表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸運な俺と悪魔憑きの乙女  作者: 双さん
20/36

脱走者と協力者

回復魔法が得意だ。

しかし、いくら回復魔法とはいえ自然回復には限界がある。だから切断された腕や抉れた腹は治らない。

だから俺は身を守った。


甲羅の武器屋(ウェポンメーカー)と呼ばれた男の話

男は莫大な魔力を誇る魔法使いだった。

彼は肉体、主に血液を代償として武器を作る魔法を得意としていた。


彼が編み出した独自の魔法はひたすら黒く、強固な武器を作ることで有名で、彼は常に黒い一つの大きな盾を持っていた。


彼の最高傑作にして絶対に壊れないと言われる盾。

狩った魔物、処罰した犯罪者、そして、自分の左腕を使って作ったものだ。


彼は武器屋、その名の由来は背負っていた武器の数に由来する。

斧、槍、剣、棍棒から飛び道具まで、ありとあらゆる武器を錬成してきた彼は、隻腕ながら数多の標的を屠る冒険者として名を馳せていた。


しかし臆病者の彼は盾を作った直後から決してそれを離さず、それまでに錬成して背負っていた武器は盾に収納し運搬、盾から出てくる武器の数は無限と言われる程であった。


呪われた鎧である臆病者の服(ヴェステヴィグラッコ)を着込み、その弱点である背中を盾で覆って軽く強靭な武器を操る。


彼の作る武器に両手持ちは有り得ず、その盾は彼の武器や周囲の血肉を吸収し更なる武器の材料とした。

だが、どんなに臆病で強い彼も、勝てないものがあった。


老いだ。


彼を確実に弱らせる老化現象は、彼から筋力、聴力、視力、そして精神力を奪っていった。

老化現象に回復魔法は意味を成さない。それが自然の摂理だからだ。


そして、彼はひっそりと、孤独にその人生を終えた。

誰かに殺されることを恐れた彼の最期は、冷たい雨の降る日の小さな洞窟の中だった。


ありとあらゆる血液、死臭、骨肉、武器を内包した盾は、息絶えた持ち主をも回収し、遂にその呪いを手に入れた。

高度の回復魔法が使える人間専用の武器生成防具。

そんな、とある武器職人の記憶。


◇◆◇◆◇◆◇


目が覚めた。


どこかの誰かの知らない思い出の夢、出てきたのは枕替わりにしていた盾《武器屋(ウェポンメーカー)》そのものだった。

それにしても、夢は記憶の整理をしているって話を聞いたことがあるが、夢の中の"俺"は見たこともない男だったな。


珍しく鮮明に記憶に残っている夢について少し考えてから辺りを見回すと、いつの間にか近くに寄ってきたクーがすぐ隣で寝ていた。


そしてシャルロットの姿が消えている。

まさかと思いリュックの中を探してみると月の杯も消えていた。


状況から考えて、夜中に兵士のおっさんがここにやって来てシャルロットと交渉、彼の身柄の解放の代わりに月の杯を渡した。というだろう。


左手を見ると、捕獲用首輪の方の鎖が姿を現し壁に向かって伸びている。この様子だと恐らくシャルロットは既に城を脱出しているだろう。

まあ彼にとっては爺さん最優先だろうし逃げるのは当たり前か……


そもそも大した苦労もなく犯人を見つけた代償が牢屋に入ることだけなわけがないというのは予想できる事だった。

俺の幸運のことは俺が1番よく知っている筈なのに甘く見た俺が悪かったんだ。嘆いていても仕方ない。


ただ俺の幸運で俺が不幸になるのはいいとしても、クーは良くない。

そう、これから願うのははあくまで他人の為の幸運だ、クーを無事に外に逃がすためには俺の幸運が必要なんだ。


開け鉄格子(オープンセサミ)……なんてな。」

俺は俺の幸運が嫌いだが、信用はしている。


そっと手をかけて力を込めると、鉄格子の扉が音を立てて難なく開いた。

