〜パーティ戦〜
何者かの手によって出現したLv.15モンスター"ディクライン・コボルド"はプレイヤーのHPを一撃で消し飛ばす程の力をもっていた。Lv.3の凪とアキトは生き延びるという選択をし、三匹出現した内の一体と戦闘を開始するのだが、レベル差が12もあるモンスター相手に苦戦を強いられる。
この戦闘に勝機はあるのか、勝つための方法とは?
第3話〜パーティ戦〜
刃こぼれした曲刀を振り上げ、目の前のプレイヤーに向かってLv.15のモンスター"ディクライン・コボルド"は勢いよく振り下ろそうとしている。
その少し離れたところから全力で走りながら、左腰に装備している片手剣"ライト・ソード"を抜き放つこの世界に幽閉された青年"霧嶺 凪"は今、窮地に陥っている。その理由は単純だ、視線の先にいるモンスター"ディクライン・コボルド"のレベルは15、対する凪のレベルは3、その差12......凪の周囲のプレイヤーも最高でレベル4がいいところだろうが、この"ディクライン・コボルド"は1体ではなく合計で3体いる。レベルの差は=力だ、故に"ディクライン・コボルド"の攻撃を最高で二回でも受ければ忽ちHPはゼロになるだろう。
逃げる、という選択もあるが......いや、あったと言う方が的確だ。なぜなら、この戦闘区域周囲には見えない壁が張り巡らされており、逃げることができない。
ならば残された選択は一つ、戦うことだが、レベルの壁があり勝機は薄い。
しかし、凪達はそれでも戦う決意をした。正確には生きる決意だろうか、現に凪は目の前の助けを求めている人を助けようとしている。
「くっ!? 間に合え!」
"ディクライン・コボルド"が攻撃範囲に届くまであと14歩
━━このままじゃ間に合わない!
「うあぁぁあぁあ!!? こ、来ないでくれぇえぇぇぇ!!」
見たところ20代前半と思われ、完全に混乱して無茶苦茶に剣を振り回している。
そして━━━振り回している剣は曲刀によって弾き飛ばされ、その無抵抗な身体に刃が振り下ろされる。
「━━━━あっ」
間に合わなかった...そう思ったその時、ヒュンッと風を切る音が聞こえた。
「ギュエッ!?」
目の前の"ディクライン・コボルド"は苦痛と驚きが混ざったような声を出し、数歩後ろに下がった。
よく見ると、お腹に1本の矢が刺さっていた。
この状況でこんなことが出来るプレイヤーは一人しかいない
「アキト!」
後ろには弓を構えた親友のアキトがいた。
「危ないと思ったら援護するっていったろ?」
援護といってもアキトは確か弓を初めて自分の手で射つはずだ、素人の矢が適格に目標に当たるハズがない......素人でも目標に当てる方法、そしてこの世界での生き残る術......それは
「......スキルか!」
スキル、それはこの世界での命の手綱であり、起死回生の一手だ。
スキルを行使するには2つの方法がある。
一つは、ウィンドウからスキルを使う方法
もう一つは、ボイスコマンドによるスキル行使だ。
アキトが使った方法は後者だろう。
そして、使ったスキルは攻撃系の武器スキルだ。
武器などの攻撃系スキルは発動するとそのスキルに設定された動きを自動的にシステムが行ってくれる。これにより、素人でも熟練者並の動きができるから、素人のアキトでも矢を当てることができると言う事だ。
「あぁ、弓スキルの初期技 《ストライク・ショット》 だ」
《ストライク・ショット》弓専用 単発直線技 弓を構えた方向に一直線に飛んでいく技だったはず。
「っし! いっけ!!」
アキトが作ってくれた時間のお陰で襲われていた人は後ろに逃げてくれた。
後はコイツを倒すだけだ。
まずは様子見からだが
「凪! タゲの切り替え頼む!」
「わかった!!」
さっきのスキルでヘイトがアキトの方に傾いてしまいターゲットがアキトに変更されてしまっている。
