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王都到着

 夜が明けて朝食を済ませたキオ達は王都に向けて再出発した。

 雷と炎によって魔物が恐れをなして逃げたのか、夜の襲撃はそれ以上なく、思った以上にゆっくり休めた。

 おかげでアイリスもそこそこのペースで歩きながら、キオとも会話をする余裕があった。


「ところでキオ、昨晩聞きそびれてしまったのですが、何でそんなに神具について詳しいんですか?」

「サムドが知ってることを教えてくれたから」


「サムドさんが?」

「サムドはもともと貴族だった考古学者の息子だったみたいだから。何かすっごい昔のことに詳しい父親がいたんだって。それで文字とかも読めるみたい」


「考古学者ですか? でも、それなら何故サムドさんがアッシュにされているんですか?」

「これ以上は俺の話せることじゃないよ。知っているけどサムド本人が言うことだ。おーい、サムド、ちょっと来て」


「あっ、待って下さい!」


 キオはそう言うと、アイリスが止める暇もなくサムドに手を振った。

 他の少年兵の指導をしていたサムドはキオの声で指導を止めて、キオとアイリスの方へとやってきた。


「何かあった?」

「キオからサムドさんが考古学者のお父様がいたと聞きまして……その……そのおかげで神具のことが詳しいんですよね?」


「あぁ、それなのに何でアッシュになっちゃったかってことですよね?」

「はい……。言いにくいことだとは承知の上ですが……」


「いえ、あなたにも真実を知ってもらう必要があります。そうです。僕の父は考古学者でした。灰の帝国グラウライヒについて調査していました」

「何百年も前に滅びた幻の国ですね?」


「はい。その調査結果を教会に知られ、僕の父は逮捕。死罪に処せられました」

「え!?」


 あまりにも唐突に口にされた教会による死罪で、アイリスは時でも止まったかのように固まった。


「グラウライヒは教会に滅ぼされました。神具を奪い、作り方を学んだ教会は力を独占するためにグラウライヒを滅ぼしたんですよ」

「そんなことを公表したら確かに教会の権威は地に落ちますけど……それだけで死刑にするとは思えないのですが」


「その通り。さらに隠したい真実があったんです。神話を再現するために神が宿る武具が神具なんて言っているけど、実体は多数の魔物の血と魂を練り合わせて作った偽物の神でしかないってことですよ。魔物の討伐報酬に金が出るのもこのおかげです。あれ、死骸は教会が回収するんですよ? 知ってましたか?」


「そんなまさか!? 神具は確かに神話のような力がありますよ!?」

「えぇ、その通りです。でも、それだと矛盾することが多くありませんか? 神話の神が宿るのであれば、何故同じ武器が存在するのか? 神は一体しかいないはずなのに、同じ神が宿る武器が複数ある。答えは簡単です。神なる存在を作って宿せるからです。昨日襲ってきた雷神騎士団が良い例ですよ。みんな揃って雷神トールの大槌を使っているのですから」


 もちろん、ただの模造品でないものも存在する。

 例えば、今はキオが使っている神剣バハムートはグラウライヒ時代に大暴れした始祖龍バハムートの血肉で作られている。

 こうした本物の魂と魔力が宿っている神具は模造品とは性能が段違いなのだ。

 それこそ王様一人で戦場をひっくり返せるほどの力を持つくらいに。逆に言えば、模造品は勝負を優勢にするぐらいだ。


「それが世界に知られたら……教会の存在そのものが崩れかねません。教会は各国に神具を配り、力関係を常に整えてきたのです。莫大な資金だってそれで集めてきました。神具の真実が公表されれば、そうやって他国を裏から支配出来なくなってしまう」

「だから、殺されたんです。そして、僕はアッシュにされて売られた。教会の裁判で死罪を受けた人の子供ですからね。それにアッシュであれば、僕の語る真実など誰も信じないでしょう」


「私は……信じます」

「それなら、話したかいがありました。ちなみに僕の父がこの事実を伝えた相手が、お姫様のお父様、つまり国王でした」


「っ!? すみません……。力になれず……」

「どうしようもなかったと思います。父の処刑は逮捕された当日だったので。では、指導に戻るので失礼します」


 サムドは頭を下げて話を打ち切ると、先ほどまで指導していた少年兵達のもとへと戻った。

 彼らの手には今までの戦闘で手に入れた二つの神具、インドラの矢とタイタンの斧が握られていた。

 敵が当たり前のように神具を用いる中、身を守るためには神具使いを増やさないといけないのだ。

 その光景をアイリスは複雑そうな眼差しで眺めていた。


「お父様と教会……それにウィンストン公爵……まさかね」

「ん?」


「いえ、先ほどのサムドさんの言葉が何か引っかかって」

「何に?」


「確信がある訳ではないんです。ただ、ウィンストン公爵に会えば私の疑念が本物かどうかは分かります。急ぎましょう」

「ん、分かった」


 その後の行軍は驚くほどスムーズだった。

 多少の魔物には遭遇したが、どれも大したこと無く蹴散らせた。

 それこそ、新しく神具を使うようになった少年兵達の練習台にさせられるくらいの扱いだった。

 キオが出る場面ではなかったし、アイリスも怪我一つ負っていない。

 神具持ちの騎士団と戦闘があったことが嘘のようだった。

 そして、予定より一日遅れの四日目の朝、一行はついに王都クルスマの前に到着した。


「あれがクルスマ。城壁が高いね。攻めるのは大変そうだ」

「キオの言う通り、強行突破は難しい作りだね。よし、作戦通りお姫様は変装してください。みんなは事前の割り振り通り監視班と潜入班に分かれてくれ」


 さすがにアッシュが一斉に五十人も町に入れば怪しまれる。

 街道護送は普通の人なら大抵二人までで貴族だったら十人くらいまで雇える。とはいえ、貴族の令嬢で通るにはアイリスの顔はあまりにも知られすぎているし、怪しまれる。

 そこでアイリスを商人として変装させることで、五人を護衛兼荷物運びとして連れ込み、さらに空いた樽や木箱の中に隠れることで合計二十人の潜入班が結成された。

 サムドが護衛側の代表として仲間とアイリスを率い、キオは箱の中に潜伏した。

 さすがに神具を持ったまま門番の横はすり抜けられない。それに万が一アイリスの変装がばれた時に箱の中から奇襲をかけられる。

 だが、戦闘になれば王城までへの道は一気に厳しくなる。

 王城到達までの難易度は全てアイリスの演技にかかっているのだ。


「では、皆様、行きます。言葉遣いが荒れますが、どうかお許し下さい」


 その合図から潜入班のメンバーは全員口を閉じた。

 灰人アッシュは雇われの傭兵で、人の形をした道具でしかない。

 そう忌み嫌われる存在が雇い主と対等に楽しげに話すなどあってはならないのだ。

 死んだような目で、人形のように命令に従うのが求められている。

 だから、アイリスは先に謝罪したのだ。演技だとしても間違い無くサムド達を傷つけることになるのだから。


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