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赤に染まる灰

「敵襲! 敵襲!」

「ちっ、何が隠密任務だから特に危険は無いだよ。思いっきりばれてるじゃねぇか!」


 見張りの少年兵が叫び、皆が臨戦態勢に入る。

 そして、少年兵達が短剣を抜いた瞬間、木々の影から矢が降り注いだ。

 その内の数本がアイリスの頭上へと迫る。


「きゃっ!?」


 その矢に驚いてアイリスが身をかがめる。

 だが、矢は彼女へは届かなかった。

 アイリスの前にはキオが立ちふさがり、折れた矢が周りに転がっていたからだ。


「キオ、……助けてくれたの?」

「当たり前だ。仕事だから」


「それでも、ありがとう」

「感謝するのは敵が死んだ後にしてくれない? 感謝されて、先に死なれたら困る」


 キオの言う通り、戦いはまだ終わっていない。

 矢の斉射が終われば、次に白兵戦が待っている。

 そして、その予想通り、剣、槍、斧を携えた兵士達がキオ達に迫っていた。

 数はおよそ三十人。キオ達少年兵の三倍の兵力だ。

 普通に戦うだけなら魔物の力を取り込んだキオ達が余裕で勝てるだろう。でも、今は守る顧客がいるせいで分が悪い。


「サムドどうする?」

「こっちは護衛対象がいるからね。囲まれる前に逃げる。キオ、殿(しんがり)を頼める?」


「頼まれた」

「みんな奥に逃げろ! 撤退だ!」


 サムドはすぐに撤退を選んだ。

 その撤退戦において一番難しい立ち位置が殿だ。

 敵の攻撃が一番集中する場所で、先に逃げる味方からの援護は見込めない。

 最も死を覚悟する必要のある場所であり、最も武芸に信頼をおける者でないと安心しておけない。

 そんな場所を任せるのは少年兵達の中で一番強いはキオだった。

 キオなら、どんな敵でも戦って生き延びることが出来る。

 そういう信頼感がキオにはあった。

 だが、キオは敵の姿を見て、一瞬闘気を緩めた。


「ん? あの姿、ヒューゴーの兵士?」


 海に面している国なので、波を意識したマークが国旗にあしらわれている。

 その波模様が鎧や盾に描かれているということは、攻撃を仕掛けてきたのは亡命先の兵士だ。

 つまり、敵だと思っていた集団は味方の可能性がある。先ほどの矢は何かの誤解からだったかもしれない。

 アイリスもすぐにそのことに気がついて、誤解を解くために兵士達に向かって叫んだ。


「ヒューゴーの兵士達よ! 私はキュルトのアイリス=ウル=キュルト! 今すぐ戦いを止めなさい!」


 アイリスの必死の叫びも兵士達は聞いていない。

 土煙を立てるほどの勢いで、近づいてくる。

 そして、一人の男の言葉で相手が全て敵だと告げた。


「騙して悪いが仕事なんでな。死ね!」

その言葉を聞いて、キオは先ほどの甘い考えを捨て去り、すぐに戦闘態勢に戻った。


「やめてください! 私達は争う必要はありません!」

「サムド、お姫様を頼む。邪魔だから、戦いに割り込まないよう縛っておいて。俺はここで敵を食い止める」


「キオ!?」


 キオは前に飛び出そうとするアイリスの首根っこを掴むと、投げるように彼女の身柄をサムドに押しつけた。

 そして、アイリスを受け止めたサムドはキオに振り向くことなく、真っ直ぐ逃げる方を見つめて言葉だけを残した。


「任された。前で待ってるから」

「うん、誰一人通さない。後で追いかける」


 キオは剣を抜くと、周りの少年兵達とは反対に敵陣へと走り出した。

 その瞬間、兵士達の矛先が一斉にキオに向けられる。

 まずは三人の兵士が槍と盾を持って、真っ直ぐキオにつっこんでくる。

 まるで迫ってくるトゲ付きの壁だ。


「よっと」


 キオは突き出された槍をしゃがんで躱すと、そのまま真正面の盾に向かって剣を振るった。

 ガキィン! と剣と盾がぶつかる音がした次の瞬間には、中央の敵兵が吹き飛ばされ、木に身体を打ち付けていた。


