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神剣解放

 アイリスは自分の足でサムドとともに逃げていた。

 足下の良くない山道で何度も転けそうになりながらも一生懸命に走っている。

 戦う力が無いせいで、助かるためには逃げるしかないことは分かっている。

 だが、どうにもキオのことが引っかかっていた。


「キオは一人で大丈夫でしょうか?」

「あいつなら大丈夫。僕達の中で一番強い。あいつは魔物の血を身体の半分くらいまで受け入れても平気でいられるから」


「身体の半分?」

「うん、魔物の血は取り入れれば、取り入れるだけ身体が強化されます。今のキオの身体能力はドラゴンと対等にやりあえるぐらいです。神具を持つ魔導士だって倒したことがある」


「ドラゴンと!?」


 キオが最強の魔物と言われるドラゴンと対等と言われても、アイリスは簡単に信じることが出来なかった。

 でも、自分と同じ歳の子供が強い力を持っているのは目の当たりにしてきた。

 あながち嘘でもないのだろう。そう思うと、ふとある疑問が頭をよぎった。


「私も魔物の血を入れれば、戦えるようになるでしょうか?」

「止めといた方が良いですよ。お姫様は副作用が大きくなる十歳を過ぎてるし、そもそも今の技術で魔物の血を取り込んで人の形を維持出来るのは5人のうち4人です。逆に言えば5人の内1人は魔物に変化して死んでいますよ」


「そんな……。キオはそんな危ない血を身体の半分も取り込んでいるのですか?」

「そのせいかどうかは分からないけど、あいつは感情が薄くなってしまいました。お姫様にきつくあたっているけれど、悪気はないんです」


「……それは分かっています。キオの言葉は荒いですけど、優しいですから」


 厳しい言葉を何度もぶつけられたけど、ほとんどはアイリスの不注意をたしなめるものだった。

 生きるために戦う、そう言っていたキオは、自らの死をも厭わず強さを求めた。その話を聞いてアイリスはキオのひたむきさと真っ直ぐさを知った。

 それが羨ましいとも思えた。自分にはない芯の強さを持っているように見えたからだ。


「キオは本当に強いんですね」


 そんな彼が背中を守ってくれる安心感に、若干アイリスの心が軽くなる。

 でも、生まれた余裕はすぐに消えて無くなった。


「うわあああ!?」


 突然前方に火柱が現れ、少年一人が炎に飲み込まれた。

 続けて錫杖が飛んできて地面に刺さると、地面から炎が間欠泉のように勢いよく噴き上がった。


「これは魔法!?」


 戦場に出たことのないアイリスでも分かった。

 魔法を使えるように勉強していた魔導書に、似たような魔法が書いてあったのだ。


「サムドさん! この炎は神具の魔法です!」

「神具だって!? 何の神具かは分かりますか!?」


「インドラの矢です。敵を遠くから射貫き、焼き尽くす神の火です。飛んでくる錫杖に注意してください!」

「ちっ、やっぱりそうか。後退! みんな後退だ! 飛んでくる錫杖の動きをよく見て、避けながら逃げろ!」


 注意しろと言って、簡単に対処出来れば神具は絶対的な武器とはならなかった。

 アッシュが魔物の力を取り込み、人を超えた能力を持っていても、神や魔神の力には及ばない。魔物は神に勝てない。それが傭兵達の常識だった。


 そんな神具に対して、傭兵団は二つの事項を頭に叩き込まれていた。


 一つ、戦場で神具を持たずに、神具を持つ相手に出会ったら、全力で逃げろ。

 二つ、神具を使う味方の前に立つな。


 どちらの規則も神具の前に立てば死ぬという警告だ。


 その原則に従って、元来た方角へアイリスとサムドが全力で逃げ戻る。


 背中では何本もの炎の柱があがり、火花が目の前に舞っている。その火花がどんどん濃くなり、攻撃が近づいてくる。どうやら敵の攻撃精度が上がってきたようだ。

 そして、振り向けばアイリスに直撃するコースで錫杖が飛んできた。


「歯を食いしばれ」

「っ!?」


 突然聞こえた声に従い、アイリスが歯を食いしばると、脇腹に鈍い衝撃が走った。


「生きてるな。立てるか?」


 錫杖が当たる直前、キオが身体ごとぶつかり、アイリスを吹き飛ばしたおかげで、炎の直撃は免れた。

 最高のタイミングで現れたキオが信じられなくて、アイリスが目を白黒させるが、すぐに顔は苦痛で歪んだ。


「キオ!? は、はい。大丈夫――痛っ!?」

「着地で捻ったか。俺のミスだ。背負う」


 アイリスが思わず屈むと、キオはアイリスを肩に乗せるように抱え上げた。

 まるで荷物のような扱いにアイリスは若干抗議の気持ちも湧いたが、非常事態に抱え方を気にしている暇はなかった。

 それよりも、よっぽど自分の情けなさが恥ずかしかった。

 大魔導士の娘なのに神具を使うことも出来ない。

 皇女であるのに亡命先の兵士に声すら届かない。

 そして、何より自分が出した依頼のせいで、少年兵を一人死亡させたことが、アイリスはとても辛かった。


「キオ、降ろして下さい」

「はぁ? 何言ってるんだ? 死にたいの?」


「死にません。私は、いえ、私も戦います」

「戦う? あんたその神具使えないんだろ?」


「試してみないと分かりません。私は今、戦うべきなのです」

「分かった。好きにして」


 キオは一度大きく跳躍して、炎から逃げると、アイリスを地面に降ろした。

 地面に降りたアイリスは大事に抱えていたケースを開き、中から漆黒の剣を取り出して構えた。

 鍔には翼を象ったような飾り、柄の先は龍の頭の飾りがされている。


「竜王キュルトの名の下に我に従え、原初の火を灯した偉大なる始祖龍バハムート!」


 アイリスが剣を天に掲げ、場が震えるくらいの大声を出す。

 その声が敵にも届いたのだろうか。火の雨が瞬間的に止んだ。

 一転して訪れる静寂に、キオとサムドを含めたその場にいた少年兵全員が固唾を飲んでアイリスを見守っている。

 そして、当のアイリスは奥歯をギュッと噛み締めてから、もう一度精一杯叫んだ。


「灰鬼隊の皆さんは下がりなさい! 私を狙う者達へ! この剣を振るえば、この森一帯が焼き尽くされます! あなたを殺すつもりはありません! 大人しく降伏しなさい! それか大人しく尻尾を巻いて逃げなさい! 剣を解き放ちますよ!?」


 まさかの降伏勧告に少年兵達はざわついた。

 凛々しく剣を掲げるアイリスが窮地を救う神の救いにでも見えたのだ。

 だが、その中で、キオだけは一人アイリスに向けて走り出した。


 何故なら、彼女の剣には何も宿っていなかったからだ。

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