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幸運な俺と悪魔憑きの乙女  作者: 双さん
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嵯峨宮との邂逅

「美味かったー。ご馳走様でしたっと。」


「ごちそーさま……合ってますか?」


「おう、お粗末様だ。」


嵯峨宮さんが手早く準備してくれたのは菜の物のおひたしと麦飯(?)のチャーシュー(?)丼だった。


「まさかこんな所で醤油に出会えるとは思わなかったです。」


「へへっ、だろ?結構苦労したんだ。」


「不思議なお味でしたが、美味しかったです。」


「クーも気に入ったらしいです。」


「そうかそうか、やっぱ美味いって言われるのが嬉しいねぇ。兄ちゃん、悪いけど俺の苦労話に付き合ってくれるかい?」


「はい、俺も興味あります。」


どうせ時間はまだあるのだ。先達から学ぶことも大事だろうし。同じ視点で困った事は俺にも降りかかる可能性がある困難だ。


「すまねえな、代金は要らねえ、たまにウチに来てくれや。」


「もちろんっす。」


「こんな時に涙が出てくらあ、ちょっと待っててな……くそ、へへへ、情けねえ……」


顔をタオルでゴシゴシと擦り、恥ずかしそうに笑った嵯峨宮さんは、これまでの軌跡を語り始めた。


嵯峨宮大五郎がこちらに来たのは36年と4ヵ月前のこと。


当時22歳の彼は運送屋で働いており、長距離トラックの運転手としての業務中、高速道路に突然現れた人間を轢きそうになりハンドルを切ったことでトラックが横転、気がつけばこの世界に立っていたという。


当時からこの国は現在の形で出来上がっていたが、街の活気はやや控えめで、現在のように色々な種類の人間や亜人たちが行き交うようになったのは10年ほど前の事だという。


言葉もわからない金もない、周りに見えるのは馬車ばかり。

頼れるものもなく、初めの夜は寒さに震えながら路上で横になったという。


そんな彼を拾ったのは2段目の街の更に外側の一画にあるスラム地区のお爺さんだった。


嵯峨宮さんはそのお爺さんがどこからか持ってくる肉や草の類を調理し、言葉を習っていった。


この時、嵯峨宮さんにはそれまで無かった能力が開花していたという。


それが調理能力と、建築能力だ。


嵯峨宮さんはこの不自然な能力を使ってスラムのお爺さんに料理を振る舞い、また、その居住スペースの改善をして生活していた。


そのうちに嵯峨宮さんはスラム街の料理人として、材料と少しのお金を持ち込めばうまい飯を食わせてくれると評判になった。


当時から現在のようにスラムと市街地の格差や偏見は酷いものがあったが、ある日、嵯峨宮さんに市街地のとある店から料理人として雇われないかという誘いが来た。


しかし料理店で働くための条件の一つに嵯峨宮さんが市街地の寮に住むことが挙げられており、当時の嵯峨宮さんは恩を返す為には既にあまり動けなくなってしまったお爺さんを置いていけないとして誘いを断ろうとした。


しかし、その事がお爺さんに伝わると、お爺さんは酷く激昴し、その日のうちに家を追い出されてしまったという。


激昴したお爺さんが極めて頑固だと知っていた嵯峨宮さんはその場で仲直りをする事を諦め、店側に初めの三日でその働きが十分だと認められれば、スラムからの出勤を認めて欲しいという思いを伝えた。


店側がこの用件を受け入れた為、それを達成することでお爺さんを見返してやろうと、嵯峨宮さんは三日の間一心不乱で働き、見事に店員になることが決まった。


そして三日目の夜、嵯峨宮さんは就職決定の報せを持ってスラム街のお爺さんの家に意気揚々と戻った。


しかしそこには既に息絶えたお爺さんと、一通の置き手紙があったという。


深い絶望に囚われそうになった嵯峨宮さんは、手紙に書いてあったお爺さんの遺志を守り、市街地の料理店で更なる研鑽を積んだ。


25年の歳月を経て、十分な資金と技術、コネクションを手に入れた嵯峨宮さんはおよそ10年前、念願の自分の店をこの場所に構えた。


初めこそ大変だったものの、現在は経営も軌道に乗り、常連客の人々と楽しく生活しているそうだ。


「そんな中にお前さんが現れたって訳だ……ってやけに外が騒がしくねえか?」


言われてみれば店の外からガヤガヤと声が入ってくる。


「ちょっくら見に行ってみっか!」


かなりの時間が過ぎてしまったが、市場が開く程の時間でもないはずだ。


「クー、起きろ。」


言葉がわからない為に少し寝るように伝えていたクーを起こす。


「おはようございますシンジさん。」


「おはよう、早速で悪いけどちょっと外に行くぞ。」


「分かりました。」


切り替えが早いのもクーのいい所だ。


三人で店の外に出ると、国の中央部、二段目の街の一部で火災が発生していた。


「何だあれ?」


土壁の多いこの国の住居では考えられないほどに大きな火災だ。


「ありゃあ、きっとドラゴンだ。」


「ドラゴン?」


「ああ、30年くらい前にもこの国をドラゴンが襲ってな、あんなふうに大きな火災が起きていた記憶がある。」


「本当です、何か大きなものがあの辺りで火を吹きながら飛んでいます!」


「クー見えるの?」


「ハッキリとは見えませんが、一応。」


すげえな……残念ながら俺の目には赤い光と、そこからもうもうと上がる煙以外に何も見えない。


「くわばらくわばら、坊主、もう少し休んでいくか?」


騒がしさの原因を確認して満足したのか、嵯峨宮さんは店に戻ろうとしていた。


「いえ、大丈夫です、ご馳走様でした。」


はじめの目的である食事は済ませたので、長居の必要は無いだろう、それに嵯峨宮さんはまだ寝ていないのだ、今日のお店の準備のために寝る必要もあるだろうから、ここでお世話になるのは迷惑だ。


「そうかい、また来てくれな。お前さんならいつでも歓迎だ。」


「ありがとうございました。」


こちらが礼を告げると、嵯峨宮さんは手を振って店に入っていった。


「さて、ドラゴンとやらを見に行こうか。」


「分かりました。」


場所は二段目。冒険者ギルドもそこにあるのだ、この機会を逃す手はない。


クーと二人、国の中央に向けて走り出した。


大風呂敷広げたはいいけど片付けられなくなるやつ。

閲覧ありがとうございました

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