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独立戦争

 日が沈んだ頃、キオ達は灰鬼隊の宿舎に戻った。

 町に入ってからは人目につかないように、皆がバラバラになって行動した結果、任務に出た部隊が戻ってきたことはばれなかった。

 サムドは宿舎にいた全少年兵を食堂に集めると、出入り口に任務組を配備してから話を始めた。


「みんな、聞いてくれ。俺達とキュルトの姫アイリスはセリザ達に売られた。俺達は何とかセリザの罠を切り抜けて、戻ってこられた。でも、戻れなかったヤツもいる。ラックだ」


 ラックの死が伝えられ、少年兵達が一斉にざわつく。

 だが、サムドは構わず言葉を続けた。


「セリザ達は僕達が死のうが、微塵も悲しまない。むしろ喜ぶかもしれない。そんな奴らに僕達の稼ぎが奪われ、食料が奪われ、命を奪われる。今日は俺達十人が狙われたけど、次は君の番になるかもしれない」


 サムドが少年兵一人一人に指を指すと、少年達のざわめきがおさまった。

 ここにいる少年兵達は多かれ少なかれ、大人達の食い物にされていた。

 だから、次は自分の番と言われても、現実感があった。

 そうやって積もりに積もった不満を爆発させるのは、簡単なことだった。

 サムドはずっとこの時のことを考えていたのだから。


「僕達はブローシュ団から独立する」


 単純ながらも明快な宣言で、落ち着きを取り戻していた少年兵達が再度ざわめきだす。

 独立するということは大人達との戦闘になる。

 そして、大人達に勝っても、今度は世間の眼との戦いになる。

 魔物の血をとりこんだアッシュを見る目が冷たいことは、少年兵達は身に染みて知っていた。

 その不安をサムドは一言で振り払う。


「キュルトの姫、アイリスが俺達のパトロンになった」

「お姫様が!?」


「って、ことは俺達、お姫様の騎士団!?」

「すっげー! かっけー!」


 不安と不満が大きければ大きい程、それが解消された時の喜びは大きい。

 少年兵達の士気が一気にあがり、独立を求める声が連鎖し始めた。

 サムドは臆病風に吹かれて、大人達に告げ口するような者をキオに捕らえるよう頼んでいたが、杞憂に終わったことにホッとする。

 そして、改めて決意した。


「今度は僕らが奪われたものを取り戻す番だ。さぁ、作戦を始めよう」


 こうして、灰鬼隊所属の全少年兵による蜂起が始まった。



 キオは切り込み部隊の隊長として、最初にセリザの砦に飛び込むことが決まった。

 作戦会議が終わった後、サムドと二人で残って、最終確認を取っている。

 サムドからの指示は二つ。

 セリザは生け捕りにすることと、砦は出来る限り破壊しないことだ。

 その指示を伝えたサムドはどこか申し訳無さそうな顔をしていた。


「悪いなキオ。時間があれば、睡眠薬とか痺れ薬とか仕込めるんだが、今回は無しだ。かなり危険な橋を渡らせる」

「ん? そう? 大体傭兵の仕事に安全な橋なんてないでしょ? 正面突破はまだ安全な方だよ」


「それを本気で言うから、さすがだよキオは」


 どれだけ無理難題な依頼でもやれと言われればやるしかない。

 やらないと生きていけない。そういう環境で育ったキオにとっては今回の戦いもいつもの仕事と変わらない。

 でも、その結末にいつもと違う未来の想像を抱けた。


「この仕事が終わったら、美味い飯にありつけるのかな?」

「うん。ふかふかのパンと、肉汁たっぷりな肉と、たっぷり具の入ったスープをみんなで食べよう」


「悪くないね。それじゃ、頑張ってくるよ」


 少なくとも、明日からは違う日々を送れる。そう感じられた。

 キオは生きていく分には、それだけで十分だと思っていた。

 でも、だからこそ、アイリスの言葉が引っかかっていた。

 綺麗事と言えるのなら、綺麗だと思える心がある。


「ねぇ、サムド。綺麗事って綺麗なことなのかな?」

「突然だね。キオにしては珍しいこと考えてる」


「少し気になって」

「そうだなぁ。綺麗事は綺麗だと思うよ。でも実際に綺麗にするのは難しいから、口だけになり気味だよね」


「実際に綺麗に出来たら?」

「仮に出来たとしたら、そういう人を名君って言うんだろうね。その綺麗事を現実にするまでは暗君扱いされそうだけど」


「そっか。良く分からないけど、ありがとうサムド」


 キオはそう言うと、軽く頭を下げてから足を踏み出した。

 でも、すぐにサムドの放った一言で足が止まった。


「アイリスのこと?」

「うん。あいつを見てると、モヤモヤする」


「まぁ、確かに考えが甘いからね。神具をキオに預けたりするあたり、危機管理の意識がまるでない」

「本当にそうだと思う。でも、俺は裏切らないことにした」


「それで良いよ。僕達はあのお姫様を捨てられないしね」


 そして、キオはアイリスのことをもう少し見続けたいと思った。

 綺麗事を口にするアイリスは、本当に綺麗にすると自分が汚れる覚悟を持っているのか。

 それを見極めたい。

 キオはそう思うと神具バハムートの剣を握りしめて、出陣した。


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