門通過
「また来たのか、懲りない奴誰だお前は……」
見事な反応ありがとう門番よ。
愉快な反応に口元を緩めていると、アルバートが声を出した。
「この門は現在通行止めだ。というのは知っているはずだと思うがあえて問おう、如何なる理由でここに来た。」
アルバートの方は微妙だ。
俺がさっき退場した男だとは分かっているはずなのに反応が薄い。なんともつまらない男だ。
「これを下さった方に逢いに行きたいのです。」
気を取り直してポケットから出した赤いブローチを差し出す。
するとアルバートの目の色が変わったように……見えたような気がする。
「すまないが、どこでこれを?」
よし、この紋章が何か知っているようだ。
「これが何かご存知なのですか?」
「質問に質問で返すな、人格を疑われるぞ?」
あー、そういうとこ言うタイプかよこいつ、面倒くさい野郎だ。
「昨日客引きをしていた時に頂きました。」
「そうか、そいつの風貌は長めの黒髪でつり目の男だったか?」
「ええ、はい。そうです。見た目よりも気安い感じの人でした。」
まあ、この言い方なら問題は無いだろう。
「それで、要件は?」
「そろそろ私の質問に答える番ではないですか?」
ふっ、キマった。
どうだ質問に答えない事を指摘されるのは辛かろうフハハ。
「む、そうだな。貴様が昨日会ったと主張する人物は、おそらくプレドール男爵家の次男、リゲル様だろう。」
「やっぱり貴族様なのですね。私、あの人に耳元で囁かれた時にゾクゾクしてしまって。またお話出来ないものかと思って来たんです。」
「左様か、だが生憎と男爵の屋敷は今の火災現場のすぐ近くだ。今は避難して別のところにおられるだろう。そんな状況で会うのもおかしな話、それに今の貴様のその服装は普段であっても明らかに場違いだ。もう少しめかしてから来たらどうだ?」
どうしても入れたくないという思いが鈍感な俺にも伝わってくる。
「何故そこまでして私を入れたがらないのですか?」
「貴様もそうだが、貴様の連れが問題だ。」
「またそれですか。クーがどんな悪い事したって言うんですか?窃盗ですか?殺人ですか?この子はそんなことしていませんが!」
「忠告だ、知っての通り悪魔憑きは災いをもたらす者。今回の火災も遠因はそいつかもしれんのだぞ?」
「勝手な事言うな糞野郎。そんなに偏見が楽しいのか?見ず知らずの人間に罪を着せるのが楽しいか?そんな趣味して平然と正義を気取るな!」
「煩いぞ小娘。」
言葉と共にアルバートから揺らぎのような影が高速で迫ってきた。
鳩尾目掛けて飛来する揺らぎを身をひねることで辛うじて躱し、アルバートの方を見る。
眉間に皺が寄ったように見えたのも束の間、再び揺らぎが発射される。
しかも今度は一つではなく3つだ。
着弾予想は心臓と額、そして喉、見事に急所3点を狙った揺らぎを身体を捻って躱すことに成功すると、今度は五つに増えた揺らぎが迫る。
しかも別の一つがクーに向かっているではないか。
「クー危ない!」
当のクーはと言えば、この二日間で見たことのない真剣な顔つきで揺らぎを見つめ、喉元に迫る揺らぎを掴んだ。なんともなさそうに見える。
そこでクーに向けて伸ばした俺の左腕に揺らぎが一つ吸い込まれていくのが見えた。
直後、重たいゴムハンマーで殴られたような衝撃が揺らぎの当たった左腕と左肩に響き、衝撃で体が回転させられる。
腰が悲鳴を上げ、無理矢理に捻じれた体では踏ん張りも効かず背中を地面へと強かに打ち付けた。
「大丈夫ですか!?シ……レラさん!」
クーに支えられ身を起こし、腕を見る。
見事に紫の痣が生まれていた。
が、その色が急速に薄くなり、痛みと共にその存在を消していく。
「痛みも無くなった……なんだこれ……」
「どういう事でしょうか……?」
わからん、痣がこんなに急速に消えるなんて……もしかしてこれが治癒魔法……?