どうやらおっさんが鍵を閉め忘れたようだ。


「クー、起きろ。」

俺が声をかけると、クーはぱちりと目を覚ました。


「おはようございます、シンジさん」

「ああ、おはよう。早速だけど逃げるぞ。」


寝起きでぽやっとした表情のまま首を傾げるクーだが、今は行動してもらうのが先だ。

剣を腰に提げるのを確認してすぐにクーの手を引いて牢屋から出る。


「クー、道順覚えてるか?」

「はい、こっちです。」


対面する形に連なる牢と牢の間に伸びる廊下を出口に向けて進みながら訊ねると、頼もしい返事が返ってきた。


「出て左です。」

扉をそっと開けて外を確認すると、これまた別の廊下に繋がっていて、見たところ人の姿はない。


クーの指示通り左へと進むと、前方の曲がり角の方から何やら声が聞こえてきた。

何とも聞き覚えのある渋い声は俺達を牢屋に入れたおっさんのものだ。

他にも数人の声が聞こえる。


まっすぐな一本道で背後の曲がり角までは遠く逃げきれないと判断した俺は、クーの手を引きながら大慌てで近くの適当な扉の中に入る。


掃除用具入れとかであってくれ!

と願ったものの現実は非情だ。

「アンタ誰だい?」

女性の声がした。


俺は今、閉めた扉に顔を向けて立っている。


「クー……ここがなんの部屋か分かるか?」


小声で訊ねる。


「休憩室でしょうか?女性が一人います。」

「よし、アレを取ってくれ。」

アレで通じるあたりがやや悲しいが、この現状を突破するにはこれしか方法がない。


「アンタさっきからゴニョゴニョ何いってんだい?さっさとこっち向きな。おっと、怪しい真似したらその股間蹴りあげてやるから覚悟しなよ?」


男だってバレてるじゃないか!

だがここは押し切るしかない。


ゆっくりと頭の後に手を回し、ヘアピンを後頭部に装着しながら振り返る。

何とも言えぬ感覚が体を走り、毎度の事ながら思わず目を瞑る。


感覚が落ち着き目を開ければ、驚愕の表情でこちらを眺めるハネっ毛で茶髪ショートの女性が下着姿に武器であろう大きな斧を持って立っていた。

その斧、室内用じゃなくね?というか対人用でもなくね?


「な、アンタ、何もんだい?」


暴力的な大きさの斧を手にしているものの、表情からして戦意は失せているようだ。

掴みは上々か。


「お騒がせして申し訳ありません。私、冒険者ギルドのレラと申します。事情を話すと長くなってしまうのですが、こちらの兵士の男性に監禁されていた所をなんとか逃げてきたのです。助けて下さい。」


我ながらよく舌が回るものだ、中学の頃にヤンキー共に絡まれてきた経験がこんなことに役立つとは……


「一つきかせておくれ、男の兵士ってどんな奴だい?」


ギルドのエンブレムを提示した効果もあってか、女性の態度が協力的な雰囲気に変わる。


「なんといいますか、髭が濃くて、声の渋い、30~40代だと思うのですが、筋肉が結構あって、最初は真面目そうな方だなと思っていたのですが、まさかあんなケダモノだったなんて……」


よよよ、という演技も必要ないだろう。

女性はあの男に心当たりがあるのか途中から眉をピクピクと怒りに震わせて聞いていた。


「あのヤロー何かやるんじゃないかと思っていたけど遂にやりやがったな……レラだっけ、アタシに任せな。アンタはアタシが責任を持って城から連れ出してやるよ。」


例の男に相当の鬱憤が溜まっているのか、目の前の女性は俺の頭を撫でながら、心強い言葉をかけてくる。


「ありがとうございます、その……お名前を伺っても宜しいでしょうか?」

「アンタの言ってるのはボルザットって奴だと思うよ。他人の手柄を自分がやったように見せかけて王様からの評価を不当に上げるいけ好かない奴だ。人に言えない事の一つや二つやりそうだとは思ってたんだけどまさか……」