「なっ!? 盾ごと吹き飛ばしやがった!」

「この化け物めえええ!」


 残りの二人が再度、キオに向かって槍を突き出してくる。

 キオは両方の槍を掴み取ると、敵の勢いを利用して、槍をクロスさせ、敵兵士同士の胸を貫かせた。

 普通だったら起きえない同士討ちを発生させたキオは、特に感慨もなく冷静に数を数えた。


「これで三人。後、二十七人」


 力尽きた兵士が互いにもたれかかる中から、血まみれになり、灰色だった髪を赤く染めたキオがゆらりと現れる。

 グレイゴブリン、灰色の小鬼という言葉では足りないくらいの恐怖を煽る姿に、兵士達の勢いが殺された。

 敵がジリジリと距離を測るような動きに変わると、キオは困ったようにため息をついた。


「はぁー。一人一人潰すと時間かかるし、剣の切れ味が落ちるんだよな。面倒だし、まとめて来てくれない?」

「てめえ! よくも仲間を殺しやがったな! 許さねえ! ぶっ殺してやる!」


「よく言うよ。騙して殺そうとしたのはそっちからだろ。だったら、殺されても文句ないでしょ?」

「黙れよ! 魔物は人に駆除されるのが常識だろうがよおおおお!」


 キオの挑発にのった男が、斧を振り上げ、叫びながらキオに向かってつっこんでくる。

 怒りにまかせた大振りの斧に当たれば、剣ごと砕かれそうな勢いだ。

 だが、キオはあっさりと振られた斧の下に潜り込み、敵の男の腕を一太刀で切り落とした。


「お、おでの腕があああああ!?」

「俺達を殺そうとしたんだ。なら、俺達に殺される覚悟が出来たんだね」


「や、やめ!? 命だけは――」


 男の命乞いを無視して、キオは男の首をはねた。

 そして、落ちている斧を拾いあげると、不意打ちを仕掛けて来た兵士に投げつけて、顔を割った。


「これで五人。後二十五人。剣はまだ持つか」


 キオは剣についた血糊を払い、面倒臭そうにぽつりと呟いた。

 その余裕がさらに敵の心に火をつけてしまう。


「こいつが例のガキだ! ひるむな! 一斉にかかれ!」

「そうだ! 魔物の血が流れるアッシュでも、所詮子供だ! 囲んで攻撃するんだ!」


 正面から一対一で戦えば勝ち目が無い。

 そう判断した兵士達はキオを円形で囲むように陣形を組んだ。

 敵の注意は完全にキオが引きつけている。

 それがあまりにも不気味だった。


(奴らの狙いはお姫様のはず。俺を囲むにしても、全員でなくていい)


 あまりにも状況が出来すぎている。

 むしろ敵兵の狙いが、最初からキオを孤立させることみたいな状況だ。


「嫌な予感がする。すぐにサムド達を追いかけないと」


 キオは妙な胸騒ぎを感じると、地面に刺さっている矢を引き抜いた。

 そして、石を投げるかのように矢を敵に投げつけると、矢が鎧を貫通して敵兵の胸に刺さった。

 弓がなくとも腕力だけで、弓で放った時と同じような速度が出せる。

 魔物の血を入れたキオだからこそ出来る芸当に、兵士達は驚きのあまりひるんだ。

 その瞬間にさらに矢を投げて、包囲網を撃ち抜いていく。

 最初に雨のように降り注いだ矢のおかげで、数には困らなかったおかげもある。

 ただ、全員を仕留めた訳ではない。急いで投げたため当たり所の良かった兵士達はまだ息がある。

 とはいえ、行動不能にはなっているので、追いかけては来られないだろうし、放っておけばいずれ出血で死ぬ。

 残念なことに今はトドメを刺す時間すらも惜しい。


 そう思った時だった。

 サムド達が逃げた方角に赤い炎が柱のように噴き上がったのを見た。

 その瞬間、キオは先ほどの嫌な予感が当たったことに小さく舌打ちする。


「魔法? まずいな。神具持ちの敵か。サムド達じゃ勝てない」


 支配者の証である神具を敵が持ち出してきたことを、キオは瞬時に理解した。

 そして、飛んでいるかのような勢いで地面を跳躍し、赤い炎が噴き上がる方へと急いだ。

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