何故か元の姿に戻りました act.3
二人共無言でショッピングモールの駐車場を歩いていた所で、あたしは日向くんと手を繋いだままだということに気付いた。
思わず手を離すと、日向くんが振り返った。
「あ…えーっと、その…迷惑、だったかな?」
「……」
「あたしには、何て言うか…困っているみたいに見えたから。思わず声かけちゃったんだけど…」
「いや、助かった。サンキュ」
「そか、良かった」
そしてまた沈黙。
あああっ、この沈黙が重いっ!
「お前、何で俺の名前…」
二度目の沈黙を破ったのは日向くんだった。
「あー、ええっと、ほら、モデルの日向蓮くんって、結構有名だから。顔見てすぐ判ったの」
「お前、名前は?」
「へ?」
「名前。お前だけ知っているの、ズルいだろ」
な、名前!?
尋ねられて、これ以上無いくらい動揺する。
「ええっと、あたしの名前は…」
困った。
日向くんは女子高生のあたしも知っているわけだから、本名名乗るわけにもいかないし。
でも嘘の名前を言って、呼ばれていることに気がつかないっていうのも不審がられるし…。
あ、でも、今のあたしはどう見ても二十代。
同一人物って普通は考えないよね?
…大丈夫かな?
そう思って、遥とだけ名乗った。
「はるか?」
「うん」
「苗字は?」
言えるわけない。
無言でいると、言いたくないなら別に良いと、あっさり引き下がった。
目が何かもの言いたそうだけど、この際気づかないフリをしよう、うん。
「そう言えば、さっき雑誌に載るって言っていたけど、いいのか?あれ。勝手に話作って」
その言葉に、あたしはニヤリと笑う。
「君、あたしの言葉、ちゃんと聞いてた?」
「?」
「雑誌に載るようなことがあったらって言ったの。確実に載るとは言ってない」
「嘘つき」
「いーのっ。嘘も方便。っていうかさ、助けてもらってそれはないんじゃない?」
「悪い」
「あのねぇ、全くもって悪いって感じじゃないんだけど」
「…スミマセン」
明らかに棒読み。
「それじゃ、悪いと思っているんなら、しばらくおねーさんと遊ばない?」
「遊ぶ?お前と?」
「そ。助けたお返しだと思って。あ、それと、年上に向かってお前と呼ばない。とりあえず名乗ったんだから」
日向くんが、やっかいなヤツと知り合ったって顔をした。
「付き合わないなら、撮影は終わりましたってあの集団に君を返すよ」
「…それ脅迫って言わないか?」
「オトナはズルいのさー」
諦めたように、日向くんはため息を吐いた。
日向くんは当初、面倒くさそうな感じだったけど、一緒に話しているうちに打ち解けてくれたようで、彼も楽しんでいるように見えた。
ただちょっと目を離すと、女の子達にキャーキャー言われながら囲まれ、困ったふうにあたしを捜すと言う事が何度かあった。
外を歩くだけでこんな感じなら、普段から大変なんだろう。
そう言うと、今日は買いたいものがあったから、どうしても外に出ないと行けなかっただけで、いつもはほぼ家に引き籠っているらしい。
健全な男子高校生がそんなんで良いのか心配になってしまったのもあり、今のあたしは完全に保護者気分だ。
二人でブラブラと街を歩き、買い物をし、食事をして、気が付けば外は真っ暗になっていた。
日向くんが時計を見ながら、そろそろ帰らないかと言う。
いつの間にか22時を回っている。
「うん。そうだね。もう遅いし」
「どこに住んでるんだ?俺、送ってく」
「ホント?ありが…」
言いかけて、はたと気づく。
すっかり忘れていたけど、あたし、帰るところがないんだ。
いくら何でも、この姿じゃ小野寺家には帰れない。
「えっと…」
どう言ったものか。
それにこの後どうすれば良いんだろう?
流石に野宿は出来ない。
無難にホテルを探すべきなのか…。
「もしかして、帰る所がないのか?」
「なっ、何で判ったの?」
「…何となく」
「何となくって…」
日向くんは少し考え込んで、
「…俺んち来るか?」
と言った。
「えっ!?蓮の家?」
「俺、一人暮らしだから」
泊めてもらえるってこと?
それは嬉しいけど…。
一人暮らしの男の家、行っても平気だろうか?
でも相手は高校生だし、大丈夫かな。
「別に何もしない」
あたしの考えを読んだように、日向くんは不機嫌そうに言う。
「でも迷惑じゃない?」
「それ、今更」
ぐっ…。
言い返す言葉もない。
「行く所、無いんだろ?」
「…うん」
「別に、迷惑じゃないから」
そう言って日向くんは歩き出す。
迷ったのはほんの一瞬で、意を決するとあたしは日向くんの後を追った。