ちがうそうじゃない。

「えっと、その、貴女様のお名前を伺っても宜しいでしょうか?」

「へ?アタシ?やだねえ!早く言ってよ!あはは、馬鹿みたいじゃないか、もう。アタシの名前はスミカ、薔薇の騎士団(ロズガーダ)の副団長。名前くらいは聞いてるんじゃないかい?」


筋肉のしっかりついた大柄なスミカはたしかに頭を使うタイプというより団の雰囲気を和やかにしたり戦場で士気上げをしたりするタイプといった印象がひしひしと伝わってくる。


「すみません。存じ上げておりません。」

「そっかー。まあ、団長のクリスティーナが有名過ぎてアタシらなんて背景の有象無象だもんなあ……ま、いいや。とにかくよろしくね。アンタは今からアタシらの仮団員だ!着替えるまで少し待ってて。なに、すぐに連れ出してやるよ。安心しなって。」


安心しなと言われると催眠をかけられたようにほっとした気分になるのは彼女の人柄のせいだろうか。

そんな感想を抱いた時に、突然背後の扉が騒がしく叩かれる。


「おい、誰か居るか?脱獄者の捜索だ!開けろ!いないのであれば3つ数えた後に開けるぞ!」

声は紛れもなく例の男


「レラ、アンタの言ってたのってこいつかい?」

スミカの確認を全力で肯定すると、スミカがニヤリと口角を上げた。

「聞こえてるよボルザット、今着替えてるんだ、少し待ちな!それに怪しい奴なんて居ないよ!」


スミカの声を聞き大人しくなるかと思いきや更に声が響いてくる。

「そう言われて引き下がるわけには行かぬ、月の杯を盗んだような奴だ、どこに隠れるか知れたものではない。」

マジかよ引き下がらねえのか。


「レラ、その服脱ぎな。変化の魔法使いなんて初めて見たけど、今はそのだぼったい服は逆に目立つからね。」

大きなタオル……というかただの布を投げつけられた。床に落ちたそれを慌てて受け取り、防具を脱ぐ。


「早くしろ、3……2……1……」


そうこうしているうちに外のボルザットは3カウントを進め、扉が壊れるのではないかと思えるほど大きな音を立ててボルザットが入ってきた。


「なんだ、悪魔憑きがいるじゃねえか。それに見たことない女も居るな。」


こっちを見るな変態ジジイ、

女の裸体を男に見られるというのはここまで精神的にクるものかと必死に胸と股間を隠す俺。

投げつけられた布は思ったよりも小さく、もはや焼け石に水だ。


「ボルザット、アンタなに乙女の肌をジロジロ見てんだい、ぶん殴るよ?」

「おー怖い、やっぱ筋肉ダルマは脳ミソまで筋肉なのか?こいつが月の杯を盗んだ犯人だ。」

「何言ってんだか、この子達はアタシらの期待の新人だよ。分かったら出ていきな、少なくとも女の聖域に土足で立ち入るような男に話すことなんて無いね。ほら、3、2……」


そう言ってスミカが斧を構えてカウントを始めると、ボルザットは恐々としたら様子で部屋から出ていった。


「けっ、追い出されるくらいなら入ってくんなっての。で、レラ、あの男が言ってたのって本当かい?」

さっきは説明を省いたが、確認されてしまっては喋る他無いだろう。


「実は……」


シャルロットの事は省きつつ、スラムの老人宅で見つけた月の杯を届けたら不当に押収され、ここのすぐ近くの牢屋に入れられた後、実際には受けてないがアレコレの苦痛を受けたと伝える。


「かーっ!そんな事が!?アンタ良くやったよ、偉いねえ。うんうんよく頑張った。そんじゃアタシも本気で付き合ってあげるよ。アイツには一度と言わず痛い目に合わせないと気が済まない。」


