門前払い
「は?なんで入れないんだよ。」
「貴様のような野次馬を入れない為だ。中に入りたいなら中の関係者であることを証明しろ。」
二段目を囲む砦の入口は、馬車用の大きなものはおろか、個人用の扉までが閉鎖されていた。
周りに人だかりはなく、既に二段目の市街地の中でも背の高い建物に移動したようだった。
「冒険者ギルドに用があるだけで別にドラゴンとか興味ねえよ。」
「あれは只の火災だ!何がドラゴンだ馬鹿馬鹿しい!冒険者ギルドがどうのと言っておきながらしっかりと噂話を収集しているではないか。それに、ギルドの者なら身分証明を出せば通すと言っているだろう。」
火災だ?んな訳はねえ、クーが見たってあんなに自信を持って言ったんだ、ドラゴンじゃなかったとしても何か暴れてるヤツがいるはずだ。
「何が火災だ、ドラゴンが暴れてるのをクーが見てるんだぞ!噂なんかこれっぽっちも聞いてねえっつの!」
「ふん、悪魔憑きを奴隷にしている輩など信じられるものか。帰れ、ただでさえ貴様のような身の程を弁えぬ輩に辟易としておるのだ、その上悪魔憑きを連れた者を入れるなど有り得ん話だ。」
悪魔憑きだぁ?クーの過去も知らない癖に迷信に踊らされて人のことを侮辱する奴が門番なんかやってるのか?
「テメェ、言っていいことと悪い事があんだろ!」
「今のどこに悪い事があるというのか!貴様は火災現場を面白半分に見に行こうとしている野次馬、そして貴様の奴隷は悪魔憑き!エルフでもない小娘がそんなに白い髪をしているはずが無いだろう!」
「クーは悪魔憑きなんかじゃねぇ!」
「どうしてそう言いきれる。今でこそ貴様が奴隷としてあらゆる行動を禁止しているから良いものの。中で何をしでかすか分かったものではない。帰れ、さもなくば実力を行使させてもらうぞ。」
さっきから聞いてりゃ悪魔憑き悪魔憑きと連呼しやがって糞野郎が。
「クーの過去も知らないで悪魔がどうのとか勝手に決めつけんじゃねえ!クーはなあ!」
「煩いぞ。」
影が寄ってきたと思った直後、鳩尾に衝撃が走り、息が搾り取られるように肺から抜けていく。
あまりの痛みに膝を折り、息を吸おうと力を込める。
しかし横隔膜はびくともしない、それどころかさらに空気が肺から抜ける。
やばい死ぬ、空気……息が、死ぬ……死ぬ……!
「っあ!!……はあっ、はぁ……」
呼吸が再開された。
死ぬかと思った、マジで、視界がブラックアウトする所だった……
「シンジさん、大丈夫ですか!?」
「あ、ああ、辛うじて……平気。」
俺が地に手をついた辺りで駆け寄ってきたクーが涙目で聞いてくるので、精一杯の笑顔で答える。
「市民、これで分かったか?帰れと言われたら帰れ、貴様のようなゴミに割く時間は無い。」
見上げれば、先程まで応対していた鎧の男ではなく、赤黒と茶色の制服を着た男性がこちらを見下ろしていた。
「誰だ、お前……」
「貴様に名乗る必要があるのか?」
イケメン面に皺のない制服と主張の強い装飾、腰に挿した剣ではなく、何かの棒切れをこちらに向けているのが腹立つ。
「そうかい、か弱い一般市民に名乗れぬ程には名前に自信がないらしいな。けっ、こんな所でフラフラして火災とやらの消火にも参加出来ないような奴だしな!痛てて……仕方ない、帰るかクー。」
苛立ちは収まらないが、言うだけは言った。負け犬の遠吠えじみていても何もしないでは居られない。
「大丈夫ですか?」
「ああ、こんなとこに居たらこいつらの馬鹿みたいな考えがうつる。」
何が悪魔憑きだ、冗談じゃねえ。そんな意味わからねぇ事で宿も取れねえ街にも入れねえ……
「見返してやる、クーの事を悪く言ったやつ全員。」
「ふぇ……?」
「待て市民。」
イケメン騎士に呼び止められた。
「なんだよイケ騎士、お望み通り帰るんだ文句あるか。」
「イケ騎士……?私の名前はアルバート、グランゼルン・ベイ・アルバートだ。覚えておけ。」
「そうかい、ありがとよ。」
煽れば絶対言うと思っていたが、まさか本当に言うとは……
逃げるようにその場を離れてひとまず手近な小路に入り立ち止まる。
「ははは、それほどでもないけど痛いもんは痛いな……くそ、アルバートとか言ったか?おもっくそ殴りやがって……」
「あまり無理はしないでくださいね?」
「ありがとう、やっぱりクーは優しいな。」
「あの、えへへ……ありがとうございます。」
なんだこれ?どういう状況?まあクーが可愛いから気にしなくていいか。
「それにしても、どうやって中に入ろうかね。」
「何と仰っていたんですか?」
「ギルドの会員証とか中に住んでる人の関係者だって証明が必要らしい。ゴネてたら殴られた。」
「あの、先程は私が悪魔憑きでどうのって仰って……」
「そんなこと言ってたっけ?」
「仰ってたと思います……」
「そっか。ごめんな、変な事言って。」
「いえ、大丈夫です。それよりも、中に入る方法を考えましょう。」
「そうだな。」
中に入るためには、街を取り囲む高い壁を乗り越えるか、今さっきのような門をくぐるしかない。
少なくとも前者は飛べる奴でもないと不可能だ。
となると、どうやって門を通過するかなのだが。
「衛兵から鎧を奪う……とか?」
「奪えるでしょうか?」
「……無理だよなあ。」
だが俺にはそれ以外思い浮かばないぞ?
「あっ。」
クーが閃いたようだ。
「あの、いえ、何でもないです。」
が、何を思ってか誤魔化そうとする。
「何か思いついたなら言ってくれ。今はとりあえず中に入らないといけない。」
「えっと、シンジさん、昨日の男性から貰った赤いアレ、お持ちですか?」
あー、なるほどなるほどそういう事か。
あの男の誘いで来ましたーって入るのか。
「でもあの男の名前も知らないのに入れるかな?」
「あっ……」
おや、そこまでは考えていなかったようだ。
「まあいいや、とりあえずやるだけやってみるか。」
女になるのもあのプー太郎の力に頼るのも、それに加えてさっきのアルバートとかいう男にまた会うのも嫌だが、背に腹は替えられない。
リュックの中に入っているシャツとホットパンツ、女性用下着を取り出してヘアピンを髪に着ける。
痛みとも痒みともつかない痺れるような感覚が全身を包み込み、体が熱を帯びる。
暫く我慢すると、段々と通常の感覚が戻ってきた。
「あー、あー、よし、声も変わったな。」
服を着替え赤いバッジをポケットに入れる。
「そうだ、名前どうしよう……」
「太陽がいいと思います!」
即答だった。
まあ、クーが月で俺が太陽なら、コンビとしてはいい感じかもしれない。
「OK。じゃあ女の時はレラで行くぞ。」
「はい。レラさん。」
随分と対応が早い。
さてはお主、事前に考えておったな?
さてさて、これで通して貰えるだろうか。
不安はあるが、中に入る条件として間違いはないはずだ。
いざ、二段目へ……
神治君って本当に幸運なんですか?
と訊かれると「おそらく」としか答えられない現状ですね。
あとペンダントの意味って?って所はまた後日……
閲覧ありがとうございました。




