって男知ってます?クリスティーナさんと似た制服着てたんですけど。」


「アルバートさん……団長制服であれば、おそらく王城防衛部隊の第二騎士団長かと……主に二段目と一段目の街の境にある砦を管轄する部隊ですね。彼がどうかしましたか?」


「頭硬すぎてこの前の火災の時に城門通してもらえなかったんですよね。」


「そうですか……真面目な方ではありますが、融通の利かない方では無かったように思いますので。何か特殊な事情があったのかも知れませんね。」


エリスが強いって言ってたのは騎士団長やってるような男だったからか。


あの時は俺にも結構手加減してたのかもしれないな……別に感謝しないけど。


「スミカさん、色々とありがとうございました。」


「いやあ、クリスティーナが引き留めて悪かったね。」


「ええっ!私のせい!?スミカが試験中だって話するから私が最終試験の相手をしようって思ったのに、ひどーい!」


じゃれつくクリスティーナとスミカに今一度礼を述べて歩き出す。


日も高くなった昼前、先程からもやもやと心の片隅で俺を苦しめる不安を解消するため、俺達は鎖を頼りに街を降りていく。

瞳の秘密を明かす回ですね。

クリスティーナは、お母さんの持つ才能が"戦闘時のみに発動する"という条件を持っているので、彼女の目も戦闘時のみ金色になります。


閲覧ありがとうございました。

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