突然現れた見ず知らずの冒険者ギルドの者を名乗る怪しいヤツより同じ城で働く男に敵意を向けるスミカも人がいいというか騙されやすいというか……少なくともいまはボルザットの信用の無さが有難い。


「そんな、私はこの城から出ていつもの生活に戻れればそれでいいんです、彼に逆恨みされそうなことはなるべくしないで平穏に……」


本心だ。

ああいった輩は無駄にプライドだけ高い事が多いから、下手に刺激すると街中で刺されたりされかねない。


「なにいってんだい、ああいうのは一度ガツンと"こっちの方が強いんだ"って示しておけばいいんだ。さっきだって尻尾巻いてアタシから逃げただろう……?実は前に城の兵士全員でやる剣技会ってのでアイツをボコボコにした事があってね。ああ、あいつの無様な顔思い出しただけで笑えてくるよ。まあ、そんな理由であいつはアタシに強く出られないってわけさ。」


いかにも武闘派な意見。

確かに有効なのかもしれないが、それは力を持つものだけが許される特権的な方法だ。


「ほらそんな顔しないの、折角の美人が台無しじゃないか。アンタが嫌ならアタシは無理強いしないよ。っても……困ったねえ、アンタの連れは結構目立つから、なんて言い訳しようか?」


「こういう時は可愛すぎるというのも困りものだなって思っちゃいます。」

「ふぇ!?」

こうやってクーの話題になった時に褒めると、クーが察して赤くなるのが可愛いと思う。

少し意地悪だろうか?


「その点ではアンタも人のこと言ってられないで、しょ!」


()った!?

スミカのデコピンが頭に炸裂し、軽く意識が遠のく。

しかし頭が割れるほどの痛みによって現実に引き戻される。


なぜかオートで発動する回復魔法のおかげで痛みはすぐに消えていくが、なんて凶悪なデコピンだ。やはり騎士団の副団長にもなるとこれくらいは普通なのだろうか……


「へえー、やるねえ、流石冒険者なんて危険な仕事に就いてるだけあるわ。アタシのデコピンに気絶しない奴なんてウチの騎士団の中でも10人といないんだけど。」


「気絶させる気だったんですか!?」

「あはは、バレたか。」

「バレたか、じゃないですよなんなんですかもう!」

「いやあ、こんなちっこい女の子2人でなれる冒険者ってのはどれだけの実力なのかなと思ってさ。思ったより強くてビックリしたよ。」

力試しがしたくて会話の途中で実施しちゃうって本気で馬鹿だろこの人……


「それ、今までに何人どんな結果がでてるんですか……?」

「えっと、気絶した奴で今残ってるのが1人、気絶しなかった奴が7人、避けた奴が1人……だね。」


「9人にしか試してないんですか?」

「あちゃー、それも知らないか。アタシら薔薇の騎士団は団長含めて10人、任務は……おっと、アンタらは団員じゃないんだった。黙っとかないとクリスティーナが怒るから秘密ね。」


たったの10人で騎士団……

クリスティーナは……女性の名前だといいが、もしかして女性のみで構成されているのだろうか?

気になりはするが、今はそれよりも大事なことがあるのだったと思い出す。


「そういえば、これからどうやって私たちを脱出させる予定なのですか?」

「んー、新人予定者に城の案内をしていて、案内が終わったから家に返すところ。って感じかな。」


副団長直々の提案とはいえ少々の不安は残る。

だが、この城での風習とかイベント事に疎い俺達が口を挟む程では無いのかもしれない。


「では、それでよろしくお願いします。」


吉と出るか凶と出るか、なんて考え方をしたら負けだとは分かっている。

吉と出てもその後が怖いし、凶と出ればどんな不幸が待ち構えているかが怖いのだ。

それでも、今はそんなスタンスしか取れないほどに情報不足だった。

同輩が身代わり従者を書いていますが、あれくらいストンとまとまりのある終わり方で書きたいものです。


閲覧ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