アキトの弓は中距離戦闘に向いているからモンスターが近付くと対処できなくなるので危険だ、その為ターゲットをアキトから俺に変更する必要がある。それが、前衛の役目でもありパーティ戦の基本の一つだ。これが成立することで、中後衛は安心して攻撃や回復などのサポートができるようになるのだが、今この状態ではいつこの基本の型かたが崩れてしまうか分からない。
「うおぉぉお!!」
声を上げながら、アキトの方に向かっている"ディクライン・コボルド"の背中目掛けて上段斬りを放つ
「ギャウ!?」
突然の背後からの攻撃に驚き怯む"ディクライン・コボルド"
通常攻撃に合わせて、背後アタックのボーナスが追加されている一撃は、アキトへのヘイトを上書きし、俺にターゲットか移る。
「さて、ここからだな......」
「グルォオ!!」
怒りの叫び声を上げ、その矛先を俺に向ける。
「まずは、攻撃の種類からだ!」
そう言って、一歩半後ろに跳び剣を構え直す。
"ディクライン・コボルド"は右手の盾を前に突き出し、左手の曲刀は、俺から見えないよう盾と重なるようにして隠しながら真っ直ぐ突っ込んでくる。
そして、距離がニメートルを切ると同時に盾を前から退かしながら、曲刀を左側から水平に薙ぎ払おうとしてくる。
「はやっ!?」
予想を上回る剣速で、咄嗟とっさに剣で攻撃を受けてしまう。
━━━ガキィン!!! 金属同士がぶつかって甲高い音が響く。
「ぐっ!」
攻撃を受け止めきれず、一メートル程飛ばされてしまう。
「凪!」
アキトが弓を射るが、矢は"ディクライン・コボルド"の隣を通り抜けて行った。
「これは......」
━━不味いな......敵の攻撃を見切る前に俺のHPがもたない。
「っく! しかも、さっき剣で受け止めた攻撃のせいで剣の耐久値が残り半分のところまで一気に削られたし」
このままだと武器も、HPももたない。"ディクライン・コボルド"から次々と鋭い攻撃が放たれるのを、奇跡的に避けながら敗北という最悪の結末が凪の頭の中を駆け巡る。
「っ!! だったら!」
打って出るしかない。この状態だといつ攻撃が当たるかも分からない......だったら、観察は止めてひたすら相手の隙すきを突いてダメージを与えていくしか打開策はない。
「通常攻撃のパターン化はやっぱり解除されてるから見切って隙を見つけていくのはムリ、だとしたら......アイツの攻撃をギリギリで避けて無理矢理隙を作って徹底的に叩く!!」
右上から左下に曲刀が振り下ろされるが、"ディクライン・コボルド"の右脇腹をくぐりギリギリのところで回避する。
そして、がら空きの背中に一撃叩き込む。
「ギャウ!?」
"ディクライン・コボルド"は再び背中を攻撃され怯む。
「アキト! ヘイトはもう気にしなくていい! ありったけの矢を打ち込んでくれ!」
長期戦の作戦は変更だ、後の事を考えて戦ってたらじり貧になるだけ......なら、短期決戦だ。
「よし、任せろ! でも、矢には限りがある! この戦闘が終わったら多分俺は戦力にならなくなるぞ!」
矢の本数に制限があるのは知っているし、なによりこのゲームが始まってまだ数時間しか経ってないんだから万全の準備が出来てないのはお互い様だ。
「それも気にしなくていい! 今は目の前のコイツを倒すことだけ考えるんだ! その後の事は後回しだ!」
「分かった!」
作戦の変更を話しながらも凪は"ディクライン・コボルド"の攻撃をギリギリ避け続けていた。
『すごいな、凪があそこまで動けるなんて......運動神経もそこまでよくなかったと思ったんだが』
アキトは前方で動き回っている凪を見ながらそんな事を考えていた。
「《ストライク・ショット》!」
一直線に飛んでいく矢が"ディクライン・コボルド"の左足に命中しHPゲージが2%ほど減る。
「はあ!」
矢が左足に命中したお陰で"ディクライン・コボルド"は体勢を崩す。そこを狙って剣を振り下ろし、首筋にヒットした。
弱点ウィークポイントに攻撃が入った事でHPゲージが残り半分になり黄色く変化する。
こうした、人形ひとがたに近いモンスターなどのウィークポイントは人間と同じように設定されている。例えば首筋、胸、手首などだろうか。
「グルォ!」
