何故か元の姿に戻りました act.1
夢だかよく判らない世界に来て4日目。
初めて学校がお休みになった土曜日。
今日は街の探索も兼ねて、外に出てみることにした。
海外留学していたことが、ある意味柔軟性を養ってくれたのか判らないけど、もう夢の世界って妄想するのは止めた。
だって、味覚や嗅覚、痛覚まで鋭くなる夢なんてあり得ないでしょ。
エル○街の悪夢かっつーの。
ダサい横縞セーター着た顔に火傷を負った男は出てこないので、コレはもうアレだね。
噂の異世界トリップ。
何でこうなったのか判らないけど、現実として受け止めないとイロイロ危険な気がする。
夢だと思い込んで、無茶して社会的に抹殺されるのだけは避けたい。
それにしても何で高校生?
せめて二十歳は越えていて欲しかった。
高校生じゃ、酒が飲めない!
カミサマ、コレは何かの苦行ですか?
元の世界に戻る術が判るはずも無く…と言う事で、この変な現実にまともに向き合うことにした訳だけど、現在の目標はバイトを探すこと。
預金だけでも悠悠自適に暮らせるだろうけど、さすがに何もしないでそれに甘えるわけにもいくまい。
しかし、世間と言うものはある意味、未成年には厳しい。
仕事も暮らす場所も制限されるし、大抵大人の同意が必要とされる。
泰美さんも恵一さんも、優しそうだけど頑固っぽいからなぁ。
バイト許してくれるかな。
まぁ、とりあえず着替えて出かけるか。
さてと、何を着て行こうかな。
下着を着けて……あれ?
違和感…と言うか、ブラがキツイ。
ヤダ…太った!?
昨日までは何でもなかったのに。
そう思い、あたしは鏡の前に立って、自分の姿を見……。
「何で?!」
腰まであった髪は肩上で揺れ、前下がりのボブに。
真っ黒だった色は明るい色になり、ハイライトが入っている。
耳にはピアスホールが三つ。
胸も大きくなり、今のやせ細った身体よりも少しだけふっくらして、女性らしいラインが出ている。
…鏡の中には、紛れもなく二十代のあたしが映っていた。
も、元に戻ってるっ!?
だけど、見渡しても部屋は変わってない。
…何なのこれ?
姿だけ元に戻ってるってこと!?
コンコンコン。
はっ!
誰かが部屋のドアを叩いている。
どーしよう!
このままの姿でなんか出られないよっ!
慌ててドアを押さえる。
「遥?いないのー?」
藍だ!
「ええと、ごめん、藍、今着替え中!」
「あ、そうなんだ。今日ね、買い物に行こうと思っているんだけど、遥も一緒にどう?」
「あああ、あたし、今日ちょっと用事があるからムリ」
「えー、そうなんだ…じゃあ、りっちゃんにでも電話してみようかな」
「う、うん、ごめんねー」
足音が遠ざかる。
よかった、何とかなった。
しかし、どうしたらいいのこの状況?!
このままの姿で出られないよっ。
でも、家に居るより外に出たほうが、すれ違ってもあたしだってバレないだろうし、安全だ。
何とか家を出よう。
あたしは急いで着替えて、出かける準備をした。
ドアに耳を近づけ……よし、ドアの向こうには誰もいないみたい。
そうっとドアを開ける。
一階に下りる階段のところまで行き、下の様子を伺う。
人のいる気配はない。
階段を下りれば、すぐ目の前は玄関。
これなら行けるかもっ。
足音を立てないように1階に降り、自分のミュールを探す。
あった!
急いで履き替え、玄関のドアを開けた。
やった、成功!
あたしはダッシュで繁華街の方へと走った。