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幸運な俺と悪魔憑きの乙女  作者: 双さん
18/36

依頼受注と正式加入

マリア武具店で試着を済ませ、買い物を終えた俺達はエリスと別れ、丁度店仕舞いだというマリアさんと共に洋服店の上にあるマリアさん宅に戻った。


次の日、エリスの大人買いで十分に利益が出たからと客引きを免除された俺とクーは、携帯電話の有り難さを再認識しながらエリスと合流し、冒険者ギルドの建物までやってきた。


「さて正面玄関、昨日も言ったけどここで依頼の受付をしてるよ。」

そう説明しながら扉を開けたエリスに続き、建物の中に入る。

外から入る日の光によって所々が明るく照らされた室内は狭く、掲示板に貼られた紙が飛ばないようにするためだけの場所だと言うことが見て取れる。

幅だけがやたらと広くて奥行のない室内には入口の丁度正面に郵便受けが設置してあり、その左右に掲示板が立っている。

掲示板の片方は整然と依頼書と思われる紙が隙間なくびっしりと貼られていて、もう片方は乱雑に貼られているが数は少ない。


「こっちの整頓してあるのが受付中で、こっちの雑なのが進行中の依頼ね。二人とも文字って読めたっけ?」

クーの分も首を横に降る。

「そっか……じゃあとりあえず覚えておくべき文字と依頼書の重点の読み方を教えるね。」

読み書きと聞いて慌ててリュックから紙とシャーペンを取り出すと、エリスが感嘆の声を漏らした。

「随分上等な紙を持ってるね。じゃなくて、覚えて欲しいのは……」


そう言ってエリスが伝えたのは三点。

依頼書の種類は主に[討伐]と[捜索]、そして[護衛]の三種類。

依頼主は個人、団体、国家の三つ。

あとは任務遂行人数。


「数字はこう。って大丈夫?」

「諦めそう……」

「すぐには難しいと思うけど……まあ、ここ以外は頼めばバーボンが読んでくれるからこれだけは覚えておいてね。代読する時に無駄も減るし。」


エリスの正論を聞きながら書き取りを終え、掲示板の他に気になっていた事を尋ねる。

「あの机の上にたまった紙は一体……?」

「あー、あれは板に貼りきれなかった依頼たちだねえ……個人依頼で報酬が少ない奴はまとめてあそこに乗ってるよ。気が向いたら見てみると良いかも。」


かなりしょうもない質問にも関わらず

「なんというか、その、何から何までありがとう。」

「いやいや、これくらいなら別にお礼なんていいよ。あっ、見てみて!これ、大型ドラゴンの討伐依頼が来てる。依頼主はいくつかの貴族たちが一緒に出してて、『参加人数は二十人まで、ドラゴンの持った財宝の半分を納品することで依頼達成証明とする。』だって。」

「それって俺が参加したら報酬としてドラゴンの爪とか貰えたりするんですかね?」


「ドラゴンの爪かあ……珍しい素材ではあるけど……クーちゃんの奴隷契約の解除に使うの?」

「実は読心術とか会得してたりしますよね?」

抗うつ薬として有名なのに何故そんな事を知っているのか分からなくて思わずツッコミを入れてしまった。


「にゃはは!そんな訳ないじゃん!ドラゴンの爪って研究者でもない私達が使いそうなのは奴隷契約の解除用か鬱病の薬位しかないもん。それにシンジ君に家族で鬱病な人が居る雰囲気じゃないでしょ?だったら答えは一つだよ。」