揺らぎの衝撃とか超常的な回復に驚いていると、聞きなれた声が耳に入った。
「やあやあ、アルバート君、何喧嘩してんの?しかも得意の【風撃ち】まで使っちゃってさ。ってキミ何でこんなとこにいるの。大丈夫?」
現れたのはエリスだった。
「エリスさん。実は……」
「あー、いや、深くは聞かないわ。どうせ頑固者のアルバート君に追い返されて色仕掛けしようとしたけど通じなかったって辺りでしょ?」
「いや、まあ、あー……それでいいです。」
「うんうん。おっけー。という訳でアルバート君、この娘達、私がスカウトしてるからギルドに連れてくね。」
エリスが俺の手を取って立ち上がらせると、後ろから両肩に手をかけてアルバートと呼ぶ目の前の男性に話をつける。
「チッ、勝手にしろ。」
「うん、ありがとね!」
なんだか知らないが俺の時と随分対応が違った。
だが、エリスが来なければこのまま追い返されていただろう。
「……あの、ありがとうございますエリスさん。」
腕を引かれて門を通過しながらエリスに感謝の言葉を告げる。
「いやあ!いいってことよ!可愛い後輩ちゃんの為だもん。あ、シンジ君、喧嘩する相手は選んだ方がいいよ?アルバート君めっちゃ強いからさ。」
やはり先程の会話で【風撃ち】と言っていた魔法の事だろうかと思っていると、エリスが続けた。
「いやあ、【風撃ち】百個もすごいけどさ、所詮は初級魔法だし……あ、でも防具なしでアルバート君の奴はかなり痛かったでしょ……大丈夫?」
「はい、お陰様で、回復魔法ありがとうございました。」
「あれ?私使ってないよ?」
どういうことだ?俺もクーも使ってない筈だし、となればアルバートが?
「アルバート君は回復魔法使えないはずだし、クーちゃんが無意識に使ってたんじゃないかな?」
「クー、回復魔法使えるの?」
「私は……使えるんですか?」
まあ、順当な反応が返ってきたな。
「それについてはギルドで確認出来るから後でね。そうじゃなければ、たぶんその服だと思うよ。覚えてる?マリアの呪い装束店の事。傷を治す代わりに絶頂く服とかそういうさ?」
「そんなのが置いてあるんですか?」
「多分ね、私売り専だから知らないんだ。」
にゃははと笑って誤魔化すエリスだが、もし今の話と似たような服を着ているなら後でマリアさんに確認を取らなければならない。
「シンジ君も大変だね。まあ、今回は私がたまたま通りかかって良かったよ。次からはギルド会員証も貰えるだろうし、門も自由に通れるからね。」
「そうだ、ギルドに入る前に戻らないといけないですよね?」
「そうだね。どうする?そこら辺で着替える?私達女しかいないし、男物のパンツ履いておけば戻っても大丈夫じゃない?」
ってことを女性から提案されるとは思わなかったが、理には適っているか。
女の身体で外に肌を晒すのはやや抵抗があるが、これも仕方の無いことだとエリスの案内のまま細い路地に入り、二人に守ってもらいながら服を脱ぐ。
「あ、あれ?」
そうして準備を整えた後、取ろうとしたヘアピンが髪と同化してしまったかのように取れないことを発見した。
「あれ?ぷぷぷ、もしかして取れないの?」
「なんでそこで笑うんですか。」
「いや、実はそんなもんだろうと思ってたよ。たぶん一定時間経つまで取れない呪いとかが掛かってるんだろうね。あはは、ご愁傷さま!」
何故か分からないがめちゃくちゃ喜んでいる。
エリスの笑顔に毒気を抜かれ、仕方なく脱いだ服を再度着る。
「まあ、取れないなら仕方ないね、さ、ギルドに入ろうか。」
入ろうかというが、今いる場所は建物と建物の間の小路。両隣の建物の入口は通りに面していたので、入る為には戻らなければならないはずだが。
「ふっふーん、見ててね、ひらけー、ごま!」
あ、その呪文こっちにもあるんだ。
などという感想はさておき、エリスが掛け声と共に押した壁の一部が凹み、小さめの入口が姿を現した。
バトルシーンみたいなのをやっと書けました。
さて、次は冒険者ギルドですね。
ここまで毎日更新を目指して来ましたが、これから数日は不安定になりそうです。
閲覧ありがとうございました。




