デッドエンド
坂本神治は幸運だ。
俺が自分の幸運に気が付いたのは小学校時代。
それまでも運のいい子として家族からの愛を受けて育っていたが、俺自身にその自覚はあまりなかった。
しかし10歳前後の子供ともなれば自らと周りとの違いを意識するもので、俺が自分は周りよりも運の悪い子供だと認識したのがその頃だった。
もちろんお小遣いで買ったお菓子についてくるクジは当たりばかりだったし、年に一度の福引を引かせてもらっては温泉旅行や海外旅行を当てることなどざらにあった。
しかし俺は、幸運に恵まれる度に不運に見舞われていた。
小さな幸運には小さな不運が、大きな幸運には大きな不運が待ち構えている。
俺がそれを確信したのは、俺が町内会の福引で当てた海外旅行に出発する4日前に家が放火魔の被害に遭った時だった。
人的被害は無く、物的被害も少なかったが、家そのものは住むことができなくなってしまった。
その後放火犯はすぐに見つかり、賠償金と保険金が手に入った事で俺の両親は家を建て替えるいい機会になったと考えた様子だった。
しかしもちろん海外旅行は勿論中止、新しい家ができるまでの1年ほどは仮住まいへの移住を余儀なくされた。
このことは俺の小学校でも話題となり、自分が不幸の星の下に生まれたのだと確信した。
それ以来俺は自らの幸運から逃げるように、他者へとその利益を与えるようになった。
幸運で得たものを他者に与えた場合、誰にも不運は訪れなかったのだ。
しかしそういったウマい相手には悪い者が寄ってくることもまた摂理で、中学校時代の俺は他者に良いことをしても自分に返ってくることは無いのだと学習した。
そして高校時代、俺は自らの幸運を周りに可能な限り隠して目立たぬように過ごしていた。
そんなある日のことだ。
不運にもにわか雨に降られてしまった俺は、びしょ濡れの状態でいつもの帰り道を歩いていた。
そんなとき、不意に声を掛けられた。
「お兄さんお兄さん。」
周りを確認するが、通行人は俺しかいない。
「……俺?」
「そうそう、キミ。」
キャバクラの客引きのように声をかけてきたのは、いかにもインチキくさい格好をして顔を隠した占い師。
「はは、いやあキミなんだか面白そうな雰囲気だからつい呼び止めてしまったよ。」
そう言う声では男なのか女なのかわからない。
「俺占いとか信じない方なんですけど。」
「まあ、普通はそうだよね。とりあえずこっち来てくれる?時間もお金も取らないから。」
気乗りはしないが、時間には余裕があるため神治はその誘いに乗った。
「じゃあまず手を見せて、フムフムなるほど……これが生命線と言ってね、残念だけどもうすぐ命に関わる事故に遭いそうだ。頭上に気を付けてね、雷とか落ちてくるかも。」
あるんだか無いんだかよく分からない皺を指で示して説明をしてくるが……正直反応に困る。
「それでこれが恋愛線……いい人がそのうち現れるかもしれない。」
またもや示したのはあるんだか無いんだか分からない掌の皺。
いやそのうちってなんだよ。
「それでこれが最後、運命線だ。君はとても運が良いみたいだね。これからは幸運を信じて進んでいくといい事あるかも。」
ああ、そういう事ね。良くある話だ。元気な様子だと悪いことがあるよ、元気が無いといい事あるよと言う。占い師なんて所詮そんな職業だ。
「あれ?なんかまずい事言っちゃった?でも気にしないで、幸運のネックレスを売ってあげるから。」
「は?」
思わず声が出た。金取らねえって言ってたよなコイツ。
「占いなんて別にタダでも良いんだ。500円で、どうかな?お願い、ご利益あるから!」
やはりただの露店の親戚かとその場を離れるのは簡単だった。
「行かないで!誰も買ってくれなくて困ってるんだ!お願い、この通り!」
あまりに熱心に懇願してくるが、財布にお金が無ければ言い逃れられるだろう。
そう思って開いた小遣い日前日のお財布にはちょうど500円玉が1枚。家に帰れば余裕はあるが、夏休みに向けて貯めているのでこれを買うなら今日買う予定だったコンビニスイーツは諦める必要がある。
言い訳が絶妙に出来ずに困る俺を前に、占い師も必死になって声をかける。
そうして、どうしようか迷っている間に占い師の懇願が他の通行人の視線を集め始めたので、恥ずかしくなった俺は500円を手渡した。
「ありがとう、キミに幸あることを祈っているよ。」
恥ずかしさのあまりネックレスを受け取ってすぐ逃げるように歩き出したが、少し移動して振り返ってみると、占い師の姿は既に無かった。
手の内には手作りで出来たと思しき、ネックレスというよりペンダントというべき代物。
「やっぱそういうもんだよな普通……」
俺はこれまでの経験から、ちょっとした詐欺まがいに遭ったのだと理解した。
さりとて500円とはいえちゃんと品物を渡してきたのは評価するべきだろうと気を取り直す。
帰宅の足を進めながら、先程購入したペンダントを改めて眺める。
何で出来ているかわからない黒い紐に木のビーズが外側から小中大の左右対称で3個ずつ、中央に半径1~2cmほどの丸くて平べったいガラスと思しきものが吊られている。
受け取った直後は真っ黒に見えたそれも、よくよく見つめてみると揺らめくように色を変えているように感じる。
「へえ、意外に綺麗じゃん。」
自分に言い聞かせるようにつぶやいたその時、頭上から声が響いた。
「危ない!」
上から危ないと言われれば頭上を見てしまうのが人情というもの。
空を見上げた直後、俺の顔面に落下物が衝突した。
それは小さな赤い実をたくさんつけた小木の植木鉢であった。
ノリと勢いと無計画。
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