「なるほど……あ、依頼は参加でお願いします。」

「はいはい。クーちゃんも参加するよね?」

そうか、俺は一人で行くつもりで居たのだが確かにクーが一人で待つのは大変だろう。

「クー、ドラゴンの討伐依頼に参加しようと思うけど一緒に行くか?」

「はい、シンジさんの行く場所ならどこへなりともお供します!」


ああ、いい従者……いや奴隷だから拒否権無いだけか……くそう、まるで俺が強要してしまったみたいじゃないか。


「ぷぷぷ、シンジ君今の物言いに後悔してるでしょ?」

無言の返事をする。肯定だと見破るだろう。

「分っかりやすいなー、本当、面白いくらいに表に出てくるね!」

「はいはい、どうせ感情も隠せない馬鹿ですよーだ、すみませんでしたね。」

「あはは、そんな怒らないでよ、いい事かどうかは別として私はその特徴好きだよ。面白くて。」

「褒めてくれてるってことにしておきます……」


けらけらと笑うエリスは放置して、他にどんな依頼があるのかを見て回る。

討伐依頼、団体、八人。討伐依頼、個人、六人。捜索依頼、団体、十五人……

ふと、掲示板の一番左上に貼られた、汚れた紙に目が止まる。

討伐・捜索の依頼で国家権力によるもの、三人までの依頼。


「あー、それかあ。それも国家を揺るがす大事件だねえ……」

思わぬ言葉に好奇心を揺さぶられ、内容を問う。

すると、エリスは依頼書を見ることもなく諳んじ始めた。

「大泥棒の捕獲又は討伐の依頼だね。数多の貴族の邸宅と王城から貴重品を盗んだ容姿不明の泥棒を捕まえてくれっていう無理難題だよ。」

「あー、確かに誰もやらなさそうな依頼っすね。」

エリスの無理難題という評価に納得した俺に対して、エリスが再び確認を取る。

「どうする?やる?15年も前の依頼だけど……」

「ふっふっふ、実は俺、探し物とクジ運は他人に誇れる部分なんですよね。」


まあ、大抵壊れてたりとか碌なことが無いけどな。


「へえ、じゃあやってみようか。ここにサインして。」

言われた場所に名前を記入し、依頼書を受付中の壁に貼り付ける。


「報酬は300左金貨、王城から盗られた月の杯と盗人の身柄を回収することで依頼達成と認めてくれるってさ。盗人の生死は問わないって。月の杯の絵はこれね。」

数字を連ねるタイプの表現方法で助かったが、300と書いてあったのは報酬金額だったのか……

とはいえ情報が杯だけでは無理難題にも程がある。


「精巧な贋物を作って提出した例とか無かったんですか?」

「あったよ?そりゃもう沢山。だけど贋物を王城に持ってった人は皆帰ってこなかったんだよねえ……」


あっ、死んでるなこれ……


とはいえ、盗人を探すなら実際に盗まれるタイミングで捕まえるのが一番だ。

リュックから財布を取り出して銀貨を3枚抜き取り元に戻す。

抜き取った貨幣の方はポケットにポイだ。


「他の依頼はまた後日に受けるとして、会員証貰ってエリスさんとはお別れって感じですかね?」

「そう、なるかな……あっ、シンジ君は昨日の魔力測定をもう一回やらなきゃだね。」

依頼書の確認を終えて建物の横の小路に行こうと、そんな会話をしながら通りに出た瞬間。

ぽふんという衝撃と共に、一人の少年が懐に入ってきた。


「うわ、ごめんよ!ちょっと急いでるから先に……」

「まあ待て少年、怪我は無いか?」

咄嗟に捕まえた細い腕を引っ張り近くに寄せる。


俺の不運を信じれば、こいつが例の盗人だろう。

幼さの見える顔に肉付きの悪い細腕、顔や身体からは性別の区別は出来ないが、服装は少年のそれだ。

ボサボサの頭にはミニチュアダックスフンドのような垂れた耳が生え、尻尾が左足の外側に見える。


「大丈夫だよ!ぶつかってごめんって。今急いでるから離してくれないかな?」

漫画で見た事のあるセリフが出てくると怪しく感じてしまうのは、良くない傾向なのだろうなと思いながらも口を開く。

「クー、カバンから黒い板を取り出してくれるか。」


すぐさま行動に移るクーから手渡されるはずのケータイを待ちながら自らのポケットを漁る。

先程入れた小銭が消えていた。


「少年、悪いけど俺のポケットに入っていた小銭を知らないかな?」

ドキリとした表情をしたような……してないような。

「知らないよそんなの。もういいかな?本当に急いでるんだ。」

人の表情の機微に疎い俺は、少年が本当に焦っているように見える。


「シンジさん、これですか?」

ゴソゴソとリュックを漁っていたクーから手渡されたケータイを確認し、クーに感謝を述べる。

「少年、これは君の真実の姿が写る道具だ。申し訳ないが、これで君を撮らせてもらう。別にやましい事がないなら一瞬で終わる、我慢してくれ。」


了承は得ずに写真を撮る。

ピロリン♪

「な、なんだ今の!?」

「ああ、気にする必要は無い。時間を取らせて悪かったな、もしかしたらまた会おう。」


少年の手を解放し、逃げていく姿を見送ってから、手元に残った彼の驚いた表情を確認する。

これくらい綺麗に撮れていれば情報収集も出来るだろう。

「なんで逃がしちゃったの?」

エリスの問いに、ケータイの画面を見せながら説明をする。


「彼の顔はここに残ったんで、今はやることを済ませて、後で聞き込みをするなりして彼を捕まえに行くつもりです。」

「へえ、珍しい道具を持ってるんだねえ。これも呪いの品?」

「どうでしょうか?魂を食われるなんて言い伝えもありますけど、どうですか?一発撮られてみます?」

俺の提案に対してエリスは頬が引き攣った笑みを返してきた。

「冗談ですよ。いつもの仕返しです。」


してやったりである。


「ともかく、先に冒険者ギルドの会員証を貰わないと、アルバートみたいな貴族に支払い拒否とかされそうなんですよね。あと捕獲用の道具も借りられれば欲しいですし。」

俺の冗談にぷうと頬を膨らませたエリスは置いて、クーと共にギルドの裏口を開ける。

「あっ、待ってよ!なんで無視するの!もー!」


エリスさんも意外と可愛い所あるんだなあ、などの感想はさておき。ギルドの建物の中に入った俺はまっすぐカウンター席に向かう。

「来たか坊主、朝飯は食ったか?」

「あれ……昨日もこの会話しなかったっけ?」

まさかの二次試験かと身構えると、気を取り直したエリスが補足してきた。


「バーボンはギルドメンバーに料理を振る舞うのが趣味だからね。」

「趣味ではない仕事だ。」

「……お金取られるけど。」

「取るんだ……でも丁度いいか。バーボンさん俺の分で味薄めの肉料理貰えますかね?クーは何食べたい?」


「私は……何にしましょうか?」

何にしようか?

