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神話の再現

 キオが駆け出したのがもう少し遅かったら、アイリスは死んでいただろう。

 炎の錫杖が森の奥から放たれ、真っ直ぐアイリスに向かって飛んできていたのだ。

 今度はキオが下敷きになるように、アイリスを抱えて横っ飛びして、窮地を脱した。


「今、一度死んでたぞ?」

「キオ!? なんで!?」


「あんた、自分を囮にして、俺達を逃すつもりだったろ。依頼主が死んだら誰が報酬を払うの? あんたは生きて責任を果たさないといけない」

「それは……」


「その剣貸して」


 キオはアイリスが大事そうに抱えている剣を指さしてそう言った。


「え? キオは魔導士なのですか?」

「違うよ。でも、やらないと死ぬ。なら死んでもやれることをやるだけ」


 神具は長い期間の修行と神話に対する理解が必要だ。

 それなくして、神や魔神を屈服させることは出来ない。

 そう誰もが教えられていた。

 だが、そこにはもう一つの隠された真実があった。

 その真実を確かめるために、キオが龍の剣を掴む。

 すると、全身が震えるような寒気と、血が沸騰しそうな熱が襲ってきた。


(灰の血……。汝、力が欲しいか?)


 そして、剣が頭に言葉を語りかけてきた。

 恐ろしく低い声だったが、キオは迷わず剣を引き抜いた。


「力を寄こせ」

(良いだろう。我の炎に耐えられるのであれば、我を宿してみるが良い! その血を燃やし、我が炎を受け入れてみせよ)


「ぐっ!? ああああああ!?」


 キオの身体が青い炎に包まれ、全身に激しい痛みが襲いかかった。

 骨の髄まで灰にされそうな高温に焼かれているような痛みだが、身体どころか服も焦げ後一つついていない。

 これは実体を持たない幻影の炎だ。


(クハハハ! 焼き切れろ! その身体を我が供物にしてやる!)

「俺はこんなところで……死ねない。こんな痛み……幻覚だ!」


 キオは自分にまとわりついている炎を振り払うように剣を振った。

 すると、青い炎が霧散して、痛みが嘘のように消えていく。

 意識はハッキリしていて、やるべきことが、叫ぶべき言葉が分かる。

 その剣に宿る神話の獣は――。


「痛みが……消えた。灰血に宿れ! 原典にして頂点、始まりの焔を灯したモノ、始祖龍バハムート!」


 そして、改めて神具の獣に契約を迫ると、黒い剣が青い炎を帯びた。

 過程が分からなくても、どういう結果を生むかが分かる。

 キオは魔法の修行も勉強も全くしたことがない。

 でも、その炎が何なのか、どうすれば良いのか、手に取るように理解出来た。あたかも自分自身が神話の龍になったかのようだ。


「燃やし尽くせ! 原初のエインシェントフレア!」


 剣を横薙ぎに振るうと、青い炎を纏う衝撃波が発生し、目の前にあった森を焼き払った。

 衝撃波が通ると、木々が燃えるよりも早く黒い灰になってかき消えてしまう。

 全てを灰に変えてしまい、一つの時代の終わりと新たな始まりを告げる炎を模した魔法だ。

 山の岩肌さえも熱によって溶けて赤熱するほどの魔法が走り抜けた戦場に、一点だけ炎の壁が残っていた。どうやら敵は魔法で盾を作っていたらしい。


「見つけた」

「バカなっ!? 文字を読めない灰奴隷が神具を解放した!? 神話の理解に数年はかかるんだぞ!?」


 同じく神具を扱い、魔法を使えた敵は咄嗟に生んだ炎の盾で身を守ったのだ。

 だが、炎の勢いはキオの方が圧倒的で、たった一撃で敵の心を粉砕した。


「無理だ! 勝てる訳がねえ!? お頭に報告しないと!」


 炎の盾を解除した敵は一目散に逃げ出したのだ。

 降りかかる火の粉はこれで振り払えた。

 だが、キオは火そのものを断ち切らんと、剣をもう一度構える。


「させないよ。俺達をまた殺しにくるのなら、逃がさない」


 キオは剣をもう一度振り下ろすと、青い光の渦が敵に向かって飛んで行き、灰すらも残さず男を消し去った。

 終わってみれば一方的な戦いだった。


 一刀の下、神具使いを葬り去ると、辺りから敵の気配が消え、静寂が戻ってきた。

 その中で一番早く動いたのが、剣の持ち主であったアイリスだった。


「キオ……。あなたは一体何者なのですか? たった一振りで森をなぎ倒すなんて……。私がいくらその剣を振っても何も出来なかったのに。いえ、この剣の持ち主であったお父様でさえここまでの力はなかったはずです」

「何者って傭兵だよ。それと、この剣の力を引き出せたのは、俺が魔物の血を取り込んだ《アッシュ》だからだ。昔に滅んだ幻の帝国、灰の国グラウライヒって国を知ってる?」


「神具を生み出して滅んでしまった幻の国ですよね? あ……。まさか灰の国って、あなた達アッシュの国だったんですか?」

「らしいよ。生まれた時に魔物の血を取り込んで、全ての国民が魔導士だった伝説の戦闘国家だったって。サムドがそう言ってた」


 灰の国とともに歴史に葬り去られたもう一つの真実が、国民全てが魔導士だったという記録だ。

 灰の国の国民達は魔物の血を体内に取り入れ、その血を依り代に神話時代の伝説を憑依させることが出来た。

 そして、伝説が憑依した人間は、キオと同じように修行をすることなく、本能的に伝説を再現出来る力が得られたという。その力を古代では《アッシュ》と呼んだ。


 そのため、魔物の血を身体に取り込むことで、卓越した身体能力を得ること自体は技術の副産物でしかなかったのだ。

 つまり、本来、神具とアッシュはセットだった。おかげで当時、灰の国は最強の戦闘集団として名を轟かせ、他国を圧倒していたという。


 だが、魔物の血を用いずとも伝説を理解し、荒ぶる神や獣の魂を知識によって従わせることで、伝説を人に服従させて力を引き出すスキルが生み出された。

 そうして、神具が一般化されたことによって、灰の国は滅んだという。

 キオ達を始めとするアッシュが迫害されているのは、現在神具を管理する教会が灰の国の再興を阻止するためなのだと、サムドが熱く語ったのをキオは何度も聞いていた。

 だからこそ、キオは自分になら出来ると確信して、迷わず神具の力を解放出来たのだ。


「こんな凄い力を持つのに……。何で今の人達は灰の奴隷と呼んでいるの……」


 その説明で、アイリスはキオの身に何が起きたかを理解すると、何故か悲しそうな顔を見せた。


「たとえ灰になった燃えカスでも、隠れて燻っている火はまた炎を灯せる。それを大人が知らないだけだ。それにそっちの方が好都合。油断してもらっている方が寝首をかきやすい」


 キオはそう言うと抜いていた剣をしまい、灰になった森の奥へと足を踏み出した。


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