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「あれが深淵の龍……ティアマト」


 アイリスが恐怖のあまりその場に崩れた。

 ティアマトにもはやウィンストンの面影は一つも残されていない。

 天にいたのは闇を纏う六枚羽根の龍だった。


「さて、これで真実を知る者は全員抹殺出来ますわね。では皆様ごきげんよう。いつかあの世で会いましょう」


 ティアマトに気を取られていると、窓辺に立ったメイドが不穏な言葉を残して飛び降りた。

 サムドが追いかけて捕まえようとしたが、メイドは異常な速度で壁を走り降りている。


「ちっ、そういうことか。教会の連中、最初からウィンストンも消す予定だったな」

「え? どういうこと? ウィンストンと教会ってグルなんじゃないの?」


「ウィンストンはそう思っていたらしいけど、教会はあいつを利用しただけだ。用がなくなったら真実を知る人間を消すつもりだったんだよ。ウィンストンにとってのセリザ、セリザにとってのニューシーや俺達みたいに」

「なるほど。似た者同士だ」


「感心するよな。あぁはなりたくないよ」


 サムドとキオは呆れて肩をすくめていた。

 他人を支配する人間には屑しかいない。そう思うと余計に独立して正解だったと思った。


「お二人とも感心している場合じゃありません! ティアマトが動き出します!」

「あぁ、そうだった。キオ、やれるか?」


「任せて。サムドはみんなを守る盾になってくれ。俺はあいつを切り落とす剣になる」


 キオはサムドと拳をコツンと合わせると、一人だけで天井の穴を飛び越え、屋根に登った。


「キオ!? 一体何をするつもりですか!? いくら神具を持っていても一人では無茶です!」


 穴の中からアイリスの心配する声がした。

 伝説の龍に対して、人間の身はあまりにもちっぽけで脆い。

 例え伝説の一端を使役しても遠く及ばない力だ。

 だからこそ――。


「おい、バハムート。力を寄こせ」

(ようやく話しかけてきたと思ったら、力の催促か)


「あれを殺す力だ」

(主の望みのままに。灰血を捧げよ)


「染血憑依、器に宿れバハムート」


 キオが剣に血を捧げると、キオの身体を炎が包んだ。

 伝説を引き出すのではなく、伝説と同化する。

 だが、ウィンストンとは違い、キオは人の形を残しつつ、龍の姿へと変化した。

 城の上で炎の卵が破裂し、中から炎の翼を背負い、龍の鱗を身につけたキオが現れる。

 立っているだけで漏れ出る炎が城の屋根を赤く溶かしていた。


「行くぞ。バハムート」


 炎の翼が広がり、羽ばたくとキオは深淵の龍が待ち受ける空へと飛び上がった。



 龍となって飛び上がったキオをアイリスは呆然とした様子で見上げていた。


「あれが……染血憑依。伝説を宿した姿なのですね……」

「あぁ、僕も初めて見る。人が魔物になるのではなく、魔物を人に変えるとあぁなるんだ」


 知識では憑依を知っていたサムドでさえ、見とれたように見上げていた。

 思わずひれ伏したくなるような神々しさと荒々しい炎だ。

 そんなキオの姿を見て、アイリスは納得したように呟いた。


「あれを見てしまえば、神はアッシュにこそ宿るって思ってしまいますね。教会への信仰は間違い無く失われます」

「キオ、変えてやれ。お前の力でこの世界を。俺達が縛られることのない世界を」


 アイリスとサムドはその後もずっとキオが戦う姿を見上げ続けた。



 キオが空に飛び上がると、ティアマトが黒い息吹を吹きかけてきた。

 黒い息吹は回りの空間を削り取っているのか、黒い息吹に吸い込まれるような強風が吹き荒れている。


「吼えろバハムート」


 負けじとキオも剣を振り抜き、龍の形となった炎をぶつける。

 漆黒の闇と空を照らす青い炎がぶつかり、混ざり合って弾けた。

 魔法の強さはほぼ互角だ。

 だが、体格の違いは圧倒的で、人の姿を維持しているキオでは覆せないほどの差がある。


「グオオオオオ!」


 ティアマトが動き、巨大な爪をキオに向かって振り下ろした。

 魔法を帯びていなくても、触れた瞬間潰れてしまいそうなほどの剛爪だ。その上に魔法を重ねがけしているとなると、近づいただけで命はない攻撃になる。

 だが、キオは避ける所かティアマトの振り下ろす腕に自分から向かっていった。


「それがなんだ。爪なら俺にだってある」


 キオが左腕を振り上げると、左腕に生えていた鱗がパキッと割れて、中から龍の腕のような青い炎が生えた。

そして、バハムートが龍だった頃の腕を模した炎がティアマトの腕を掴みとる。

 ティアマトの腕を掴んだ炎の腕は爪を立てるように黒い肉体へと食い込んでいく。


「焼き千切れろ」


 そして、炎の腕がティアマトの腕を握りつぶすと、ティアマトの腕がそのまま湖の中へと落ちていき、水しぶきをあげた。


「やっぱり影無い所は攻撃が効くな。それなら」


 キオは腕を握りつぶされ暴れ回るティアマトの懐に飛び込むと、真っ直ぐ炎の腕をティアマトの胸に突き刺した。


「見つけた」


 そして、引き抜いた手の中には神具ティアマトの剣が入っている。

 その神具を引き抜いた瞬間、ティアマトの巨躯は崩壊を始めた。

 神話を再現する神具は肉体とセットになって初めて力を発揮する。逆に言えば肉体と神具さえ離れれば幻想は終わるのだ。

 災厄とも謳われたティアマトを葬り去ったキオは何事も無かったかのように城の屋上に降り立つと、あっけなくこう呟いた。


「ふぅ、これでやっと飯が食える」

「すごいですねキオは。あなたに会えて本当に良かった。あなたはこの国、いえ、世界の英雄です」


「あ、アイリス、何か食べるものない?」


 屋根に登ってきたアイリスは伝説に打ち勝ったキオの最初の一言を聞いて、たまらず大笑いした。


「何笑ってるの?」

「いいえ、とびきりの食事を用意させます。あなたの強さに恥じないように」


 こうして、キュルトの国で起きたアイリスを巡る暗殺計画は終結した。

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