奴隷の身分を捨てて
キオ達魂灯組の面々は玉座の前で待たされていた。
とはいえ、少年兵達が静かに待っている訳もなく、昨晩の宴で出た料理のどれがおいしかったとか、ふかふかのベッドの寝心地について、とりとめなくお喋りしている。
大臣は渋い顔をしているが、そんなことはお構いなしだった。
そんな雰囲気が変わったのはアイリスが部屋に入ってきてからだった。
「皆さんおそろいですね。楽しそうで何よりです」
しっかりと正装をしたアイリスはまさに皇女といえる煌びやかさと美しさで、キオとサムドも含めて言葉を失ったほどだった。
「あら? どうかなさいました?」
「いや、アイリス、あんた綺麗だな」
「へっ!? コ、コホン。ありがとうございます」
キオの不意打ちにアイリスは体裁を取り繕った。
何せここからは報酬についての確認で、交渉の場なのだ。
「早速本題に入りましょう。まずは私の護衛の成功報酬にドルグ金貨三千枚をお渡しいたします」
「頂戴します」
召使い達が金貨の入った木箱をサムド達の前に置いて、サムドは一礼した。
アイリス護衛の報酬の支払いは過不足なく、事前の契約通りに支払われた。
数年は団員を食わせていく金が手に入り、その上領地も手に入る。
おかげで、これ以上無いくらいに魂灯組は安定するはずだった。
だが――。
「次に逆賊セリザおよびウィンストンを討伐した報酬として、西部シダハ地区の領有権を提示しておりましたが、その報酬は撤回いたします」
「なっ!?」
予想外の言葉に少年兵皆がざわついた。
まさかここまで来て裏切られ、捨てられたのか、そんな疑念がわき起こる。
しかし、当のアイリスは優しく微笑んでいた。
「あなた達の功績にその程度では報いることが出来ません」
「というと?」
「ウィンストンの保有していた南部の港町カイスの領有権をお譲りします」
「っ!? カイスっていうと有数の交易港じゃないですか!?」
「はい。国家の要です。だからこそ、あなた達に託します。魂灯組以上に強い組織を私は知りませんから」
「あ……ありがとうございます」
さすがのサムドも報酬の大きさに戸惑っている。
だが、それだけでは終わらなかった。
アイリスは意味ありげに微笑むとキオの名前を呼んだのだ。
「キオ、あなたには漁船を一隻お譲りいたします。どうか仲間のたまに美味しい魚を捕って下さい」
「覚えてたんだ。ありがとう。アイリス」
「いえ、キオから頂いたモノに比べれば安いモノです」
個人的な褒美を急に贈られたキオは、はにかみながらお礼を告げた。
敵意を持って縛る大人達から解放され、自由と夢を手に入れた少年兵達は喜びを爆発させ、抱き合って喜び合っている。
灰色の奴隷はついに奴隷の身分を脱し、人の上に立つ身分となった。
「そして、最後に、新たな依頼です」
「伺いましょう」
「魂灯組のみなさんに騎士の称号を与えるかわりに、私の騎士団になって欲しいのです」
「へ?」
「共に歩んで頂けないでしょうか? 私はこの短い旅で自分の無力さを思い知りました。これから国を変えていくためにはあなた達の力が私には必要です」
アイリスが頭を下げる。その様子を見て、キオとサムドは顔を見合わせた。
ただ、それは戸惑いからではない。
お互いの意思を確認するだけの目配せだった。
「引き受けましょう」
「俺も力を貸すよ」
「ありがとうございます。では、契約の証として、神剣バハムートをキオ、あなたに託します」
キオは剣を受け取ると、その場で腰にさした。
まるで、こうなることが分かっていたと言わんばかりに、重さがしっくりくる。
「あんたは俺達の居場所をよりよくした。だから、信じるよ。あんたの言う理想の国にするのを手伝う」
「はい。頼りにしていますよ。騎士キオ」
こうして灰色の奴隷達は灰色の騎士になり、この国を守り続ける象徴となった。