「私のオススメはスクランブルエッグサンドだよ。」

戸惑うクーに助け舟を出したエリスの言葉に従い、クーに同意を得てからバーボンに注文する。


「こっちの食べ物ってよく知らないんですけど、パンとか米とかあるんですかね?」

「コメってものは知らないけど、パンはいろいろ流通してるよ。」


嵯峨宮さんの所では麦飯が出てきていたが、なるほど、白飯の素材が無ければ料理もあったものではない。

日本が恋しい。今頃は母も父も俺の葬儀の準備をしているのだろうか。

帰りたいという思いはあるが、この世界で30年以上生き抜いてきた先人がいると日本に帰れる可能性という希望すら持てなくなる。


「でも俺は確かに幸運なのかもしれないなあ……」

ふと、そんな風に感じた。


こっちの世界に来て、言葉に不自由したことはないし、マリアさんに初日から助けてもらって、エリスに職を斡旋してもらった。嵯峨宮さんの過去に比べればたしかに幸運だ。


今まで、いい事の後には悪い事が付きまとってきた。

"幸運は決して幸せを運ぶものではない"

それが、これまでの人生の教訓だった。

必ず代償を要求してくる幸運を遠ざけるように、俺は地道に生きてきたつもりだ。


少しでも運の介入する余地を作れば、俺の運命は容赦なく恩を押し付けて、大事な所で対価を奪っていく。

「シンジさんが幸運なら、私はもっと幸せですね。」

先ほどの俺の言葉を受けて、クーが恥ずかしそうに答えた。


そりゃまた何で?

と聞きたいが、クーの幸せ自慢を聞けば見悶える程度では済まなさそうだ。


それなら、もっともっと幸せになってやろうぜと口にしようとした時。

「待たせたな。」

丁度バーボンの料理が出来た。


俺の前に出たのは皿の上に大きなサニーレタスっぽい葉っぱ、そしてその面積の5分の1程の鶏肉と千切り野菜の炒め物が乗っている料理。


対してクーの前に出された皿の上には、手のひらサイズの小さなフランスパンにレタスのような葉っぱとスクランブルエッグが挟まったものが二つ。

フォークが付いていない所から察するに、どちらも手掴みで食べるようだ。

「いただきます。」

俺に習ってクーも手を合わせる。

「お、美味え。」


広げられていた葉で炒め物を包み口に入れると、瑞々しい葉のシャキシャキとした食感と、炒め物に付けられた少しピリリとする辛さがなんとも美味しい。

丸めて片手で食べられる大きさだったにも関わらず、お腹には十分に食べたと思える程のズッシリ感があり、物足りないかと思いきやかなりの満足感がある。

ぱくぱくと一心不乱に食べきってしまったが、クーのことを考えていなかった。

急かしてしまったら悪いなと思いクーを見れば、小さな口でもきゅもきゅと熱心に食べている。しかも既に二つ目に突入済みだ。


しかし俺が食べ終わったのに気がつくと、クーは急いでパンを口に詰め込んだ。

リスのように頬を膨らませているクーによく噛んでゆっくり飲みこむように伝え、口の端に着いたおべんとうを摘み食いする。


「お、こっちも美味いな。」

卵についた胡椒と思しき調味料の味が絶妙だ。

見ればバーボンの口角が上がっている。


「あ、そういえば、会員証ってどうなってるんですか?」

「おお、そうだな、これだ。」


渡されたのは黒革の刑事ドラマに出てきそうなエンブレムホルダーだった。

ちなみにクーのものはエリスと同じ赤色の革で出来ている。


パカパカと開くホルダーの中には既に冒険者ギルドのエンブレムがついていて、その輝きがどことなく誇らしい気分にさせる。


「じゃあ、あとはバーボンに任せるね。」

こちらが食事を終えるのを待っていたのか、エリスが俺達の正式なギルド加入を確認すると席を立った。

「ありがとうございました、エリスさん。」

「これで正式に仲間入りだね、おめでと!命が軽い職場なのは変わらないけど、命あっての物種だから、身の程は弁えて依頼を選んでね。あ、ドラゴン討伐依頼の出発は2日後の日が沈んだ後だから、気をつけて!」

そう言い残して、エリスはこちらの返事も待たずに出ていってしまった。


「最後まで面倒見のいい人だったな。」

「そうですね。言葉はあんまり分かりませんでしたが、よく笑う素敵な方でした。」

何となく今生の別れのような感想になっているが、よくよく考えれば明後日の夜にはまた会えるのだった。

「準備はいいか?坊主。」

「魔力テストですよね?」

俺の反応にバーボンが無言で頷き、地下室へと降りていく。


俺は昨日試験石が壊れた原因について考えながら、その背中を追って地下室に降りていく。

閑話っぽいシーンはいまいち進みが遅くなってしまいますね。

作者の頭の悪さが如実に現れている感じがします。


閲覧ありがとうございました。

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