何故か元の姿に戻りました act.2
着て来た服が今のあたしにはちょっとラブリー過ぎるため、ショッピングモールで服や下着を何着か購入。
服装とヘアスタイルで印象はだいぶ違うはずだけど、念のため眼鏡を外し、コンタクトを作製。
勘のいい人なら、顔が似ているということに気づくかもしれないので、更にアクセントとしてグレーのカラコンにした。
すっぴんのまま出てきたので、化粧品コーナーで化粧をし、トイレで購入した服に着替える。
痛い出費だったけど、鏡に映る自分の姿を見て何だかホッとした。
うん、やっぱりこの姿があたしよね。
それからはすることもなく、あれこれあてもなく彷徨すでに数時間経過。
歩き続けてさすがに疲れたかも。
休める場所がないかと一階広場に降りると、人だかりができていた。
あれ?
あそこにいるの、日向くんだ。
何だか、人だかりの真中にいるけど…。
彼を囲んでいるのはたくさんの女の子。
あんなにたくさんの人に囲まれたら、相手が女の子だとしても、流石に恐怖を感じるかも。
集団行動している女の子のパワーはすごいからねぇ。
じぃーっと見ていると、日向くんの目線が上がり、あ…目が合った。
前にもこんなことあったなと思いつつ、ふと昨日のリツとの会話を思いだした――――。
「そう言えば、遥も藍と同じく、中等部はウチじゃなかったよね?」
「うん、この間引っ越して来たばかり」
「で、どう?」
「どうって?」
「またぁ、ウチの男子、ちょっとカッコイイ子多いでしょ?」
空くんと同じような事を言う。
カッコイイと言ってもなー。
相手は高校生だし。
どちらかと言えばカワイイという表現のほうがしっくりくるような…。
「どうかな?あ、でも、日向くんはカッコイイと思うよ」
「まぁ、あいつは知らない人がいないくらい有名だからね」
「そうなの?」
確かに綺麗な顔立ちはしているけど、知らない人がいないっていうのは言い過ぎでは?
「だって成績は常にトップでスポーツ万能な上、モデルやってるから」
「え?モデル?」
「そう、って、遥は知らないの?」
「全然。そっか、モデルなんだ。凄く人気なんだろうね〜」
「確かに人気あるんだけどさ…性格に難ありだよ、アイツ」
「難あり?」
「だってさぁ、いつも無表情で、話しかけても、ああ、とか、うん、しか返ってこないし。完全にコミュニケーション能力欠落してるよ」
後半、リツに酷い言われようだったけど、そっか、モデルの仕事しているんだっけ。
囲んでいるのはファンの子たちかな?
藍が雑誌を持っているよって言っていたから見せてもらったんだけど、雑誌の中の彼は笑っていなかった。
無表情とまでは言わないけど、良く言えば憂いを帯びている顔。
それを指摘すると、そこが日向くんの売りなんだって言われたけど、そういうものなのかな?
あたしが良く読むファッション誌なんかのモデルさんは、凄く良い笑顔だったりするんだけど。
今あたしの目の前にいる日向くんも、まさに同じ表情をしていた。
憂いを帯びているような……。
もしかして…?と思った瞬間には、あたしの体は動いていた。
「蓮!」
大きな声で名前を呼びながら、女の子の集団の方へと駆け寄った。
そんなあたしを日向くんが不審そうな顔で見る。
あたしは女の子達の間を縫って、日向くんの手を掴んだ。
女の子達はいきなり割り込んできたあたしに、何なのこの女?というような顔を向け、一斉に睨む。
全く、これだから女ってヤツは……って、あたしも女だけど。
まさしく蛇に睨まれている蛙の気分だったけど、平静を装って日向くんを見上げる。
「もう、こんな所で油売っている場合じゃないでしょっ!」
日向くんが眉を顰めるが、あたしは構わず言葉を続ける。
「スタッフ皆待たせているんだから、早くしないと遅刻よ!」
その言葉に彼は一瞬驚いたような顔をし、
「ああ…悪い」
と言って、あたしの手を握り返し、ショッピングモールの出口の方へと歩き出した。
あたしは歩きながら振り返り、
「皆、ごめんねぇ。これから撮影なの。もし今日のこと、雑誌に載るようなことがあったら、ぜひチェックしてねー」
と明るく手を振る。
女の子達の、きゃあと言う黄色い歓声を背に、あたしと日向くんは早足でショッピングモールを出た。