転生準備
目が覚めた。
正面は白一色。
一瞬病院かと勘違いしたが、周りを見回してみるとどうも違うようだ。
夢の中の方が正しいだろう。目が悪くなる眼鏡をかけた時のような、ぼんやりと輪郭の無い身体がその証だ。
夢の中で夢だと自覚するのも珍しいと聞いたことがあるが、意識だけはハッキリとしている。
試しに霞んだ体を霞んだ指で摘まもうとしてみたが、なんとも不思議な感覚が返ってくるだけ。
奇妙な明晰夢の光の中でぼんやりと浮かんでいると、いつの間にか目の前に人が現れていた。
「頭上に気を付けてねって言ったのに。死んじゃったんだね。」
「お前、なんで。」
ぼんやりとした世界に嫌にくっきりと存在するのは先ほどの占い師。
男か女か分からない外見も声もあの時のままだ。
「なんでって言われても、ここ僕らのメイン活動スペースだし、逆に君がここではイレギュラーなんだよ?」
夢の中だからなのか占い師の言葉をすんなりと信用してしまう。
「へえ、そりゃ凄い……じゃねえ、お前さっき俺が死んだって言ったか?」
あまりに自然に聞き捨てならない言葉を口にしたせいで反応が遅れてしまったが、俺が死んだという言葉に妙な現実感がある。
「うん、言った、植木鉢に頭蓋骨潰されて即死。大丈夫?痛くなかった?」
言われて思い返せばそんな記憶があるような無いような……
いや、確かにある。危ないと上から声が響いて見上げた先に、黒くて丸い何かが存在していた。
その後は……首の後ろの所から聞きたくない音がして……
「痛みは無かった。けどそれなら今の俺はなんだ?というかここはどこだ?」
「気になる?」
「何焦らしてんだよ今は焦らす必要無いだろ。」
「ふっふっふ、まあどうせ忘れちゃうけど教えてあげよう。ここはキミたちの言う神の世界だ。GodにしてGodsなんだよね、僕たち。それで、君をここに呼び出したのは今回の事故に関しての……そうだな、お詫びかな。」
「お詫び?」
「うん、僕たちって作った世界にあんまり干渉しないのが普通なんだけど、今回久々に触れ合ってみたくてキミ達の世界に入ってみた。そしたらキミ達随分と冷たくてさあ?しょんぼりしてたんだよ?そこで君に会って、お土産を交換したんだ。」
お土産だったんだこのペンダント……
というか余りにもノリが軽い、なんだよ触れ合いって、俺たちはペットか何かか?
「いやあ、気に入ってくれたのはうれしいんだけどさ、キミすぐに死んじゃったじゃん?あれ僕のプレゼント眺めてたせいじゃん?」
「おう。」
「でしょ?僕も流石に罪悪感というか好奇心というか申し訳ない感じの雰囲気になってさ、君に第2の人生を楽しんで貰おうと思って。用意しました。」
申し訳ない感じの雰囲気ってこいつ全然悪びれてねえな。
と思ったのも束の間、占い師の言葉と共に現れたのは、背の小さいフリフリが沢山ついた黒いドレスを着た右目眼帯の少女だ。
「どうも……」
聞こえるぎりぎりの大きさで挨拶をしてくるその少女と俺の間に黒い箱が出現する。
「じゃあキミ、あとはこっちに頼んであるから、僕はそろそろ失礼するよ。じゃ!」
そう言い残して占い師は姿を消した。
「じゃ、じゃねえだろなんだアイツ。」
「あの……」
そうそう、まだ途中だった。
「えーと、君が俺の処遇を決めてくれるんだよな?」
「はい、お兄さんには、私の管理する世界で新たな人生を送って頂きます。」
随分と腰の低い対応だ。
というかこの子も神様なのか。
というか神様がこの痛々しいゴスロリの格好ってどういう世界だよ。
「スミマセン、威厳ないってよく言われるんですけど、私こういう服好きで……」
見た目とは裏腹にやはり神様らしく、俺の心を読んで対応してくる。
まあ見た目インチキ占い師よりかは幾分かマシだろう。
それでも神を自称する厨二病まっさかりガールにしか見えないけども。
神様にも色々いるってわけだ。
「さっきのセンパイには逆らえないんです……あっ、でもお兄さんには私が責任を持って、良い人生を迎えるためのサポートをさせて頂きますので。」
「サポートとは心強い。具体的に何してくれるんだ?」
「えっと、お好きな能力を……あっ、あまりにも強すぎると出来ないんですけど、設定可能な範囲であれば……あっ、お兄さんがこちらに居られる残り時間も少ないので、早めに仰ってください、 何でも良いので。可能な範囲で実現しますから、どうぞ。」
能力とか言われても思いつくことと言えば体が伸びるとかバラバラになるとかの大衆マンガで読んだことのあるものばかり。
せっかくだしそういった摩訶不思議系も楽しそうではあるが、能力のわりにデメリットがでかいのが難点だ。
となれば、いかにもな設定よりも、生活基盤を固めるようなサポートを貰った方が身のためだ。
「じゃあ、まず食いたいものがいつでも食える、風呂に入れる、怪我がすぐ治るとか怪我しないとか……あと出来れば俺の不運を消してほしい。護身術……いや武術とか関係なしに強くありたい……えっと、どんな所まで言っていいんだ?」
余りにも強すぎると駄目だと言われたばかりだが、どれ程の能力を強すぎると呼ぶのか神様思考はよく分からん。
「あっ、だいたいなんでも大丈夫です。ちゃんと通貨の概念もありますし、皆さんの要望通り魔物と呼ばれる生き物も住んでますし魔法も使えますよ。他の方々の願いとしてはお金持ちになりたいとか不老不死とか……は流石に無理ですけど、長寿とか王様になりたいとか。」
王様が可能ならゴム人間も可能なんじゃないかと思うが、そんな根性と才能で困難を物理的に解決するような人生は嫌だ。
歯車とか無いだろうしな。
「んー、でも魔法はたくさん使ってみたいな、あと、透明人間?透視?ああ、女の子と仲良くなりてえ。カッコイイ系もカワイイ系も、とにかく顔がいい人達と仲良くなれるとか……あとは……金には困りたくないな、そうだ、誰とでも喋れるようにしてくれ。それに……」
文字も読めるようにして欲しかったのだが、目の前のゴスロリ女神は慌てて俺の言葉を遮りながら喋り始めた。
「あっ、時間ですお兄さん。スミマセン、今仰っていた事は可能な限り実装しますので、行ってらっしゃい。」
突然のタイムリミット宣言と同時に急激に体が後ろに加速しているような感覚に襲われ、背後から伸びた黒い闇が少女に掴みかからんとするも少女はそれに合わせて小さく遠くに離れていく。
俺の願い事が思っていたよりも多かったのだろうか?
これで神なるものに一泡吹かせることが出来たなら万々歳だ、ざまぁみろ。
さて、新しい世界と言っていたがどんな感じなのだろうか?
魔物とかなんとか言ってたし、下手なところに放り出されなければ良いのだが……
といっても、飯と風呂については頼んだし、怪我についても頼んだのだ、溶岩の真上とか極寒の地とかでも無ければ問題は無いだろう。
落ちて、落ちて、落ちる。背後の闇に向けてどんどんと落ちていく。
少女と居た光の空間はどんどんと小さくなり、一つの忘れ物に気がつく。
服について頼むの忘れていた。
そんな小さな後悔を塗りつぶすように、遠く離れた白い点は遂に無くなり、世界は黒に覆われた。
神治君にどんな祝福を与えるか迷いますね。