俺に向かって吠えると同時に、シュインッ! と何かがチャージされるようなそんな音が聞こえた。
「なっ!? 不味い!」
その音がなんなのか瞬時に判断し、後ろに大きく跳ぶ。
その直後、"ディクライン・コボルド"の左手に握られている曲刀が凄まじい速度で左下から右上に跳ね上がる━━が、攻撃はそこで終わらず右上から右肩辺りに曲刀を移動させ、左に水平に斬り裂く。この動作は時間にして僅か一秒だった。
「っ! ここでスキルを使って来るのは予定外だ!」
今のスキルは確か、曲刀専用のニ連撃技 《クイック・ディセクト》 動画で見たことがある。技の出が早く、リキャストタイムも短いことからβテストでかなりの人気だったそうだ。
「HPが半分になったからか? てことは、モンスターの行動パターンは解除されずそのままなのかもしれないな」
行動パターンは大方がHPの低下と共に変化するシステムだ。
"ディクライン・コボルド"が突然スキルを使って来たのはこれによるものだろう。
「アキト! 攻撃を一旦止めてくれ!」
《ストライク・ショット》を放ち終えたアキトに向かって攻撃の中止を頼む。
「? どうかしたのか!」
「コイツがスキルを使った所を叩くから、暫く手を出さないでくれ!」
「そういう事か、了解だ!」
行動パターンが変わったなら今までのようなギリギリの戦闘が出来なくなる可能性が高い。一歩間違えば即死だ。
「スキルの出が早いのが問題だな......」
技の出が早いということは、それだけ逃げる時間が無くなるということだ。"ディクライン・コボルド"のHPはまだ四割近く残っているのに対し、凪のHPは隙を作るために行っていた回避の度に曲刀が体にかすり、残り三割になっていた。
「......凪、どうするつもりだ? こっちは一発でもくらったら終わりだぞ?」
心配そうに凪を見ながらアキトは一人呟いていた。
「『リスクの無いところに勝利はない』って何かの漫画で言ってたな、全くもってその通りだよこの状況!」
そう言って一歩前に踏み込むと、シュインッ! とスキルが発動する音が聞こえる。
「こ・こ・だ!」
叫ぶと同時に更に前に出る。ここまで来るとリスクを越えてハイリスクだ。
「グルォオ!」
《クイック・ディセクト》が前から迫る。
一撃目が右脇腹に当たる━━━その瞬間
凪は右後ろにバックステップし一撃目を回避し、飛び込むように"ディクライン・コボルド"の左横を抜ける。
「ぉおおぉぉお! 《スクロール》 !」
シュインッ! とライト・ソードが一瞬輝く、右真横に伸ばしていた腕が瞬時に頭上に上げられ、そのまま真下に振り下ろされる。
更に、そこから今度は真上に斬り上げられた。
「グォオ!?」
片手剣専用 初期ニ連撃技 《スクロール》 を受けて"ディクライン・コボルド"のHPは三割のところまで削られゲージが赤くなる。
「凪! 止まるな! そのまま行け!」
「あぁ!」
このチャンスを逃すわけがなく追撃をする。
━━が、攻撃は盾で防がれた。
「ヤバイ! 凪、逃げろ! 《ストライク・ショット》 」
アキトが叫び、牽制する所が見えたが矢が当たっても"ディクライン・コボルド"は怯まなかった。
すぅ、と血の気が引いていくのが分かった......
盾で剣が弾かれ体勢を崩す。そして、盾と入れ替わる様に曲刀が振られる。
━━━死ぬ
頭の中にはその一文字しか出てこなかった。
どうも、霧凪です!
前回宣言したように頑張って早く3話を書き終わりました!
さて、さっそくあとがきの方に入らせて貰います。
この話では凪とアキトのパーティ戦を書きました。ちょこちょことパーティ戦闘の説明なんかを簡単に書いたのですがうまく伝わってくれると幸いです(笑)
激しい戦闘シーンも楽しく書かせてもらいました!
現実ではあまり運動神経が良くないと言われている凪がバンバン動き回ります(笑)
最後になりますが、応援してくれる方々ありがとうございます。
これからも頑張って書いていこうと思ってますのでよろしくお願いします!
では、4話でお会いしましょう。辛口コメント待ってます!